【FC町田ゼルビア】 J屈指のビッグクラブへの挑戦は、糧となる―。今季集大成へ積んだ7失点という経験 【天皇杯】
2015/11/17 18:14配信
カテゴリ:コラム
天皇杯4回戦での大一番となったのは
J3で昇格を争い優勝を目指し上位を走るチームと、J1でタイトルの懸かるJリーグ屈指のビッグクラブとの戦いという
天皇杯でなくてはあり得ない対戦となったFC町田ゼルビア×浦和レッズ。
日本代表活動期間ということもあり、J1はリーグが中断されているものの、浦和にとっては土曜日の試合からの中3日、
代表関係なくリーグが止まらず、一進一退の昇格・優勝争いを繰り広げている町田は日曜日の試合から中2日で天皇杯を迎え、その後中3日で次のリーグの試合が迫っている状況という、
そういった時系列を背景に、お互いベストといわれる布陣ではなく、普段はスターティングメンバーに名を連ねることの少ない選手たちを中心としたメンバーが並んだ。
浦和レッズはこの日、普段のスタメンからメンバーに入れたのは浦和レッズを象徴するには欠かせない存在であるボランチ阿部勇樹。
U22代表でもある関根貴大が起用されたのみ。
しかし、その他の選手たちの名にも重圧感を充分に感じられるメンバーだ。
普段は控え選手であっても浦和レッズの層は厚く、浦和以外のチームではスタメンとして試合に出場していた選手たちばかりの名や浦和が随所で起用してきた生え抜きの期待選手の名が並ぶ。
サッカーを知るものならば誰もが知っているであろう名前が当たり前のように連なる。
それが、浦和レッズを感じさせる
対するFC町田ゼルビアは、リーグ前節で2名の退場者を出す試合となってしまい、次節に出場することのできない土岐田、増田を起用し
その他はリーグ戦での戦いでスターティングメンバーではなく控えメンバーとなることの多い選手たちの起用で大一番を迎えた。
どちらも選手の起用には日程的、そして今後の戦いに備えての理由でベストな布陣とはならなかったが、それでも注目の集まる大一番。
普段は戦えない相手だからこそ、その貴重な機会をお互いに有効にするため挑んだ試合となった。
●浦和レッズという巨大クラブに挑む
試合開始となると大きく響く浦和レッズサポーターの声。
これが浦和レッズだという圧巻のサポーターが創るホーム感がスタジアムを包む。
その大きく響く浦和の大サポーターを前に、町田から平日の熊谷という遠い地に駆け付けた多くのサポーターが何かを起こそうとひとつとなり精一杯の声を届ける。
お互いが形は違えどプライドを背負ってこの日を迎えていることがわかる試合開始のサポーターの後押しを感じた。
前半立ち上がりの主導権を握ったのは、町田だった。
開始からしっかりと集中しスイッチが入り、浦和を脅かすような攻撃を続けた。
数的に同数になることも多く、パスを繋ぎショートカウンターの形で一気に浦和に攻め入る。
浦和は、今季の戦いを振り返ってみてもショートカウンターのチームに少し波を崩されることが多い。
代表的なのは湘南ベルマーレだ。
どちらも勝利はしているものの前半の立ち上がりから主導権を握られることとなり、その圧のかかる攻撃に手を焼くことがあったなと思い返すほどに
町田の攻撃が効いていた立ち上がり。
町田は天皇杯で、名古屋、そして福岡を倒してきた。
前半を0-0で終えることができると相手に焦りややりづらさが出てくる。そこをうまく突くような形が自分たちの勝機であったと相馬監督が表現したように
浦和相手にも果敢に攻めいて、早い時間帯で先制点を取れる隙があるならばという気持ちも立ち上がりの手ごたえをつかんでいる時間だからこそ、町田の選手たちも強く持ったことであろう。
前半の10分を過ぎるまでは町田が優勢に試合を運び、浦和は応戦側になるという時間帯となった。
それまで不気味ともいえる静けさが浦和からは漂ったが、そこから一気に浦和レッズであることを魅せる。
ボランチからサイドへとボールが供給されると、関根が得意の切り込みで町田ディフェンスに切り込むと、何度も突破を試みるようになり
折り返したクロスを阿部勇樹に届き、放ったシュートがポストに当たると、それを皮切りに浦和の攻撃に火が灯る。
中から崩すことよりもボランチから外に供給し、サイドから切り込むことでチャンスとなると突破口を見つけた浦和は、何度もゴール前に攻めいる。
その中で得たセットプレーから、橋本がヘッドで押し込み先制ゴール。
浦和レッズが先制点を奪った。
町田の時間帯があったからこそ、そして短い時間の中で何度も粘り失点を阻止していたからこそ
会場内の町田応援サイドからは悔しさで一瞬の溜息をつくも、選手たちの必死の戦いを前により一層大きな声が選手たちの背中を押す。
