ACL グループE第1節 全北現代vsFC東京 「前体制の遺産はどこに消えた?」
2016/02/24 19:53配信
カテゴリ:コラム
ACL、アジアチャンピオンズリーグの開幕です。
日本からは広島、G大阪、浦和と
プレーオフから勝ち上がったFC東京が出場します。
そのFC東京は、アウェイで韓国王者・全北現代と対戦しました。
全北現代は昨年のACLではベスト8まで進み
G大阪と死闘を演じたことも記憶に新しい強豪で
このグループの本命と目されています。
太田の穴を埋めた駒野の穴
序盤は、互いにプレスを強めたため
ボールの落ち着きどころを探す展開となりました。
433の全北は、1トップのイ・ドングクや
右ウイングのリカルド・ロペスが起点となり
インサイドハーフのキム・ボギョンとともに
コンビネーションを作り出そうとしました。
一方のFC東京は
全盛期ほどはキープ力の発揮できない前田遼一や
身長において相手CB陣より劣る阿部拓馬が
そこまで明確な起点となることができずにいました。
ただ、FC東京は左SBの駒野友一が
最終ラインで回収したボールの収めどころとなり
前線へ質の良いパスを供給していました。
これによりFC東京はポゼッションが安定し
守備の時間を減らすことに成功していました。
FC東京は今オフに左SBの太田宏介を放出し
これは戦力面で大きなマイナスと思われました。
そして、その後釜としてやってきたのが駒野で
右利きであり、ユーティリティーと言われてはいたものの
左SBとしてはそこまで経験の多くない駒野が
果たして太田の穴を埋められるのか、が
今年のFC東京の1つのカギと言えました。
しかし、駒野は上記のようなビルドアップでチームに貢献しました。
これはFC東京にとって、大きな働きと言えます。
確かに太田のクロスとスプリントの能力を
存分に計算に入れたフィッカデンティ体制であれば
駒野では太田の穴は埋められなかったかもしれません。
しかし、城福新体制による「アクションサッカー」においては
自分たちから仕掛ける攻撃から得点を奪うことが必須です。
その中で、最終ラインからのビルドアップの精度や
ポゼッションの安定化は至上命題であり
それを支えるのが、新加入のハ・デソンであり
この駒野なのだと思います。
フィッカデンティ体制には無かったものが
現体制により備わったと言えるでしょう。
ハ・デソンが試合直前のアクシデントでベンチ外となりましたが
それでも、そこまでの影響を感じさせなかったのは
駒野の技術とベテランとしての経験だったのでしょう。
その駒野が前半21分にケガで退いたことは
FC東京にとっては大きな不運となりました。
駒野の代わりに幸野志有人が投入され
橋本拳人が右SB、徳永悠平が左SBとなり
幸野がボランチに入りましたが
4バックのSBとしての経験が
年初のスカパー!ニューイヤーカップ以外ではほとんど無いという橋本が
ボランチからSBへ動いたことは
FC東京の戦い方に大きく響くこととなります。
まず、ポゼッションが不安定となり
攻撃による「アクション」が起こせなくなります。
ここでボールを握った全北は
キム・ボギョンとリカルド・ロペスを中心にゴールを脅かします。
そして先制点が生まれたのは39分。
前田のポストプレーがカットされ、逆カウンターを食らったような状態となり
初めにキム・ボギョン、次にリカルド・ロペスが
FC東京のバイタルエリアを横断するようにドリブルし
FC東京守備網を破壊します。
右SBの橋本を釣ったところで、大外のコ・ムヨルへのラストパス。
これが決まり、全北が先制します。
ここまで耐えてきたFC東京ですが
後ろ向きの守備が得意でない幸野の裏のスペースを
見事に使われてしまいましたし
橋本も焦って絞った格好となり
大外をフリーにしてしまいました。
442の欠点である、ボランチの前後のスペースを使われたことは前提として
リオ世代である2人の経験の浅さも出てしまいました。
