【大宮アルディージャ】 劇的なJ2優勝、昇格決定。ひとつになった大宮の強さとあの日からの誓いの達成 【J2】
2015/11/19 23:33配信
カテゴリ:コラム
歓喜がスタジアムを包む。
やっとの想いで手に入れた、最高の頂点。
その時、「結ばれた手」は確かなものだった―。
2失点からの3ゴールを得ての逆転。
今季、2点差をひっくり返した試合は他にもあったが、その時とは状況も空気も全然違っていた。
どうしてうまくいかないのだろう―。
そういった疑問を持ちながら過ごした日々は、日々重く苦しくなった。
それでも信じて全員で手を繋いで迎えた、ホーム最終戦。
絶対に昇格を決めると誓いながらも、迎えてしまった大きな2点というビハインド。
それでも、諦めてはいなかった。
誰も、諦められなかった。
俺たちは頂点に立つ。
そして絶対に戻るんだ。
そう誓った、あの日から諦めることはなかった。
●スタートダッシュ失敗がありながら、J2を圧倒する強さへ。そして迎えた己との戦い。
昨年のJ1最終戦。
毎年のように繰り広げてしまった降格争いを残留力という言葉を用いて面白おかしく伝えられるようなこともあったが、その一年一年が死闘だった。
それでもその残留力を持ってJ1に残留することができていたのも、大宮が作ったひとつの伝統ともいえる歴史だ。
毎年、優勝を上位を目指し、精一杯で取り組んできた。
それでも降格争いをしてしまう通年を良い状況だとは当然思ってはいなかった。
それによって生まれた言葉「残留力」も決して悪いものではなかったが、目指しているのはJ1残留という位置ではなかった。
降格争いをしながらも、なんとか残留できるその力も大宮アルディージャの持つひとつの力であり、昨年も迎えてしまったその位置からなんとか残ろうと最後の最後まで戦い続けた。
しかし、ついに迎えてしまった瞬間。
最終戦の相手は、セレッソ大阪。
降格をすでに決めていたチームとの対戦という難しい状況の中、残留の可能性へと向かい大宮アルディージャはホームで最終戦を勝利という結果で終えた。
ホームスタジアムで残留という結果を迎えたかったものの、その前に落としてしまった勝ち点の数々は大きかったという現実を目の当たりにする結果を迎える。
J1昇格後初となる J2降格という結果でシーズンを終えた。
はじめて訪れる降格という厳しい現実。
流した涙、抱えた後悔と悔しさ。重い責任。
それらをすべて受け止め誓った。
必ず、一年でJ1に戻る―。
決して良いスタートは切れなかった。
初戦、J3から昇格してきたばかりの金沢と迎えた開幕戦は難しい試合となった。
なんとか勝利したという表現がふさわしかったかもしれない。
初戦というのはどんなチームであっても、難しいものだと改めて知ることのできる一戦だった。
その後、家長が負傷により離脱してしまうと、続く昇格に向けて大きなライバルとなると想定されたセレッソ大阪との試合では3失点で敗戦。
同じくライバルになるであろう千葉との戦いに敗れるなど、難しい試合が続き一時は9位まで順位を落とす。
一年では戻れないのではという心配を囁かれるほどに、大宮はスタートダッシュに失敗した。
しかし、その流れを断ち切ったのは頼れるエース家長の復帰だった。
家長がチームに戻ると負けることはほとんどなく突き進み続ける。
チームとしての得点も増え、家長自身の得点もコンスタントに増えるなど、ポゼッションしながら速いボールまわしが冴え、J2を圧倒した。
失点も少なく、攻守ともに安定し自らのサッカーを表現することに成功していた大宮アルディージャ。
どのチームもその勢いを止めることはできず、一時は2位との差も16に拡げるなど圧倒的首位に立つと、そこから一度もその席を譲ることなく突き進み続けた。
チームの雰囲気は勝利を重ねるごとに良くなっていった。
自分たちに自信が付き、チームとしての絆も強くなり、ただ楽しんで仲良こよしのチームなのではなく
お互いを切磋琢磨しながら、チームとしての深みを増していった。
大宮アルディージャをJ2にいるチームではない。
そう感じるほどに、個々のレベルも当然高く、その質の高さをいかし相手を圧倒しながら、ポゼッションしボールを速く回すことができる。
