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【浦和レッズ】 We are Reds! ドキュメンタリー映画レポート 浦和レッズの繋いだ手 【ネタバレなし】

2015/04/13 11:46配信

Tomoko Iimori

カテゴリ:コラム

昨年Jリーグ初のドキュメンタリー映画を発表した浦和レッズ。
当初は埼玉県内だけの上映となっていたが、地方上映も決まり、私の住んでいる地域でも観ることができた。

選手やチームをより良く見せるために創られた映画ではなく、
スポットはチームの裏方やサポーターに向けられた。
立場がそれぞれながら「浦和レッズ」として生活する人々を追った形となっていた。

開幕までの7日間という焦点で進む内容で、昨年のJリーグ開幕からホーム開幕まで人々がそれぞれの立場で準備を重ね、開幕を迎えることができる7日間。
しかし、そのホーム開幕戦で起きてしまう

あの事件。

差別幕の事件から、無観客試合までをまっすぐに取り上げていた。
そしてその後、浦和レッズがそれを踏まえてどう変化していくか、どう戦うか、どうサポーターと向き合っていくか。
どうなるのだろうと「その先」が観たくなる。
そんな終わり方をした映画となっていた。

サポーターが犯してしまったその間違いと、真摯に向き合うチーム、そして選手。
一人のサポーターが起こしてしまっても、それは全体の責任だと受け止めたサポーターたちの戦い。それを背負った選手たち。
他にはない昨年の戦いの日々をドキュメンタリーで綴ったものが 今回の続編We are Reds!! THE MOVIE「minna minna minna」となっている。

●クラブとはこういうものだ 改めて気づかされるその在り方

Jリーグが開幕して23シーズン目を迎えたが、「クラブとは」という定義はそれぞれのチームで若干違うものの確立はされてきている。
よく耳にする
クラブ サポーター 選手が一丸となって。という言葉。
しかし、それは簡単なことではない。
チームと選手とサポーターがひとつの方向性を向いて、どんな時も共に戦うというのは実は言葉として理想を語る上では定番化しているものの、難しいものだ。

浦和レッズはJリーグ屈指のサポーターが存在するクラブだ。
Jリーグ当初から浦和レッズはサポーターと共に語られることが多いほどに、隣合わせで歩んだ来た。

Jリーグ開幕当初、浦和レッズは「弱いチーム」として有名だった。
とにかく勝てないチームだった。
成績をみても最下位が続き、当時は降格というシステムがなかったから良かったと言わざるを得ないような成績だった。
それでもサポーターはJリーグバブルと呼ばれる日本中を包み込んだ大騒ぎの中でも、サッカーサポーターとしての質が高く、他のチームの応援とはちょっと違ったものがあった。
サッカーのサポーターという新しい文化を目にした日本の初期サッカーファンたちは、浦和レッズのサポーターに憧れを抱いたものだ。

弱い時期もサポーターが強く熱く、そして厳しく支えてくれた。
だからこそ、その後強い浦和レッズという姿に変貌していくこととなり、浦和レッズはいつの日か強豪クラブとなりビッグクラブとなり、Jリーグの顔ともいうべきクラブへと進化していった。

しかし、起きてしまったあの事件。

差別幕が出たことで、大きくサッカー界は激震した。
サッカー界では人種差別が大きく取り上げられ、世界的に厳しい対応が取られる中で起きてしまった差別問題。

本来スタジアムでの応援幕は応援のために使われるものであり、中傷したり差別することに使われるべきものではない。
これまでに浦和以外のチームサポーターからも差別的発言と取れる幕やゲーフラが出たこともあった。
しかし、浦和レッズでは2回目であること、そしてJリーグ全体で差別撲滅に向けて厳しくしていかなければ今後Jリーグ全体で差別を失くすことはできないというその岐路に立った時期でその問題となる事件であったことは確かだ。
その結果、これまで差別問題だけでなく様々な倫理的処分の中で一番重い、無観客試合という処罰が下った。

無観客試合。
W杯予選での北朝鮮戦で、第3の国での無観客試合という試合もあり放送されたが、あの時は日本は巻き込まれた側であり、異様な空気ではあったものの今回のものとは全然違っていた。
Jリーグ初の無観客試合。浦和レッズと清水エスパルスの試合を戦った様子や選手たちが感じたストレートな意見。
その異様さを物語る、映像とその後の表情。
劇中では、それがリアルに伝わってくるのだ。

こんなことは二度と起きてはいけない。
こんな想いは応援しているはずの選手たちにさせてはいけない。

そう強く感じさせる。

良いわけではもちろんないが。あの大きな事件があったことで、浦和レッズは手を繋いだ。
再び誓い直したのだ。
クラブ スタッフ 選手 サポーター
全員でここから立ち直ろうと。

