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【松本山雅】 4年目の夏―。 「3」の魂を受け継ぐ信州松本のfootball 【J1】

2015/08/04 22:27配信

Tomoko Iimori

カテゴリ:コラム


8月4日。
4年目の夏を迎えた。

松田直樹がいなくなってしまったあの日から 4年。


晩年、松田直樹が自分のすべてを懸けて戦った場所。
それが松本山雅だった。

当時はJ2を目指していたJFL所属の松本山雅。
目指していた目の前の目標より先のJ1という目標を口にしたのは松田直樹だった。

●松田直樹が導いた「3」田中隼磨

覚悟がないと背負えない。

田中隼磨は「3」を付けるにあたりどれだけ悩んだであろうか。
現在松本山雅の「3」は田中隼磨が引き継ぎ、背負っている。

現在J1で戦う松本山雅をけん引し、その背中で存在感を示している。

田中隼磨は一昨年、名古屋グランパスと契約更新しないことが発表された。
その年も名古屋のほぼ全試合に出場していた田中隼磨だっただけに退団は大きな衝撃を与えた。
名古屋グランパスが初めてJ1で優勝した年も含めて、名古屋グランパスの大きな戦力としてチームに貢献していた一人であったことは間違いない。
しかし、チームの徐々に始めなくてはならない世代交代などもあったためか、田中隼磨とは契約更新をしないという発表となった。

J1トップクラスのチームでプレーしていた選手だけに、他のJ1クラブからもオファーが届いていた。
複数のクラブからの打診があったが、田中隼磨が選択したのは、まだJ2所属の松本山雅だった。

もちろん、その背景には松田直樹の存在が大きく在ったことが理由だ。

松本山雅からの誘いは松田直樹からの誘いとだったと言って良いであろう影響を与えたであろう。
給与面や条件面などは、おそらく他クラブからの方が良い条件であったと思われる。
スタジアムにはサポーターがぎっしりと入り、松本市民にとって英雄のような存在でありクラブの存在価値は日に日に高まっているものの、それでもまだまだクラブ規模としてはスモールクラブだ。
それでも松本山雅入りを決めたのは、松田直樹から伝わってきた「やりがい」という理由だった。


松田直樹がプロデビューからずっと過ごしてきた横浜Fマリノスに戦力外通告され、愛したマリノスを去らなくてはならなくなったことで、新しい道を模索した際、であったのが松本山雅だった。
カタールリーグのクラブから高額オファーがあったりと他のクラブからのオファーや打診があったものの
当時JFL所属だった松本山雅に身を置くことに決めたのは、1からクラブを創り上げる一人となり、改めてプロでやるためにはどんな道が必要かを感じるためだった。
ひとつひとつに携わりこれからクラブを創っていく一人となる覚悟を決めたのだ。

近い距離で観客の声がストレートに届き、ピッチでプレーすることができるアルウィンの雰囲気。
横浜に比べると小さな街だが、それでもアットホームな場所でたくさんの人と距離感を近く感じながらクラブを大きくしていくサッカーが出来ることへの「やりがい」。
松田直樹は新たな挑戦の場として松本山雅を選択した。
当時はプロ入り=Jリーグ入りが目標だった山雅で、J1を見据えている言葉を発したのは、「その場」の価値を知っているからであろう。
目の前の目標よりももっと大きな目標を。松田直樹らしい未来の見据え方だった。

それから3年。
松本山雅からのオファーに応える形で、覚悟を決めて松本の地を踏んだ田中隼磨。
J2で前年7位となり、プレーオフ圏内直前だったといえども、実力は良くも悪くも未知数である松本山雅でプレーすることを決意したのは簡単なことではなかったはずだ。
サッカー選手として大事にすることは選手によってそれぞれ違う。
金額が最大の評価とする選手はもちろん、環境を大事にする選手、少しでもタイトルに関われるようなチームへと行きたいとする選手、チームのフィーリングで決める選手など、その決断はさまざまだ。
田中隼磨はその中から「やりがい」を選択した。松本山雅で松田直樹と共に戦うことを選択したのだ。
背負う背番号は「3」。

この覚悟は想像を絶するほどの覚悟だったであろう。
「3を付けるということは」松田直樹を背負うことかもしれない。
ただ、田中隼磨は背負うというよりも「共に」。
その表現が一番近いのではないであろうか。

松田直樹と共にプレーをする。
今でももちろん1分1秒それを意識して戦っていることであろう。


●松本山雅の大きな武器「アルウィン」


昨年。
自動昇格圏でのJ1昇格を決めた。
昨年J2の首位を走った湘南ベルマーレは強かった!という強烈な印象を残したチームだったが、松本山雅には湘南に比べると強烈な強さがあったチームではなかった。
しかし、ひとつだけ未知数な力を持っていた。それは「ホーム力」があったのだ。

アルウィンで創り出される一体感は、持っている以上の力を出させてくれる場所となり、選手たちはそこで試合がしたい、そこで勝利を共に共有したいという気持ちを強く持って戦っていた。
目標であるJ1昇格はまだ山雅には難しいのではないかといわれていた前評判を覆し、ジュビロ磐田やジェフ千葉など強豪勢に追いつかれることなく2位で悲願のJ1昇格を決めた。

