【大宮アルディージャ】 全員で掴んだ待望の勝利!残り3試合落とすことなく頂点へ「挑む」 【J2】
2015/11/02 23:04配信
カテゴリ:コラム
どうしたんだ―。
そんな声が聞こえてきたことも、やっと払拭できる。
5試合ぶりの勝利はチーム全員で得た勝利だった。
誰も安心しきってなんていなかった。
誰も慢心なんて持っていなかった。
だからこそ、苦しんだトンネル。
大宮アルディージャが5試合ぶりに勝利を挙げ、J1昇格へ向けて王手をかけた。
この試合を獲れるか否かは運命を変える試合だった。
目指すのは昇格、そしてJ2の頂点。
そして、二度とJ2に降格しないチームとなること、だ。
その決意と覚悟を持って今シーズンを走っている。
最後まで走り続ける。大宮らしく。
●長いシーズンでぶつかった壁。総力で乗り越えようと苦しんだ時間
スタートダッシュは決して良い形で切れたわけではなかった今シーズン。
スタートからチームの中心核である家長を負傷で欠いたことも大きく、スタートダッシュは切れなかったものの
それでも大宮は徐々に調子を上げながら勝ち点を順調に積み重ね、5月下旬には首位に立った。
その時から、一度も首位から脱落していない。
一時は独走かと思われた大宮の強さを前に、対戦した相手チームの選手たちも
一番大宮が強かったという言葉を口にすることが多く聞かれたほどに、その存在感は大きく、強さも確立されていると思われた。
シーズンの大きな山となる夏場も順調に進むと思われたが、8月の愛媛戦で今季4敗目となる敗戦となると
その後、引き分けをひとつ挟み、今季初の連敗をしてしまった大宮は、大きな変化に踏み切った。
今季、大宮は思い切った大きな変化を迎えた。
それまで大宮のゴールマウスを支えてきた北野、江角という2大GKから、浦和から加藤、FC東京から塩田が加入した。
チームでは控えGKだったが、他のチームでは第一GKになるであろう実力充分の二人が出場機会を求め、共に深い思い入れのあるチームから決意と覚悟を持って移籍を決め、
経験あるGK二人の新たなる挑戦が大宮の地ではじまった。
タイプの違う二人のGKだが、どちらもそれぞれの経験を持って声を出し、チームを底から支える大きな存在となり
今年加入したにも関わらずチームになくてはならない、どちらにもそれぞれの信頼が分厚く存在する。
順調に進んできた大宮アルディージャの今季はじめての過酷な山を前に、渋谷監督はGK交代というアクセントを付けることで、新たな形を試した。
その地となったのは味の素スタジアム。
塩田にとっては深い思い入れのある場所。
大宮アルディージャに移籍をして初めてのスタメンとなる試合が味スタであったことも、運命を感じる。
その他、サイドバック渡部に代えて片岡を入れるなど変化をつけた大宮。
上位に進出してきた東京ヴェルディとの直接対決というのもあったが
大宮としては連敗を続けるわけにはいかない大事な試合となった。
ヴェルディらしい足元の技術高く攻撃的なサッカーを前に、大宮は苦戦を強いられたものの、
その試合を1-0で勝利で飾り、勝ち点3を得た。
その後は千葉、そして磐田と上位対決が続き、ホーム千葉戦では勝利、
2位磐田との対戦はアウェイということもあり、アウェイの洗礼ともいえる大宮対策の難しいピッチ条件の中で戦ったためボールがうまく転がらず、大宮らしいサッカーを封じられてしまうという一幕もあった。
結果はドローとなったが、続くアウェイ熊本戦ではまさかの3失点で無得点というスコア的には今季最悪な敗戦となり、
やっと戻ったホームで挽回しようと臨んだ試合で徳島に1-2で敗戦となり、今季二度目の連敗を迎えた。
東京V戦から5試合で8失点という現実に向き合わなければならななった。
GK交代というチームにとっては大きな変化があったものの、塩田だけにその責任を押し付けてしまうのは違う。
シーズン前半を多くの勝利で駆け抜けた大宮を止めようと、相手チームに分析され丸裸にされつつあることも大きく影響した。
首位大宮から勝利してやろうと、どのチームも一番上に立つチームに対して
高いモチベーションで来る試合が続く。
昇格やプレーオフ圏内に関わってくるチームはもちろん、それになかなか手が届かないようなチームであっても
首位大宮に一泡吹かせようと全力以上の力で挑んでくることも。
強い相手に臨む高いモチベーションは100%以上の力を引き出すことも可能となり、高い集中力を備えて戦える状態となることが多い。
