CHANT(チャント) 鹿島アントラーズ

ヤマザキナビスコカップ決勝 鹿島vsG大阪 「タイトルマッチの鹿島」の恐ろしさ

2015/11/05 21:00配信

武蔵

カテゴリ:コラム

10月31日、埼玉スタジアム2002にて

Jリーグ3大タイトルのうちの1つである

ヤマザキナビスコカップの決勝が行われました。

事前に出ていた不入りの情報はどこへやら

5万人を超す観客が詰めかけ

会場は、歴史と権威あるこの大会の

今年の締めくくりに相応しい盛り上がりを見せていました。


決勝は鹿島とG大阪という

タイトル経験も豊富なビッグクラブ同士の対戦ということで

拮抗した展開になることが予想されていましたが

試合は思わぬ展開となりました。

「鹿島らしいサッカー」が展開された前半の入り

「鹿島らしいサッカーができた」

そう試合後に語ったのは柴崎岳です。

鹿島は試合開始時から、442でハイラインを敷き

前への圧力を強めます。

それと同時に相手の奥行き確保を阻止。

相手の1トップであるパトリックに対しては

スピードとパワーに優れる昌子源とファン・ソッコがよく対応しました。

これにより、鹿島はコンパクトさを保つことに成功し

相手に息つくヒマと「陣地」を与えませんでした。

「陣地」を得られないG大阪は有効なプレーができません。

具体的には、ボールを持った状態での前を向いてのプレーが

できない状態が続きました。

鹿島の攻撃をしのぎ、低い位置でボールを奪っても

猛烈なプレスを受け、ボールを蹴らざるを得ず

ただ、それも蹴らされているため

標的となるパトリックや倉田秋には良い形では入りません。

従って、起点を作ることができず

鹿島ボールとなることが続きました。

「敵陣でボールを奪われてから5秒以内に取り返した割合」

というデータによると、鹿島は29.6%成功しています。

G大阪が6.9%であることを考えると

この試合、サッカーにおいて重要な要素である

攻守の切り替えのサイクルにおいて

鹿島は完全に相手を上回っていたと言えるでしょう。


また、特にボランチの小笠原満男が球際で強さを発揮し

セカンドボールを拾い続けました。

名実ともに、鹿島の時間帯が続いたと言えます。


このように鹿島は、前線から最終ラインまでが

それぞれが運動量をベースに

それぞれの個性を発揮することで

試合の立ち上がりにおいて相手を圧倒し

試合を優位に進めることに成功しました。

前半は、鹿島が思い描いていたであろう

理想通りの「鹿島らしいサッカー」が展開されました。

長谷川健太監督の判断を「慢心」に変えた鹿島

そういった劣勢の中で、まずはしっかり守ろう、としたのは

G大阪・長谷川健太監督です。

G大阪は、長谷川監督らしい手堅い試合運びをすることになります。

前線に起点ができないからといって

焦って前線にフォローの人数を投入することはせず

最終ラインを下げてでも

まずはしっかり鹿島の攻撃を跳ね返すことを優先し始めます。

長谷川監督の守り方の代表的な例として

押し込まれた時にCBの2枚を

極力、自陣ゴール前から動かさない、というものがあります。


その前提にそぐわない形で

鹿島のペナ角からの攻略に、しばしば釣り出されていた

CBの西野貴治を下げ、岩下敬輔を投入し

いつものメンバーとすることで

その、いつものやり方の回復に努めるとともに

最終ラインのコントロールが効きやすくし

最終ラインを上げ、コンパクトさを回復し

鹿島を押し返すことで

少しでもセカンドボールを拾えるようにし

自分たちの時間帯を作ろうとしました。

しかし、分かりやすく最終ラインを上げてきたG大阪に対し

鹿島は直後に2度、赤崎秀平が裏を突いて決定機を迎えます。

得点こそ奪えなかったものの

3冠を取った昨年は有効だった手を打ったG大阪に

不安を与える攻め手だったと言えるでしょう。


前半を0‐0で終え、スコア以外は全てにおいて

満足できるデキであった鹿島ですが

しかし肝心の、そのスコアを動かすことはできませんでした。


一方、鹿島の猛攻をなんとかしのいだG大阪。

長谷川監督としては

多大な運動量と集中力を要するハイプレス状態をしのげば

必ず自分たちの時間帯になる、という常識的な判断があったことでしょう。

自慢の守備陣と、自身の少々のテコ入れにより

あの前半を無失点に抑えたのですから

手応えを感じるのは当然と言えます。

常識で言えば、その通りになるはずでした。


しかし、昨季の3冠監督のその判断は

試合後、自身の口から漏れた

「慢心」という言葉に置き換えられてしまいます。


なぜなら後半は

「タイトルマッチの鹿島」の恐ろしさを味わうことになるからです。

「タイトルマッチの鹿島」の恐ろしさ

鹿島は後半の入りにおいても

前半と変わらずにハイラインからのプレッシングを保ちます。

鹿島の足は、さほど止まらなかったのです。


前半とさほど変わらない展開となり

押し込まれる時間が減らなかったG大阪は

前半から数えて、守備の時間帯を何十分もしのぎ

何回もの被決定機をしのぎ、なんとか持ちこたえてきましたが

ついに後半15分、決壊しました。

CKでの単純なマークミスによる失点という結果が

G大阪の消耗を表していると言えましょう。


消耗したG大阪の攻め手は、エース・宇佐美貴史の

独力によるものに限られました。


よく言うところの「鹿島らしさ」とは、突き詰めてみれば

勝つために必要なことを必要なだけ発揮し続けられることだと考えますが

恐ろしいと思うのは

このような、タイトルの懸かった大一番においては

必ずといって良いほどキッチリと、その「鹿島らしさ」を発揮できることです。

また、それをやり続けられることも重要です。

作戦がハマり、押せ押せだった前半のうちに

鹿島はスコアを動かしたかったことでしょう

何度も決定機を迎えながら、先制点が取れなかった前半を終え

並のチームであれば、重苦しいムードが立ちこめることもあるでしょう。

しかし、「らしさ」を発揮した鹿島は、そういった並のチームではありません。

先制点を取るまで、そして試合が決まるまで

もっと言えば、タイトルを取るまで

やるべきことをやり続けることができるチームです。


今の鹿島は、それをいつでも発揮できているわけではありません。

鹿島は、選手たちが何より重要だとする年間順位において

全盛期の「常勝鹿島」よりは、後れを取っているのが現状です。

この試合後には、件の満足気なコメントを出した柴崎は

今シーズンは何度も

「鹿島らしいサッカーができていない」

という言葉を漏らしてきました。

そういった、弱くはないが安定もしない

全盛期と比べると鹿島らしくない現状にもかかわらず

ここ一番では、このような圧巻のパフォーマンスを見せる

タイトルマッチに無類の強さを誇り

今回で17冠を達成した鹿島の恐ろしさが

ここぞとばかりに、存分に発揮されました。


完敗を喫したG大阪の関係者のみならず

この試合を見ていた全てのサッカーファンに

それが伝わった1戦であったと思います。

Good!!(100%) Bad!!(0%)

この記事も読んでみる