J1というレベルでの経験があることももちろん武器となり、相手の動きよりも一歩二歩先に判断し、動くことができる。
対戦したどのチームの選手に聞いても、今季戦国時代と呼ばれるJ2で大宮はチームとしての質が一番高く感じると評じた。
しかし、圧倒的な独走がブレーキをかける。
夏を過ぎる頃から、大宮にグレーの波が押し寄せて来る。
勝てない状況が続くと立て続けに失点が増え、メンバーを入れ替えるという策に出ることとなった。
それも大宮の層が厚いからこそ、そしてベンチにいるメンバーも常にピッチ上にいる選手たちを信じて支えて戦っていたチーム力があったからこそ、策に出ることができた。
なかなか交代が難しいGKを交代した他、スターティングメンバーに少し変化をつけ戦ったが、一時的に結果を得ることもできたものの、落としてしまった試合もあった。
そのアクセントが良い形へと向かったのは、スタメン落ちした選手たちのやってやるという高いモチベーションへと繋がったことと、ベンチにいる出場できていない選手たちの想いをも背負うことに改めて出場していた選手たちが気づかされたという点であろう。
うまくいかない―。
そうなんとなく漠然としたグレーの想いを持っていた。
それでも、なぜなのかという追求によってバラつくことはなかった。
人のせいにも監督のせいにもすることなく、振り返ることをポジティブに捉え、選手全員で「チームで」乗り越えようという空気を作れる選手が今季いたことも大きなことだった。
勝ち点差が大きかったその大きな貯金があったことも、大宮にとっては大きかった。
まだ大丈夫。そう思うことができリラックスできたことも、その大きな貯金は自分たちが戦ってきた結果だと自信を見つめ返すことができたことも、チームが崩れることがなかった理由だ。
昇格を前にメンタルが整えるのは難しいというが、それでも昇格を目の前にして緊張感が出てうまくいかなくなったというわけではなかった。
前期に比べ後記に入ると、相手がしっかりと大宮アルディージャを追求し、分析し、挑みにきていた。
相手が120%の力で一矢報いてやろうと挑んでくるモチベーションは、想定していた準備以上に大きなものだった。
それは大宮を想定しての芝の状態や、環境にまで影響が及んだ。
大宮のサッカーをさせない。その策は様々なところで対策されていたのだ。
それでも自分たちのサッカーを変えることなく、崩すこともなかった。
メンバーが変わっても大宮のサッカーは大宮のサッカーだった。
終盤で家長が出場停止などで試合に出られなかった時期も、チームとして苦しんだ時期となった。
家長がいないと違うチームになってしまうという評価も受けながら、うまくいかない苦しい時間を過ごした。
エースの存在は大宮にとって心臓部であると共に精神的な部分も含めて大きな大きなものだった。
それを家長自身も強く感じ、昨年から責任を背負いながらプレーをしてきたであろう。
家長が戻れば大丈夫。
どこかでそんな気もしていたが、結果的に家長が戻っても分析に分析をされた中で家長が躍動することも難しくなっていた。
選手としての質は1枚も2枚も上手ながら、数多くの枚数をかけて家長へのボールを阻止するチームが増えた。
大宮サッカーを知った上で対策をし守備を敷かれ、ロングボールを用いて裏に出されることが多くなった。
そこを突かれる形が多くなった大宮は失点を重ね、結果を出せない状況が続いた。
勝てている時と、勝てなくなった時のメンタル状況は当然変わってくる。
それでも大宮アルディージャには悪い雰囲気は漂ってはいなかった。首位であることの余裕を良い意味で活用できていた。
苦しむ中で、やっともぎ取った、京都戦でのドロー。
ドローでは結果を出したとは言えないものの連敗からメンバーを再び変化させ、スタメンに戻った選手たちで得たドローは大きかった。
その後、ホームに戻りやっと勝利を手に入れると5試合ぶりの勝利は格別で、これで大宮は大宮らしさを取り戻すはずと考えられたが。
それは、甘かったのかもしれない。
残留をかけ戦い、上位相手にしっかりとイブロックを敷き勝ち点を勝ち取ることを得意としている讃岐を前に、痛い痛い敗戦。