繰り返される町田ゼルビアコールは、1点を追いかけようとメッセージが込められ、響く。
しかし、無情にも32分には町田の選手に当たったボールを橋本がそのまま持ち込む形で絶妙なクロスを上げ、
李忠成に届き2点目が決まる。
この選手が控えなのかと驚きを覚えるように、ボランチに入った橋本が躍動を続けることで
浦和レッズの攻撃の速さが上がり、ちょっとしたミスやトラップの大きさによって一気に寄せ、見逃さない。
浦和の多彩出厚みのある攻撃が続き、応戦一方となった町田だが、それでも何度も決定的な場面をしのいだ。
天皇杯のゴールマウスを守ってきているGK内藤が何度も神がかりなセーブを見せ、ディフェンダー陣も決定機を何度も阻止した。
考えられない攻撃の数々に集中して守るということは、とても体力を使うことになり、精神的にも体力的にもかなりの疲労となるが
それでも、ボールから、そして相手選手たちの動きから目を離すことなく集中に集中を重ねて苦しい時間を過ごした。
届けられるサポーターからの祈りと願いの声が、それを大きく助けてくれたことであろう。
ゴール裏だけでなくバックスタンド、そしてメインスタンドでもサポーターが強い気持ちを持って選手たちを後押ししていた。
何度も何度も波のように押し寄せる攻撃に遭い耐えていた前半終了間際には、一瞬時が止まったかのように裏に出たボールに一人で抜け出す形となった関根がそのままゴールへ向けて落ち着てシュートを狙い放ち、3点目を町田から奪った。
これが、浦和レッズだ。
FC町田ゼルビアが前にした浦和レッズという相手は、もしかしたらという甘い考えを一掃させる強烈な存在感があった。
●簡単ではないと思い知った7失点。力の結集、突き刺した1ゴール。
3点のビハインド、それも前半終了間際という精神的にダメージの大きな失点を持ってしても、後半に入っても町田は諦めてはいなかった。
控え組が中心のメンバーであろうとも、そこには競争が存在し、この試合で結果を出した者は町田のスタメン組に名乗りを上げることができるチャンスをも、当然含んでいる。
そしてなにより、勝敗関係なくピッチ上に存在する味方も相手も含んでの「戦い」に負けるわけにはいかなかった。
相手がどんなに強い相手であっても、一矢を報いることは不可能ではないはずだ。
そう信じて前へ前へと、立ち上がり再び主導権を握ったFC町田ゼルビア。
そこには意地とプライドが強く表れた時間となった。
そして生まれた、後半5分。
この日出場していない李漢宰の代わりにキャプテンマークを巻いた平が、ここだと信じたタイミングで思い切り足を振り抜き、ドライブがかったミドルシュートを浦和ゴールに突き刺した。
中立開催となる天皇杯の会場は、スタジアムの半分でチームのサポーターが分かれているが、
その半分の青きサポーターたちが総立ちになり、その素晴らしいゴールを讃え、歓喜で湧いた。
「あの」浦和レッズに一矢を放った気持ちの良い思い切りのシュート、そして大きく揺れたゴールネットを目の当たりにし、
涙を流し歓ぶサポーターも多く、チームとサポーターが一つになり、その1点に込められるFC町田ゼルビアとしての歴史となった一瞬を共有した瞬間を迎えた。
3点ビハインドを追う、たった1点だったかもしれないが、それでも大きな大きな1点となった。
ゴールはチームにとって大きな起爆剤となった。
良いきっかけとなったことで町田は浦和ゴールを脅かす攻撃を続けることに成功する。
放ったシュートがポストに音を立てて阻止されるプレーもあり、あと一歩という場面を迎える。
ここで2-3にすることができれば、浦和レッズを脅かすことに繋げられるかもしれない。
名古屋、そして福岡に勝利してきたのも町田という存在をやりづらいなと感じさせることで開けた町田の「方程式」だった。
1点の一矢は何倍もの力となり、相手に突き付けられた現実を前にしながらも追いかけ続け体力の消耗も激しい中、戦う力を充分に引き出した。
しかし。
試合の流れを先読みし、リスクを摘むのも監督に必要な能力。
日本サッカーで10年指揮を経験し、新たなfootballを強く示してきている名将ペドロヴィッチ監督がこのリスクを摘むため、動いた。
後半15分、浦和の攻撃の最大の軸となるエース興梠が投入されると、そこから浦和のボールが前線でしっかりとおさまることとなり、セカンドボールがより拾われ、マイボールにすることも難しくなり、ボールを奪取することができなくなる。
興梠投入から5分後の後半20分。
これぞ阿部勇樹という得意のミドルシュートを放つと、ボールは町田ゴールに炸裂する形でネットを揺らされ4失点目となってしまうと、その後高木のゴール、そして興梠のループシュートでのゴールと立て続けに失点。
