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【最終回】 流通経済大学サッカー部を知る。 限りなく続くその先へ―。 【大学サッカー】

2015/06/24 13:34配信

Tomoko Iimori

カテゴリ:コラム


もう1か月ほど経ってしまったが、5月中旬、流通経済大学サッカー部へと取材へ向かった。
流経大に滞在した時間は7時間近くなった。
一日で考えると長い時間とはいえ、私が見た聞いた過ごした7時間は流経大を知るのにはまだまだ浅いものであろう。
それでもそこで過ごした時間で得た刺激は、とてつもなく大きかった。

これだけの時間をかけて、多忙でスケジュールもびっしりと詰まっている流経大サッカー部が対応をしてくれるのには理由がある。

流通経済大学サッカー部を連載という形でお伝えしてきたが、最後の回は
中野雄二総監督という人物そのものに触れたい。

たくさんのJリーガーを生み、流経大サッカー部をたった10数年でここまで大きくした人物。
指導者という域を超えるマネジメント力と厚い人情がそこにはあった―。

【流経大】 流通経済大学サッカー部を知る。 第一回・偶然ではなく必然 【連載】

http://chantsoccer.com/posts/732

【第2回】 流通経済大学サッカー部を知る。第2回 寮生活から知るチーム力 【大学サッカー】

http://chantsoccer.com/posts/734

【第3回】 流通経済大学サッカー部を知る。第3回 選手を育てるための指導と教育 【大学サッカー】

http://chantsoccer.com/posts/737

【第4回】 流通経済大サッカー部を知る。人を育てる中野監督の意思 【大学サッカー】

http://chantsoccer.com/posts/748

【第5回】 流通経済大学サッカー部を知る。 全員に与えられる挑戦権と可能性 【大学サッカー】

http://chantsoccer.com/posts/755


●日本で一番プロサッカー選手を輩出している監督 その素顔

中野監督は、現在流経大サッカー部監督、そして全日本大学サッカー連盟副理事を任務しており、2011年にはにはユニバーシアード代表の監督も兼任していた。
ユニバーシアード代表では中野監督率いるユニバーシアード日本代表が金メダルを獲り、世界の大学サッカーで頂点に立ったのは記憶に新しい。

大忙しの毎日だが、その毎日が楽しくて仕方ないと中野監督は話す。

現在、流経大サッカー部の監督を務めているが、その他に授業をする大学教授でもある。
サッカーに関したマネジメント等の授業を行っているのだが、その授業の準備にも時間を費やす。
それでも毎日サッカーを土台とした仕事をするということが楽しい、好きでやっていることだからと笑顔で話す。

中野監督も17年間ずっと同じであるわけではない。
選手たちを数多くみるということはそれだけ人との出会いもあり、刺激に触れ、さまざまなことがわかってきたと中野監督は話す。
10年ほど前。全国的には突如として現れた新鋭だった流通経済大学。
急激な速さで関東大学サッカーの階段を駆け上がっている頃だった。
その当時は、ただ勝ちだけにこだわっていた監督だったと思うと中野監督は自身を振り返る。
結果を出したい、流経大サッカー部が勝つこと結果を出すことにこだわった。
しかし、時間と共にそれは本当の勝者ではないと気づいたと中野監督は言う。

勝者とは―。
その本質を考え、選手たちに伝えた。
最初は理解できない選手もいるが、それでも中野監督の「伝える」という理念で選手たちに届くようになり、
選手たち自らが理解し、動くようになったという変化が見られた。

ただ強いだけでは意味がない。
プロ選手を何人も出してそれに満足なわけではない。
本物の勝者とはなにか。それを中野監督は流経大サッカー部として勝つ中で学んできたと話す。

とにかくサッカーが好き。
そして人が好き。

寮の施設を見ても、中野監督のアイデアが溢れていた。
選手たちの部屋の扉はすべて引き戸となっている。
開閉式のドアだと開いた時に廊下がその分狭くなり、人が行き交うのに不便が生じる。
そのため、中野監督がすべての部屋の戸を引き戸に変えたほうが良いと提案した。

選手たちが乗るバイクや車は窃盗されたことも多々あり、それを防止するために柵を設置した。
それでも盗まれることもあったため、防犯カメラを導入し監視体制を置いた。
洗濯機を数多く導入し、ユニフォームなどのチームで必要な衣類の洗濯には大型の洗濯機をリースした。
大学のサッカー部といえども試合会場にそれぞれが別々に入るのではなく、全員で試合会場へと入るためにバスを購入。
さらに驚くべきことに、大学のサッカー部だが今季観光バスを5000万円で購入。
Jクラブでもいまだチームバスを持っていないチームもある中で、流経大サッカー部は大型のチームバスを購入し、今季の総理大臣杯でその姿をみられることになるであろう。

