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【ザスパクサツ群馬】 江坂任 大学で身に付けた高いプロ意識が生んだ 一年目で得たエースという称号 【J2】

2015/11/24 21:53配信

Tomoko Iimori

カテゴリ:コラム


2015シーズンは戦国時代と呼ばれるほど、難敵揃ったJ2。
上位から下位までの勝ち点が密集している中での戦いとなり、各順位の勝ち点標準が高いシーズンとなった。
最終順位は18位と決して良い位置だったとは言い難いが、上位に勝利するなど印象を残す試合も多かったザスパクサツ群馬。

今季シーズンスタート間際に決まった、加入選手の一人。
当初のチーム編成にはなく、偶発的なタイミングで決まった新加入選手が今季開幕戦をスタメンで飾ると、その後チームのエースと呼ばれるまでに活躍し継続的な活躍を続けた。
ザスパクサツ群馬サポーターだけでなく、他サポーターの中でも大きな話題となり、サッカー関係者からの評価も高く、注目された選手がいる。

MF 江坂任。

流通経済大学サッカー部からの加入となった、大卒ルーキーだ。

今季全試合に出場、そして13ゴール。
一年目で10ゴール以上を記録するのは今までのJリーグの数多くの有名選手でも達成したのは数人しかいない快挙であり、記録として歴史に残るであろう活躍を残した。
大卒ルーキーながらチームのエースという称号も自然発生で得られるようになり、選手としての存在感を確立した。

そんな江坂任がルーキーながら活躍できた大きな理由は、大学時代に強くプロを意識しながら生活できていたことにある。
流通経済大学サッカー部で過ごした大学4年間は、彼を「プロ選手」として育て上げた。


●プロを目指し流経大の門を叩く。与えられた「なぜ」を克服し進んだ道

流通経済大学サッカー部。
サッカー好きなら誰もが知っているであろう、プロ選手を多く輩出している大学サッカー部である。
流経大サッカー部をプロ育成機関のように表現する人も多くいるが、そうではない。
チームとしての結果も出しながら、人間形成に重点を置きつつ意識を高める結果、プロという道に進む選手たちが多く誕生しているのだ。
流経大からプロ、半プロと呼ばれるJFLやJリーグをこれから目指すチームなどに進んだ選手を含めて70名以上のプロ選手を輩出している。
その数字を聞くと、多くの選手がプロへといける近道のように感じるが、決してそうではない。


現在の流経大サッカー部の選手の総数は238名。
その巨大サッカー部の中での過酷な戦いが待っている。
有名大学サッカー部だからこそ、その志はプロへ行きたいという選手が当然多い。
レベルも競争も大学サッカー界の中でトップクラス。その中からプロへ進めるのはほんの一握りの選手たちだ。

江坂は高校時代、決して全国区で指折りの有名選手といえる選手ではなかった。
兵庫県内屈指の強豪校である神戸弘陵で背番号10を背負い、存在感ある選手だったものの江坂の名が流経大サッカー部に重要選手として届くようなほどではなかった。
それなりに有名な選手であっても、J下部組織ユースも存在し、さらに流経大には同組織の流経大柏高があるため、特待生や推薦枠で入学するのは決して簡単なことではない。
それでも江坂の選んだ道は、流通経済大学へと進み、プロになりたいという確たる夢を叶える道だった。
プロ選手を多く輩出する流経大で、チャレンジすることを決めたのだ。

流経大は私大であり、サッカー部は大学の顔ともいえる存在であるため、当然特待生や準特待生、推薦入学など多くの方法で新入生がサッカー部へと入部するが
江坂は一般入学で流経大サッカー部の門を叩いた。

当然ながら、流経大サッカー部には多くのプロ志願者が入学することとなる。
200名を超える部員の中で、プレーを大学側が把握するのは推薦者や特待生が中心となるが、全国有数の選手が集まる中で江坂は、絶対に負けない。勝負をして勝ち取る。と意気込みプロになることだけを目指して名門校に入学した。


トップチームに入るだけでも、何枚もの高き壁を乗り越えなくてはならないが、江坂は有言実行ができる選手であったことが強みだったと流経大・中野監督は話す。
プレッシャーのかかる試合であっても点を獲ると宣言すると、実現する能力が江坂にはあった。
負けず嫌いを高いモチベーションへと変換できる選手であり、ちょっとみただけではわからないほどに左右の足でボールを蹴ることができること、どこからでも高い精度のシュートが打てることはいつしかチームの大きな戦力となった。
大きな大会でも強いメンタルを持ち、結果を出すことができる選手だった。

