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【サンフレッチェ広島】 威風堂々―。安定し熟成された広島サッカー今季の「進化」。【J1セカンドステージ優勝】

2015/11/23 22:46配信

Tomoko Iimori

カテゴリ:コラム


強かった。
その一言に尽きるほどに、今季のサンフレッチェ広島は安定を持って強く、シーズンを通して年間首位に立ったその結果にも深く何度も頷きたくなるほどに納得がいく。

J1セカンドステージは最終戦を迎え、ホームスタジアムであるエディオンスタジアム広島にて迎えた最終戦。
湘南ベルマーレを相手に5-0という今季の強さを象徴する試合となり、年間首位、そしてセカンドステージ優勝というタイトルを掴んだ。

威風堂々―。
そんな言葉が似合う、チャンピオンの姿がそこに在った。

●チームの危機とも感じられた変化が、チームの強さに繋がった

今季の広島を語る上で欠かせない大きな出来事は、シーズン前に起こった。
広島の攻撃を形成する上で重要なポジションとなるシャドーの位置の選手たちが、移籍という形で空席となったのだ。
2012年、そして2013年とJリーグを連覇した際にも大きな武器となった、広島の攻撃に欠かせない佐藤寿人を頂点に置いた2シャドーのトライアングル。
しかし、その二人が同時に移籍という道を選択しチームを去ることとなり広島の攻撃はどうなるのかと心配されたが、森保監督はそれでも追求するサッカーを変えることはなかった。

抜けたポジションに対し競争を促し、個々の能力や特徴を可能性を持って試し、
自然な形でそのポジションに適性する選手を試合ごとに配置した。

シーズン序盤はその位置で、さまざまな可能性を試した。
広島の若き期待の選手であり五輪世代代表でもある浅野と野津田。
左利きという利点を持ち、左足で蹴るキックのバリエーションが多彩で経験もある、森崎浩司。
ベテランが多い広島の中ではまだまだ若手という表現をされるものの大卒選手であり出場機会が少ない中でもチャンスが与えられるとキラリと光ったものを見せる、茶島。
ボランチからコンバートされその攻撃のスキルを最大限に生かし、周囲との連携も飲み込みが早く得点力もある、柴崎晃誠。
徳島からレンタルで獲得し、それまで日本サッカーの中で助っ人外国人としては充分な結果を出しているとは言い難かったものの
広島サッカーに出会ったことで大爆発し、結果的に今季広島のサッカーで欠かせない存在となったドウグラス。

広島のシャドーという位置は得点が生まれなくてはならないポジションであり、
そのトップの位置に立つ佐藤寿人の得点にも結びつくことが必要となるポジションだ。

機会を得て出場した選手たちに物足りなさを感じる部分が、すべての試合において90分を通してなかったとは言い難いものの
それでも抜けた二人の選手たちとは違ったそれぞれの選手たちの特徴がハマり、それぞれの良さが光ったことも
今季の広島にはプラス材料だった。

競争が生まれた上に、それぞれの選手たちがそれぞれの良さを魅せることで
競争をより活発化し、けが人が出てしまっても違った能力を持った選手で戦えることができた。

シャドーに限らず、その他のポジションでも今季普段スタメンで出場している選手たちの代わりに出た選手たちが
それぞれの良さを発揮する形で埋めたことが、広島の層を厚さを物語った。
試合に出場しなければ積めない経験がサッカーにはあるが、その試合経験を積み試合の中での成長や自分を出す場面が多く見られたことも、広島の安定した強さに繋がったのではないであろうか。

佐藤寿人の位置に後半から浅野が投入される勝利への方程式が生まれ、相手が疲れてきた時間帯に広島が投入するスピードスターは試合を運ぶ上でかなり効果的となった。
攻撃の3選手で生んだ得点が重なり、チーム内のゴールランクを改めてみても
ドウグラスが21得点、佐藤寿人が12ゴール、浅野が8ゴール、柴崎が6ゴールと多くのゴールが生まれたことがわかる。
1トップ2シャドーからの得点が多く生まれたこと、そして広島はGKを除く全ポジションの選手たちがゴールを常に向かう姿勢も今年は目立った年となった。
シュートを打たないと何も生まれないというように、選手たちはシュートを打つことにこだわって戦っていた。

