CHANT(チャント) 川崎フロンターレ

第28回多摩川クラシコ 「川崎の先制点が後半36分まで先延ばしになった理由」

2016/07/26 11:29配信

武蔵

カテゴリ:マッチレポート

古来より、ダービーに順位や直近の成績など関係ない、と言います。

地域間闘争や因縁が介在するチームを相手にした時は

他の試合よりも、何よりもメンタルや気持ちの部分が増強され

時として前評判とは違った内容、結果を生みだすことが多々あります。


多摩川クラシコをダービーとすれば

年間順位の首位にして、能動的なサッカーで勝ちを積み上げる川崎と

ここ4戦で1勝3敗、スタイルの欠如に苦しむ10位のFC東京。

このチームの対戦にも、順位以上の含みがあってもおかしくありません。


ただ、この試合においては

そういったダービーには独特の紛れがある、といった風潮も

ややオカルトめいた都市伝説でしかなかったと言えるでしょう。

ダービーだろうがクラシコだろうが、サッカーという競技に変わりはありません。

従って、大部分は理屈で埋まってしまうと言っても過言ではありません。


ダービーというシチュエーションによって発生する、気持ちや戦う姿勢というものは

尽くすべき人事の上に上積みされるものであって

最初からそれに期待すべきではない、と言えます。

こう書くからには、今回の多摩川クラシコは

順位と力の差が如実に出たと言える内容と、川崎の勝ちという結果が出たのですが

客観的な数字、スコアにおいては1‐0

しかも後半36分までタイスコアであったことも事実です。

なぜ、そこまでもつれてしまったのでしょうか。

狭い局面にこだわる川崎

前半について書く前に、先に答え合わせをしてしまいます。

それは両監督のハーフタイムコメントに見ることができ

FC東京の城福浩監督は

「裏を取られないようにすること」としました。


裏を取られないようにするためには、いくつかの手法があるのですが

この日のFC東京が採ったやり方は、ラインを下げる、でした。

これにより、川崎に裏を取られてのシンプルな失点を避けることができました。


そして、それと引き換えにカウンターの鋭さを失いました。

ラインを下げ、2列目もそれに付き合うため、相手ゴールが遠くなり

そして、カウンターに掛け得る選手の人数も減るためです。

前半のシュート数は川崎が10で、FC東京が3という差が生まれました。

川崎はベタ引きとも言えるFC東京からゴールを奪う必要があります。

いかに川崎と言えど、FC東京の両代表級センターバック・森重真人、丸山祐市と

ボランチ・高橋秀人が締める布陣を崩すには、多少の時間と手数が必要でした。


ここで川崎の風間八宏監督のハーフタイムコメントを引用します。

ここでは

「角度を付けたパスを使おう」としています。


前半の川崎は、この角度を付けたパスがなかなか出ませんでした。

もっと言えば、前半の川崎は狭いところを狙いすぎていました。


前半4分には、右サイドでボールを持ったエドゥアルド・ネットから

真ん中で待ちうける大久保嘉人へそのパスが出ます。

そこから細かい繋ぎを経て、サイドから小林悠が折り返しますが、これが引っ掛かり

そのゴチャゴチャっとしたところから大塚翔平が狙いますが、ポストに弾かれました。


これが風間監督の求める「角度の付けたパス」の最たる例と言えるでしょう。

442を崩すにあたって最初の勘所となる2トップの間、そして2トップ脇を出発点に

キレイに崩しかけました。


ただ、これにしても、スタートの位置は4231のサイドハーフである小林悠が

中にポジショニングしすぎているために、クロスが引っ掛かったと言えます。

もう少し開いて、ペナルティエリアのラインのあたり(通称ポケット)から折り返せば

相手のDFラインの間隔も広がっており、クロスが通ったかもしれません。


そして川崎は、徐々に狭い局面での崩しにこだわる姿勢を見せはじめます。

それでも前半14分、23分、30分と決定機を作ってくる辺り

川崎の選手たちの技術の高さは恐ろしいものがありますが

FC東京としては、川崎が狭いところにこだわってきたため

守備ブロックを中に絞ることができ、比較的楽だったでしょう。


FC東京は基本的に、まず味方ゴール方向を切り、次に相手のパスコースを切るので

攻め手がサイドに張ると、サイドへ誘導されやすくなり

その結果、縦パスを通されやすくなるという特徴があります。


この試合の前半においては、川崎が中央へ偏った攻撃を繰り出してきたため

FC東京守備陣が中央を固めやすい展開になりました。


それが風間監督のハーフタイムコメントに繋がる、前半の趨勢でした。

そして、それが川崎の先制点が前半に生まれなかった理由と言えます。

FC東京の決定機逸と川崎・伝家の宝刀の343

川崎の選手たちは、自分たちの監督の指示に応えるべく

後半最初のワンプレーから幅を使ってきました。


川崎が横幅を出すために使うのは、主に両SBとなります。

そうなると、車屋紳太郎とエウシーニョの出番が多くなります。

川崎の後半最初の攻撃では、その車屋を使って相手を動かし

そこから繋いで降りてきた大久保へ、大久保が逆を見て角度のあるパスを出します。


川崎は早速、狙いの形を出してきました。

それに対して、FC東京はどうでしょうか。


FC東京は防戦一方の時間帯もありましたが

ボールを奪ってカウンターを窺う場面もありました。

基本的にはラインが低いために、相手のゴールが遠く

なかなか効果的なカウンターが繰り出せません。

かといって、川崎は簡単にボールを明け渡してくれるチームではありません。


