CHANT(チャント) 大宮アルディージャ

"あの男"がNACK5に帰ってくる 片岡洋介と大宮の腐れ縁

2016/09/06 20:35配信

下田 朝陽

カテゴリ:コラム


片岡洋介が"また"大宮に帰ってくる。しかし今回は2011年の復帰時とは違う。対戦相手、それも相手チームのキャプテンとしてだ。


2005年5月4日、まだ8歳だった頃の私は、埼玉スタジアムでゴール裏に走ってくる片岡を飛び跳ねながら見ていた。この試合の決勝点をアシストした場面だ。ゴールラインぎりぎりでクロスを上げ、中で合わせたのはトゥット。この年に国士舘大学から加入したルーキーを"新しい選手"としか認識していなかった私は、彼が10年にも渡って大宮で活躍する選手になるとは、知る由もない。大柄な割に小股で走るその姿は、今も脳裏にしっかりと焼き付いている。


彼はボランチと右サイドバックをこなす選手として入団した。1年目の序盤戦から出場機会を掴んだが、右サイドバックで先発した21節の清水戦では前半28分に斉藤雅人に交代させられるなど、サポーターに”心配される”ようなあどけなさも残っていた。2年目には主にボランチとして28試合に出場。8月には強烈なミドルを叩き込んでJ1初ゴールも決めた。その翌年から背番号6を背負うと、一気にレギュラーに定着。ボランチを中心に、2009年の後半はそのフィジカルの強さを買われてマト・ネレトリャクとセンターバックのコンビを組んだ。加入5年間でリーグ戦122試合に出場した片岡は、大宮になくてはならない選手に成長したのだ。


しかし翌年、彼はチームを離れる。移籍先は京都サンガだった。27歳という年齢でステップアップを選択した片岡の移籍は、チームにとっては痛い出来事だった。実際に、2010年には守備的なポジションにアンヨンハ、深谷友基、坪内秀介といった実力者を補強している。もちろん、彼以外にも斉藤雅人や冨田大介という功労者たちが退団した影響もあったが。しかし、京都で全くと言っていいほど活躍ができず、大宮を退団する際に残した「京都でもこの経験を生かし、皆さんの前で良いプレーをすることが恩返しだと思います。」という言葉は意外すぎる形で実現する。僅か1年で大宮に戻ってきたのだ。


背番号は34。サポーター間でも、復帰という決断は賛否両論だった。ベテランの域に差し掛かっていたこともあり、ベンチやスタンドから試合を見る機会も確実に増えていた。しかし、けが人や出場停止でレギュラーが欠けた際には、必ずと言っていいほど好パフォーマンスで穴を埋める。すると2012年にサポーターは片岡のチャントを作った。「片岡洋介 マッチョーマン おー・か・た・お・か」フィジカルに優れた"片岡らしい"チャントで、私個人的にはかなり気に入っている。2013年に大宮が首位を快走した際にも、"クローザー"として守備固めの役割を全うした。移籍前と復帰後では全く異なる使われ方の中で必死にアピールし、レギュラーを張る時期もあった。


そして2014年には大熊清監督にボランチとして再コンバートされ、開幕スタメンを勝ち取る。このシーズンは降格してしまったし、チームとして現実的に見れば、この起用が正解ではなかったかもしれない。ただ、彼を加入時から知る多くの古参サポーターは何とも懐かしい光景を思い出したはずだ。当時はただ無邪気に飛び跳ねていただけの私がそう思ったのだから。


そして昨年、J2での戦いを強いられた大宮だったが何とか優勝し、1年でのJ1復帰を果たした。片岡は16試合の出場にとどまったが、右サイドバックのバックアップとして高い貢献。37節の徳島戦では2005年のナビスコ杯以来、実に10年ぶりとなるNACK5スタジアムでのゴールを決めた。いや、10年前は大宮公園サッカー場という名称だったから、正式には”初ゴール"とでも言えようか。とにかく、サポーターから愛され続けた彼だったが、遂に昨年オフにJ3のガイナーレ鳥取への移籍を決断する。


さらに我々を驚かせたのが、キャプテンに就任したというニュースだった。その際に放った「強い覚悟」という言葉には大宮での10年間、そして京都での悔しい1年間での想いがこもっている。2つもカテゴリーを下げた移籍の決断は、そう簡単にできないはずだ。そんな覚悟や意志を、7日の試合で見せてくれることは間違いないだろう。

「仮にメンバーを落としてくれば、逆にふざけんなと思う。大宮の主力を相手に自分たちがどれだけできるか楽しみ。」大宮戦に向けた"片岡キャプテン"のコメントからは、内に秘めきれない並々ならぬ闘志を感じる。

片岡と大宮の縁は切っても切り離せないものになったのかもしれない。9月7日、NACK5スタジアム大宮に片岡洋介が帰ってくる。大宮サポは暖かい拍手で迎えるのか、それとも敢えてのブーイングか。いずれにせよ、この選手がどれだけ愛されていたか分かるはずだ。

最後に、大宮で決めた最後のゴールを載せておく。

https://youtu.be/9fQieXR_A8E

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