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ロシアW杯アジア地区2次予選 日本vsシリア 「なんのための引き出しなのか」

2016/03/30 18:55配信

武蔵

カテゴリ:コラム

2018ロシアW杯を目指すアジア地区2次予選が終わりました。

E組に属した日本は7勝1分の成績で首位通過。

9月シリーズから行われる最終予選に駒を進めました。

組み合わせ抽選は4月12日に行われる模様です。

さて、2次予選の中で最も強敵と目されていたシリアを

前半は苦しんだものの、終わってみれば5‐0という大差で退けました。

しかもそのような大量得点に加え、ここまで続けてきた無失点を継続するという

スコアだけで見れば文句の無い試合だったと思います。

しかし、選手達は口々に危機感を露わにしました。

「勝った試合で課題を出した」(本田圭佑)

「3点取られてもおかしくなかった。最終予選は甘くない。」(長友佑都)

などと、主力の中からはこのような声が飛び出しました。

確かに、失点にはならなかったものの

GK西川周作の数度に渡るスーパーセーブに救われました。

被決定機や、そもそも勝っているのに食らったカウンターの数は

これからの最終予選、そして本番へ向けて

不安の残るだけのものであったことは否定できません。

なぜそうなったのか。

そして、どうすれば良いのか。

攻撃と守備とは表裏一体

今さら言うまでもないことですが

サッカーにおいて、攻撃と守備とは表裏一体のものです。

両方必要なものであるということは前提として

守備の仕方で攻撃の仕方が変わり

攻撃の仕方で守備の仕方が変わります。


この日の日本に足りなかったのは後者の概念で

一言でまとめると、勝っているのに人数を掛けて攻め込み

カウンターで危ないシーンを作られた、ということです。


この状況となったのは、山口蛍がアクシデントで途中交代となり

代わりに急造ボランチの原口元気が投入されたから、ではありません。

つまり、この日に限ったことでもありません。

前掛かりになりすぎる、オンザボールしか考えないポジショニングを取る

中央に寄る、それらにより攻→守の切り替えの際に後れを取る。

これらは、ザッケローニ監督の時代から存在した問題です。

そして油断すれば、またも噴出するのは

ハリルホジッチ監督になってからも変わりはないということです。

なんのためのサイド攻撃か

シリア戦の立ち上がりは

CBからサイド奥へのロングフィードを有効に使えていました。

森重真人や吉田麻也から、酒井高徳や宇佐美貴史へのパスで

4411、転じて451で守り、中央を閉めたシリアを引き伸ばしました。


先制はオウンゴールでしたが

前半17分までに6本のコーナーキックと

宇佐美を中心としたサイド攻撃から無数のクロスを放り込んだことで

相手にプレッシャーを掛けることに成功した結果と言えるでしょう。


ただ、それ以降はバランスを欠くようになってしまいました。

いつしか本田のポジショニングは中央へ寄り

短いパス交換を基調とした選手配置となり

それに合わせて相手も中央に寄るため、スペースが小さくなり

それを崩すためにボランチ、特に長谷部誠が上がらないと

フィニッシュまで持ち込めないという構造上の問題が出来つつありました。


前半のうちに、シリアのカウンターを浴びることがありました。

シリアの稚拙なフィニッシュや、森重のクリアで防ぎましたが

試合後の彼らの話した「課題」とはこのことを指すのでしょう。



先制後に量産した決定機を決めていれば、その後の展開は違ったことでしょう。

しかし原則として、良い時間帯はそうそう続きません。

それはブラジルで学んだはずのことです。


楽しい時間はいつか必ず終わるものです。

勝つためには、90分のトータルで考えた試合運びが必要です。

悪い時間帯のことを考えた試合展開、攻撃の仕方を考えねばなりません。

そしてそのやり方は、チームの引き出しの中にあるはずです。

なんのための「縦に速い攻撃」か

後半はさらに不安定な試合運びを見せます。

1‐0というスコアでの、行ったり来たりのカウンターの応酬というのは

見る人にもよるのでしょうが、見ていて不安になってきます。


日本のカウンター攻撃といえば

ハリルホジッチ監督の提唱した「縦に速い攻撃」ですが

それを発動させるに

なにも相手にもカウンターを許さなければならないわけではありません。


カウンターにも撃ち方というものがあります。

コンパクトな陣形を保ち、そのための人数をしっかり掛け

ボールを奪ったら、予め仕込まれたパターンに従って動く。

そこにはリスクも即興性も興行という概念も必要ありません。


しかし、シリアの決定機は何度あったでしょうか。

西川のビッグセーブは何度あったでしょうか。

ハイリスクハイリターン、無秩序な打ち合いでしかありませんでした。



繰り返しになりますが、山口蛍の負傷交代がありました。

代役は攻撃的なポジションで使われることが多い原口でした。

しかし、それがこの打ち合いの引き金になったわけではありません。

原口は徐々にそのポジションに慣れていくと

守備時には賢いスペース管理と激しい球際を見せ

攻撃時にはボールを十数mも前線へ運ぶなど

ボランチ、またはハリルジャパンの申し子としての才覚を見せつけました。

打ち合いとなったのは、守備に参加する人数が足りない

足りなくなるようなポジショニングといった

構造的な問題だったと言えます。


そして最後には、モノ凄いフリーランから得点まで奪って見せました。

自陣ゴール前で奪ってから15秒でフィニッシュまで行っていますが

これは原口が自分で奪ったボールでした。


確かに原口は途中出場です。しかし、ここで言いたいことは

「縦に速い攻撃」は、ただの行ったり来たりでなく

自陣でしっかり守備をしてからでも、フィニッシュまで持ち込めるということです。

そしてこれも、攻撃を考えた守備のやり方と言えますし

悪い時間帯における攻撃の在り方と言えるのではないでしょうか。

これは確かに、チームの引き出しの中にあるものでした。


もしかしたら、ハリルホジッチ監督が原口をボランチで起用した意図は

このチームのコンセプトの一番の理解者を投入することで

それをチーム内外に再確認させるというものもあったのかもしれません。


これまでにコンセプトに盛り込んできた

サイド攻撃や「縦に速い攻撃」は

90分、そして22人で行われるサッカーという競技で勝つために

必要な引き出しであるということです。

それを履き違えたり、間違った解釈をすることは、あってはならないことです。

5‐0という快勝でした。

しかし、チームの主力の中にはブラジルの悪夢を思い起こさせる

慢心のようなものを見ることができました。


前回の予選では、最終予選前の不安を

最終予選において払拭する光景を見ることができましたが

今回もその故事に倣うことが出来れば良いと思います。

そのための引き出しが、用意されていることを再確認出来れば

それほど、難しいことではないでしょう。

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