【流通経済大】 総理大臣杯出場ではない夏―。敗戦から刻む もう負けないという誓い 【大学サッカー】
2016/08/03 22:27配信
カテゴリ:コラム
関東の頂点目指して。
そして、総理大臣杯を目指して。
長いシーズンにおいてひとつの大きな目標である夏の陣への出場を懸け戦った アミノバイタルカップ。
全国9地域のうち7地域で代表校が決定し、残るは強豪校ばかりが揃う関東、そして九州の代表校のみとなっていた。
出場権を得る前であっても優勝候補に挙がるほど、トーナメントでの戦いに圧倒的な強さと存在感を誇る流通経済大学。
今季はリーグで苦しい戦いが続いていたが、それでも。
流通経済大学のいない夏は、誰もが想像できなかったのではないであろうか―。
アミノバイタルカップ1回戦。
都県リーグ予選プレーオフを勝ち上がってきた立正大学に、0-1で敗れた。
流通経済大学のアミノバイタルカップ、そして総理大臣杯への挑戦は初戦で幕を閉じた。
●苦しんだ関東大学リーグ前期
「総理大臣杯に出場すること」。
流通経済大学の選手たちに、今季のチームとしての目標を問うと、どの選手であっても一番先に出てきたこの言葉。
総理大臣杯は流通経済大学が「名門」と評されるようになったひとつの「理由」であり、得意とする大会であり、数々の歴史を刻んできた大会である。
過去、流通経済大学が総理大臣杯で優勝した回数は3度。
中野雄二監督が就任してから初の総理大臣杯出場となったのは、チームが二度目の関東2部リーグへの昇格を果たし戦っていた2002年。
その次の年には関東2部所属のチームでありながらも総理大臣杯3位という結果を残すなど注目を集め、2004年に関東1部に昇格してからは数度予選敗退を経験しているが、総理大臣杯といえば流通経済大学というほどに常連校である印象を強く付けている。
優勝一度目は、2007年。
二度目、三度目は2013年、2014年と連覇だった。
現在4年生として戦っている選手たちは2013年の優勝を1年生で、2014年の優勝を2年生で経験し、
現在3年生として戦っている選手たちは2014年の優勝を1年生で経験している。
昨年はベスト4で同じ関東で戦うライバル明治大学を前に敗退し、三連覇は成らずベスト4という結果だったものの上位に位置した。
創部50周年となった昨年は何年も前からマネジメントされ、流経大史上最強チームを目標に創られてきたチームであったが昨年は結果的にタイトルを獲ることはできなかった。
無冠であったとはいえ強さを誇った印象は強く、昨年のレギュラー選手として戦った4年生数選手たちが卒業と共に、Jリーグへと進んでいる。
昨年の4年生が卒業し、迎えた今季、新チーム。
リーグ初戦、流通経済大学サッカー部のメンバーを前に多くのサッカー関係者に衝撃が走ったほどに、そのメンバーの顔ぶれには「意外」さが見えた。
部員数230名を超え、高い志を持って流経大へとやってくる選手たちが多い中で、トップチームの選手に定着するだけでも大変な競争が存在するが、
その中からさらに全国大会でもトップクラスの戦いを経験している上級生たちを超え、1年生が試合に出場するのは大変な困難を極める。
しかし、今季流経大の初戦。スターティングメンバーには入学したばかりの1年生が数名、名を連ねた。
大学主要大会を戦うトップチームの他に、JFLで戦う流経大ドラゴンズ龍ヶ崎や、関東社会人リーグで戦う流通経済大学FC、Iリーグで戦うチームなど多くのチームを抱える流経大では、
どんなに有望な選手であり鳴り物入りであったとしても、トップチームにスタートから出場できる選手たちはこれまでほとんどいなかった。
Jリーグへと進みチームの主力選手として今現在も戦っている卒業生たちであっても、在学中4年間すべてのシーズンをトップチームのピッチの上で過ごす選手はほとんど存在せず、試合に出られない時期を経験した選手たちが多い。
上を目指し這い上がるチカラを持った選手たちが努力を積み重ねたからこそ、プロの道を切り開いてきた。
