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【育成】 今更聞けない「トレセン」って何?日本サッカーの育成に欠かせない制度とは 【日本サッカー】

2015/08/26 22:17配信

Tomoko Iimori

カテゴリ:コラム


日本サッカーにおいて、現在育成世代に大きな注目が集まっている。
これまでの日本サッカーの発展と共に、サッカーを観る側や応援する側も発展し、育成世代にも目を向けるようになり今がある。
近年Jクラブの下部組織を中心に、育成世代に注目を注ぐサッカーファンが増えたのだ。

アジアでなかなか勝てず、世界規模での大会に出場できていない育成世代に危機感を持ち、現在の日本サッカーの育成システムに変化が必要だという声も聞こえているが、今ここで日本の育成組織であるトレセン制度を改めて見つめたいと思う。

日本サッカーの育成システムの中心ともいえる、トレセン制度。
トレセンとは「ナショナルトレーニングセンター制度」。

育成において基盤といえるこの制度を 改めて把握しよう。


●チーム強化ではなく「個」を高めるための場

日本でサッカーのチームに所属するには選手登録が必要となる。
これは部活であってもクラブチームであっても同じく、日本サッカー協会他、地域サッカー協会や市町村サッカー協会など、日本サッカー協会傘下の大会に出場するためには選手登録が必要となる。
小さい頃に選手登録をしたその登録が、大人まで継続されることとなり、登録履歴や出場した大会などの履歴も日本サッカー協会で管理されることとなる。
選手登録をした選手全員が日本サッカーの発展のための育成対象となり、そこから選抜されチームから出て強化トレーニングを受けることとなるのが、トレセンだ。

トレセンはチームを強化するためではなく、選手の「個」を伸ばすことを目標として設けられている。
日本のサッカーが世界と戦うためには、まず選手の「個」を伸ばさなければ戦えないという考えから、個人能力を高める場として選手の「個」を強化する。

例えばチームの中にはサッカーが上手で目立つコが必ず存在する。
その選手は、そのチームではとても巧くチームの中心選手かもしれないが、その状況に甘んじてしまいそこに満足してしまうと、チームの中だけで巧いという状況だけでそれ以上を体感することはできない。
強いチームと当たり、差を感じることができたとしても、日々の練習の中でその状況が続くと、刺激のない日々を送ることとなる。

そういったチームレベルで特化したレベルの高い選手たちを集め、全体レベルが高い中で普段とは違ったJFAのトレセン指導の指導者たちの指導を受けることとなる。
良い環境の中、良い指導を与え刺激を与える。
選抜されるという特別感を得ると、ナショナルトレセンまでの段階を追って狭き門となるトレセンのピラミッド型となっている選抜形態で、選ばれたいという気持ちが芽生えることとなる。
選抜されればされるほどに質の高い選手たちの現実を知ることとなる。
レベルの高い選手同士で生まれる 刺激やライバル心。
チームとはまた違った選手たちが集まることで、そういった競争心が生まれ、心身共に個を伸ばす環境の中で競争も生まれる。

それがトレセンという場所である。

年代の身体の大きさや、精神的成長を考慮し、その年代の頭脳で理解できることを考慮したトレーニング環境を与え、提供する。
それらを考慮し質の高い指導ができる指導者を選手たちに用意するため、JFAが指導者にもプログラムを与え、実績と能力を考慮し、指導者としても勉強を重ねる場としている。


・10歳から12歳年代 ゴールデンエイジ

小学校高学年に当たるこの年代は、サッカースキル習得に最も有利な時期と考えられている。
個を伸ばすための吸収が速く、能力が出やすい時期でもある。
足が速いといった能力はほぼこの年代の時には出ている能力であり、この年代の選手を見極める上でひとつの大きなポイントとなる点である。