それもどれも、選手たちのことを想い、円滑に行くため、そしてより環境を整えることによって
ここでサッカーがしたいと思えるような場所に、ここでサッカーしてきてよかったと感じられる場所になってほしいと中野監督は考え、マネジメントし、実現してきた。


238名もいるとその人数の数だけの個性があり、その親御さんもさまざまだ。
中野監督の電話は多くの親御さんたちからの連絡が多数寄せられる。
その中には、さまざまな意見も多数あり、監督を批判したりルールの改善を求める意見もある。
そのひとつひとつに理解してもらえるようになるまで時間をかけて話をする。
分かり合えないとあきらめてしまってはその先はなにも生まれず、その人の考えを知ることもできない。
ひとつひとつの意見に耳をしっかりと傾け、コミュニケーションを取ることで生まれる信頼を中野監督は大切にしているのだ。

中野監督は誰に対しても、決して強豪校の監督だ!というような空気を出さない。
やはりプロでもアマや学生のサッカー界であっても名将と呼ばれる方は独自のオーラを持ち、近寄りがたい空気を持っている方が多い中で
中野監督は自分がそんな態度を取ってしまったら
「選手がかわいそうですよ」と話す。

指導者はあくまで脇役。選手が主役ですから。

選手たちがピッチを走り考え、プレーしている。
それを間接的にサポートする立場が指導者であり、頑張っているのは監督やコーチではなく選手たち。
それなのに自分の態度のせいで流経大は…といった偏見やイメージを持たれるのは、頑張っている選手たちに失礼だと思っています。

と中野監督は言う。

中野監督は人とのコミュニケーションを大切にしてきたからこそ、さまざまな困難や難しかった壁を乗り越え、
結果を掴み、たくさんの選手を抱え、たくさんの選手たちをプロの世界へと送り出してきた「今」があるのだ。

●サッカーファミリーを作り出すために「伝える」それもサッカー人として必要なこと


中野監督とお話させていただきた時間は4時間にも及んだ。
その前に大平ヘッドコーチが3時間かけて案内してくれた各施設とお話。

ここまで時間をかけて伝えてくれたのには理由がある。
それは―。

流通経済大サッカー部の活動をより多くの人に知ってもらいたいというのはもちろんだが、
ただ知ってもらいたい、宣伝したいということではない。
こういった話を通じて理解して考えてくれる人たちが増えることで、またサッカーファミリーが増える。
理解者がいることは決して当たり前ではないと考え、
理解者を増やしていくこともサッカーが携わる者がしなくてはならないことだと思い、普及していくために動いていきたいという中野監督。

選手たちを指導だけをしていれば良いわけではない。
どうやったら勝てるかだけを考えていれば良いわけでもない。
能力の高い選手だからとどんな理由があっても使い続けるのではなく
自分色に染めて、チームを創るのではなく

流経大サッカー部を経て、どんな選手となるか、どんな人となり今後を過ごすかを考え
サッカー選手としてだけでなく、人としてどう在るか。

選手たちのために
大学のために
だけではなく地域のためになにができるか、大学サッカー界に、日本サッカー界になにを発信できるか―。

そう見据えて、流経大サッカー部は動き続けているのだ。

4年間かけて選手を育てても、必ず毎年メンバーが変わり、チーム編成の組み直しが行われる。
それでも「連覇」という言葉を使い、毎年違うメンバーであっても強くなくてはならないプレッシャーと戦い挑まなくてはならない。
現在、総理大臣杯を二連覇中の流経大サッカー部。
当然今年は三連覇という大きな期待を背負うこととなる。

どの大会でも全員で応援に駆け付けるのが流経大のスタイルだ。
トップが全国大会で戦うときは部内全員が駆けつける。それが大阪であっても東京であっても舞台は関係なく駆けつけるのだ。
仲間の戦いを応援する。
それも人との繋がりを大切にする中野監督らしい教えだ。

全員が同じところに向かって目指さないことには、チームとして強くはなれない。
勝つためだけに活動はしていない。
ただ、勝っている監督でなければ言葉のひとつひとつに真実味が生まれないのもまた事実。
勝っている監督だからこそ、言えることもある。
日本サッカーを変えるため、今後の日本サッカーの途上に必要なことを発信していくため
そして選手たちを守るため