ボランチが本職の橋本がSBに移った結果
幸野も決してボランチでの守備が上手い選手ではないため
守備の穴が2つできた格好となってしまいました。
2つの決定機逸と、不用意なプレーからの失点
後半、立ち上がりからFC東京は反撃します。
カウンターから阿部が中央へグラウンダーのクロス。
これは中と合いませんでしたが
こぼれ球に米本拓司が絡んで、最後は東慶悟がフィニッシュ。
ここは東の決定機逸に終わりましたが
その後、スローインから阿部が粘り、米本へ。
米本がキム・ヒョンイルを交わし、シュート。
しかし、これもクロスバーに阻まれ得点を挙げられませんでした。
この時間帯、FC東京は全北の433の弱点を衝けていました。
全北はインサイドハーフが共に攻撃的な選手で
アンカーが空けたスペースを埋める動きが乏しく
これが前半から続いていました。
特に米本の決定機はそれが出た場面と言え
あわてて出てきたCBを交わしたところまでは完璧でした。
得点を奪うことこそがチームにとっても
また、守備の人・米本拓司にとっても大事なこととはいえ
進歩が見られた場面だったと言えましょう。
ただ、決定機を逃すと苦しくなることは
今さら言うまでも無いことです。
全北はキム・シンウクを投入し、システムも442へと変更します。
これにより、システム上の問題だった守備の穴は埋められ
また、ターゲットマンの投入によりロングボールを増やし
リスク無くボールを前進させることが増えていきます。
こうなると、FC東京は自慢のプレスが発動しにくくなります。
ネイサン・バーンズを投入して3トップ気味にし
再びミスマッチを作ることを試みますが
守備ブロックの枚数が整わなくなったことで
逆襲を食らう回数が増えていきます。
またこの時、3トップ気味にしたことで
ボールを収めたい前田が孤立する場面が増えました。
FC東京は長身のキム・シンウクの前にして
また、前線に起点が作れないこともあり
最終ラインが上がらなくなり、前線との距離も離れ
前線へのサポートも、パスの精度も欠いていきました。
全北の2点目も、攻めに出てボールを失い
逆襲を一旦はクリアしたものの、再度の攻撃を受けた結果です。
FC東京の、劣勢時の攻守におけるマネジメント
またはリスク管理の拙さといった面を
全北にキッチリ衝かれた格好となりました。
その直後、シンプルなワンツーから
阿部がゴールを決めましたが、1‐2での敗戦となりました。
「勝負に徹する」ことはFC東京から失われてしまったのか?
敗戦となりましたが
決定機の数はそれほど差がありませんでした。
グループEの本命と言える全北相手に
アウェイでこの決定機数とスコアであれば善戦と言えましょう。
グループリーグ突破に向けては
決して悪いとは言えないのかもしれません。
しかし、惜しい試合で勝ち点を拾えるかどうかで
カップ戦であれば先のステージへ進めるか
リーグ戦であればリーグタイトルを掴み取れるかどうか
全く変わってくるということは
FC東京に関わる全ての方々がよく知っているはずです。
逸した決定機は2つとも、超のつくものでした。
喫した失点は2つとも、攻めに出ての逆襲からでした。
もっと言うと、不用意なヒールパスからでした。
今日でいう、このようなロストを「少しのこと」とは言いませんが
不注意や不用意と言えるようなプレーは必ず改善でき
そしてその改善は、勝負に徹することで為されると考えます。
しかし、勝負に徹することの重要性は
もう既に前体制で学んだはずです。
フィッカデンティ体制は勝負に徹することがチームカラーでした。
城福体制で求められることは
そこで足りなかったモノを積み上げることであり
何も、それまでのことを無かったことにすることではありません。
日常的に反復しなければならないグループ戦術はともかく
個人戦術や、そういったメンタリティが失われてしまうのであれば
相手なりの試合をすることはできても
FC東京が「勝負弱さ」から脱却することは
到底、夢物語と言えるかもしれません。