CHANT(チャント) 大宮アルディージャ

【大宮アルディージャ】 戦国時代を駆け抜け戦う武士 家長昭博、大宮に在り。 【J2】

2015/07/30 22:23配信

Tomoko Iimori

カテゴリ:コラム


天才―。

言葉に嵌めたがる日本サッカーを伝えるメディアの特性だが、そう呼ばれてきた選手は数多いだけに簡単には使いたくはない言葉だ。
天才と呼ばれた選手にはそれだけの期待がかけられ、天才というフィルターを通して見られることとなる。
その圧迫に消えて行った選手も少なくはない。

天才という名称がついたのは、いつの日だったであろうか。
ガンバ大阪ジュニアユース時代から並外れたセンスで将来を期待されてきたが、思うようにその道を歩んできたわけではないであろう。

しかし、今。
舞台はJ2ながらも本来の姿を表現し、踊るように流れるように繰り出すサッカーを魅せる。

家長昭博が今、とんでもない選手となっていることをご存じだろうか―。


●天才という名をほしいままにした中で、苦しい時期も経験した今まで

現在、J2戦国時代の中で頭ひとつ抜き出ており、独走体制に入った大宮アルディージャ。
この大宮を引っ張っている存在であり、中心であるのが家長昭博だ。

家長という選手を 天才だったが堕ちた選手のように言う人も少なくないであろう。
しかし、今の家長を見てそんなことが言えるであろうか。

家長はガンバ大阪がJ2で戦っていた一昨年、J2の舞台を経験している。
その時もガンバ大阪ではキープレーヤーの一人ではあったものの、プレーにムラがありまだまだ美学を強く持った選手という印象が強かった。

早い時期からセンスに満ち溢れ、そのセンスを武器に成長を続けることで、巧みな選手には独自の美学が生まれる。
サッカー美学を持つことは決して悪いことではないが、その美学に左右されることで自然と自分の持つキレイな型にハマったサッカーを優先してしまうことがある。
吸収性を持ち、戦術理解や監督の指示、周囲のプレーヤーからの刺激も受けつつも、自分のセンスを優先にしてきた選手は時に、限界を迎えることもある。

家長はいつでもセンスを全面に魅せてきた選手だ。
ガンバ大阪ジュニアユースでは同年であり生年月日まですべて同じだった本田圭佑を圧倒した。
ユース時代にはトップチームに登録され、家長が日本代表で活躍する日も近いと表現されてきた。

日本代表に招集された経験はある。試合にも出場したことはある。
しかし、なんの印象も残すことはできなかった。
本田圭佑が日本代表、そしてミランの10番に登りつめている姿を見て、天才という名をほしいままにしてきた家長がなにも思わないわけがない。

ガンバ大阪、大分トリニータ、スペイン・マジョルカ、韓国の蔚山現代。
国内、そして海外でさまざまな挑戦をしてきた。
その経験を持って大宮アルディージャに加入したのは、昨年のこと。

2014年。
マジョルカとの長い契約があった家長を縛るものがなくなり、大宮アルディージャへと移籍を果たした。
本格的に日本復帰となった家長は、すぐに大宮の中心選手となった。
しかし、チームはJ2へと降格してしまう。

J1のクラブ他さまざまなところからオファーが届いたが、それでも家長は大宮アルディージャを選択し、今季を迎えた。
その舞台はJ2。
しかし、家長は自分が大宮の中心としてチームを再建することに責任を持って挑むことを決めたのだ。

●家長を抜けない、止められない、奪えない。

シーズンスタートこそスタメンで出場したものの、その後は負傷により5試合を欠場。
この時大宮は今季のJ2で優勝候補の一角とされながらも、なかなかその調子を上げることができず、物足りないという印象をサッカーファンに与え、苦しい時期を過ごしていた。
しかしその後、家長が復帰したことで状況は一変する。