しかし。中野監督は何度か江坂をメンバーから外した。

大学3年の夏。
大学3冠の中のひとつである、総理大臣杯にて江坂は地元関西ということもあり高いモチベーションで挑んでいた。
そして有言実行通り得点を重ね、3年生ながら4試合5得点と大会得点王となり、チームの優勝に大きく貢献した。
夏の全国を獲る形で折り返した流経大だったが、その後の後期、流経大のメンバーの中に江坂の名はなかった。

なぜ江坂は外されたのか―。
周囲から見ると疑問を持った人選だったかもしれないが、中野監督は何度かこういった壁を選手たちに与えることで、向上心を焚き付ける。

大学4年間で一番得たと感じるものは、「プロでやるには、という高い意識を大学時代から持つことができたことと、メンタルが強くなったこと」と江坂が話すように
技術的なものよりもなによりも育ったのは、強いメンタルの部分だった。

チームで試合にスタメンとして出場する。そしてゴールを決める。
結果を出すこと、活躍を続けることで、そのポジションが安泰になることが多いが
流経大はそういったチームではない。

数多くのプロ選手が輩出されているが、4年間を通して試合に出場し続けたのは70名以上のプロ輩出選手の中で
現在ジュビロ磐田に在籍する、宮崎ただ一人だ。
その他の選手たちは流経大の高いレベルの中で特出したものがあったとしても、決して換えのきかない選手であるわけではないという状況を経験して過ごした。
常にポジションをまだかまだかと狙っている競争が存在する中で、少しでも心の油断や慢心を感じさせると、中野監督はそれでは通用はしない、試合には出せないとメンバーから外す。
それがチームの戦力ダウンになるとしても、その選手を外すことを恐れない。
選手に頼るチーム作りではなく、試合に出場するためにはそれに適した選手でなければならないという教えを常に続けてきている。

当時はそれを理解することが難しかったと江坂は話す。
何度も何度も怒られましたからと笑い話すが、当時は笑えないほどメンバーから落とされたことに納得がいかなかった。
プレーで貢献はできたはずだ。
じゃあ、なぜ。

その「なぜ」を与えるのが、中野監督の選手育成のひとつだ。
指導者がすべてを与えてしまうのではなく、「なぜ」を持って考えることのできる選手を創ること。
プロ選手になると必ず必要となることで、求められることだ。

「なぜ」を江坂に突き付けた。
その答えを言葉にできるような明確なものではなくとも自分なりに理解し、しっかりと行動で精神面で受け入れ、乗り越えた。
なにクソ精神で絶対に負けないと立ち向かった。と、江坂は強い目で話した。

●大学生活最後に突き付けられた厳しい言葉。それを乗り越えたことで開けたプロへの道。

昨年。
チームのエースとして4年生の集大成でチームを背負ったつもりでいたが、大学ナンバーワンを決めるインカレ直前、水戸ホーリーホックとの練習試合で負けたその日の夜。
サッカー部寮近くのファミレスに来いと中野監督に呼ばれた。
深夜という時間に差し掛かろうという時間、江坂を待っていたのは監督の怒りだった。

お前は、インカレでは使わない。
顔を真っ赤にした監督に、大声で怒鳴られた。

その時のことを中野監督、そして江坂自身がよく覚えている。
そして、その時のことをターニングポイントとして挙げる。

中野監督は、プロに行きたいという江坂の今後を理解していたからこそ、プロに行くためには、プロで通用する選手になるにはということを前提に厳しい指導をしてきた。
技術的なことよりも、ピッチに立ち戦う精神として足りない部分に喝を入れた。
本気ということがどういうことか。日々の練習で積み重ねてきたことをいかすということはどういったことなのか。
チームのエースとは、どういったものなのか。

中野監督は怒った。
大学チームながら、流経大のある茨城県龍ヶ崎と密な関係性を築き、Jクラブも驚くほどの地域密着を成し遂げている流経大だからこそ
日ごろは周囲からの印象や自分たちの在り方、行動に人一倍気を遣う中野監督が、それを気にしないほどにファミレスで怒鳴るということは
それだけ期待が大きく、江坂に必要なことを伝えもっと向上しインカレを迎えてほしい強い気持ちあってのことだ。

まだ学生の選手に、その大きな熱意はなかなか伝わらないこともある。
ただただ怒られているように感じていることもあった。
しかし、そこで「なんで俺がこんなに怒られなきゃいけないのかわからない。面白くない」で終わってしまう選手であれば。
現在の江坂はなかったであろう。

その時も中野監督から突き付けられた「なぜ」。
それを持って江坂は、誓う。。
絶対に負けない。絶対に見返してやる。
そんな気持ちで日々の練習により一層気持ちを込めて、強いメンタルで迎えたと今だからこそ振り返る。
その試合で負傷した江坂はインカレに向けてできる限りのことをした。足が腫れてプレーすることも難しいかもしれないと思っていた江坂に中野監督の激が効いた。
毎日龍ヶ崎から東京まで出て高圧酸素治療を受けた。多くのタイトルを手にしてきた流経大が唯一獲ったことがなかったインカレ優勝というタイトルに、自分が大きく貢献することを誓い、それが小さい頃からの夢であるプロサッカー選手になりたいという夢にも繋がるはずだと追いかけた。