もう一度全員で手を繋ごうと―。

そして浦和レッズは2014年 言葉ではなく形で「ひとつ」となった。

●ファミリーとして繋いだ手

実際にピッチレベルに立つと、いろんな声が聞こえてくる。
ピッチに近ければ近いほどにその声は聞こえているだろうと思うが、ピッチが離れていると言われるスタジアムであっても、サポーターの声はしっかりと聞こえているものだ。

実力がありながらプロ選手になれなかった選手は世の中にはたくさんいる。
そういった選手たちが決まって口にするのは、こういう中でサッカーをやってみたかったという言葉だ。
こういった中というのは、サポーターで埋め尽くされ、声を響かせ跳んで揺らす応援の中のこと。
そんなスタジアムの中心であるピッチでサッカーがしたかったと言うのだ。

プロクラブで長くプレーするとそれが当たり前のようになってくる。
ほんの一握りの人間しか得られないその特別な場を 当たり前の光景という感覚になってくることもあるであろう。

しかし、浦和レッズは無観客試合を経験した。

サポーターがいない埼玉スタジアム。
真っ赤に染まらないスタジアム。

それは自分たちのホームスタジアムでありながら、ホームスタジアムではなかったのだ。

そこで思い出した感覚があったであろう。
真っ赤に染まる埼玉スタジアムでサッカーができる歓び。
良いプレーには歓声が湧き、悪いプレーにはブーイングが飛ぶ。厳しくも一緒に戦ってくれるサポーターがいるその場所が特別であることを。
幸せであることを。

無観客試合についてだけでなく、選手個々の考えるサポーター論も語られている。
サポーターの声についてや姿について、在り方についても選手というよりも浦和レッズの選手たちの「個」の部分で
ありのままにせきららにストレートに語られている。

選手がこんなにもサポーターの声や在り方に意識を持っているものなのだとサポーターにとっては発見があるのではないだろうか。
サポーターの処分にも言及しているシーンもあり、サポーターのしてしまった事に対しての意見もある。
サポーターの在り方に苦言も含めて本当にストレートに語っているのだ。

そこにはその選手の人間性が見える。
そして選手としてなにをサポーターに求めているのかも見えるのだ。

サポーターとチーム
サポーターあっての浦和レッズ

を伝えている。

あの日から優勝を目標に挑み続け、少しづつ少しづつ歩み寄りながら、サポーターが徐々に形態を変えひとつになっていく姿。
全員で「浦和レッズ」になっていく姿を感じることができる映画となっている。

クラブは選手だけでは成り立たない。
クラブはサポーターだけでも成り立たない。
上層部が会議室だけで動かせるものでもないし
現場だけが走っていれば良いわけでもない。

明日明後日にすぐに創れるわけではなく
積み重ねた信頼と歴史があるからこそ「今」がある。


「チーム」とは、こういうもの。

そう感じさせてくれる内容となっている。

想い。重い。
たくさん詰まっているfootbballを強く感じる映画だった。


冒頭から重い重い意味のこもった映像が流れる。

繋がれた手は、決意とファミリーの証だった。


4月17日まで公開されている
浦和レッズ
ドキュメンタリー映画
minna minna minna

浦和レッズを好きな人だけでなく、サッカーが好きなJリーグが好きなたくさんの人たちに観てほしい映画だ。
浦和レッズに持っているイメージもきっと変化があることであろう。
前回公開された We are Reds The Movie 開幕までの7日間 を観た方はもちろん、観ていない方も
観てよかったときっと感じることのできる映画となっている。

知らないでなんとなくで浦和レッズを嫌う方も多いが、知ってからでも遅くないのではないだろうか。


優勝という結果を目の前にしながら、逃してしまった昨年。
ひとつになって全員で戦い、苦しい時期を乗り越えたからこそ、一緒に歓びたかった。
そしてサポーターと共にお互いを讃えたかった。
だからこそ、優勝できなかった選手たちは自分たちを責めたであろう。
サポーターも自分たちの力を責めたかもしれない。
あの事件のことを誰もが背負っていたからこそ、悔やんだかもしれない。

懸けた一年だったからこそ。
それを全員が共有していたからこそ。

忘れられない一年となったことであろう。


浦和レッズは走り続けている。
絶対にタイトルを獲るんだと 昨年獲れなかったからといって立ち止まってはいられない。
目標も変わっていない。
今年もファミリーで戦っているのだ。


minna minnna minna で。

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