中野監督は常に口にする。。
「自分たちがプロに育てたのではない。選手たちが努力をした結果である」と。
開幕は黒星スタートとなり、その後連敗と、チームとしては良いスタートを切ることができなかった今季リーグ前期。
しかし、3戦目でライバル明治大学と対戦すると、1-0で勝利をおさめ今季リーグ初勝利を得た。
今季初勝利が明治大からという自信を得たが、その後もチームは模索しながら結果をなかなか得ることのできないリーグ前期を過ごした。
「うまくいかない」。
明治大や筑波大といったリーグ上位に位置するチームに勝利を挙げながらも、リーグ自体が混戦状況だったこともありなかなか浮上のタイミングを掴むことができないままリーグ前期を終えた。
●JFL前期優勝の快挙 流通経済大学ドラゴンズ龍ヶ崎
好調に戦い主役となったのは、JFLに参戦している流経大ドラゴンズ龍ヶ崎だった。
大学チームながら社会人クラブチーム編成をし、世界一過酷な戦いと表現されることもある地域決勝で上位に入りJFLへの参戦を決めたのが、2004年。
トップチームは大学主要大会で戦い、JFLチームの選手たちは、Jリーグへの登竜門であり社会人サッカーの最高峰であるJFLで経験を積んだ。
トップチームとJFLチームの選手の循環という流経大の強化方法によって、多くの選手たちが育ちプロサッカー選手の道へと進んだ。
流経大からプロサッカー選手になった選手たちの多くは、JFLや社会人リーグで戦うチームで揉まれ伸びた選手たちが多い。
流経大ドラゴンズが再びJFL参戦へと導いたのは、2014年地域決勝でのこと。
昨季、流経大ドラゴンズ龍ヶ崎としてははじめてのJFL参戦、流経大としては5年ぶりのJFLへの参戦となった。
結果は13位。リーグ中はさらに下に位置することもあったが、残留を決めた。
チームとしての結果という部分では思うように勝利を勝ち取ることができなかったものの、選手たちの経験や強化としての結果に手ごたえを充分に掴んだ1年目だった。
そして今季。
7連勝を含み15試合中11勝、最後まで首位争いをした前期最終節FC大阪との直接対決でも勝利し、JFL前期優勝という快挙を達成した。
好調に戦い進む流経大ドラゴンズの選手たちを途中でトップチームに上げてしまうことで、戦力やチームの輪に影響が出てしまうことは避けたい、と
中野監督はドラゴンズの戦いを優先し、トップチームがなかなか結果を得ることができない中でもトップの選手たちで巻き返しを図ることを選択。
トップチームで結果を得ることが求められるが、ただ「勝ちたい」だけを掲げる監督ではない。
トップチームのためにすべてを動かすのではなく、チームひとつひとつの尊重もする。それが中野監督の考え方である。
それは選手たちにも伝わっていた。
ドラゴンズが勝ち続けているからこそ、自分たちがやるしかない。
後に控えている選手がいるという甘えは持ってはいけない。
ドラゴンズが好調だからこそ、より自覚を持って戦わなくてはいけないと口にした選手もいた。
トップの選手たちは今季、「日本一」という目標を簡単に口にしない。
日本一になりたいという言葉をなかなか口にすることができないのは、全国を獲った先輩たちを見てきたからだ。
全国を獲った時のチームがどんなチームであったかを重ね、選手たち自身で「なにかが足りない」と感じている「今」と比較している。
全国で戦ってきた強豪たち、関東リーグで戦ってきている多くのライバルたちの強さを身をもって知っているからこそ。
今の自分たちに、足りない部分が多いことを知っている。
それでも、絶対に出なくてはならない。
自分たちが流通経済大学サッカー部としての出場を止めるわけにはいかない、と口にしたのは
総理大臣杯出場、という目標だった。
チーム、大学、自分たちのプライドを懸けて、アミノバイタルカップを迎えたはずだ。
●総力を持って融合したチームで挑んだアミノバイタルカップ