大宮が強さを発揮しはじめた大きな原動力は誰もが疑わない。
家長昭博という存在の大きさを改めて知ることとなるほどに、家長はチームを牽引しはじめた。

与えられたポジションはフォワード。
家長がそこに入ることで高い位置での起点が作れるようになった。
大宮には強力な攻撃選手が多数存在している。
同じく起点となりタメを作ることも自分でゴールを奪うこともできるムルジャ。
ドリブルで仕掛ける泉澤。嗅覚で入るこむことでできる播戸。
それら強力で豊富な攻撃陣を多彩に使い分けることができるのが、家長だ。

試合をメイクする。
かなり高い位置で起点となり、ボールを多彩に送り込むその姿はセンスに溢れ、相手選手は家長からボールを奪うことが難しい。

家長は常にセンスあふれるプレーを魅せる選手であったが、以前と違うところは献身的になったところだ。
味方のためにチームのために献身的にプレーする機会が増えた。
自分が引っ張っていかなくてはという自覚も伝わってくるそのプレーのひとつひとつに、雑さは皆無となり、どんな相手にも最後まで力を抜くこともなく質の高さで相手の戦意を失わせていく。

J1昇格へ向けて、という明確な身近な目標があるが、現在の大宮はJ2レベルでは到底ない。
J1で戦っていることと同等に戦い、去年のような降格となってしまうチームにはなりたくないとチーム全体の質が昨年よりも数段上がっているように感じる。

J1と戦うことのできる天皇杯で、大宮がどれほどの布陣で挑むのかはわからないが、J1昇格を早めに決めて天皇杯でのJ1チームとの戦いに注目したいほどに、
今の大宮のレベルの位置を観てみたい。そんなワクワクさせるサッカーを展開しているのだ。

孤高の天才というイメージが強く、美学を持っていた家長。
今でも美学は持っているであろう。しかし、それに当てはまらないときでもその次を模索し、自分で切り開く能力を持ち、チームの他の選手たちを自分の力でどう表現し、最高な使い方ができるかを生み出しているように感じる。

大宮アルディージャの選手たち一人一人が今、J2とはいえ個々の能力が際立っているのは
家長の引き出しがあることも要因のひとつであろう。

クールな印象の家長だが、チームの若い選手たちとコミュニケーションも取り、引っ張る先輩の姿も見せている。
練習中でも質の高さは変わらず、そのプレーに刺激される選手も多い。
こんな巧い選手がJ2にいる!?と驚かれることであろう。
今の家長が、日本代表に選出されるとどうなるのであろうかと期待してしまうほどに
日本代表という場で活躍をまだできていない家長にも可能性があるのではないかと夢見てしまう人も少なくはないはずだ。

本田圭佑は今、日本代表でエースと呼ばれる存在となった。
29歳を迎えたが、家長昭博は今が一番開花の時を迎えているのかもしれない。

堕ちた天才ではない。
今だからこそ、家長昭博を観てほしい。

ピッチの上で踊り流れるように繰り出されるプレーと
それによって協奏曲のように仕上がり迫力のある大宮サッカーを、中心で思い通りに指揮する家長昭博の姿を。

家長はこれまでシーズン5得点が最高得点だった。
FWという位置に入ることが多いながら、メイクすることが家長の仕事であることが多かったからということもあるが、
それでもFWという位置に入っているからには、得点がほしいことも事実だ。
しかし、今季はすでに5得点を決めている。
アシストも5を記録。起点となった数となると大宮のJ2現在最高得点数である50得点の中で、どれだけの起点になったかは定かではないが相当な数であろう。

なにより今、家長は楽しそうに大宮でサッカーができている。
そう伝わってくる。
天才というサッカーの神様がもたらせたその能力を持って、戦ってきた家長。

J2という場所ということもあるがそれ以上に、家長には今余裕がありチームに貢献しチームを動かしている。
大宮にあるアットホームな雰囲気と環境、そしてチームの雰囲気の良さが 家長を良い意味で柔らかくしたように感じる。
鋭利なイメージが強かった家長のその出で立ちと雰囲気、そしてプレーから、柔軟さと優しさが見え、時に鋭くなるその二面性を持っているように見えるのだ。
鋭いスイッチが入り相手を置き去るその姿はやはり、家長昭博だと実感する。

いまどきの言葉を借りて言うならば。


今、大宮アルディージャの家長昭博がヤバイ。


そう、お伝えしておこう―。

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