もう使わない。
そう放たれた喝は、その日までの江坂任であるならば、インカレでは使わないということだった。
その日から、持前の負けず嫌いで挑んだ江坂の変化を中野監督はしっかりと見ていた。
「なぜ」を自分の力で受け入れ、解消し、成長する。
その姿を中野監督は逃すことなく、汲み取り、信頼を置く。
インカレで痛み止めを打ちながらも試合に臨む江坂を送り出した。

インカレでの活躍が実る形で
ザスパクサツ群馬への入団が決まった。
それまで大学サッカー界で多くの活躍がありながらも、プロからの話がなかった江坂だったが、最後の最後にインカレでの活躍という結果等偶発的なタイミングでザスパクサツ群馬への道が繋がった。
流経大初のインカレ優勝が懸かった大事な一戦直前に決まったプロへの道。
インカレ優勝のために自分が決めると宣言し、6000人以上も集まった大きな舞台で、江坂は有言実行のゴールを決め流経大は念願のインカレ優勝という歴史を刻んだ。


プロになりたい―。
そう夢を持って流経大へと一般入学で入った選手がエースとなり、何度もその位置を取り上げられながらも自身で掴み返しプロの道へと繋げた。

中野監督は言う。
プロになった選手たちは自分の指導があったからでも、流経大にプロになるマジックがあるわけでもない。
4年間でどれだけ努力を積み重ねることができたか。選手たちが頑張った結果がその後の道に繋がる、と。

メンバーから外しても、外れた選手がどう這い上がろうとしているのかをしっかりと見ているからこそ、中野監督はその努力を受け止め新たに機会を与える。
そこで努力をすることができなければ、プロで壁にぶつかった時に通用しない選手となってしまう。
プロになることがゴールではない。プロにいって活躍する選手、通用する選手、必要とされる選手でなくてはならない。
だからこそ、プレーで貢献し活躍していても、乗り越えるべき難所を与える。
それが流経大サッカー部の教えなのだ。

江坂はプロになって変わったことはないと言い切った。
大学時代、毎日プロを意識しろ、プロならば、プロでは、とずっと言われる中でプレーしてきた。
200人を超える中、多くの競争に勝たなければならない緊張感と常に隣り合わせで、プロとはという言葉を監督から毎日聞く中でプレーしてきた。
その意識高く過ごした毎日が今、自分がJリーグという舞台でも変わらず結果を出すことができていることに繋がっている、と江坂は話した。

入団してルーキーながら全試合に出場し、13ゴール。
J2ながらリーグの記録となるであろう活躍を続けた江坂だが、まだ満足はもちろんしていない。

ドリブルやシュートという得意とする形ではある程度プロでもやれるという自信を持った今季。
だが、自身を振り返り「まだ90分の中で消えてしまう時間帯があるので、90分通しての存在感を持ってプレーできる選手になりたい」と、自身の課題も見つけている。

「なぜ」を持って自分を振り返る選手になれているのも、流経イズムといって良いであろう。

今季、群馬でプレーした41試合。
チームは18位という順位ながら13ゴールを決め、チームになくてはならない存在と言われる選手となった。
ザスパクサツ群馬では現在「王子」と呼ばれ人気を博し、J2でも大きく注目される選手の一人となった。

江坂任。
プロになって、まだ一年目。
目指すところは、まだまだ上にある。

エースとなり、チームの戦いに大きく貢献した今季。
プロになってからの自分、という未来図はまだまだ続いている―。

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なんでだろう。移籍が決まった今読むとすごい涙が出てきた。本当に素晴らしい選手。いつまでも皆の王子でいてね。

任&巧LOVE  Good!!0 イエローカード0 2015/12/26|22:16 返信

この記事読んだのもう5回くらい。江坂選手はプロ1年目なのにもう有名な選手。本当にすごいと思う。ずっと応援してます!日本代表目指して頑張ってください!

任&巧LOVE  Good!!0 イエローカード0 2015/12/02|12:58 返信

大学時代から 変わらずカッコいい あたるさん。頑張ってください。応援してます。

ふみちゃん  Good!!0 イエローカード0 2015/11/25|21:06 返信

大好きなあたるさんを
もっと好きになってしまいました。
応援し続けます!!

あたるさん大好き  Good!!0 イエローカード0 2015/11/25|19:31 返信

素敵な記事でした!!
これからも、読んでいきたいです!

名無しさん  Good!!0 イエローカード0 2015/11/24|23:06 返信

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