J1昇格の瞬間、ユニフォームを脱ぎ、現れたアンダーシャツに「3」と松田直樹の文字があった。
ピッチに膝を付き、顔を覆い、涙する田中隼磨の姿があった。

松田直樹が去ってしまったその年。
松本山雅はJ2に昇格した。
絶対に成しえなくてはならなかったその昇格を手にした松本山雅は、次の年初めてのJの舞台でプレーオフ圏内を最終節まで競い、7位でフィニッシュ。
昇格に絡むことはできなかったが、2年目にして自動昇格圏での昇格によって
松田直樹が入団会見で口にした J1へ というまだ誰もが現実味を持って口にできなかった夢を叶えた瞬間となった。

松本の空で。
いや。アルウィンのピッチで。
松田直樹も共に歓喜したはずだ。
絶対にその日を待っていたはずなのだ。


田中隼磨はサポーターの前に立つと笑顔を消していた。
その目は厳しく未来を見据えていた。目標の最終地点はまだまだ先なのだ。

「ここからだよ、みんな、ここから」
そう何度もサポーターに向けて大きな声を放った。
J1に昇格したことは終わりではなく、始まりなのだと。

松本山雅はここからさらに進化していくことが必要と感じていたのであろう。
J1で戦ってきたからこそ、J1でタイトルをマリノスで、そして名古屋で手にしてきた田中隼磨だからその厳しさを知っているのだ。
J1で戦うためには選手たちだけでもダメ、クラブだけでもダメ、たくさんの人々の力が必要であることを田中隼磨は知っているのだ。

はじめてのJ1が厳しいことは予想できていたであろうが、それでも松本山雅にとって厳しい日々が続いている。
チームのエース的存在が移籍してしまったことや、戦力的に思うように整わなかったことなどもシーズンを厳しく過ごしている理由として当てはまるかもしれないが、それだけが理由のすべてではない。
それでも松本山雅には他にはない武器がある。松本山雅の強みは「ホーム力」が在ることだ。
先日も鹿島に2-0の完勝をアルウィンで手にすることができたのは、アルウィンの空気あってのことだった。
もちろんそれだけでは勝てないし、それだけが理由ではないものの
松本山雅の未知数な強さが発揮されるアルウィンという大きな原動力を持っていることはJ1でもひとつの武器となり得る。

「ホーム」の大切さ、重要性が伝わってくるのが松本山雅なのだ。
それは相手チームにとってもよく理解できることであろう。
アウェイの場として威圧感を感じられるスタジアムは他にあるが、その空気感とはまた違った松本山雅のホームらしさを感じられるスタジアムを初体験し
J1のチームの選手たちは「これが松本山雅か」と驚く。

そしてそこにはおそらく、松田直樹が存在する。
もちろんマリノスにも松田直樹は存在しているであろうが、松本の試合にも松田直樹がいることを感じられるであろう。
田中隼磨と共にピッチに立っているのだ。

信州松本のfootballがそこに、在るのだ。

●偉大な憧れの先輩の背中を意識し戦う「6」

松田直樹と共にプレーした選手は今ではかなり少なくなった。
それでも松田直樹というスピリットは松本山雅の根本に根強く残っている。


松本山雅には松田直樹と同じ、く前橋育英高校出身の後輩にあたる岩沼俊介がいる。
年齢はかなり下であり、前橋育英で共にプレーをしたほどの近さではないが、以前こんな話を話してくれたことがある。

前橋育英で初蹴りがあると一緒にプレーすることが何度かあったという。

マツさんは俺なんかでも仲良い選手たちと同じ目線、接し方をしてくれた。
選手の知名度や知ってる知らない関係なく、印象そのままの姿で接してくれた人だった。

そう思い出を振り返った。

連絡を取り合うような仲ではなく、前橋育英の初蹴りなどでしか会わない偉大な先輩。
頻繁に会うわけではないため、亡くなったなんて信じられない。と言葉にしていた。

松本山雅に移籍をすることになった時には、同じく松田直樹を意識した。
前橋育英出身。松本山雅。
この経歴だけが繋げるものだが、それでも松田直樹を重ねる人も当然多く、自分なんかがマツさんを意識するなんてことは図々しいと言いながらも、松本山雅に加入するという以上やはり意識をし想いを受け継がなくてはという覚悟を持って松本の地を踏んだのだ。

松本山雅の試合では、松田直樹の幕やゲートフラッグが掲げられている。
マツさんと共に
それはずっと続くであろう、松本山雅のfootballだ。

松本の空を見上げる人が今日は多くいたことであろう。

J1という舞台を口にした松田直樹は、J1で戦う松本山雅をどう見ているであろうか。


J1の舞台で戦うことがすべてではない。
ただ、それでも目指すべき場所であり、その場所にいることに大きな意味がある。
タイトルを目指すチームとなるために、松本山雅は残留をまずは目標に今日という日を改めて見つめ直し誓わなくてはならないはずだ。

松本山雅が実力以上の力を発揮できるアルウィンという 松田直樹も愛した誇れる場所を持ってして
また奇跡の数々を魅せてほしい。


忘れない、あの日を胸に―。

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