アウェイで戦った讃岐相手に、2失点で敗戦すると積み重ねてきた貯金はついに2差という1試合勝ち点圏内の位置で2位がぴったりとくっついている状況となってしまった。
それでも首位は大宮アルディージャで変わりはない。
次で勝てば、決まる昇格。
しかし、万が一負けるようなことがあると、2位からも3位からも突き上げがあり、残り2戦の結果次第では、プレーオフ圏内に落ちるということも考えられる状況だった。
プレーオフは一発勝負が二度続く一発勝負。心の準備や勢いが大きく左右してしまう戦いとなるだけに、準備の期間があればあるほど戦いに向けての備えができる場である。
最終的にプレーオフに落ちてしまい戦うことになるチームと、あらかじめプレーオフで戦うことが決まっていたチームとでは、心の準備も戦い方の準備も違う。
首位を走り続けて自動昇格、そして優勝しか想定していなかったチームが、プレーオフで戦うことになるとかなり厳しい戦いとなることは想像することができてしまう。
それだけは。絶対に避けなくてはならないというのは口にしなくとも誰もが考えていたことであろう。
厳しいといえども、それでもまだ首位の位置、一番高いところにいるわけで
勝つことで文句なしの首位、昇格、そして優勝という結果が手に入る。
相手がどこであっても、他のチームがどういった結果であっても、自分たちが勝てば問題はない。
自分自身との闘い。
己に勝つ。
それが大宮アルディージャに必要な最大の戦いとなり、運命の日を迎えた。
●ひとつになったNACK5スタジアム 運命のホーム最終戦
この上ないほどに一体感で迎えたホームNACK5スタジアムだからこそ、立ち上がりから大宮のサッカーが出来ていた。
大分はそれに対応できずにいたが、まさかのオウンゴールという形で大宮は失点してしまう。
雨ということもあり、難しい中での不運の事故。
それもひとつの footballだ。
その1点は仕方ないと、とにかく追いかけることに集中した大宮だったが
2失点目が生まれてしまう。
それもセットプレーから相手のシュートが味方にあたることでコースが変わってしまった失点だった。
まさに、己が敵。
0-2となってしまったまさかの展開ながら、大宮のホームスタジアムは静寂に包まれることはなかった。
信じて付き進むその後押しを背に追い求めた結果、生まれたムルジャのゴール。
待望の1点は大きく影響し、チームを動かす原動力となり、続けて生まれた2得点目も、ボールに執念で食いつき得た決してキレイではないゴールながら、勝ちたいという気持ちが込められた泥臭いゴールだった。
この2得点でフラットに戻した大宮アルディージャ。
ペナルティエリア内に進入したムルジャを止められファールを得ると、PKの位置が指される。
ムルジャはその試合の大きさ、責任の大きさから、この場で蹴ることは難しいと考えなかなか立ち上がらなかった。
そしてチームの全員が口にしなくとも、その大切なボールを託す場所は決まっていた。
ボールを持った泉澤がボールを渡したのは、
背番号41。頼れるエース。家長昭博だった。
どんな選手であっても、こんな場面でPKを蹴るという運命になるのは、なかなか経験できないであろう。
チームのエースだからこそ。この大事な大事な一瞬を信じて託される。
この人だからこそ、託せる。この人だからこそ決めてくれる。大宮アルディージャの勝利を願うすべての人たちのその信頼がボールに詰まっていた。
それを理解していたからこそ、家長は考えた。
外したらどうなってしまうのか。
自分はどこにどう蹴るのか。
相手のGKはガンバ大阪で共にプレーした経験のある武田だからこそ、
家長の蹴るであろうコースを熟知しているはずで、やりづらさもあった。
昨年の降格の責任を背負い、他のチームのオファーも断りを入れ、大宮アルディージャを昇格させるために集中して過ごしてきたシーズン。
背負ってきた、エースという称号とその責任。その宿命。
それらをすべて込めて、大宮アルディージャを引っ張ってきたその脚を振り抜いた。
ボールが向かうコースへと武田も飛んでいた。
しかし、その手の先へと。
家長の想い、たくさんの人々の魂が詰まったボールは ゴールネットを揺らした―。
0-2から、3-2への逆転に、成功。
これが大宮アルディージャの今年の強さだと証明するように