また、ボールを握ったとしても、特に決まった攻撃の形が無いので

ムリキが降りてきて、何かアイデアを出すとか

バーンズが裏に走るとか、そういったものしかありません。



試合開始からペースを握り続けている川崎です。

つまり、相手のポジショニングや試合そのものを動かし得るのも川崎と言えます。

前半はどちらかというと川崎にとって良くない方向にFC東京を動かしていました。


そして、またここで川崎が試合を動かし始めます。

大塚翔平に代え、前節から復帰したエドゥアルドを投入します。


1つは中村憲剛をトップ下、ボランチに谷口彰悟を上げることで

攻守のバランスを改善し、カウンターに備えること。

もう1つは、これも「角度のあるパス」を出せるエドゥアルドを投入し

大きな展開を望む、というものでした。

しかし、これも古来より言われてきたことではありますが

アクシデントでなく戦術的交代で最終ラインの選手を交代させるのは

多大なリスクが伴うということで、川崎はここから最大のピンチを招きます。


後半20分、スローインから繋ぎ、フリーでボールを受けた高橋秀人から

まさに一閃というスルーパスがムリキへと渡り、1対1。

これはチョン・ソンリョンが弾き出し、チームを救いました。


この場面、FC東京は442で攻め、川崎も442で守る形となっています。

つまり、ボランチに誰が行くのか、非常に曖昧になりやすいのですが

守備ブロックの原則上、出来れば、前の選手から順に守備をしてほしいと言えます。


ボランチがおいそれと出ていっては、危険なエリアを空けることになります。

ちゃんとしたゾーンディフェンスで守り、スペースをデッドにするアプローチと

チャレンジ&カバーのシステムがあれば、それでも良いのですが

無い場合は、前線の選手の守備参加が生命線となります。

つまり、相手のボランチがボールを持った状態は、2トップの守備機会と言えます。

スローインから橋本拳人、次いで高橋と、2ボランチがフリーでボールに触っています。

ここは中村憲剛が切り替えで後れを取ったと言いたいところです。


ただ、病み上がりの中村憲剛にそういった細かい守備を強いるのは酷な話と言え

中村憲剛や、バーンズに引っ張られてスペースを空けたエドゥアルドが、というよりも

風間監督が招いた被決定機と言えるかもしれません。

とはいえ、スコアは動きませんでした。

ここからまた、川崎のペースで試合は動いていきます。


川崎はこの直後、攻撃時343へと布陣を変更し、勝負に出ます。

これによってSBはWBに「昇進」を果たし

生じるミスマッチとトップの選手との距離が近くなることにより

より、前で幅を出せるようになるというのが1つ。

また、WBから単純にクロスを上げる際の、中の枚数も増やすことができます。

そして守備面において、前からカウンタープレッシングを仕掛けることができます。

特に今年の川崎は、この343で試合の展開と結末を大きく変えてきました。


ただ、川崎は343においても中での崩しにこだわる場面が多く

また、車屋を頻繁に使うことで、FC東京も横に広げられ

中央が空く場面も増えました。

74分の大久保の決定機もその一環と言えるでしょう。

まだ川崎は、この期に及んで中央にこだわります。


スコアが動いたのは後半34分。

映像では確認できない程度のハンドにより川崎に与えられたFK。

その流れから、最後は車屋のクロスを小林悠が決めました。


きっかけは微妙な判定によるものでしたが、そこに至るまでに

3度のカウンタープレッシングと1度の中村憲剛の斜めのパスが出され

それによってできたシュートチャンスから生まれたハンドでした。

スコアを、試合を動かしたのは、やはり川崎であり

「角度のあるパス」と343という伝家の宝刀によって生まれた先制点でした。

逆に、それを実行しなければ、あのまま得点を奪えなかったかもしれません。



川崎は、今季これまでの成功と技術の高さ、戦術メモリーの引き出しを思えば

自分たちで苦しくしてしまった試合と言えるでしょう。

それでも風間監督は試合後会見で

「押し込んでしまえば(カウンター以外に怖いものは)何もない」としましたので

相手にボールを渡さず、ラインを上げさせず、押し込んだ上で

狭いところで攻撃を続けることも、手の内だったのかもしれません。


川崎にとって最大の懸念であった、大島僚太の離脱期間での中村憲剛の離脱も

エドゥアルド・ネットの定着と中村憲剛の早期復帰により

そこまで深刻な問題にはならないのかもしれません。


まだまだ、ともすればすぐ打ち合いの展開になったり

自分たちが攻撃的に動いた際にバランスを崩すといった面がありますが

得点を取り切れる、勝ち切れるというのは、重要な要素です。

初のタイトル、年間王者へ向けて、まだまだ川崎の快走が続きそうです。



FC東京は、スコア的には惜しい敗戦でしたが、内容としては完敗でした。

失点シーンも微妙な判定に泣かされたとはいえ

そのシーンを「セットプレー崩れ」ととらえてしまえば

今シーズン、何度も繰り返されてきたパターンと言えます。

セットプレーでの可能性の無さも含め

いつも存在した課題の改善がされなかったことは残念です。


成績不振により、ついに城福監督の解任が発表されましたが

後任は、現状の課題をちゃんととらえられる人物でなければならないでしょう。

選手層は厚いので、残留争いに際して

後任選びの難易度はそこまで高くないと言えることが

このクラブの不幸中の幸いと言えるでしょう。

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