前半と同じく試合終了間際には、ダメ出しの7得点目を関根が決め、町田が奪われたゴールは7失点にも及んだ。
1-7。
サッカー選手としてプレーする選手のほとんどが、小さな頃からその地域の強いチームで育ってきてるだけに
こんなに開いた点差で負ける経験をしたことのある選手は、少ないかもしれない。
それほどまでに力の差が大きく出た試合となってしまった。
7失点。そして一矢報いた1得点。
完全に、とまではいかないものの、戦意を失うに等しい試合展開となった。
J1のトップクラスを走り、Jリーグを背負って立つ浦和レッズに当てると、小ささを感じることとなった厳しい現実。
相馬監督は、気持ち良いという言葉を使うのは語弊があるかもしれないが、気持ち良いほどの完敗、と表現した。
1-3で迎えた場面。
チームの活力を再び呼び起こした1ゴールの後、果敢に攻撃に向かった際のポストに当たったシュートが入り2-3にすることができていたならば。
試合は変わっていたかもしれない。
たらればの話はあまり好きではないが、そこがターニングポイントとなった試合であったかもしれない。
あの時ポストに当たっていなければ。
しかし、そのポストに当たった差が7失点という差であること、大きな差であることを全員が感じた一戦となったであろう。
この大敗の中で、最後の最後まであきらめなかった選手たちが数名いた。
その選手たちが持つメンタルの強さは今後に生きることになると、相馬監督は言葉にした。
日ごろの戦いの中でなかなかチャンスを得ることが難しかった選手たちから光が見えたのは、あきらめないという強い精神。
そういった力が、またFC町田ゼルビアを大きくするはずだ。
平日のナイトゲームにも関わらず、そして熊谷という埼玉県の中でも群馬や栃木寄りの町田からはかなり遠い位置にある地に
多くのサポーターが駆けつけ共に戦っていた。
一点を獲った時の一体感、そして共有する歓びは、町田らしさを象徴していた。
浦和レッズの強さを体感し、大敗した選手たちを迎えたのは、町田サポーターの大きな大きな愛だった。
Jリーグ1といっても良いであろう浦和レッズのサポーターの威圧感を前に
自分たちらしい温かい声援を送り続け、最後まで声を枯らし支え続けたサポーターは
12番目の選手そのものだった。
ゴール裏だけでなくバックスタンド、そしてメインスタンドでもサポーターが総立ちし大きな拍手で選手たちを迎えた。
浦和レッズと戦わせてくれてありがとう。
そんな声も多く聞こえた―。
J1を代表するチームを経験できたことは貴重なこと。
目指すべきところがとてもまだ遠いということが分かった。
だからこそ、そのまだまだ遠い道のりを一歩一歩、共に歩んでいきたいと、あらためて思うことができました。
青きゼルビアのユニフォームとグッズに包まれたサポーターは、幸せそうに話してくれた。
目標が遠いからこそ、そこを目指すことに意味がある。
もっともっとがんばれる。
それが、FC町田ゼルビアが浦和との一戦で得られた「プラス」となったものかもしれない。
11月11日。
7失点の大敗を経験したFC町田ゼルビア。
選手たちはそれでもどこか悔しい表情よりも、迎えてくれたサポーターの愛が届き
清々しい顔をして、チャレンジを終え、次の目標に向けてリスタートが切れたような表情で帰路についていた。
7失点の大敗でメンタルが壊れるほど、FC町田ゼルビアのチーム力は弱くない。
天皇杯は天皇杯。
そう切り替えが付くのもメンバーが違うからではない。
浦和との戦いをプラスにできるか否かは、これからのFC町田ゼルビア全体が形にしていくものだ。
落とせない迎えた中3日での、ホーム最終戦VS秋田にて
絶対に負けられない一戦で2-0で勝利。
FC町田ゼルビアは、リーグ最終戦を前に首位山口と再び勝ち点で並ぶこととなり、
優勝、J2昇格の可能性を持って、リーグ最終戦に向かうこととなった。
リーグでは負けられない戦いを長い間戦い、その中でしっかりと結果に結ぶことができていること。
最大で勝ち点差が12あったにも関わらずひとつひとつを大切に戦い、あきらめず追いつくことができていること。
天皇杯ではJ1チーム、そしてJ2チームを下し、Jリーグを代表するチームに挑み、得られたもの。
昇格、そして優勝に向けて最後の最後まで全力で戦いをすることが出来ていること。
今季のFC町田ゼルビアは今後に必ず残る繋がる歴史を創り出している。
2015シーズンは忘れられないシーズンとなることであろう。
残り一戦はもちろん「必勝」の一戦となる。
今季どこよりも経験を積み、試合数を多くこなしてきたFC町田ゼルビアだからこその
集大成となる。
「町田のシンボルになること」
FC町田の挑戦はまだまだ先に続いている―。