FC東京vs鳥栖 「それぞれのリスタート、その進捗状況」
2016/05/16 12:42配信
カテゴリ:マッチレポート
ACLに備え、今節のJ1リーグ1stステージ第12節も
広島、G大阪、そしてFC東京が金曜開催を選択しています。
その中で唯一、ACLで決勝トーナメントへと駒を進めたFC東京は
かつてのホーム・味の素スタジアムへの帰還を果たした
前監督のマッシモ・フィッカデンティ監督の率いる鳥栖との対戦です。
堅守を築きながらも攻撃の組み立てに課題を残し
それ故に、2015年シーズンに関しては
目の前の3位を掴み取ることが出来なかったFC東京時代とはうって変わって
鳥栖では最終ラインからのビルドアップを念入りに行う
いわゆる、繋ぐサッカーを導入しているフィッカデンティ監督です。
パス数やボール支配率といった数字が、ともにリーグ戦体で17位だった昨年より
それぞれ10位と6位に改善されています。
ただ、鳥栖のもともとの
ユン・ジョンファン監督以来のチームカラーである堅守速攻により
J2やJ1でそれぞれ予算規模の差を覆す結果を出してきたという事情もあってか
ここまで結果も内容もイマイチであることは否めません。
決定機を作るものの、決めきれず
相手のワンチャンスで失点して勝ち点を落とすという
ある意味でアンラッキーな試合も複数ありますが
総じて、4312のトップ下に鎌田大地を配したポゼッションサッカーは
目指すべき場所とともに、険しい道のりも示されている状態と言えます。
地震の影響で6月2日(木)に行われる延期分の神戸戦があるとはいえ
現在の順位は15位となっております。
一方のFC東京、ACLはグループリーグを突破したものの
リーグ戦では苦しんでおり、現在12位となっています。
福岡にリーグ戦初勝利を献上した後には選手間ミーティングが行われ
「我々が一番大事にすべきものを確認した」ということで
ACLのビン・ズオン戦からは高橋秀人を起用し、守備の安定化が図られました。
そして続くリーグ戦の湘南戦では4141に布陣を変更する中で
高橋をアンカーに据え、役割をハッキリさせました。
これにより、危険なスペースを相手に与えることがほとんど無くなり
湘南の攻撃をシュート1本に抑える完勝を果たし、ホッと一息入ったことでしょう。
この日も湘南戦と同じメンバー、同じ布陣ということで
同じ入り方をしてくることが予想されました。
攻撃面に着手し始めたばかりの鳥栖と
守備から入ることを徹底し始めたばかりのFC東京の対戦です。
リスタートを切ったばかりの両チームの試合ということで
堅い試合にならないはずがない、そういった試合前の空気でした。
状況に適さない鳥栖のビルドアップ
開始直後は鳥栖がボールを握る時間が多くありました。
開始早々、鎌田から豊田陽平へのボールは決定機と言えました。
ただ、徐々に鳥栖が停滞していきます。
この日の鳥栖のビルドアップで目立ったのは
CB2枚とアンカーとボールサイドのインサイドハーフの4枚による
いわゆるボックス・ビルドアップの形です。
これはボックス、つまりたいていは4人でボックス(箱)を作り
その四角形を相手の出方に合わせて変化させながら
プレスを掻い潜り、ボールを運ぼうというものです。
ただ、鳥栖のビルドアップは、どんな時でも人数を掛けてしまい
とりあえず4枚を費やしてしまうため、後ろ体重に過ぎる場面が多くありました。
FC東京は4141で守ります。
そうすると、4対1でのビルドアップとなる場面が多々出てきます。
自分たちは自陣に多く人数を掛け、相手は人数を掛けていない状態となり
前線での迫力不足に繋がってしまいます。
そして、FC東京が焦れてインサイドハーフがプレスに出てきた際には
生まれたスペースを利用し、ボールを前に運んで行くという
ビルドアップの目的を達成することも別段無く
簡単にGKまで戻してしまう場面が散見され
凡そ、鳥栖のビルドアップは効果を生んではいませんでした。
そして皮肉な事に、これは後半のことですが
ビルドアップの失敗から大きく蹴り出したボールを
前線の豊田が競り合ってファウルを獲得し
そこから変化を付けて金民友がミドルシュートを打った場面が
後半の鳥栖にとって一番惜しい場面と言えました。
ビルドアップが鳥栖の課題である状態は、今後も続くのではないでしょうか。
目指す形が実を結ばないこの日のゲームの中では
