【サンフレッチェ広島】 山岸智 劇的ゴール 頬を流れた涙から伝わる諦めず信じるからこそ生まれた強さ 【J1】
2015/10/18 23:13配信
カテゴリ:コラム
(出典:時事通信)
昨年11月8日。
強い痛みが走った。
プレー続行が難しいことは本人が一番良くわかる状況であったであろう。
ナビスコカップというタイトルを懸けて戦っていたからこそ
絶対に勝たなければならないとチームを背負い、サポーターの想いを背負い、そこに立っていた。
それでも強烈な痛みは襲ってくる。
無念と悔しさ、魂を込めてピッチに叩き込んだ。
この場に立って戦いたい。
その気持ちは埼玉スタジアムにあの日、刻まれた。
あの日からもうすぐ一年。
今季は2試合目の出場だった。
かなり減った出場数。ベテランと呼ばれるサイドの職人は、出場機会が激減した今、苦しい時間でも信じトレーニングを重ねてきた。
その結果が、「繋がった」と 試合を観ている全員が感じたことであろう。
ATに入ってから交代で出場した背番号16は
1-1で迎えた川崎フロンターレとの一進一退の難しい試合の中で
セカンドタッチで試合を決定付ける、ゴールを決めてみせた。
サンフレッチェで時間を重ね、タイトルを獲るチームへと力を付ける歩みを共に経験してきたからこそ
相手の中途半端な形となったクリアボールが落ちた、完全なるフリーとなったあの場にいることができた。
山岸智の素晴らしいボレーがゴールネットを揺らすと共に、エディオンスタジアムが歓喜に溢れ、揺れた―。
●負傷によって終え悔しさを残した2014シーズン
昨年の夏。
サンフレッチェ広島は北海道・室蘭で夏のキャンプを決行した。
そのキャンプで重点を置いたのがサイドからの攻撃だった。
広島は昨年の前半戦でリーグ5位という位置につけ、悪くない位置ながらも森保監督はサイドからの攻撃起点やサイドを活用しての得点があまりなかったことに重点を置き
サイド攻撃の練習に時間を費やした。
何度も繰り返されるサイドからのクロス。
細かい調整や要望を聞き入れながら、サイドの選手たちは何本もクロスを上げ続けた。
その中で山岸智は中心人物であり、広島の攻撃の一角を担う存在という責任を背負い
他のサイドの選手たちにアドバイスをしたり、中に入る攻撃の選手たちの要望を聞きながら黙々とクロスに磨きをかけていた。
キャンプが終わり、リーグ中断が明けると北海道という過ごしやすい天候の中、トレーニングをしていた広島にとって
日本特有のジメジメとした夏に対応できるコンディションとするのに時間がかかった。
コンディションの違いも大きく影響し、広島はひとつひとつと順位を下げていった。
バランスを重視し堅守を形成する広島には珍しい大量失点もあるなど、広島らしいサッカーをしつつも結果を生むことができない日々が続いた。
その中、ひとつひとつ勝利を重ね手にしたナビスコ杯へのタイトルへのチャンス。
サンフレッチェ広島は天皇杯も含め、準優勝経験は多いものの、決勝で負けてしまうことが多く
タイトルを手にしたことがない。それだけに今後こそはとナビスコ杯はじめてのタイトルへの期待がかかった。
リーグでは思うように調子を上げることができず苦しんでいたからこそ、カップ戦でタイトルを獲ることで弾みも付けたかったかもしれない。
リーグを2連覇してるチームだという意地もあった。
ガンバ大阪との対戦となったナビスコ杯決勝。
埼玉スタジアムで迎えた決勝の戦いは、相手のファールが取られチームのエースである佐藤寿人がPKを落ち着いて決め先制に成功したのはサンフレッチェ広島だった。
その後、夏場に何度も練習を重ねたサイド攻撃。ワイドに開いた山岸は素晴らしいトラップで足元へとおさめ、相手の動きをよくみながら絶妙なアーリークロスを上げた。
石原(現浦和レッズ)が突っ込む形でシュートを放ちポスト叩くと
跳ね返ったボールを佐藤寿人が鮮やかに決めて2-0とした。
