【2015】 戦国時代を勝ち抜いた昇格3チームを振り返る。大宮アルディージャ・ジュビロ磐田・アビスパ福岡 【J2】
2015/12/29 22:11配信
カテゴリ:コラム
巧いだけでは、勝てない―。
それが今年も随所で現れたシーズンだったJ2。
長いシーズンを戦い終え、J2にはJ2の戦い方があったと改めて振り返ることができる。
今季、戦国時代と言われたJ2の戦いは、終盤まで昇格を巡る戦いが続き
大宮アルディージャはJ2頂点に立ち、ジュビロ磐田が自動昇格圏の2位の位置で、プレーオフを勝ち上がり残り1枠を掴んだアビスパ福岡が3位となり
来季J1へ昇格するチームが決まった。
昇格という目標が達成された今、来季のJ1参入に向けてチーム編成や構成、明確なビジョンを持ち準備をすることが必要とされる。
昇格はゴールではない。
スタートと意味することが、J1で戦う上で必要なモチベーションなのかもしれない。
●格の違いを見せつけながらも苦しんだ大宮アルディージャ
J1昇格後、初のJ2降格となった大宮アルディージャは、1年での昇格を絶対的な目標と掲げスタートを切った。
11季ぶりのJ2での戦いは大宮にとっても簡単なものではなかった。
チームの中心である家長が負傷により不在となると、チームの準備してきた形が崩れスタートダッシュに失敗してしまったものの、
家長が復帰すると大宮の持つ速いパス回しに磨きがかかり、J2ではなかなか見ることができないパス回しとドリブルが共存する崩しを得意とし、11季ぶりに戦うJ2を駆け抜けた。
選手たちの持つ能力を家長が理解することで存分に生かし、J2という場で自由にやれる舞台だったからこそ開花した選手も多くいた。
ガンバ大阪がJ2だからこそと我慢しながら起用し、阿部や大森といった選手を育て、J1に返り咲きJ1でのその経験を持って堂々たる戦力として成功しているように、
大宮もJ2という場だからこそ泉澤などその能力に磨きをかけることができた選手が試合を重ねるごとに成長できたことも大きかった。
順調に勝利を重ね、選手たちがチームに自信を持ち、2位以下との差を大きく引き離す時期に入り独走するかと思われたが、夏の終盤から調子を落とし始めると、その苦しい期間が長く続いてしまった。
うまくいかないという時期が続いたことで、J1でも終盤に失速してしまうことの多かった大宮のグレーな空気に包まれることとなってしまうのではないかという不安もあったが、今季の大宮は違った。
チームの雰囲気やモチベーションが落ちるようなことがなく、それを維持するためにチームの盛り上げ役となる経験ある選手たちがチームの士気をコントロールできたことも大宮の強さに繋がっていた。
雰囲気を落とさない中で、うまくいかない「なにか」を追求すべく、チームはあらゆる手を施した。
スターティングメンバーに変化を付けたことで生まれた競争や、出られない選手たちの気持ちを改めて把握した選手たちのベンチワークもチームをひとつにした。
なかなか勝てなくなったことで、ひとつひとつの試合への準備や入り方、モチベーションに変化があり、より大切に一戦一戦を迎えるようになったようにも見えた。
昇格を目前にしながらも、なかなか勝ち点を積み重ねることができず、大きく開いていた2位や3位のチームとの位置も逆転の可能性がある状況にまで追いつめられたが、
この試合だけは絶対に落とせないという極地に立った中で、ホームで迎えた大宮アルディージャを大きく左右することになる一戦にて2失点からの3得点という逆転劇で、昇格そして優勝を掴んだ。
大宮はGKの大型補強など今季新たなる編成で挑んだ一年だったが、シーズンを通してチームとしての成長が大きかった一年となったのではと感じる。