鳥栖にとって防戦一方と言える時間が長く続いてしまいました。
バランスは崩さなかったFC東京をどう見るか
鳥栖がビルドアップに成功することが無いため
FC東京が次第にボールを握る時間が増えました。
ただ、FC東京も守備を基調とするサッカーに取り組んでいるため
攻撃面では、開幕当初や福岡戦で見られた
引いた相手を攻めあぐねる部分が改善されているわけではありません。
速攻でも同じく、パターンが仕込まれているようには見えません。
また鳥栖が、ボールを離す時間が長くなると
割り切って442気味に構え、中央を封鎖する形で守ったために
FC東京は、中央に位置するインサイドハーフがボールを持った所からの攻め手を
なかなか見出すことが出来ずにいました。
この布陣だと、どこかで明確に起点、時間が作れない場合
1トップが孤立してしまいがちとなります。
それは、時間が作れないと、サイドハーフもインサイドハーフも
スタートの位置から相手ゴールに近い位置へと移動することが難しくなるためです。
中央で起点を作れないFC東京は、ならばとSBを上げてクロスを放り込みますが
1トップの前田遼一は2枚いるCBに対し劣勢に立たされ
セカンドボールも拾うことが出来ず、チャンスとなりません。
前半最後のプレーでは、両SBが上がって人数を掛けた結果
当然ながら、鳥栖ディフェンス陣のマークがズレ
高橋のバー直撃のミドルから立て続けに3度の決定機を迎えましたが
得点を挙げることは出来ませんでした。
ただ、その形は、守備を基調とする今のFC東京にとって
何度も繰り出せる形ではありません。
後半は、そのリスクを掛けた攻撃が出ることはありませんでした。
当然、この試合において、それを上回る決定機は生まれませんでした。
これも当然、試合のスコアは動くことなく終了したのであります。
FC東京にとってこのドローはどういう意味を持つのでしょうか。
守備を基調とする現在のやり方を崩さなかった
そのために、得点は無かったものの「自分たちの幹」である守備は安定し
相手のシュートをいずれもエリア外からの2本に抑えた
それでいて、その中で決定機を作った
決定機が得点に至らないのは選手のちょっとした機微の差なので
それは運が悪かった、切り替えることが出来る事例だ
ここで勝ち点を失ったからといって気落ちする必要はない
一度は頓挫したチームビルディングとしては、順調である・・・
そういった見方の方が割合多めなのではないでしょうか。
攻撃的なサッカーと守備的なサッカーを2年ごとに取り替えても
だからといって上積みすることが出来るとは限りません。
それはFC東京サポーターが一番よく分かっているはずのことです。
つまり、攻守のバランス、チームのプレーモデルを固めるのは
同じ政権下でなくては難しいということで
体制が変わったのだから、一から作り直すことになるのはある種、当然のことです。
現在のFC東京は、何度か通ったその道を、歩み始めたばかりと言えます。
それを考えれば、悪くないドローとすることは可能なはずです。
ただ、早くも残留争いの感が色濃い鳥栖を相手にしたホームゲームであったこと。
当初は優勝を目標に掲げたチームであったこと。
チーム内外で、これらと上手く折り合いを付けなければならないでしょう。
鳥栖は良いと言える点を見付けるのが、なかなかに難しいゲームとなりました。
目指す形があるのは良いことですが
こちらも、残留争いが現実化していく中で
その現実と戦わねばならない時が来ています。
具体的には、順位を上に持っていくために
どうやって勝ち点を挙げるか
そのためにどうやって得点を挙げるか
そのためにどうやってボールを運ぶか
ということを考えていかねばならないでしょう。
その現実的な答えとして、つまり
FC東京の高橋、森重真人、丸山祐市らの180cmオーバーの中央守備者たちが
しばしばファウルでしか止められない空中戦の場面を作った
鳥栖の絶対的エース・豊田への放り込みの多様という
かつてユン・ジョンファン監督が駆使したもの
そして、この日の解説であった戸田和幸氏が指摘したことを
この項では挙げたいと思います。
試合全体を通して、また昨季はFC東京において年間を通して
堅い守備を築いたフィッカデンティ監督だからこそ
この有効と思われる手段を挙げずにはいられません。
鳥栖というチームは、4231(442)の堅守速攻が似合うチームであり
似合う選手が揃ったチームだと思います。