上位を目指して戦うチームが挑む形となる試合は、挑まれる側としては難しい試合となることは否めない。
どのチームも大宮アルディージャのサッカーをしっかりとスカウティングしてきていた。
大宮のサッカーの心臓である速いパスを止めるためにはどうしたら良いのか。
それを熱心に考え、攻略しようと様々な案を練り対策を施した。
シーズン中なので、そのひとつひとつの策を明確に示すことは避けるが、それらはJ1ではあまりないであろう策も取られていた。
首位を走るからこその、その重圧と打倒と挑んでくるチームたちを前に
大宮のサッカーがうまく機能しなかったのは確かだった。
FC東京が降格し、J2で戦い一年で昇格を決めた時を経験している塩田。
J2で勝てない時期を迎えることはもちろん良いことではないが、その時が来たときの経験を持っていることで、日々チームにその経験を持って向き合った。
なにより慌てないこと。
チームの最後方から失点が重なっても大きな声を出し、慌てることなくゴールマウスに立ち続けた。
どうした大宮。
そんな声が聞こえようとも、大宮アルディージャは大宮アルディージャらしく日々の練習を過ごしていた。
決して悪い雰囲気になることなく、だ。
結果が出ず、さらに失点が重なるとどうしてもチームの雰囲気は塞ぎがちになってしまうものだが、そんなことはなかった。
勝ち点を順調に重ねてきた大宮だからこそ、どこか慢心があったのではないか。
昇格を前にするとメンタルが難しくなってしまうのは、どこのチームも同じなのか。
と、思われがちだが
選手たちは良くない状況であっても、自分たちのサッカーに自信を持った上で
自分たちが一番高いところにいるということを根本に、慢心することも昇格を前にメンタルがいつもと違うという現象も起きていたわけではなく
自分たちがどんな対策をされても、自分たちのサッカーができることで乗り越えられる
そのために、もっとチームとして高めていこうという高いモチベーションの中でトレーニングをこなしていた。
GKという難しいポジションながら交代となってしまいベンチメンバーとなった加藤順大だが、大きな声を出し、チームを誰よりも鼓舞し続けた。
ゴールが決まると誰よりも先に大きく歓び、選手を讃え、失点をしても大きな声で手を叩き選手たちの顔を上げさせた。
監督よりもベンチで立っている時間が長いのではないかというほどに、チームに激を飛ばし、チームを讃えた。
そういった選手がいることも大宮アルディージャにとっては大きかったはずだ。
負けても顔を上げなくては。まだまだ先を目指しているのだから。と、顔を上げる気持ちで日々大宮アルディージャらしくいられたのも
試合に出場できていない選手たちの想いや努力、出場している選手への信頼…通ずる絆があったからであろう。
二度目の連敗となった大宮は、GKを加藤へと戻し、アウェイ京都戦へと挑んだ。
順調に勝ち点を挙げていたならばこの試合ですでに昇格が決まっていたかもしれない、優勝が決まっていたかもしれない場だ。
しかし、そんなことは振り返らない。まずはチームに自信を付ける1勝がほしかった。
しかし、ゲームは追いかける形が続いた。
京都山瀬のゴールでゴールを割られ先制されると、その後ムルジャのゴールで追いつくものの
後半、再び京都伊藤にゴールを許し、その後家長のゴールで追いつくという展開に。
リーグ前半は失点が少なくそのディフェンス力も評価が高かった大宮だが、ディフェンスが後手に回ってしまう場面が続く。
2点を追いつく形でドローとなった大宮。
順位からみると下位で苦しむ京都に2失点でドローというのは決して良い結果には映らないかもしれないが、
それでも追い付く形だったこと、敗戦ではなくドローだったことで、大宮は一歩を踏み出していた。
この停滞期ともいえる時期となってしまったことで、勝ち点をかなり狭められてしまった。
それでも、逆に考えると苦しい時期を迎えても、首位である位置を明け渡さずにいられたことは
大宮の重ねたひとつひとつの勝利あってこそだ。
2位磐田との勝ち点差は4となった。
次の試合で負けてしまうとその差が1となる可能性があり、そのままズルズルといってしまった場合には
プレーオフ圏内ということも想定しなくてはならなくなる。
ホームで戦えるのは残り4試合中、2試合。