J1の舞台でも何度も経験したことのある終盤の失速は、決して良いとはいえない危機だったものの それでも下を向くことなく、チーム全員で戦った団結があり、今までにない一体感の手ごたえがあった。
うまくいかないことで空中分解してしまう危険もある中で、うまくいかないからこそ、より絆を深め全員で同じ方向に向かって努力した結果が
最後の逆転劇という結果を生んだようにも思える。
大宮がトップを走ることで、相手となるチームがより徹底的に追いかける形で分析を強化してきたことで想定外のことも起こった。
なによりも苦しんだのはアウェイでの芝の状態だった。
J2では個人の質の高さによって繋ぐサッカーをするチームが少ないため、大宮の速いパス回しのサッカーに対応するために様々な策をとっていた。
終盤に目立ったのは、大宮に速いサッカーをさせないための芝の状態の変化だった。
試合前に水を撒くことでボールはよく滑るようになるが、大宮対策として水を撒かずに試合を行うアウェイ戦が増えた。
情報戦もそこには存在し、試合前に水を撒くという情報があったものの試合前になってから撒かないといったアウェイの洗礼を受けたこともあった。
大宮対策として水を撒かないことを決めたチームは、水を撒かない芝で1週間の準備をしてきているチームも存在した。
11季ぶりにJ2での戦いとなった大宮にとっては初めてのスタジアムも多く、芝の状態が良くない情報を把握できずボコボコとボールが跳ねるピッチで速いパスを繋ぐことに苦戦し
足元を一瞬見てプレーすることで遅れが出てしまい、相手のプレスに遭い、ボールを奪われて長いボール一本でディフェンスの裏を徹底的に狙われたことも多々あった。
普段のピッチならばゴールキーパーまでボールが伸び、なんら危険なボールではないようなパスであっても、
水が撒かれず芝も長めで状態も良くないピッチはボールを止め、ディフェンスの裏にピタリと止まるような形でハマり、相手はそれを見越して突っ込みゴールを奪われるという場面も多く在った。
いつも通りにはいかない。
それがJ2の洗礼でもあった。
J1のチームでは速くボールを展開する特質を持ったチームが多いため、相手のサッカーの対策としてピッチの状態を左右することは少ないが
トップの位置で勝ち点を多く重ねる大宮をなんとか止めようと、あらゆる手段を持ってして、相手が準備した結果だった。
ホームスタジアムでの勝利からも遠ざかっていた時期だったため、それだけが一概に原因ではもちろんないが、そういった経験もJ2ならではの経験だったであろう。
独走状態で昇格間違いなしと言われた大宮だったが、リーグ残り2試合となって決めた昇格、そして優勝。
大宮アルデイージャは宣言通りの目標を達成した。
苦しい時期もあったからこそ、たくさんの涙溢れる歓喜となった。
来季は再びJ1に挑戦する。もう二度と降格をするわけにはいかない。
J2で得た強い絆とチーム力を持って、再びJ1に挑む。
●昨年の悔しさを見事に払拭 再建スタートへ ジュビロ磐田
1994年のJリーグ参入以来、一度もJ2への降格を経験したことがなかったジュビロ磐田。
ジュビロ磐田を語る上で欠かすことのできない黄金時代という歴史があるが、その黄金時代の中心的存在だった名波氏を監督に、最少失点を記録し続けた堅守を築いた鈴木氏がコーチに、日本代表でも活躍しチームへの貢献力高いプレーでけん引した服部氏が強化部長にという構成で
再建を担ったジュビロ磐田の2度目の挑戦。
J2一年目は苦しい戦いとなった。
最後の最後で勝ち点を重ねられなかったことで、4位という位置に転落し、プレーオフを戦うと
思い返したくなくなるような結果で、J1昇格への挑戦は終わってしまった。
今季こそは必ずという意気込みで挑んだ今年は、しっかりとキャンプから名波体制でチームを創り、強力な新外国人を迎え、ジュビロ磐田は再びスタートを切った。
