【流通経済大学】 総理大臣杯ではない夏―。過酷極める合宿で得た「苦しい時こそできること」。 【大学サッカー】
2016/09/02 22:04配信
カテゴリ:コラム
無情に鳴り響いた試合の終わりを告げるホイッスル。
目指していた大阪夏の陣への道が閉ざされてしまったことを告げるホイッスルでもあった。
総理大臣杯への挑戦権を得ることができなかったあの試合を
選手たち自ら「奇跡でも運でもなく、負けるべくして負けた試合だった」と振り返る。
決めなくてはいけない場面で決めることができなかった流通経済大学。
数少ないながらも迎えたチャンスの場面で確実に決めた相手チームに軍配が上がり、総理大臣杯予選を兼ねたアミノバイタルカップ1回戦で敗退した。
関東1部で戦い多くのタイトルを経験し、多くのプロ選手を輩出する流通経済大学のアミノバイタルカップ1回戦敗退は、衝撃という言葉が当てはまるほどその結果に多くの人々が動揺を抱いた。
東京都リーグ1部で戦う立正大学に0-1で敗戦を喫した、あの日―。
流通経済大学は今夏、総理大臣杯が行われている地 大阪で
総理大臣杯ではない夏を過ごしていた。
●10日間で組まれた試合は、21試合 試合を重ねるその理由
総理大臣杯に出場できない現実を迎えたのは、4年ぶりのこと。
昨年はディフェンディングチャンピオンとして大会に挑み、総理大臣杯3連覇という偉業に挑戦した大会だった。
ベスト4でライバル明治大学にPK戦で敗れ、PK戦に必ず勝つための練習を重ねてきている流通経済大学だけに悔しい悔しい敗戦を喫し、昨年の総理大臣杯を終えた。
それから一年。
4年生は2年連続となる総理大臣杯優勝の連覇を経験し、ライベル明治を前にPK戦で敗退した悔しさを
3年生も経験した頂点、そして昨年の明治大学にPK戦で敗れた悔しい想いを持っていた。
2年生ははじめての総理大臣杯の舞台でベスト4まで勝ち進み、関東でのライバル明治大に敗れるという経験をし挑んだ今季。
1年生にとっては初となる総理大臣杯への挑戦だった。
総理大臣杯出場を逃した今季。
総理大臣杯ではない夏。
ひとつの大きな目標が閉ざされてしまったが、その後もシーズンの節目となる目標を当然持っている。
天皇杯茨城県予選に勝ち、天皇杯に出場すること。
そして後期リーグ上位に入ることで出場権を得る、インカレに出場すること。
閉ざされてしまった6月25日後、7月20日にトップチームは同じ流通経済大学のチームである流通経済大学FCとの天皇杯茨城県予選準決勝を戦ったが、8月21日に行われる天皇杯茨城県予選決勝・筑波大学戦までの期間は公式戦がない状況だった。
その中、流通経済大学が8月上旬から向かったのは。
日本を飛び出し、韓国へ。
韓国遠征5泊6日で組まれた日程の中で組まれた試合の数は、8試合。
韓国Kリーグにて兵役の選手たちが所属することで知られる軍隊のクラブである尚州尚武フェニックスFCのサテライトチームとの試合だけを引き分け、
その他の試合には全て勝利し、7勝1分けという結果を持ってハードな韓国遠征を終え、そのまままっすぐ大阪の地へと降り立った。
総理大臣杯が開幕する日に大阪に立った流通経済大学。
大会が行われる会場の一つでもあるJグリーンで、到着した次の日の早朝から試合をこなしていた。
毎年、総理大臣杯に出場するためトップチームだけに限らずチームの応援を含め全員で戦うため230名を超えるサッカー部全員で大阪入りする流通経済大学は、Jグリーンにて流通経済大学フェスティバルを開催している。
流通経済大学の各チームが関西の大学や強豪高校などと試合を行い強化を図っている。
今年は総理大臣杯に出場が叶わなかったトップチームも参加する形で、多くの試合が行われた。
大阪合宿の日程は6泊7日。
その日数の中で1試合60分という短縮されたゲームとはいえ、なんと韓国遠征を合わせトップチームが戦った試合は、21試合。
移動日のみの日を避けると、10日ほどで21試合をこなしたことになる。
過酷―。
最もその言葉が適しているであろう、韓国そして大阪でのスケジュール。
韓国で8試合をこなしてきた彼らはすでに疲れが蓄積されている状況だったが、やるからにはクオリティを求められる。
さらには、灼熱の大阪。
温度計が37度を指す中、太陽が近くなったのではないかと錯覚するほどに暑いピッチで数試合をこなす。
早朝から始まり、チームの入れ替えがあり試合をするものの、待ち時間も含め灼熱の中で過ごす。
暑い中、ピンと張りつめた空気の中でクオリティを求める怒号が飛ぶ。
この時にはまだ私は理解ができていなかった。
なぜ過酷なスケジュールが組まれ、これほどまでにゲームにこだわり練習を重ねるのかを。
川本コーチが選手たちに向けた言葉から、その理由に深い理解を持つことになる。
「ゲームで起きることは、ゲームでしか起こらない」
試合の中だからこそ起きる数々の瞬間に、試合をこなすことで課題を見つけ答えを見つける。
試合の中だからこそ気づけること、足りていない部分、そして自分たちの持ち味を知ることもできる。
ゲームでしかわからないことを身を持って知るために、ゲームにゲームを重ねているのだと知った。
あの日、試合で負けたのだ。
もう、試合で負けたくはない。