小学生年代で一番の課題は、サッカー人口が日本では今一番スポーツ人口の中で多いと言われており、子供たちが取り組むスポーツで一番多いのはサッカーとされているが
それでも身体能力的にクラスで一番、学校で一番というような目立つ身体的に恵まれた能力を持つ選手の多くは、野球に進むことが多いという現実だ。
多くの指導者に話を聞いても、サッカー人口は増えたが学校で1.2を争うような身体能力を持つ子供は野球をしていることが多く
違う言い方でいうと、野球でその身体能力が作られているのかもしれないと話す。
トレーニングをしたことで伸びることもあるが、天性的なスポーツ能力、運動神経がバツグンに良いというのはトレーニングでどうにかできるものではない部分も多く
運動神経に富んでいる選手は吸収力が違い、実現も早く、指導者の考え指導する以上のものを出せる可能性を秘めている子供はサッカー人口は多いが、その中でも一握りだという。
サッカー人口は増えたが、天性的な運動神経を持った子供がサッカーを選ばない現状にあるのも日本サッカーの育成年代の課題であると多くの指導者が口にしている。

だがそれでも中には光り輝く選手ももちろんいる。
天性的なものが光るこの年代は、チームの中でも目立つ存在になりやすく、その他身体が大きい、強いといった点や足が速いといったチームの中でなにか違った光を持つ選手がいる。
そういった光る素材をJFAで指導者として、そしてその地域のトレセン指導者として認められた指導者たちがその責任を持って発掘することに力を注いでいる。
光る「個」をさらに伸ばすために選手たちを集め、良い環境、良い指導、そして高い質の集まりの中で受ける刺激を与え、強化を進める。

個をのばすためにこの年代で導入されている8対8や、冬のフットサル5対5の小学生年代の大会などで個の技術と能力を磨くこの時期に適した方法で育成されている。

(JFAより引用)

・13歳から17歳 ポスト・ゴールデンエイジ

この年代の選手たちを指導することが一番難しいと多くの指導者たちは口にする。
この年代は精神的にも身体的にも大きな変動を迎える時期であり、多感な時期だ。
サッカー以外の誘惑も生活の中に多く入ってくる時期となり、大人への反発心も強い時期となる。
サッカーに自信を持つことや、自分のプレーに自信を持つことは良いことだが、それによって指導者の意見を聞かなくなったり指導者の言葉が響かなくなる難しい時期とされている。
心身ともに不安定な時期であることから、指導者の能力や経験も大きく関係することとなる。

この世代では11対11のサッカーの考え方を浸透させ、選手の能力によってポジション適性を考える時期となる。
小学生年代では「技術」を伸ばしてきたが、その能力を持ってチームでそんな役割をすることができるか、11対11のサッカーでどう動くことで良い結果を生むことができるかというサッカー「脳」の部分も関わる時期として、トレセンで強化トレーニングを受ける。

指導者としては、選手との距離感が難しい時期となるが吸収するのもまだ速い時期であり選手の技術やサッカー脳を引き伸ばすことができる重要な時期となる。

・17・8歳から 高校生年代から20歳前後

この時期も多感で身体の成長が続いているが、中学生年代よりは反発も落ち着き、自分で感情を考え整える力が付く頃とされている。
この頃には基本的な指導というよりは、チームの戦術的な指導が多くなるが、その中でトレセンではチーム組織の中で個を光らせる選手となるよう質を高める強化を行う。
Jリーグで戦うチームや選手を目指すにあたり、現実的に近くなる年代であり、選手としての個の積み上げはもちろん、サッカー選手としてトータル的に質の高さを求められるようになる。
トレセンの中でも上を目指すことを現実的に考えられる年代となり、向上心も夢ではなく自分で自分の身を置ける目標へと置き換え考えることができる年代となる。

自分に足りないことをトレセン強化の中から知ることもでき、指導者のアドバイスや指導と共に現実を自分で分析できる年代となる。


●発信と伝達が欠かせない育成の情報システム

トレセンはピラミッド型に成り立っている。
地区トレセンから都道府県トレセン、9地域で割った地域トレセンに、ナショナルトレセンと段階がある。
そして世代別代表へと繋がっていくが、世代別代表を選出する前の段階で
ポスト・ゴールデンエイジ世代を中心に、西日本と東日本で分けた選抜対抗戦のような形で試合を行うこともある。
東西で選出された選手たちが世代別代表選出へのアピールをする場のような 試合が組まれるのだ。

