曺 貴裁監督の「湘南再生工場」
2014/12/16 15:06配信
カテゴリ:コラム
12月13日の天皇杯決勝をもって
Jリーグの2014年シーズンは幕を閉じました。
J1より2週間早く最終節を迎えるJ2も
当初から織り込み済みであったプレーオフがあったことに加え
山形が天皇杯決勝に残っていたこともあり未だにシーズンが続いていましたが
これにより、無事終了することとなりました。
さてそのJ2
今季の主役はまず間違いなく湘南ベルマーレだったと言えます。
開幕14連勝と、2012年の昇格時の8勝1分を大幅に上回るペースで
勝ち点を積み上げ、ついには最終節の大分戦に勝利し
101まで到達することに成功しました。
42試合でのこれは、J2での最多勝ち点率となる数字です。
これを支えたのは、日本のドルトムントと言われた驚異的な運動量
それに支えられた数的優位を作り出すシステムと切り替えの凄まじさです。
これは就任3年目となり、2度目のJ1昇格を目指す曺 貴裁監督の手腕が
冴え渡った故であると言えるでしょう。
しかし、曺 貴裁監督にはもう1つの顔があると言えます。
それは「再生工場」とさえ言える、選手を活かすウデです。
今年の躍進は、そのウデが存分に発揮されたことも手伝ったものなのです。
ケース①:丸山祐市
丸山は今年、FC東京から期限付き移籍、いわゆるレンタル移籍で湘南に加入しました。
FC東京の下部組織から國學院久我山へ進みます。
明治大学進学後、3年時から徐々にレギュラーとなり
一躍、ユニバーシアード代表、さらにはロンドン五輪代表候補に選出されるなど
なぜ就職活動をしたのか不思議なほど、文字通り将来を嘱望されたCBでした。
ロンドン世代でも有力なCBとして数えられていたということです。
当然、入団することになるFC東京を含め、数多くのクラブから入団オファーを
受けたと言われています。
しかし、FC東京では2年間でリーグ戦出場3試合に留まり
カップ戦を含めても、その多くは左利き故に左SBを任されることが多く
また、左CBには日本代表に選出される森重真人が鎮座しており
CBでの出場は数えるほどでした。
そして今年
自身、勝負の3年目と位置付けた2014シーズンを湘南で「プレー」しました
3バックの真ん中に位置取り、コンタクトの強さやJ2では際立つ高さを発揮
また、運動量多く動き出す前線へフィードを送り込むなど持ち味を出し切りました。
全42試合のうち、出場停止の1試合を除く41試合に出場し
湘南の躍進の原動力、文字通りの中心となりました。
曺 貴裁監督は丸山を湘南に呼ぶにあたり
「育成年代の時から注目していた」と口説いたそうです。
まさにその言葉に嘘偽りなく、丸山の持ち味を生かし切った采配を見せ
丸山もその起用に大いに応え、自身のキャリアにとっても
大きなシーズンとなったことでしょう。
曺 貴裁監督は世代屈指の才能を、見事「再生」したのです。
ケース②:藤田征也
藤田征也は、2014シーズンが開幕してからという急な移籍で湘南へやってきました。
湘南は3421のフォーメーションを採っていますが
その右WBとして前年には主力として活躍した古林将太が全治7カ月の大ケガを
負ったことにより、緊急的に藤田を獲得しました。
古林のケガのリリースが出てからわずか1週間での補強となりました。
ちなみに藤田は、加入から5日後の第2節長崎戦で早速途中出場を果たしています。
藤田征也は札幌の下部組織で育ちました。
特筆すべきは、U-14から各年代別代表に選出され続けたエリートであることです。
その能力の高さから、あらゆるポジションをこなし
2007年のカナダU-20W杯の日本代表にも選出されました。
そしてその後はJ2の札幌からJ1の新潟へとステップアップ
J1でも通用する能力を示し続けました。
しかし、4バックが隆盛を迎えると
藤田自身の攻撃力を生かした3バックのWBでの適性とがマッチせず
次第に出場時間を減らすこととなり
2014年シーズンに新潟が右SBとして、その年にA代表にも選出されることになる
松原健をレンタル移籍で獲得するなどすると、藤田は余剰戦力とみなされていました。
そこへ湘南への移籍。
湘南のサイドに人数をかけた攻撃、攻守に求められるアグレッシブさは
藤田を活かすことになりました。
第6節で移籍後初のスタメン出場を果たすと
フィットの難しい移籍直後、また、消耗の激しいWBにも関わらず
半分の21試合でスタメンとなりました。
ここでも曺 貴裁監督は「再生」の手腕を発揮することとなりました。
「再生」に頼らざるを得ない湘南の事情とケース③への期待
湘南はJ2の中でもそれほど際立った予算規模のクラブではありません。
2013年、長らく続いた債務超過をやっと解消したばかりという事情もあります。
そんな事情から、曺 貴裁監督の「再生」の手腕に頼らざるを得ない部分があります。
そして、そういった「再生組」を始めとしたレンタル移籍組の多くは
移籍元のクラブへと、2015シーズンは帰還してしまいます。
ケース①で挙げた丸山はその代表例と言えます。
また、今オフの補強も、ある程度その「再生」絡みの補強になってくるのでは
ないでしょうか。
再びのJ1に臨む湘南ベルマーレの浮沈は、チームを牽引する曺 貴裁監督の
「再生」の手腕にかかっていると言えるでしょう。
現状、その範疇で期待しているのは
2013年にFC東京からレンタル移籍で獲得し
その期間中に大ケガを負ったにも関わらず完全移籍で獲得し
第27節で8ヶ月ぶりに復帰を果たした、大竹洋平の「再生」です。