自分たちのサッカーができるベストな環境であるホームだからこそ、絶対にそこで勝ち点を獲りたかった。
磐田でドロー、熊本でまさかの3失点での敗戦があってからも、ホームで戦うことができるという大きな期待が選手たちの中にも強くあったはずだ。
しかし、そのホームで敗戦したことは大きな痛みを伴ったことであろう。
もう絶対にそんなことは起こすわけにはいかないと、誓ったはずだ。
●運命を懸けた試合だった長崎戦。勝敗で大きく分かれたであろう今後の道
迎えた、ホーム長崎戦。
プレーオフ圏内の競争も激しく、長崎も負けられない一戦と置いていたはずだ。
アウェイ長崎で戦ったときは、パスを繋げ速いサッカーをする大宮が逆にパスサッカーで苦しめられた相手だけに
決して油断も慢心も持つわけにはいかない相手であり、勝利をすると昇格へ大きな一歩を踏み出すことができるのに対し、
負けるようなことや、ドローで勝ち点をうまく積み重ねられないことになると、2位3位からの追い上げのプレッシャーがさらに強まることとなる。
チームの続く勝てない時間を断ち切るためにも、絶対に勝たなくてはいけない試合だった。
昨年の最終戦で勝利しながらも無情にも降格が決まってしまったあの瞬間から
絶対に一年で戻ると共闘を決めたサポーターも同じ想いであったであろう。
スタジアムに入るバスをサポーターは大きな声で迎え、大事な一戦を共に闘うことが選手たちに届けられた。
奮い立つその空気感こそ、サポーターが作ることができる「ホームスタジアム」だ。
初の連敗を経て、スターティングメンバーから外れていた渡部がこの日スタートから起用された。
両サイドバッグを変えてきた大宮だが、その渡部が試合開始直後から結果を出す。
自らのポジションでボールを受けると、中へと切り込み思い切り左足を振り抜くと
ボールは弾丸ともいえる勢いでゴールネットを突き刺し、目の覚めるようなゴールで大宮が先制。
立ち上がり早い時間に得点をしたことで勢いに乗り、良い形で大宮らしさを出すことに成功し、長崎に圧力をかけるような攻撃を続ける。
攻守の切り替えの速さでも圧倒し、ボールを簡単には奪わせない。
後半に入ると決定機阻止で長崎の選手が退場となり、10人となった長崎。
その後、再び右サイドを駆け上がる渡部からのボールでゴールが生まれる。
サイドを駆け上がった渡部から見ると多くの長崎の選手たちがゴール前で守備についていたが
一瞬の判断でここぞというボールをフワリと配球し、ムルジャの対空長いジャンプにピタリと合う形で高い打点で頭に合わせ2得点目。
その後ゴール前での大きなミスからボールを奪われゴールを許してしまい失点してしまったものの
大宮アルディージャは最後まで身体を張りながら、勝ちたいという強い気持ち溢れる試合を展開し
5試合ぶりの大きな大きな勝利を掴んだ。
最後、身体を張ってディフェンスしたキャプテン菊地が試合終了と共に倒れ込み、試合終了のホイッスルと共に選手たちは菊地の元へと駆け寄った。
なんとか打開しようとキャプテン主催で選手たちのミーティングを行い、この試合に挑んだ。
失点の多くなったチームのディフェンスリーダーとして、そしてチームのキャプテンとして大きな責任を背負い戦っていた。
選手たちが駆け寄って心配するキャプテンは打ち付けた頭を押さえながらも、勝利のピッチに立った。
サポーターの歓喜の声が包み、選手たちの歓びとどこか安堵のような笑みがこぼれる。
勝ったのだ。
大宮アルディージャは5試合ぶりに「ホーム」で勝利したのだ。
苦しみながら流れた 時間よりも長く感じたであろう長きトンネルも必要だった
と、言うような近き未来をきっと彼らなら掴めるはずだ。
ベンチで試合に出られなかった選手たちも、手を大きく突き上げ、勝利を歓び戦った仲間たちを讃え迎える。
試合に出ている選手たちも出れない選手たちの想いも当たり前のように汲んで自らに背負う。
それが大宮アルディージャというチームの形だ。
いよいよ昇格に向けて、大きな一歩を踏み出した。
目指すは昇格はもちろん、一度昇ってから一度も降りていない一番高きところでシーズンを終えること。
昇格、優勝という場を手に入れるためには、他のチームの結果は関係ない。
自分たちが勝ち続けること。
この大きな勝利は自信と確信となって、またひとつ大宮アルディージャを強くするはずだ。
忘れてはいない。一年前の涙を。後悔を。悔しさを。
今年、大宮アルディージャは最高の瞬間を獲りに「挑む」―。