強力な外国人勢の活躍は大きく、ジュビロの新しい形として脅威を持ってして進んだ。
ジュビロ磐田にジェイ在り。といったようにジェイがいるといないとでは大きな違いが見える時期もあったものの、
それでも昨年とは違った選手たちの成長による台頭や、チーム力としての向上など、選手ひとりひとりが背負う責任感に違いが生まれたように見えたシーズンだった。
必ずJ1に上がるという強い意志は、昨年の悔しさが育ててくれた強いメンタルとなったことも繋がった。
シーズンを通して常に上位という位置にいた磐田は、安定した強さを持っていたといって良いであろう。
2位の位置を目指していたわけではもちろんない。優勝を目指し大宮の優勝を阻止しようと最後まで詰める戦いをしたのは、一年を通して勝ち点を積み重ねてきた結果だ。
下からの追い上げも脅威的だった。アビスパ福岡がものすごい速さで駆け上がってくるその緊張感と圧迫感に負けることなく
劇的な形で最後を決めることができた結果も、失点しても怯むことのないメンタルの強さが象徴された場面だった。
強力な外国人勢に頼ったサッカーが目立つ前半戦から、後半期には頼るのではなく生かすという融合のサッカーとなり、チームとしての成長があった今シーズン。
念願のJ1復帰を果たした。
ジュビロ磐田は新たなスタートの機会を掴んだ。
黄金時代はジュビロ磐田にとって大きな歴史の一時代であるが、黄金時代を目指すだけがジュビロ磐田の道ではない。
新たなるジュビロ磐田の歴史を創るスタートとなる。
ジュビロ磐田を愛するスタッフたちで構成されたチームだからこそ、目指すはJ1での存在感。
誇るべきサックスブルーがJ1へと復帰する。
●戦国時代の主役となったアビスパ福岡
アビスパ福岡が経営危機となり社長が涙を流し選手たちへの給料が遅配となるかもしれないと訴えたのはたった2年前のことだった。
Jリーグサポーターの多くが応援するチーム関係なく、福岡の支援のためにスポンサー会社で支援販売された明太子を購入したことは記憶に新しい。
当初予定していた数にすぐに達し、追加販売されるなど、アビスパ福岡はJリーグサポーターたちの力も借り、多くの支援企業たちのあたたかく差し伸べられた手によってチームのピンチを切り抜けた。
極地となりクローズアップされたことによって、生まれた支援。
多くの全国のサッカーファンたちに求められるチーム存続のその価値に、企業にもアビスパ福岡が求められていることが伝わったのではないであろうか。
経営危機から一年が経ち、不動産大手であるアパマングループが筆頭株主となると、将来100億円クラブを目指したいと先のビッグクラブを目指す支援を発表。
2015シーズンはJ2戦国時代に突入することとなったが、そこにあえて手を挙げ厳しいシーズンに強力な補強やチームの改革に着手。
アジアの壁と呼ばれ、日本代表のキャプテンとして代表チームを長く引っ張った元選手であり、柏レイソルにてネルシーニョ監督の右腕的存在として指導者経験を重ねてきた井原正巳氏を監督に迎えた。
コーチには新潟から三浦文丈氏、強化部長には新潟の強化部から鈴木健仁氏と、横浜マリノス時代に共にプレーし戦った3人が福岡で集結した。
この3氏揃っての入閣は、選手時代を知る人ならば大きな衝撃を受けたことであろう。
積極的な補強を持って今シーズンを迎えたものの、決して良いスタートは切れなかった。
井原体制となり注目された福岡だったが、リーグのスタート時には3連敗という厳しい現実にぶつかり一時は最下位の位置となるなどスタートダッシュに失敗。
しかし、キャンプ時期から時間をかけながら徐々に井原監督の唱えるサッカーを浸透させ、リーグで試合を重ねるその時間を経て、
