「ドウグラス問題」は誰が悪いのか
2016/01/13 11:19配信
カテゴリ:コラム
「徳島が悪い
Jリーグが悪い
日本のサッカークラブの運営の考え方が悪い」
これは、いわゆる「ドウグラス問題」に対する
さる著名なサッカーライターの方の言葉です。
ここでいう「ドウグラス問題」とは
広島所属のFW・ドウグラスの移籍に関して発生した問題を指します。
ドウグラスは今シーズン、広島に所属し
33試合に出場、21得点を挙げ広島の優勝に大きく貢献
Jリーグベストイレブンにも選ばれました。
クラブワールドカップ3位決定戦の広州戦での2得点は
Jリーグファンの記憶に新しいところであります。
ドウグラスの移籍問題
そんなドウグラスは、保有権が広島にありません。
ドウグラスは俗に言うレンタル移籍で
今期、広島に所属していたのです。
ドウグラスという選手は、保有権、正確に明記すると経済権
つまり、移籍金など、発生するお金を獲得する権利を
徳島とブラジルの投資用クラブであるトンベンセFCとで
共同保有という形態を採っている選手なのです。
ただ、ドウグラスをどこのリーグに持っていくかを
決定する権利は徳島が100%持っています。
つまり、ドウグラスの2016年シーズンは
徳島というクラブの思惑によって決定されるのです。
広島が、このチーム得点王を「残留」させたいのであれば
徳島を満足させなければならないのです。
そして、それが難航しているというのが
いわゆる、今回の「ドウグラス問題」なのです。
ドウグラスの移籍金が300万ドルとの報道と
それに合わせて「交渉難航」との報道がなされたのは
2015のJリーグが広島の優勝で幕を閉じた頃です。
しかし、ドウグラスが活躍したシーズン中より
広島は獲得交渉を継続して行ってきました。
ただ、その中身で徳島を満足させることができなかったのです。
つまり、300万ドルの移籍金が出せなかったというわけです。
その中で広島は、レンタル延長も視野に入れての交渉を続けてきました。
それと平行して、中国や中東のクラブが
獲得のオファーを出しているとの報道もありました。
そして1月10日、事態が進展します。
UAEのアル・アインが公式Twitterで
ドウグラス獲得をほのめかすツイートをしたのです。
アル・アインは、元々の豊富な資金力に加え
アサモア・ギャンの中国超級・上海上港への移籍により得た
2000万ユーロを生かし、今回、ドウグラスの獲得オファーを出したのでしょう。
一部報道によれば、移籍金は設定金額よりも多額であるとのことです。
ここにきて、ドウグラスの中東移籍が濃厚となっています。
この事態に対する、さるサッカーライターの方のツイートが
冒頭の文言なのです。
悪いのは「誰」だ
このサッカーライターの方は、米国出身でありながら
日頃から日本サッカーやJリーグを応援する、してくれている
立場を取っていることで有名な方です。
今回も、来期はJリーグ代表としてACLを戦う
ドウグラス流出による広島の戦力低下
また、決勝までいけば、流出先のアル・アインと対戦することもあり得ます。
それらを懸念しての、義侠心によるツイートとする
見方をすることは可能です。
ただ、今回の問題に登場する「クラブ」に
悪いと言われなければならない筋合いはありません。
徳島に「悪い」と言われなければならない理由はあるでしょうか。
クラブにとって選手は商品であり
選手の価値は金額という客観的な数字により示されます。
差し当たってサッカークラブは、お金によって成り立っています。
その部分を否定、蔑ろにすることはできません。
より高く売れる方に売ることは
サッカークラブの経営としては至極当然です。
徳島はその基準に沿って、当然のことをしているに過ぎません。
徳島というクラブにも、守るべきものがあるということです。
広島は悪いでしょうか?
広島に落ち度があるとすれば
買い取りオプションを付けなかったこともそうですが
契約に沿って設定された金額が必要な場面において
その金額を用意できなかったことです。
そのために交渉を続けてきましたが、徳島を満足させることはできず
チーム得点王を残留させるというミッションに
失敗するという危機に直面しています。
ただ、それは広島が「判断」をした結果です。
つまり、クラブの体力も含めて考えた結果
ドウグラスにそれだけの価値が無いという「判断」をしたと言えます。
クラブとして、冷徹な判断をする権利を行使したということであり
広島は悪いと言うこともなく
単にそういった危機に瀕することになっただけです。
そして、意地悪をされた被害者でもありません。
アル・アインが悪いというのは少数派でしょうか?
FWの補強が必要なクラブが豊富な資金力を生かして
バイ・アウトとすることができる金額を提示したにすぎません。
言ってしまえば、買い物をしただけです。
どのクラブも悪くない。
誰も悪くない。
そもそも、どうして誰かが悪いなんていう話になったのか。
そう考えると、この舞台設定をした人間に矛先が向くのは
仕方がないところなのではないでしょうか。
「〇〇が悪い」と断言したこのサッカーライターの方の
この、良く言えば義侠心溢れる
悪く言ってしまえば感情論的論法が
強いて言えば、今回の問題の一番の悪ではないかと言えます。
本当に悪いのは「何」か
最近、サッカーライターの方の感情論が目立つように思えます。
2015シーズンでいうと、岩下敬輔の大久保嘉人への
プロフェッショナルファウルの問題などです。
これらに共通することは
ビジネスやジャッジに関すること
つまり、契約や規則など
曲がりなりにも一定のルール、基準が存在する事柄に対して
評論家、有識者とも言うべき方々が、感情論を展開するという構図です。
評「論」家が感情論を先行させてしまっては
そのクラブや選手との関係を重んじただけの
恣意的な意見を言う人だという見方をされても仕方がありませんし
もっと言えば、煽りや炎上商法と見られてしまいかねません。
自らの立場、業界人としての自覚を大事にしてほしいものです。
とはいえ、そのようなことは、言ってしまえば端物です。
本当に悪いのが「誰か」と言うのは
本音を言ってしまえば、その程度のことです。
メディアリテラシーひとつで片付く問題です。
本当に悪いのは「何か」
これが一番重要であり、言ってしまえば貧乏が悪いのです。
広島というJリーグのチャンピオンチームが
チーム得点王を流出させてしまうことは
広島の財政状況に留まらず
Jリーグ全体の問題としてとらえなければならないでしょう。
例えば予算規模の大きい浦和であれば
流出は避けられたでしょうか。
しかし、競合相手やその提示額を考えれば
浦和レベルのビッグクラブだったとしても
避けられなかったのではないかと考えます。
つまり、今回のドウグラス問題は、結論として
Jリーグの規模を大きくしていかなければならない
そういったことが出てしまうのです。
誰が悪いかということよりも
Jリーグの規模を大きくするためにはどうすれば良いか、ということを
引き続き議論していくことが重要だと
改めて示してくれる、今回の問題だと言えます。