中野監督は、勝つ監督であり続けることが必要だとも考えている。
主役じゃなく間接的である立場として。

中野監督は言う。

高校教諭、企業チーム、そしてプロチーム
この3つをクビになってきた監督です。
新たな場所として流経大という場所でチャレンジできたのも、呼ぼうとしてくれた人がいたからこそ。
人とは人に生かされている。
それはどの場所でも同じこと。
人というものを大切に。それが一番強く伝えていることです。


流経大サッカー部の選手たちは、サッカーノートを日々付けている。
テーマを与えられるとレポートの作成、提出もする。
その内容はサッカーだけでなく、起こった社会的ニュースや事件に関してのこともある。
学生たちが日ごろなにを感じ、どう考えているか。
サッカーだけでなく、さまざななことに触れ、どう感じているのかを知る。
遠征に行けば、必ず観光の時間も取り、その土地の文化にも触れ感受性を刺激する。

それが「大学生」なんです、と中野監督。
さまざななことを知り、感じ、考える。
それが大学生に必要なこと。
サッカーだけをしたいのなら、サッカーだけに集中できる場所に行けば良い。
大学に来たということは「大学生」になることなんですよ、と。

大学や高校などサッカー部へ行くと、挨拶をしてくれることが多い。
「部活」において年上の人がその場にいると挨拶をする。それが徹底されているからだ。
それでも中には、性格的にそして若さもあって挨拶するのが面倒といった選手が一人二人は存在するのがこの世界。
しかし、流経大の選手たちにはそれがなかった。
全員が必ず顔をしっかりと見て、挨拶をしてくれる。たくさんの選手といたるところですれ違ったが誰一人として挨拶を怠る選手はいなかった。

挨拶は人としての基本とはよく言うが、こういったところに中野メゾットを強く感じ、その必要性を選手たちが理解しているからこそ浸透していることなのだろうと感じた。


長きに渡り、お伝えした流経大連載も今回が最終回。
流経大サッカー部や大学サッカーには興味がないという方でも、たくさんの選手がプロ選手となっているだけにその選手の出身校として、そしてユース選手たちの進学先として耳にしたことはあるのではないだろうか。
プロクラブ以上の施設を持ち、マネジメント力を持ち、プロクラブのような地域密着に成功している大学サッカー部。

自らの大学の結果だけを求めているのではなく、日本サッカー全体に常に発信し続ける。


すっかり暗くなり、一日の活動を終えたピッチで一人
何度も何度もボールを蹴っていた選手がいた。

ゴールに向かって蹴ったボールを、自分で走って取りに行く。
そのボールを再び蹴る―。

重ねる努力を中野監督は見逃さない。
そういう選手を使いたくなると話す。

しかし、努力を重ねることに満足してしまっている選手ではダメだ話す。
やっていることに満足したり酔ってしまうではダメ。
自分になにが足りないから、これを習得しなくてはならない。
だからボールを蹴る、という努力であれば、それは必ず評価する、と。

たくさんの人を見てきた中野監督だからこそ、人を見る目、判断する目を持っている。
人と多く接し、さまざなな感情や視点に触れてきたからこそ読み取れるものがある。


流通経済大学サッカー部は、夏の総理大臣杯への出場を決めた。
大阪夏の陣は今年も熱き戦いになることであろう。


夢を追うことをやめてしまったら、なにも発展しない。
そう話す、中野監督が追う夢にはまだまだ先がある。
多くのことを伝えたい、多くのことを実現させたい。
お金がない、時間がない そんな言い訳は一切必要ないと中野監督は言う。


流経大サッカー部の夢は、日本サッカー界に響くであろう夢。

これからの流経大が切り開くその先を見たい―。

そのために、またここに来なくては―。

そう心に誓い、流経大サッカー部の聖地であるグラウンドを後にした―。


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長き連載、読んでいただきありがとうございました。
1.2記事にまとめるつもりだったのですが、とても充実した内容で私自身がとても刺激を受けた内容だったので
長きに渡りお伝えさせていただきました。
中野監督の言う、「伝える」ことの大切さ。
それを持って、未熟ながら書かせていただいたつもりです。
取材に協力してくださった中野監督、大平ヘッドコーチ、流経大サッカー部の方々、選手のみなさん。
ありがとうございました。

そして、サッカーを愛するすべての方々へ
読んでいただきありがとうございました。
たくさんの方々に大学のひとつの部活という枠ではなく、その本質を知ってほしい、そして日本サッカーに強く発信されていることも知ってほしい。そう願っています。

Tomoko Iimori

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