満員のスタジアムは歓喜に湧き、昇格、そして優勝への確信を掴んだ。
そこからの時間も、決して短くはなかった。
それでもその逆転という現実が強い味方となり、本来の大宮らしさをやっと取り戻せたきっかけになった。
決してスマートではないが、自信を持って、確信を持って、ひとつひとつのプレーに込め、勝利へと向かって駆け抜けた。
終了のホイッスルの瞬間。
歓喜の瞬間を迎え、たくさんの歓び、そして涙が溢れた。
苦しかった―。
口にはしなかったが、絶対に苦しかったはずだ。
9月から続いた、自分たちらしさが自分たちの意思とは逸れ失われしまった試合の中で、自分たちの100%がなんなのかも歪む中で
不安が全くなかったわけは、ない。
それでもそれを口にすることなく、自分たちをそして仲間を信じ続けた。
普段はあまり感情をあらわにせず冷静でありながら、この日ばかりは、選手たちがよくやってくれたと、渋谷監督は涙で声を詰まらせた。
降格した時、自分が至らなかったと全責任を自ら背負った渋谷監督。チームに長く関わっている指導者だからこそチームへの想いも、そのチームのために戦ってくれる選手たちへの想いも、強いものを持っている。
その姿を見ていたずらに笑う選手たちの姿が、監督と選手の距離感が近いことを示す。
監督とも良い距離感で共に戦ってきたチームの欠かせない仲間という位置関係が、強き大宮アルディージャを創った。
圧倒的に付き進んだ大宮アルディージャだったが、
苦しんで苦しんで得た昇格、そして優勝となった。
苦しんだ期間があったからこそといえるような舞台を J1で魅せたい。
それが今後の目標となる。
―家長に笑みがこぼれた。
ほっとしたようなその表情から、背負っていた大きな重みに応えられた自分自身への安堵が見える。
この顔が見たかった。
家長の笑顔が見たかった。
降格から、一年。
責任を背負い、エースとして満足することなく一戦一戦、中心という位置でチームを引っ張り続けた。
時に自分のプレーに納得のいかないことも、仲間たちのプレーに満足のいかないこともあったであろう。
それでも、家長は一匹狼になることなく、チームとして結果を積み重ねたいと願いプレーしてることをその姿で伝えてきた。
家長昭博に大きな変化が起こったと感じるほどに、その姿からは成長と頼りがいある逞しさをシーズン通して感じた。
ガンバ大阪時代、大分トリニータ時代、海外でプレーした時代があったからこその今だが、
今の家長は、大宮だからこその家長昭博であろう。
笑みが出て柔らかい表情となる家長にチームメイトが駆け寄る。
大宮アルディージャはJ2の頂点に立ったのだ。
いつまでも続く歓喜の歓び。
J2で1チームのみが得ることができる最高の歓喜を 大宮アルディージャが掴んだ。
昨年、同じ場所で勝利しながら降格という無情な現実を受け入れなくてはならなかった。
自分たちの無力さを、足りなさを痛みを伴いながら思い知った。
一年で必ず戻ると誓った、あの日。
すべてが良いシーズンであったわけではなく、簡単だったリーグではなかった。
良い時の手ごたえ充分な日々もありながらも、苦しんだ期間も長かった。
だからこそ、より格別な一日になった。
劇的な勝利にて昇格、そして優勝を掴んだのは、そういったことを全員で過ごし乗り越え立ち向かってきたからだ。
大宮アルディージャ。
2015 J2リーグ優勝、そして来シーズンJ1への昇格が確定した。
残り1試合を残してギリギリの昇格、優勝であったが、選手、スタッフ、サポーター全員で掴んだ栄光だ。
最後の試合は、初戦を戦った金沢との試合となる。
初戦で苦しんだことを胸に、大宮らしい試合を展開し、最後を飾り笑ってJ1へと向かいたいものだ。
大宮アルディージャの優勝、そして昇格に
最大限の敬意を込めて
おめでとうという言葉、そしてたくさんのfootballを魅せ感じさせてもらったからこそ
ありがとうという言葉を
贈りたいと思う。
来季の大宮アルディージャがJ1でどんな戦いを魅せてくれるのか、楽しみで仕方がないのは気が早いであろうか―。
素晴らしい!
ぺしっ | 0 0 |2015/11/20|08:36 返信
讃岐戦はドローですね
名無しさん | 0 0 |2015/11/20|07:51 返信