広島は毎年のように主力選手が引き抜かれ、その度にできてしまう穴をトップレベルの質を持って埋めるという難しいチーム編成となるが
その穴が痛かったとは絶対に言われたくはない、というように、毎年見事に広島サッカーを構築する。
新たな可能性を持って、選手がいなくなったからといってそのサッカーを変えず、ブレずに広島のサッカーを構築し、継続してきたことで生まれた熟成が広島の強さである。

やっていることに、変わりはない。
選手たちの能力と特徴をは違うが融合し、サンフレッチェ広島は今年も、サンフレッチェ広島のサッカーをした。


●驚異的な数字の数々。今季の広島は過去最高の成績を生んだ。

今季の広島の強さを、改めて数字で振り返ってみよう。
セカンドステージ優勝の広島の重ねた勝利は17試合中、13試合。
引き分けが1試合に3つの敗戦。

敗戦は鹿島に0-1で負けた後、柏に0-3で敗れるといった今季初の連敗があった。
0で抑えた試合はドローを含め8試合あり、1-0という試合は年間通してほとんどなく、複数得点を得て勝利した試合が多かった。

セカンドステージの17試合で44得点、失点14というのは驚異的といって良いであろう。


年間成績で見ても、積み重ねた勝ち点は74。
これは18チームで戦うJリーグ史上最高の勝ち点を記録した。
年間2位の浦和レッズは自らのチームの持つ年間最高勝ち点72に届いたが、それでも年間首位に立つことができないとは、広島が重ねた勝ち点がどれだけの偉業か理解できるであろう。

2012年、2013年に広島が優勝した時よりも勝ち点が10前後多く重ねたことになり、
年間試合数34試合で、得点は73。失点30。得失点差は+43という圧倒的な数字となった。

34戦で23勝5引分6敗。
敗戦の数は浦和が4で最少だが、広島は引き分けの数が少なく勝利をした数が多かったことが年間首位を獲得するに繋がった。

得点が多く、失点が少ない。
理想とする形のチームの在り方であった、サンフレッチェ広島。
シーズン序盤からボールを持つと全員攻撃、全員守備で、相手を圧倒する経験を武器に戦った。
ボールを持つ時、ボールを持たれる時、でシステムが可変するそのシステムは長年熟成してきた完全なる「広島サッカー」という形だ。

さまざまな経験を積んだ選手が多いことで、対処するプレーのひとつひとつの引き出しが多い。
相手に立つチームの選手たちも、上手で動く広島サッカーにやりづらさを感じるチームも多いであろう。
長く広島は同じサッカーをし、各チーム分析に分析を重ね丸裸にしているだろうが、それでも広島サッカーを打開できない。
型があるが立ち止まってはいない。常に進化を続けているのだ。

長く共にプレーしてきている選手たちが多いため、それぞれの選手たちの考えも理解し、どう動くかどこにボールが出てくるかを身体で感じることが出来ているのも広島らしさのひとつだ。
選手たち同士の信頼は厚く、意思の疎通も完璧に近いであろう。

熟成されたチームに、新たなポジション争いが生まれスタメンに名が並ぶようになった選手や
ベテラン選手たちを乗り越えないことには出場することができない若手たちの積み重ねた努力で得た出場機会、プレーすることで得た成長が融合し
試合に出場がなかなかできなくなってしまった選手の試合に出たいと重ねる努力が生む力など、