得られる勝利を重ねるごとに自信を付け、福岡は終盤驚異的な勝ち点を重ね、上位へと進出した。
14戦負け無し12勝2引き分けという驚異的な結果を持って上位へと食いつきにかかった。
上位に位置した大宮アルデイージャ、ジュビロ磐田にとって、終盤どこが一番こわい存在だったかと問われると、迷いなくアビスパ福岡と答えるであろう。
それほどに下から追い上げる強い威圧感を持った追い上げだった。
プレーオフ枠となる3位から6位までの勝ち点差でも福岡は圧倒した数字を残した。
3位のチームながら勝ち点82というのは立派な昇格ラインの勝ち点であり、4位セレッソ大阪との勝ち点差は15。
それだけ勝ち点の差を持ってしても、プレーオフに出て3位の枠を勝ち取らなければならないというシステムに疑問を感じてしまうほどの差だった。
プレーオフという戦いは、すべてをフラットにして戦うことができるかに懸かっているといっても過言ではない。
リーグ戦の勝ち点差など気にせず、一度フラットにして挑戦者の気持ちで戦わなくてはならないという強いメンタルが必要となる戦いである。
プレーオフ一回戦は強い福岡ながらも、やはり厳しい一戦となった。
同じ九州勢対決ということもあり、緊迫した一戦となったが、プレーオフの戦い方というのは一発勝負だけに難しく、なにが起こるかわからない危険性を含んでいる。
しかし、消極的になってしまうとどんどん時間が過ぎてしまうため、難しい。
積極的に行きすぎても、リスクも生まれてしまう、経験値が必要な戦いだった。
その戦いで、1点の重みを持って勝利を収め、決勝へと進出を決め、
プレーオフ決勝は戦国時代の中で優勝候補の一角であったセレッソ大阪との戦いとなった。
セレッソ大阪は技術という質の部分では圧倒的といって良いほどの個々の質が高いチームであり、リーグ戦2戦で福岡が勝利していたといっても、どちらも1-0という緊迫した試合であったこともあり、経験値としても高い選手が揃う嫌な相手であったはずだ。
エースであるウェリントンが抑えられ、攻撃になかなか迎えず得意のカウンターも静かな時間が続く。
決定的なシーンを作ることも難しく、少ないチャンスの中でどう自分たちのゴールを奪うかが焦点だったが
先に失点したことで、嫌な雰囲気が流れかけた。
しかし、一瞬の出来事だった。
もう一度打つとなると難しいであろうという、気持ちと気迫でゴールへと向かったボールはゴールネットを鮮やかに揺らした。
同点へと追いついたそのゴールで、やっと3位という位置、積み重ねた勝ち点のアドバンテージを感じることができた瞬間となった。
スコア的には1-1。しかし勝ち点差15のアドバンテージがここで生きた形となり、アビスパ福岡の昇格が決まった。
5季ぶりのJ1昇格だが、今まで戦ってきたJ1とはまた違ったアビスパ福岡の挑戦となりそうだ。
これほどまでに世の中に衝撃を残し強さを発揮し、J1に昇格した過去はない。
3位というチームの印象ではなく、J2の主役級となったチームは井原体制2年目を持って、J1でどんな戦いを見せてくれるのであろうか。
J2から昇格する3枠の3番目で昇格したチームの降格が続いているが、アビスパ福岡は違うというところを示してくれるのではないかと期待できるチームである。
J2で今季強かったと感じるのは大宮も磐田ももちろんだが、特に福岡の強さが目立ったシーズンだったと感じる。
戦国時代と言われるJ2を 本当の意味で戦国時代としたのは、アビスパ福岡だった。
来季はJリーグ始まって以来初となる2月下旬の開幕となる。
始動はどこも早く、準備期間を有効に使うことで一年を戦うチームの土台を作ることとなる。
J2戦国時代を戦い抜いた3チームが、来季その経験を持ってJ1でどんな戦いを魅せてくれるのであろうか。
2016シーズンのJ1での戦いに期待したい。