流経大ドラゴンズがJFL前期を終え、優勝という結果を残し一区切りすると、その後すぐにドラゴンズとトップの融合が行われた。
ドラゴンズで結果を残した選手たちはトップチームへと昇格し、在学4年目で初めてとなるトップチーム出場を果たした選手もいた。
流経大ドラゴンズとしてトップチームに練習試合で勝っても、JFLで優勝という快挙を達成しても、プレーしたい場所であり目指すべき場所は、トップチームなのだ。
融合を経て総力を持って戦い、トップチームは関東大学リーグにて今季最高の4得点を挙げ、約1ヶ月ぶりとなる勝利を掴んだ。
関東大学リーグ7位という位置で前期を終え、アミノバイタルカップを迎えた。
前期を振り返ると厳しい戦いが続いたとはいえ、首位明治大学に唯一勝利したチームであり、2敗しかしていない2位筑波大学にも勝利したチームであることを考えると、決して劣っているわけではないのだ。
リーグ前期を終え、いよいよ迎えた総理大臣杯出場が懸かるアミノバイタルカップ。
総理大臣杯への想いを強く持ち、リーグでうまくいかない時間が長かったからこそ絶対にという想いが強かったはずだ。
しかし、さらなる厳しい現実が待ち構えていた。
6月25日。
アミノバイタルカップ1回戦。
天候は曇り。ピッチには靄がかかり、風も強く吹いていた―。
先に獲られてしまった1点を追い。
最後までなんとかしようと、走り続けた。
1つのゴールを貪欲に全員が目指した。
しかし―。
0-1。
総理大臣杯への道が絶たれる笛が無情にも鳴り響く。
流通経済大学の今季アミノバイタルカップ、そして総理大臣杯への挑戦は終わった。
ノックアウト方式の大会だからこそ、なにが起こるかはわからない。
決められてしまい、決めることができなかった―。
この日ピッチに立てず終わってしまった選手たちももちろん存在する。
ピッチに立つためには、試合に出場する前から戦いや競争が当然存在し、その日に向けて最良のコンディションであるか、ノックアウト方式での戦いだからこそ「今」100%を持って戦うことができる選手か。
最高の準備ができているか、準備を迎えるにあたり意識を高めているか。
そういった点もすべて含み、選ばれた選手たちを胸を張って送り出したであろう、中野監督。
敗戦となったこの試合。
総理大臣杯に出場できないという現実。
整理するには時間を要したかもしれない。
特に4年生にとっては最後の夏の陣への挑戦だっただけに、簡単に整理はできなかったはずだ。
しかし、厳しい現実だからこそ今後の向上への材料にしなくてはならない。
総理大臣杯に出場しないことで、公式戦は天皇杯予選以外はない状況となる中で、天皇杯予選を勝ち抜くこと、リーグ後期で出来る限りの勝利を得ることを目標に
モチベーションを高く持ち、次なる目標への時間の使い方が今後に向けての鍵となる。
監督やスタッフがすべての答えを与えるチームではない。
考える選手にならなくては戦うことはできないと中野監督がよく言葉にするが、プロサッカー選手を目指すからには答えを与えて動く選手ではなく、自分で探して動ける選手でなくてはならない。
自分たちがどうすべきか、どう戦い、自分自身と向き合うべきか。
意識を持って有効にその時間を過ごすことが求められる。
天皇杯の組み合わせが発表となった。
茨城県代表は、現在J2首位を走るコンサドーレ札幌と初戦を戦う。
「今」という時間は二度と戻ってこない。
同じ選手が揃うチームで、来年を戦うことはできない。
目標として掲げた総理大臣杯出場を達成できなかったその厳しい現実にフタをせず、しっかりと見つめ次に進む一歩を踏み出してほしい。
「今できることはすべてやった方が良い」
Jリーグのトップクラスで戦う先輩たちから、5月にもらった言葉だ。
必ず来る「きっかけ」を掴め―。
そのメッセージを自分たちのものに出来るか否かはこれからが重要となる。
総理大臣杯に出場できないからといって、夏が終わったわけではない。
総理大臣杯ではない夏が、流経大にやってくる-。