広島の必勝パターンになっていたはずだった。
広島は先制することでほぼ試合を掌握することができるチームだ。
しかし、その後失点。
攻撃サッカー主体のガンバ大阪の2点を追う猛攻を止めることが難しく、ガンバはボールを持つ時間帯が少なくても得点を決めることができるチーム故に抑えるのは難しかった。
負けられない戦いが続く中、
山岸が倒れた。
立ち上がることが難しい。
悔しい無念さをピッチへと残し、山岸は負傷交代となった。
ナビスコ杯をガンバ大阪が掲げることとなった、あの日。
山岸は痛む足を引きずり、埼玉スタジアムを後にした。
その後、出た診断は 右膝内側側副靭帯損傷。全治4週間。
シーズンも佳境のその時期。全治4週間は今季絶望という厳しい現実を突き付けた。
●負傷の連続 下からの突き上げ 苦しむ中で信じながら戦ってきた今シーズン
今季のサンフレッチェ広島には起きな変動があった。
鉄板とも言われてきた佐藤寿人を頂点に置いたトライアングルが、シャドー二人の移籍によって崩れ、
新たにドウグラス、そして本来ボランチの柴崎晃誠の起用、天皇杯決勝という舞台での経験とその後ゼロックスでも大舞台の経験を積ませた浅野や野津田といった若い戦力の台頭、テクニックを持った森崎浩司など
前線の顔ぶれに大きな変化がありポジション争いは熾烈化した。
そしてサイドのポジション争いも刺激を増した。
2014年に甲府から移籍した柏が能力の高さをさらに伸ばすと、ここ数年山岸とポジション争いを熾烈に争ってきた清水航平も自らの攻撃力を持って挑んだ。
32歳を迎えるベテラン山岸は、ナビスコ杯で負った怪我も抱えながら迎えたシーズンインとなった。
今季は柏がまずは先行した形となり、サイドからの攻撃に大きく貢献し
プレーにキレも感じ相手に大きなプレッシャーを与えることができる選手へとさらに成長した。
日本代表に呼ばれてもおかしくはないであろうその能力は、広島のひとつの大きな武器となりつつあった。
その控えとしてベンチに座る機会が多かったのは、清水航平。
清水も持ち前のスピードと周囲と熟知した連携、元トップ下であるが故の攻撃力のバリエーションの多さその存在感を示す。
山岸はベンチにも入れない日々が続いていた。
昨年の負傷に続き左ふくらはぎの負傷や肉離れも続き別メニューとなる日も多く、なかなか練習に参加できない日々を過ごしていた山岸だが、当然ベテランの年齢になったからといって
その場を明け渡したわけでも、チャレンジを辞めたわけでもなかった。
自分の身体と膝と相談しながら日々を重ねていった。
自分よりも若い選手の台頭を目にしながら、自分ならどうするかと重ねた日もあったであろう。
昨年までチームの一角として戦ってきた山岸が、なかなか試合に絡めない位置となってしまったが、それでも自分にはチャンスがあると信じることができたのは
森保監督が創ったチームだからであろう。
森保監督はどんなに長期的にチームを離れる選手であっても、絶対に放置はしない。
しっかりと見ていると姿で伝える。それが森保監督の「監督」という在り方だ。
当然チームメイトたちもその山岸の姿をみていた。
ベテラン選手の苦しい日々と挑戦を感じながら、日々練習を共に重ねていたことであろう。
今季初出場となったのは、ひとつ前の試合であるFC東京戦。
途中からの出場でミキッチとの交代で入った今季初出場。
そして迎えた大一番。
川崎フロンターレとの一戦は、今後のチャンピオンシップ、そしてセカンドステージ優勝への負けられない一戦となるものだった。
川崎側もこの試合を落とすと獲るのとでは今後を大きく左右する試合であり、絶対に譲ることのできない試合であったはずだ。
前半から広島は広島らしい攻撃を重ね、川崎の得意とする中村憲剛を中心とした縦への絶対的な意識からの速いサッカーにしっかりと対応した。