(JFAより引用)

指導者は昇って行く選手たちとは逆に、ナショナルトレセンの質がトレセンの中で一番高い場所だが
段階を逆に進むことで質の高い指導を全国に拡げることとなる。
高い質の中でどのようなトレーニングや指導が行われているかを広め、選手たちは高い能力というのはこういうことが求められる等といった新たな発見を含めた刺激を受けることができるようになっている。
指導者同士もトレセンにおいて上のカテゴリの指導者が来ることや経験ある指導者が来ることで発見が多くあり、指導者の質の向上にも繋がっているのだ。

トレセンはピッチの上でプレーすることだけに重点を置いているわけではなく、オフザピッチでもサッカー選手としての責任感を持つよう指導している。
ルールを守ることや挨拶をすることなど、常識や在り方を踏まえた指導を行い、ピッチの外でも自覚を持つよう指導を重ねる。
サッカー選手としての技術だけで選出されるのではなく、そういった部分も含めてサッカー選手として良い選手であるかどうかも見極め、日本のサッカー界で選ばれし者となるためにはプレーだけ良ければ良いわけではないということを教育される機会となるのだ。

感じられる戦う姿勢や勝利への闘志、プライドや向上心、サッカーに取り組む姿勢や努力といったメンタルの部分も
どう持っているかと指導者たちは重要視している。
選手として必要なのは身体的なことやプレーのことだけでなくメンタル部分においても必要であり、トレセンで伝え教育が必要な部分とされている。

技術だけでなく、在り方や姿勢、メンタル。そういった総合的な育成をする場。
学年が違う選手同士がひとつに集められることで得る刺激も大きい。

それが日本のトレセン制度なのである。


現在トレセン制度が導入され、25年が経過した。
このトレセンを経て世代別代表となりU-17で世界と戦うU-17W杯のために、U-16がアジアで戦うこととなり
U-20世代で世界と戦うためU-20W杯への出場を求めてU-19でアジアを戦うこととなり、五輪世代であるU-23で五輪を戦うために、U-22でアジアを戦い抜く。
その時間を逆算し、選手たちは強化されている。

そう考えると難しいのがU16、U19年代なのだ。
日本の3年周期での学校変動や、チーム変動を考えると16歳は中学・ジュニアユース年代を15歳で終え、16歳で高校・ユース年代に突入したばかりで
まだチームでは定位置が握れずにいる選手たちが多く
U19年代の選手も、18歳で高校ユース年代を終え、プロや大学といった場所でまだ定位置を握ることができていないことが多い。
そのためチームでの実戦の割合が15歳や18歳でチームの中心としてやれていた選手たちにとって、一気に実戦が減る年となっている。
強化合宿を積極的に導入したり、数人をひとつ上の世代時から招集し、ひとつ上世代を経験させることで、次の年代の中心選手になるよう指導したりと逆算し考えられているのだ。


現在の日本サッカーの中心ともいえる土台。ナショナルトレーニングセンター制度。
男子女子サッカー全体で行われている日本サッカーの育成方法だ。

Jリーグの選手たちはトレセン経験者が多く、地区のトレセンにも全く選出されたことがない選手がプロになるというのは本当に稀なケースといって良いであろう。
その才能は幼き頃から始まっているということがほとんどであり、同じ年代の選手同士が幼き頃から名前やプレーを知っていることが多いのは、トレセンで一緒だったという現象が多いからなのだ。
その中でさらに輝くことができるか。
最近はそういった選手の特出が少ない時代にきているのかもしれない。

トレセン制度が導入されてから生まれた日本サッカーのスターといえば中田英寿であり、世界で日本人選手が世界スターとなった唯一の存在といって良いであろう。その他、中村俊輔や小野伸二が出てきた時のような「なんだこれは」という度胆を抜かれるような存在が多く出てきてほしいと願う。
全体のレベルは向上しているものの、際立ったスター候補は減ってきているのが現状だ。

育成年代の強化。
このピラミッドから次はどんな日本サッカーの未来が生まれるのであろうか―。

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