CHANT(チャント) 大宮アルディージャ

大宮vs広島 「なんのための『コンパクト』か」

2016/03/24 10:52配信

武蔵

カテゴリ:コラム

サッカーの戦術に置いてよく言われることは

「陣形をコンパクトに保ちなさい」

ということです。

なぜ陣形をコンパクトに保たねばならないのかといえば

サッカーは陣地取りゲームであるからです。

相手に陣地を与えず、その陣地は自分たちのものにする。

そのためにどうするか、ということを考えることは

サッカーの戦術において、重要な一角と言えるでしょう。


そして、その問いに対する一つの答えが

陣形をコンパクトに保つ、ということにあります。

そして重要なのは、陣形をコンパクトにする、ではなく

陣形をコンパクトに保つ、であるということです。

サッカーはもちろん、相手のあることです。

そして、カオスでフラクタルなもの、という定義に拠れば

局面局面によってポジショニングを変えなければなりません。

その中でも変わらずに、全体がオーガナイズして

コンパクトな陣形を保たねばならないということです。

そして、コンパクトな陣形を保つことにおいて重要なのは

ボールへのプレッシャーです。

これは、ほぼ全ての指導者の言動が一致するところだとは思いますが

ファーストディフェンス=ボールへのディフェンスが、一番初めに大事になることです。

例えばゾーンディフェンスの定義の1つとして

「まずボールの位置、次に味方の位置で自分の位置が決まる」

というものがあります。

相手ボールへプレッシャーに行くことで、ボールの出る方向を限定し

以降の守備者は、それを見てポジショニングを決定するということです。

そして、ボールへしっかりとプレッシャーをかけることにより

裏へ抜ける選手への、得点に繋がるようなパスを封じることができ

その結果、最終ラインを上げる、高い状態に保つことが可能となり

陣形をよりコンパクトに保つことができる、ということです。

大宮は開幕節ではFC東京相手に

見事なゾーンディフェンスから、相手を崩して先制し

最後は人海戦術で危険なスペースを消し、アウェイで勝ち点3をもぎ取りました。

そして続く柏戦でも勝利しましたが

第3節のG大阪戦では今シーズン初の失点を喫し敗れました。


それを受けての、今節・広島戦前の渋谷洋樹監督のコメントは

「前節はコンパクトさに欠けたので、そこを強く意識したい」

というものでした。

しかし、そのコンパクトさを意識しすぎたのか

それとも「コンパクト」を履き違えたのか

大宮の前半の戦いは、非常に消極的なものとなってしまいました。

大宮の「ファーストディフェンス」の欠如はどこから?

前年度J1王者とJ2からの昇格チームとの対戦ということもあり

広島がボールを保持する時間が長くありました。


広島の415に対して、お手本のような442の大宮。

それは3ラインが25mから30mほどに収まる

とてもコンパクトな陣形でスタートしました。

ただ、それを保ち、正しく運用することができていたとは言い難かったです。


大宮の問題点はファーストディフェンスから始まるものでした。

家長昭博とムルジャの2トップは

教科書通りに相手のパスコースを限定し、サイドに追い込むということをせず

非常に消極的で、まるで後ろに引っ張られているかのような守備をしました。


言い訳の材料はあります。

1つは、広島の最終ラインは4枚ですから、2トップにとっては数的にかなり不利です。

しかし、そこで必ずボールを奪い取らなければならないわけではありません。

無闇やたらにボールを追えというわけでもありません。

広島の確立されたボールを逃がすシステムの前では、誰もが例外なく

「ファーストディフェンス」をしなければならないということです。

そしてもう1つは、このファーストディフェンスの欠如が

コンパクトさを意識した結果だったのではないか、ということです。

コンパクトさを意識するがために、後ろの守備者との距離を強く意識し

ファーストディフェンスを実行できなかったのではないかということです。



よくサッカー界で起こりがちなことは、大量失点は続きにくいということです。

大量失点したチームは、週半ばから守備に意識した練習に取り組み

次の試合で後ろ体重な戦い方をすることが多々ある、ということです。

この日の大宮は「コンパクトさを失った」前節のG大阪戦の反動で

そのコンパクトさを強く意識していたのではないでしょうか。

そして、それが強くなりすぎ、かえって守備のバランスを崩してしまったのではないか。

そういった守備のユルさが出ていました。

確かに広島の415対策として

2トップを1の青山敏弘の位置でステイさせる方法はあります。

ただ、この日の家長とムルジャは

広島が彼らの脇からボールを前進させた際に発生する後ろ向きの守備時も

ハッキリとしたマークはできていませんでした。


最初の失点はいわゆる「塩谷逃がし」からです。

大宮はファーストディフェンスが決まらないので

以降の守備者も役割が明確になってなく

大宮の2列目の前のスペースでボールを持つ塩谷司、佐々木翔から

縦パスが入りやすい状況となっていました。

そして、より攻撃的な塩谷から得点が生まれました。

勝つための「コンパクト」

劣勢のまま0‐2で前半を折り返した大宮は

後半開始から守備に難のあるペチュニクに代え、横谷繁を投入し

「数的同数でオールコートマンツーマンのような状態」(横谷)とし

広島のビルドアップに対し、後先を考えないプレスを仕掛けます。

そこからペースとポゼッションを掴み、相手を押し込み

一時は家長の素晴らしいギャップ受けから1点差に詰め寄りますが

後半の半分を過ぎると、次第にガス欠となっていき

カウンターで突き放され、結局は5失点を喫してしまいました。


前半は442ゾーンがハマらずに2失点。

後半はオールコートマンツーで1点取ったものの3失点。

大宮の今後は、開幕2連勝の内容を加味すると

オールコートマンツーはできるだけ温存し

ゾーンディフェンスのブラッシュアップをすることに

懸かっていると言えるのではないでしょうか。

オールコートマンツーは効率が悪く、多大な運動量を必要とし

そのため、長期のリーグ戦においてメインに据えるには

非常に計算が立ちにくいというものがあります。

また、日本の夏場では気持ちを見せるのにも限度があります。


大宮の前半の内容の悪さは、ゾーンディフェンスというシステムの敗北ではなく

コンパクトさに固執し、正しい運用が出来なかったと見るべきでしょう。


コンパクトさは手段であって目的ではありません。

そしてなんのための手段かといえば、試合に勝つための手段です。

大宮は試合に勝つためのコンパクトさを手にすることはできるのでしょうか。

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