繰り返される猛攻に慌てることなくバランスを整え、広島らしい攻撃を続ける。
その中で、生まれた柴崎晃誠のスーパーゴールは、ボールの軌道が美しく孤を描くようにゴールへと吸い込まれていった。
古巣である川崎ゴールを揺らした柴崎のゴールに、スタジアムのボルテージも上がる。
広島はその後も再三ゴールを予感させる攻撃を展開し、これぞ!というシュートを放つものの決めきれない。
サッカーとは、決めるべきチャンスを決めきれないときが一番嫌な時間帯となる。
この試合もそうだった。
広島は絶対的なチャンスを三度外してしまう中、川崎が得た少ない攻撃の中で生んだ大久保嘉人のゴール。
蹴ったときはミスキックのような形となってしまったものの、ボールの軌道が変わりゴール真ん中に吸い込まれ、ゴールネットを揺らした。
フロンターレにはこういった試合終盤に奇跡のような展開を起こす力を持っている。
それもチームとしてのひとつのこわさであるが故に、1点では安心できないチームだということは広島も理解はしていたはずだが、起きてしまった失点。
決めきれずにいるとちょっとした一本のチャンスで決められてしまうことがあるのがまたfootballだ。
大久保のゴールで良い流れにスイッチが入ったフロンターレは猛攻を仕掛ける。
ATに入り残り時間が少ない中で、森保監督が送り込んだのは山岸智だった。
広島の方程式上、攻撃の交代として佐藤寿人に代えて浅野拓磨という図式があり
その後の交代は試合の状況によりけりだが、清水航平が試合続行不可能な状態となったためATに投入されたのは山岸だった。
清水がプレー続行不可能ということで山岸を選択することとなったが、森保監督はその時間帯だからこそ山岸に信頼を持って送り出したのではないであろうか。
フロンターレのエース大久保の奇跡のようなゴールで同点としたフロンターレの勢いある時間帯に
ベテランだからこそ、そして広島を長きに渡り支えてきた選手だからこそ
苦しく冷静でなくてはならない時間帯に必要である選手であった。
ピッチに駆けだしていく山岸。
ボールに絡むことができるかどうかというくらいの時間帯で残る時間は3分。
2分が経ってドラマが起きた。
ボールをゴール前へと配球したが、相手にクリアされてしまったボール。
そのボールは中途半端な形となってしまい、そのボールが落ちるスペースに入り込んだのは、山岸だった。
バウンドしたばかりのボールは処理に難しいが、難しいボールながら落ち着いてこのタイミングしかない!というところでボレー放ちボールを正確に叩くと
ボールはゴールへと一直線に向かい、ゴールネットを揺らした。
歓びで歓喜に沸くエディオンスタジアムの中心で、歓ぶ山岸。
山岸の日々を見てきたチームメイトが涙を浮かべ、駆け寄る。
山岸のゴールが、大一番を 決めた。
試合後、ヒーローインタビューを受ける山岸の目には涙が浮かんだ。
漢の涙は、強く奥深い。
昨年の11月8日。
痛みに顔を歪ませ、ピッチに力いっぱい叩きつけた悔しき想い。
あの日から約一年。
苦しんだ一年を過ごしてきた。
重ねる日々が意味のあるものだと証明した山岸智は、強き男である。
この試合で勝ち点3を得たことでセカンドステージ優勝へまた一歩近づき
年間順位も1位へと上げたサンフレッチェ広島。
山岸は言った。
みんなで優勝しましょう!と。
タイトルへの難しさを知っている。
手にしてきたタイトルもあれば、逃してきたタイトルもある。
自分が試合に出ていた時に試合に出れなかった選手へ言葉をかけ、奮い立たせてきた。
今試合に出られなくなった経験も、苦しいながらに形にできている。
だからこそ、その言葉には重みがある。
全員でタイトルへ―。
サンフレッチェ広島、タイトルへ―。
一人も欠けることなく向かう先は、タイトルへの道へと繋がっている。
山岸選手、ありがとう!(^^)
名無しさん | 0 0 |2015/12/23|16:16 返信