CHANT(チャント) 鹿島アントラーズ

【鹿島アントラーズ】 首位に勝利した鹿島サッカーの「らしさ」。勝利へのこだわりと受け継がれる魂 【J1】

2015/08/13 22:03配信

Tomoko Iimori

カテゴリ:マッチレポート


東アジアカップ開催で中断されていたJ1が、2週間ぶりに再開となり、J1セカンドステージ第6節が行われた。
セカンドステージ、そして年間首位を走るサンフレッチェ広島がホームに迎えたのは、セカンドステージ途中で監督交代があった鹿島アントラーズ。

セカンドステージ唯一の5連勝で首位を走るサンフレッチェ広島だったが、この試合で勝利を掴んだのは、鹿島アントラーズだった。
攻撃の回数やボールを持つ時間を考えて試合を握っていたのは広島だったように見えるであろう試合だったが、鹿島だからこそ持っている「勝負にこだわる戦い」が見えた試合となった。


●待っていた一瞬のチャンスをモノにした鹿島

序盤から試合は広島ペースで動いていた。
ボールを広島が持つ時間帯が長く、何度も鹿島陣内に入りゴールを狙い攻撃を仕掛けた。

広島のサッカーは守備をしっかりと固めた上で、ボールを奪うと早い仕掛けから、ゴールを狙っていくサッカーだ。
縦に速いサッカーであり、全員守備全員攻撃を仕掛けることに優れている。
この試合でも序盤から広島サッカーを展開していた。

中盤からは青山が最前線にいる佐藤寿人の動き出しと阿吽の呼吸でボールを出し、チャンスを作る。
サイドからは柏やミキッチが仕掛け、特に柏は勝負をかけると切り込み攻撃性のあるクロスを正確に送る。
多彩なバリエーションがある速くゴールに向かうカウンター攻撃を展開し、守備の面では森崎和幸と青山敏弘の位置や、高くラインを上げた広島守備陣が鹿島のボールを奪取することが多かった。

決して展開的には鹿島のサッカーができているわけではなかったが、鹿島が目指したものは自分たちのサッカーを展開することに固執したわけではない。
固執していたのは「勝つこと」。その一点だった。

少ないながら何度か鹿島にチャンスが生まれる中で、広島から1点を早い時間帯に獲りたかったと鹿島は踏んでいたのであろう。
試合後の石井監督のコメントからもプランを持っていたことがわかる。
そのプラン通りに、セットプレーから山本が押し込み先制に成功した。
先制するとそこから守備にかける時間を長くし、前半を終了。

その後も、守備を中心とした展開を続け、広島が疲れてきたところで攻撃に出る時間帯や慌てずにボール回ししながら選手の体力保存の時間を作るなど
リスクが大きくなるような攻撃は避け、1点のリードを守ることを絶対とするサッカーを展開した。
広島のスピードスター浅野投入後すぐに、浅野がトップスピードで仕掛けシュートを放ちクロスに当たるということもあったが、
浅野のスピードと飛び出し、ドウグラスの身体能力の高さから放たれるシュートに警戒を続け我慢強く守備を続け1点を守りきり
鹿島が勝利を掴んだ試合となった。

この試合の前は、2週間の時間があった。
鹿島は石井監督に監督交代をしてからはじめて長い時間をチームの練習含め、これからの戦いに時間を費やすことができた期間だったであろう。
首位広島戦に向けての時間は充分にあった中で、しっかりとした分析をし、勝つためにはという最良のプランを持って、試合に挑んでいたことが分かる試合だった。

好調サンフレッチェ広島は今、素晴らしいサッカーを展開しているが、唯一の弱点があるとすれば
ミラーゲームとなることであろう。
早い時間に先制し、その後リスクを回避しながら次の得点を狙いに行く中で、その1点を守るサッカーをする。
相手が守備を固めた中で、カウンターを得意とする広島がその壁を破ることは、容易ではないからだ。

