湘南vsFC東京 その② ~個の力、組織の力~
2015/04/15 16:38配信
カテゴリ:マッチレポート
「自分たちのスタイルを出す」
湘南がホームにFC東京を迎えた一戦です。
FC東京は守備が堅く、加えて今年からポゼッションも安定するようになりました。
そんな上位に位置するチーム相手に湘南が抗するためには
前3枚を中心に激しく追い立てることで
FC東京に試合の主導権を渡さないこと
ショートカウンターを狙い、崩れた陣形を攻めることこれが求められました。
湘南のチョウ・キジェ監督も
「自分たちのスタイルを出す。2点取られても3点取る。」
と
試合前のコメントではハイリスク上等であることを示唆しました。
湘南の出方
湘南スタイルの裏付けであるスタミナ面
これは、水曜日のナビスコカップ・アウェイ広島戦から中3日という日程でしたが
スタメンを11人全て入れ替えていたので、不安視はされていませんでした。
むしろ水曜日に試合がなかったFC東京が試合勘の無いまま
湘南の猛烈なプレスに戸惑ってしまうのではないかという危惧の方が強かったです。
果たして湘南は勇猛果敢なプレスを繰り出し
その「湘南スタイル」を見せつけるような試合運びを見せます。
湘南のプレスの前に、FC東京は意図的な攻撃を出すことは出来ませんでした。
ロングボールを武藤嘉紀へ向かって蹴り続け
しかしそのボールは遠藤航とアンドレ・バイーアによって跳ね返され続けました。
つまり湘南は
プレス→ロングボールを蹴らせる→跳ね返す→セカンドボールを拾う
という意図したサイクルを行えていました。
相手を追い立てるだけでなく、中盤がセカンドボールを拾えるような
戦術的で計算されたポジショニングが出来ていたと思います。
ただFC東京もそれは計算のうちだったようで
マッシモ・フィッカデンティ監督も試合後に
「湘南が前から来るのは分かっていたので、セカンドボールが重要だった」
というコメントをしています。
前半、セカンドボールは湘南の方が優勢に見えましたが
それでも、湘南の最大の武器であるカウンターさえ食らわなければ
FC東京のセットされた守備であれば、失点はゼロに抑えられるそういう目論見があったのだと思います。
両チームともに許容範囲内である前半の前半でした。
そこから徐々にチーム力の差が出てきます。
チーム力とは、個の力+組織の力と言えるでしょう。
多人数の湘南、少人数のFC東京
チョウ・キジェ監督も「悔いは残らない試合」と評したように
特に前半の内容としては湘南にとって思い通りの試合展開だったと思います。
しかし、湘南はチャンス、決定機が作れません。
前半13分にはスローインからワンタッチパス2つで
シュートチャンスを得ますが、相手GK正面でした。
そして守備の堅い相手に、このような形でのチャンス創出は
そうそう出来るものではありません。
30分過ぎには、羽生直剛の埋めきれなかったスペースを菊池大介が使い
更にはDFの三竿雄斗まで攻撃参加した、湘南らしい形を作りますが
結局はシュートまで行けませんでした。
そして時間は過ぎます。
プレスは弱まり、スペースが空いてきます。
35分には遠藤の裏のスペースへのロングボールで石川直宏が起点を作り
最後は武藤のフィニッシュまで繋げられてしまいました。
この時、FC東京が使った人数は
ファーを駆け上がった河野広貴を含めても3人です。
CBが攻撃参加してもフィニッシュに至らない湘南と
平気で武藤へ向けてロングボールを蹴り続け
そしてシュートまで行ってしまう個の力を持つFC東京
これが後半に向けた伏線になったと言えるのではないでしょうか。
湘南は組織力でも負けていた
後半、FC東京が先制します。
その得点シーンを振り返ります。
https://youtu.be/4XuOocuLR7g?t=2m4s
スペースが空きがちとなった湘南
前半は完璧に抑え込んでいた武藤に起点を作られ前を向かれます。
そこからサイドチェンジ。
この場面、湘南は人数が揃っています。
最終ラインには5枚いて、守備には9枚が参加しています。
武藤は前線へ出ていきます。
その起点を作ったプレーで武藤のマーカーだった菊地俊介はそれを見逃さず
武藤に付いてそのまま下がっていきます。
そして対面のCB三竿も武藤を視界に入れ、チェックしていることが分かります。
そして太田宏介のクロス。
ここまでは三竿が武藤に付くことが出来ています。
ここで石川がニアに走り込むことでバイーアを引き付け
バイーアが石川に付いて行ったことにより、背後にスペースが出来ます。
精度の高いクロスはまさにそのスペースに放り込まれ
三竿を弾き飛ばした武藤が飛び込んで点で合わせました。
ここで言えることは
太田が膝下だけで精度の高いクロスを入れることが出来るのは個の力です。
武藤が起点となった後にゴール前に走り込めたり
三竿を剥がして瞬間的にフリーになるのも個の力です。
しかし、スペースを空け、そこを使われての失点は組織の力の無さです。
細かいことを言えば
最初の場面でWB菊池大介が、サイドに張っていた羽生を見ていたため
スライドが遅れ、結果的に三竿とバイーアの間にスペースが出来た
よくいう、圧縮が足りていない、という状態になったと言えます。
一般論として
自分たちがしたいことをして、相手がしたいことはさせない
この為に設計するのが戦術です。
湘南がしたいこと
守備で言えば、組織的に前線からボールを追い回し
時間が進めば引いて、人数をかけて守るというものです。
人数をかけて、それでも守れなかったのですから
その戦術に原因を求めるのは当然のことでしょう。
FC東京の数少ない攻め手の中でも
トップクラスでストロングポイントと言える、太田のクロスと武藤のフィジカル。
541で守る湘南がその通りに守備ブロックを形成出来ている状態で
しかも敵の一番警戒しなければならないポイントで失点してしまうのは
やはり戦術面での敗北と言えます。
組織力で後れを取ったと言われても仕方がないのではないでしょうか。
ましてこの日、FC東京は鉄壁のゾーンディフェンスで湘南を抑え込みました。
時には数的不利になることもありながら
その場面でもシュートまで生かせない守備を見せました。
それもこれも個の力によるものだったでしょうか。
ゾーンディフェンスがマラドーナという強烈な個を
抑えるために編み出されたという歴史を思い浮かべれば
組織力というものについて考えさせられる気がします。
湘南はJ1で戦えるのか
人数をかけて守り、スペースを潰し、人に付く
前線から追いかけ回し、奪ったら速い攻撃。
これが続けられてきた湘南スタイルであるなら、これを続けるのが最善でしょう。
ただ、それでは限界があるということです。
例えばこの失点シーン、同じシステムの広島なら
ボランチが最終ラインに入りスペースを埋めたことでしょう。
これについては再現性を保証できます。
こういう細かいところの堅さで、リーグタイトルを取ってきました。
個の力で言えば、今日の太田より良いクロッサーがいないと言い切れるでしょうか。
次節で対戦するG大阪の宇佐美貴史は武藤より下でしょうか。
J1とは、特に上位はそういう顔触れなのです。
「J1で勝つために」今までやってきたものがあるのは分かります。
しかし、それだけでは足りない。
これが、個の力でも組織の力でも負けたと言えるこの一戦で
湘南が感じなければいけないことだと言えるのではないでしょうか。