今季の広島はこれまでのサンフレッチェ広島に、さまざまな出来事やそれまでの過程、想いや可能性などを加え、進化という形で今季を戦ってきた。


●若手選手たちの台頭。責任感が生まれ顔つきも明らかに変わった今季。

広島の今季の大きな強みになったひとつ。
それは、若き選手たちが力を発揮したことだ。

8ゴールを決めた浅野はもちろん、野津田や茶島、宮原等、若い戦力がチームの力となったことが大きかった。
昨年まではなかなか出場することができず、ベンチ入りすることも難しかった。
正直、昨年までは主力選手たちとそうではない選手たちの力の差が大きすぎると感じたほどだった。

近年のJリーグクラブに多く感じるのは、若手にシフトする形で、チームがベテラン選手たちをチームの財政や方針という理由で、構想外にし
若い戦力に力を付けるためベテラン選手たちよりもまだ能力が整っていない状況ながら、育てるという名目でポジションを用意し戦わせるという
チームが増えてきていると感じる。
本来、スターティングメンバーという場所は競争に勝った者が、その位置に立てもの。
チームの財政的な部分や未来を見据えての育成など、それぞれのやり方があるであろうが、それが正しいのかと疑問に持つこともある。

しかし、広島はそういったやり方はしない。
経験豊かな選手たちが今広島で一番の戦力であることは、間違えない。
その選手たちも当然一歩も引くつもりもなければ、まだまだ広島を背負って立つ気持ちで立っていることであろう。
30歳を越えたらサッカー選手としてもう佳境のように言われるが、それは誰が決めたのであろうか。
20代前半の選手たちの、元気だけでは戦えない。
だからこそ、立ちはだかる質の高い選手たちを越えて、自らの力を持って勝負しなければならない。
その厳しい現実を乗り越える力がなければ、選手として向上することも、整腸することも難しいであろう。
育成をしていないわけではない。その厳しい現実の中で戦わせること。それがサンフレッチェ広島の育成であると感じる。

他のクラブで同じくらいの年代で主力として戦う選手たちを見て、自分たちはなぜ出ることができないのかと悩む時期もあったかもしれない。
しかし、サッカーとはその「なぜ」を自分で克服することができるか否かで、その選手の成長幅が変わるものだ。

ポジションを未来のため、育成のために、やすやす空けたりはしない。
悔しいのであれば、試合に出たいのであれば、ポジションを奪ってみせろ―。

それが森保監督からの、広島というチームからの メッセージだ。

若手たちは今季のポジション争いの中で、チャンスを見失うことなく奮起したといって良いであろう。
特に攻撃的なポジションでは、浅野茶島野津田といった選手たちが激しいポジション争いを展開した。

サンフレッチェ広島というチームで試合に出場することは簡単ではない。
若いという理由や育成という理由では試合に出ることは難しい。
だからこそ自分たちで乗り越え、大きくならなければならない。
それをシーズン通して、試合をこなすことでひとつ、またひとつと大きくなっていった若手選手たち。
広島ではなかなか使うことがまだできなかった若い戦力が、チームの1戦力として考えることができるようになったもの、今季の広島の強さの理由のひとつとなった。

若い選手たちの顔つきが今季は明らかに変わった。
経験豊かな先輩たちの後ろにいるのではなく、自分たちがやるんだという意識に変わったのではないかと伝わってくるほどに
その表情はチャンピオンになるべく、チームの一人のサッカー選手の顔となった。


エディオンスタジアムが歓喜に湧いた―。
4年間で3回目の年間トップはどの年よりも勝利し、得点を生んだ。
サンフレッチェ広島を語る上では、今挙げたことはまだまだ足りない。
それだけ、サンフレッチェ広島の今季は語るべく強さが多彩で、チームとしての魅力がある。

まずは。
セカンドステージ優勝おめでとうございます
と、お伝えしたい。

熟成し、どんなことにも動じない広島サッカーは、強かった―。

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素晴らしい記事ですね。読めて嬉しいです。ありがとうございます。

名無しさん  Good!!0 イエローカード0 2015/11/24|16:38 返信

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