自分だけではない。
チームのためになにができるのか―。
ゲームの中でしか体感できない出来事を苦しみながら刻んでいた。
●苦しさを越えた、その先へ―。
大阪合宿中、1日数試合というスケジュールをこなした後、自分たちが立つべき場所だった総理大臣杯も観戦した。
ピッチに立つのではなく観客席から見つめる、総理大臣杯。
なぜ自分たちはそこに立つことができないのか―。
改めてそれを現実として受け止めることで、モチベーションが生まれる。
昨年そして一昨年、さらには3年前…と選手たちが実際に立ってきた総理大臣杯の舞台を照らし合わせながら
自分たちが立てなかったことを改めて、痛感する。
3年生までは来年必ずと目標を持つことができるが、4年生にとっては最後の総理大臣杯への挑戦が終わってしまったという現実。
同じメンバーで戦える年はないからこそ、残りの限られた時間を照らし合わせ少しでも長く戦うために、もう敗者にはなりたくないと誓う。
そして迎えた、大阪合宿最終日。
流通経済大学が向かった先は、関西学院大学だった。
関西学院大学は昨年、大学4冠を達成し強烈な強さを発したが、今季総理大臣杯には出場できなかった。
流通経済大学と同じく、総理大臣杯ではない夏を過ごしていた強豪校。
この日も熱く、36度。
陽炎が地面をユラユラと揺らす暑さの中、関西学院大学・第4フィールドにて、裏総理大臣杯ともいえる一戦がキックオフとなった。
しかし―。
流通経済大学のプロにも劣らなぬハイプレスはこの日息をひそめ、すべてにおいて後手に回る戦いとなった流通経済大学は、失点に失点を重ねる。
堅守と言われる流通経済大学とは思えぬほど重ねる失点。
これには理由があった。
トップチームはこの試合が韓国から続く連戦21試合目だったこと。
疲れも精神もピークに達していた中で行われた試合だったのだ。
「試合をこれだけ重ねて疲れも精神も限界になる中で、選手として個人としてチームのためになにができるか。
そういう選手たちを見たかった。こんなにも疲れがピークに達する中で、こんなこともできるのかという発見がいくつかあった。
それを持ち帰ってチームとしてしっかり生かしたい」
中野監督は21試合をこなす夏を過ごした結果を、そう話した。
動けない選手たちということを理解している。試合はどんなときも負けて良いという試合はないが、勝利というものにこだわる試合でもなかった。
こだわりを持っていたのは、自らのチームのために選手たちができること―。
21試合目に組まれた相手が、全国で戦うにあたり必ずライバルになるであろう関学。
その集大成に、苦しい選手たちがどんな動きを気持ちをみせるのか。
良いところも悪いところも含め限界を迎えた選手たちだからこそ、いろいろなものが見えた遠征となったと中野監督は手ごたえを話してくれた。
その、10日後。
迎えた天皇杯 茨城県予選決勝。
カシマスタジアムで行われた決勝。
相手は宿敵・筑波大学。
同じ茨城県に位置する強豪であり名門。
負けるわけにはいかない相手であり、戦いだった。
どちらも譲らず0-0のまま延長へ、そして延長でも決着はつかず、PK戦へ。
PK戦に強いこだわりを持っている流通経済大学だが、今季のチームになってからは初のPK戦。
勝利の軍配が上がったのは、筑波大学だった。
苦しく過酷を極めた、夏。
大阪・流経大フィスティバルの初日は韓国での連戦を乗り越え日本に帰ってきた開放感もあったからか、まだ余力があり表情的にも余裕があった。
それでもピンと張った厳しさ詰まった時間の中で、真剣な表情はもちろん自分たちとの戦いに闘志が見えるような時間もあり、仲間同士で過酷さを乗り越えようとする笑顔がまだそこにはあった。
関学戦を迎えたときにはすでに余裕は消え失せ、限界を極め苦しい姿がそこにはあった。
流経大ドラゴンズの選手たちからは、まだ大きな声とチームの雰囲気を盛り上げる輪がそこに存在したが、
トップチームからは限界を迎え苦しい姿で失点を重ね、重苦しい厳しいだけの空気がそこに在った。
総理大臣杯ではない夏。
流通経済大学にとって厳しい苦しい過酷を極めた夏。
その苦しく重ねた経験をしたからこそ、ひとつ結果を得ることが大きな一歩になるはずだった。
しかし、数字だけ見ても死闘だったことがわかる負けられない試合の軍配は、流通経済大学には上がらなかった。
敗戦ではあったものの、全員がチームのために動くことで守ったゴールマウス。
失点0という結果は、掴んだ光となったであろう。
後期リーグ、勝利を重ねインカレに出場するという明確な目標を掲げることとなる残りの今季だが、
とにかくまずひとつの勝利を得ることが重要な鍵となることであろう。
次なる公式戦は、関東大学リーグ後期。
ひとつの勝利を全員で獲りに行くこと。
総理大臣杯に出場ならず
天皇杯にも出場ならず
描いていた未来図と比較すると、うまくはいっていないと感じるかもしれない。
しかし、苦しくもがき努力をしたチームであることは、より忘れられないチームとなるものだ。
6月から離れている、勝利というチームでの歓び。
苦しい今こそチームのためにできること、とは―。
9月11日
関東大学リーグ後期スタート。
×桐蔭横浜大学
県立保土ヶ谷公園サッカー場にて11:30キックオフ。