もちろん広島も打開策は持っていないわけではない。
広島はリーグ二連覇を達成し、追われる立場となったことで各チーム打倒広島という形となり、広島のサッカーは丸裸にされ分析を尽くされた。
森保監督はそれを理解した上で、チームに肉付けを続け、さらに熟成させるため、プラス要素を用いて広島サッカーを前進させている。
たとえ相手が引いたサッカーをしてきても、どうにか打開できるような策をあらかじめ準備しタイトルを獲った選手たちが多く残っている広島だからこそ戦い方の判断が選手たち自身ができることろも今の広島の強さに繋がってるところがある。

しかし、この試合では決めきれなかった。
それが敗因として大きな理由となったことは間違いない。

●勝つことにこだわりを持つ 鹿島サッカーの原点が見えた

鹿島は少ないチャンスであることを想定して入ったゲームだったであろう。
絶対に先制点を獲らせてはいけない、そして少ないチャンスであっても先制点を獲る。
この広島対策が出せた試合となった。

その1点を死守しなければならないと、勝つためならなんでもやるというゲームを展開した。
鹿島の赤崎が執拗に広島・水本に何度も当たりにいったことも、勝負にこだわるためだったであろう。
水本は普段は冷静な選手であるが、赤崎の当たりに冷静さを珍しく失い、何度も主審に言い寄った。
それでも続けた赤崎には、水本の怒りもチャンスに繋がると踏んだ狙いがあったように感じた。
そのプレーを「汚い」と表現する人もいるかもしれない。
しかし、あれこそがジーコスピリッツが伝わる鹿島のサッカーの部分である。

フェアプレーを誓う選手たちだが、サッカーは騙し騙されのスポーツである部分もある。
フェアプレー精神はもちろん必要だが、時に人間の感情を揺さぶり、思考を騙したりするプレーも必要となるのがfootballだ。
鹿島はそれを知っている。南米サッカーを尽くしたジーコの教えがあるからだ。

鹿島の重なり合いぶつかり合う守備に、広島の一部の攻撃陣もイライラを募らせていた。
自分たちが決めきれないことへのイライラと鹿島の粘り強い守備へのイライラ。相手を冷静な状態でなくすることも鹿島の手中となった部分だった。
そういった試合での勝ち方を知っているという、鹿島アントラーズの強さが出た試合だった。

試合は広島が握っていたはずだった。
しかし、勝ったのは鹿島アントラーズ。

90分という試合の中で、強いサンフレッチェ広島をどのように攻略すべきかをしっかりと踏まえ
その上で、勝つためにやることはすべてやるという鹿島の魂を感じる試合となった。


トニーニョ・セレーゾ監督が解任となり、鹿島史上二人目の日本人監督となった石井監督になってから3連勝。
鹿島アントラーズは首位広島を破り、セカンドステージ2位の順位まで上がってきた。

今まで練習ではスライディングを禁止していた鹿島だったが、石井監督はスライディング禁止を解いた。
練習から厳しい当たりをし、真剣勝負で競争をすることで強くなってきた鹿島のスタイルに戻した形だ。
リスクを回避するのではなく、まずはチームでどこよりも激しくぶつかることで強くなる。
そこで生まれるずる賢さや、当たりの強さ、絶対に負けないというメンタル。
激しい練習を導入したことで、より鹿島のサッカーに覚悟が生まれつつあるのかもしれない。

試合の内容だけでサッカーは成り立たない。
どんな内容であっても勝利を獲ることで、勝ち点が重なりタイトルに進むことができる。
とりこぼす勝ち点の大きさ、重ねる勝ち点の重要さを 鹿島は経験上知り尽くしているのだ。

ファーストステージ8位。
通常のチームであれば監督交代ということには結びつかない順位であろう。
タイトルが獲れない期間が長くなってしまった鹿島にとって、いつでもタイトルを獲りに行く鹿島でなければならないと変化を決断し監督交代に踏み切った。
鹿島の魂を選手として指導者として長い時間を経て経験を重ねてきた 石井監督が「鹿島らしさ」を持って、まだタイトルを知らない選手たちに勝つ術を植え付けている。

セカンドステージのタイトルを獲りに行く。
そんな覚悟が見えた試合だった。


どんな手段を使っても勝つ。それが鹿島のサッカーだと思い出すこととなる 90分だった。

Good!!(100%) Bad!!(0%)

この記事も読んでみる