第二次城福政権をマジメに論考する ~フロントの責任、監督の責任~
2016/07/29 21:08配信
カテゴリ:コラム
7月24日、FC東京・城福浩監督の解任が発表されました。
城福氏がこのクラブを解任されるのは6年ぶり2回目のことで
いずれも成績不振によるもので、これは前代未聞のことと言えるでしょう。
前回も今回も、城福氏の成績不振には様々は言い分を立てることが可能と思います。
前回でいえば、石川直宏、梶山陽平、森重真人らの不調。
平山相太らの決定力不足。
米本拓司のケガによる長期戦線離脱。
そして、それらを埋めることが出来なかった要因としての予算不足です。
特に4つ目に関しては、内外にその事情が漏れ伝わっており
低迷するチームを立て直し、前年にカップ戦のタイトルを獲得するなど
功労者としての城福氏への、同情の声が挙がるほどでした。
この件に関して城福氏も、在任中から
「補強には劇薬が必要」
「バジェット(予算)には限りがある」
などという、苦しい台所事情を打ち明けていました。
ところで、よく「言い訳をするな!」という言い方を
そこかしこで目にすることがあります。
しかし、これには異論があります。
特にその道のプロフェッショナルの「言い訳」には
その結果に至る過程を知る上で、重要なピースが散らばっていることが多く
ことさら、サッカーという結果を長期的に残すためには過程が重要な競技において
非常に重要で貴重な事柄となります。
これは私見ですが、このレベルのプロフェッショナルには
どんどん「言い訳」をしてもらいたいと思っています。
FC東京フロント陣の判断ミス
その「言い訳」は、今回でいえば、細かく分けて2つあり
1つは昨季から続く過密日程です。
FC東京は昨季のJリーグにおいて4位となり
ACLに、2月9日のプレーオフから出場することとなりました。
では、いつからオフを取ったかというと
天皇杯でベスト8に進出したため、12月26日まで公式戦を戦っていました。
ACLプレーオフがあるため始動を遅らせることは出来ず、例年通りの1月16日です。
つまり、選手たちはシーズンオフを半月あまりしか取れず
また、自主トレ期間を含めれば、全くまとまったオフが取れなかったと言え
コンディション面に不安を抱えながらのシーズンインとなりました。
それに加え、差し当たっての照準を「一番大事な試合」と位置付けた
寒い東京で2月9日に行われたACLプレーオフに定めなければならない状況でした。
また、ACLプレーオフに勝ち、一段落というわけではなく
それに勝ったことにより今度はACL本戦が発生し
それはJリーグよりも早い2月23日からの開幕という過密ぶりでした。
今年から始まった第二次城福政権は
そういった、昨年から連なる過密日程という不安要素を抱えての船出でした。
もちろん、クラブは今年を「頂戦」と位置付け、目標をリーグタイトルに置き
城福氏も「アクションサッカー」を掲げるなど大言壮語をしました。
ただ、それはサッカークラブに限らず、どこにでもある組織掌握のための手段であり
それ自体を責めるわけにはいかないでしょう。
もう1つは、この第二次城福政権がフィッカデンティ政権の後釜であったことです。
この真逆のスタイルへの転換は、チーム作りにおいて大きなビハインドとなりました。
まず守備、失点をしないことから考えをスタートさせるフィッカデンティ氏から
「攻撃から考える」と自著にも記す城福氏へのスイッチは
チームが結果を出す上で、大きな変革が必要となりました。
そして、そのことも、やる前から分かっていたはずです。
なぜなら、かつてのポポビッチ政権からフィッカデンティ政権へのスイッチの際も
初年度のW杯中断前には、一時12位に沈むなど苦労したからです。
そして、今年はそのような、チームを作り直し得る大規模な中断はありません。
第二次城福政権の成績不振には、これら2つの「言い訳」が成り立ちます。
まとめとして、FC東京のフロント陣はその道のプロフェッショナルとして
目に見えていた過密日程を前にして体制をスイッチ、またスタイル転換に踏み切り
その結果、今回の迷走を招いた責任を負うべきと言えます。
4月ごろから、今回の城福体制に暗雲が立ち込めてくる中で
各専門誌、専門紙には前体制のデメリットを喧伝するかのような記事が表れ始めました。
FC東京のフロント陣はそのデメリットに際して
フィッカデンティ体制を支えるのではなく監督交代を選択したわけですが
その「判断ミス」は責められるべきでしょう。
これらにより、城福氏の責任も多少なりとも軽減されるべきと言えます。
ただ、それはあくまで「多少」であり「軽減」でしかありません。
次は、城福氏の責任について考えていきたいと思います。
「アクションサッカー」への回帰の失敗
第一次政権時の城福氏の代名詞が「ムービングフットボール」であるならば
今回のそれは「アクションサッカー」です。
氏曰く「攻守において自分たちからアクションを起こしていく」
ということを目標とするワンフレーズでした。
目玉政策はボランチの役割、運用だったと言えるでしょう。
ハ・デソンと米本をレギュラーとし、3番手には橋本拳人がいました。
主にハ・デソンにはポゼッション時の「アクション」を求め
米本と橋本にはオフ・ザ・ボール時の「アクション」を求めました。
しかし、プレシーズンにはスカパー!ニューイヤーカップ初制覇
さらにはACLプレーオフで勝利と、ある程度の結果が出たこのシステムも
ハ・デソンがACLグループリーグ初戦直前にケガをしたことで頓挫。
4月の復帰後もなかなかコンディションが整わないことで
当初の目論見通りには「アクションサッカー」を展開することができず
チームも第9節の最下位・福岡に敗れ、13位と低迷します。
ボランチをバロメーターとするならば
転換があったのはACLグループリーグ最終節のビン・ズオンとのアウェイゲームです。
これまでのリーグ戦で合計4分の出場に留まっていた高橋秀人を起用し
グループリーグへ向け、勝利が求められた一戦をモノにします。
それから4日後の第11節の湘南戦では、その高橋をアンカーで起用し
中身とすれば去年を彷彿とさせる、守備的な3センターによる4141で臨み
これまた昨年を思い起こさせる1‐0での勝利を得ました。
なぜ、守備的な戦い方に「再転換」したのかというと
第9節の福岡戦で敗れた後、このチームでは異例となる選手間ミーティングが行われ
「自分たちのストロングポイント」(森重)を生かす
つまり、昨年結果を出した守備的なサッカーへの回帰により
13位という危機を回避しよう、という結論を選手たちが出したからです。
つまり、ここにおいて「アクションサッカー」は一旦、棚上げになったのです。
この5月、リーグ戦は2勝1分で失点はゼロ。
ACLのラウンド16は優勝オッズ1番人気の上海上港に敗れたものの
その勝敗はアウェーゴールによるものであり、1勝1敗のタイでした。
しかし、9節までで13位のチームとしては上出来と言え
当面の危機は脱したと言える状況となりました。
問題の核心は6月シリーズの中断期間明けにあります。
引き分けが3試合続いたあと、延期分の第13節で敗れると
第17節では高橋がスタメンから外れ、布陣は442を基本とし
ボランチは米本と橋本のコンビとなります。
彼らは周知の通り、主に守備面の球際で長所が出る選手であり
攻守において、前に出ることでその長所が出る選手と言えます。
この似た特徴を持つボランチを併用した理由は
「アクションサッカー」への回帰にあったと言えるでしょう。
フィッカデンティ時代を想起させる5月の守備的なサッカーが
アンカーを置き、ラインをある程度下げ、相手を待ち構える守備だったのに対して
米本、橋本のボランチコンビによる442は、彼らの特徴と相まって
ボランチが守備時においても前に出るサッカーへと、明らかに変化しました。
これは「守備においても、自らアクションを起こす」とした
城福氏の「アクションサッカー」と方向性が一致するものと思われます。
つまり城福氏は、ここに至り
自らの提唱した「アクションサッカー」への回帰へ向かったのです。
そして、第17節の横浜戦、倍以上のシュートと決定機を作られながらも
セットプレー1発で勝利したあの試合から数えても2勝4敗と、低迷を招きました。
ACLの敗退、6月シリーズの中断を踏まえて
自らの存在意義である攻撃的なサッカーをチームに植え付けようとするのは
ある意味で当然と言えるチーム運営でしょう。
ただ、その試みが今回の危機を招いたのは確かです。
チャレンジにはリスクが付きものです。
そして、それが失敗に終わった時、その責任は指導者が負うべきであり
城福前監督はその通りに責任を取らされた、ととらえれば
今回の解任劇は、なんら不思議なことはありません。
この再度の低迷は、城福前監督のチャレンジの失敗が招いた部分が大きいと言えます。
原則として、100%の責任が所在する場所というのはありません。
そして、100%の責任をどこか1か所に求めたとしても
それは、どこかに責任を押し付けたに過ぎません。
少なくとも、その組織が改善することは無いでしょう。
今回のFC東京の失敗も、責任の所在を断定することは出来ません。
状況を好転させるためには、直面する問題の正しい解釈が必要で
プロであるが故に、その正しさは結果で語られてしまいます。
逆説的ですが、今回の失敗の責任を分担して負うべきFC東京フロント陣や城福氏は
これからプロとして結果を出すために、今回の失敗を正しく解釈する必要があります。
そして、その作業が終わり次第、またはそれと並行して
新たなチャレンジを始めることになるでしょう。
その解釈、チャレンジが、今度は上手くいくように祈りつつ
今回の論考を締めたいと思います。