川崎vs甲府 似て非なる「ザル」
2015/04/30 15:41配信
カテゴリ:マッチレポート
明治安田生命JリーグはJ1、J2、J3と全てがGWの連戦に突入します。
ここから中2日、中3日
そして一部のJ1チームはリーグ戦だけでなくACLも挟んで
漏れなく計5戦を戦うという厳しい日程です。
なぜこのような厳しい日程を組むのかといえば、土日祝日が固まっているからです。
是非ともこれを機会に、各チームの観客動員が伸び
出来れば定着することが望ましいですね。
少なくとも日程は見る側の都合に合わせられていますが
肝心の試合の内容と結果はどうなることでしょうか。
観客動員数という数字に良い影響をもたらすような試合を期待したいところです。
川崎と甲府、2つの「ザル」
さて、Jリーグの中でそんなチームは少ないのではないでしょうか。
その数少ないチームのうちのひとつであろう、川崎フロンターレ。
試合内容で客を呼べるサッカーをしているともっぱらです。
サッカー観戦の醍醐味であるゴール
今シーズン、それを最も多く重ねているのが川崎というチームです。
ゴールから逆算された動き、パスを重ねる攻撃的な選手達は
風間八宏監督の理論通りに相手の守備ブロックを崩します。
反面、守るのはどうも得意ではないようです。
レギュラーと言える選手の中で、ディフェンスに特徴のある選手が
どれほどいるというのでしょうか。
そして、守備の弱さは選手のせいだけではありません。
守備を無視した戦術、守備のメカニズムの無さにより
いったんボールを保持されてしまうと
簡単にシュートチャンスを相手に与えてしまいます。
しかし川崎のザル守備は、半ばそのスタイルの副作用であるということです。
あえてザル。
攻撃でも守備でもハラハラドキドキ。
「サッカーの中身で客が呼べる」川崎のスタイルとして
このJリーグの中でキャラが立っていると言えるでしょう。
対して甲府
前年まで指揮を取った城福浩監督が退任しました。
後任は前年まで横浜で指揮を取った樋口靖洋監督です。
監督交代でありがちなのは、戦術が一から構築し直しになってしまうことです。
甲府もそれに近い状態と言えるでしょう。
そして、良いところはリセット、悪いところはそのまま
そういう状態が続いています。
つまり、例年ほど守れず、例年どおりに点が取れない
こういうことになります。
こちらも、守備はザルと言わざるを得ません。
そして川崎と違うところは、攻め手が無いのに守備がザルだということです。
甲府の532システム
甲府のフォーメーションは守備時に532のブロックを作るものです。
最終ラインに5枚並べることで、人海戦術で守ろうというのは
Jリーグでは少数派のやり方ではありません。
現に甲府は、前年まで指揮を取った城福監督によって
「人は城 人は石垣 人は堀」とでも言うかのような
541のブロックによる撤退守備で残留を勝ち取ってきました。
前任の横浜では、主にハイラインの442を敷いていた樋口監督は
城福監督の撤退守備を踏襲しませんでした。
これは一般論ですが、541でハイラインというのは敷きづらいのです。
なぜかというと、541では相手のボールの出どころにプレスに行きにくいのです。
プレスに行かなければ、ハイラインの裏を突くパスが出やすいからです。
なぜプレスに行きにくいのかというと、人数が後ろ比重だからです。
プレスに行きたいのであれば、予め、前に人数を配置しなくてはなりません。
また541では、1トップが起点になりにくいのです。
541ですから自然と、起点も低い位置になりがちですし
フォローの少なさから、起点になって時間を作る機会も減ります。
その時間とは、ラインを上げ、整える時間のことです。
つまり、攻撃の時間が増えません。
人数がかけられないので、攻め手が限定されることになります。
かといって442では守りきれないということを、樋口監督は知っています。
2013年シーズンの甲府は、城福監督のもと4バックでスタートし
8連敗を喫した後に、5バック撤退守備を導入したという甲府の歴史は
当然、樋口監督も知ってはいるでしょう。
樋口監督に無いのは、442を仕込む腕か時間か。
とにかく、ここは甲府であり、中澤祐二、マルキーニョス
そして中村俊輔のいる、あの横浜Fマリノスではないのです。
ということで導入したのが532というわけです。
最終ラインは枚数を揃え、中盤の人数を削り前線に2枚配置。
これにより、プレスと攻撃の枚数を確保
樋口監督念願のハイラインを敷ける状況が整ったかに思えました。
しかし現実は非常です。
甲府はハイラインの良さ、すなわち前線からのプレスも繰り出せず
かといって撤退しているわけではないので簡単に裏を取られる
といった現象が続きます。
最も象徴的なのは4節のFC東京戦の失点です。
前線で起点を作り損ない、セカンドボールを拾われて、縦一本。
切り替えは遅く、出どころにプレスに行けていません。
そしてこれほどまでに綺麗に裏を取られる、DFラインの設定の意識が乏しい
チームが後ろに人数をかけて、何か良いことがあるのでしょうか。
起点を作り損なったという攻撃面での問題と合わせて
攻撃も守備も出来ないチームとなっているのが今の甲府です。
思い通りの川崎と、ボールの取れない甲府
川崎対甲府のこの試合は、川崎の強さと甲府の弱さが出た試合になりました。
川崎がボールを保持した時、甲府はせっかく前線を2枚にしたので
前からボールを取りに行きます。
しかし、川崎がボトムチェンジして最終ラインを3枚にすると
数的不利の上、川崎は技術で上回るため、あっけなく交わされてしまいます。
むしろ2枚が前から取りに行くものの、後ろが付いて来ず
前と後ろとの距離が大きく空いてしまうのがこの日の甲府でした。
川崎は数的優位の作れるサイドを使ってボールを前進させ
裏を狙っては相手を押し下げ
甲府の大きく空いた2トップと3センターの間のスペースを使い
甲府の守備ブロックを散々に動かします。
前半38分の大久保嘉人の先制点は、若干オフサイドのような気もしましたが
そもそもそういう問題ではありません。
最終ラインはバラバラで、ボールホルダーの中村憲剛にもプレスがありません。
その後も、点にはならないものの、数々の決定機を作り出した川崎は
2点を追加し、3‐0として試合を終えました。
言うまでもなく守備のまずさから喫した1失点目
ビルドアップでのロストから決められた2失点目。
攻守ともに機能していないと指摘するに、十分すぎると言えるでしょう。
弱点のほぼ出なかった川崎と、良いところ無しの甲府
クリーンシート達成の川崎
懸念のザルさは、ほぼ出ませんでした。
しかしそれは上記でもある通りに、甲府の攻め手の無さによるものです。
前半30分の阿部拓馬の頑張りからのクロス
大外右WBの松本大輝が合わせたシーンでは
簡単にボールを前進されすぎなのではないかと思いました。
守備時のフォロー、カバーリングが効果的と言える場面が少ない印象です。
また、相手2トップが起点となるべくボールを引き出した際の
川崎守備陣の寄せの甘さも気になりました。
甲府以外の相手との試合の時は、相手のポジショニング次第で
起点を簡単に作られてしまうかもしれません。
現に、阿部拓馬とアドリアーノは何度もボールを前進することに成功しています。
甲府の攻撃の手数の無さを考えると、不安の残る守備と言えます。
また、セットプレーの守備も相変わらず課題です。
この日の唯一の被決定機は前半24分の相手CKによるものでした。
対する甲府は、なかなか良いところが見出しにくい敗戦でした。
ただ、良さを出せばJリーグでもピカイチの強さを誇る川崎が相手だったこと。
それを考えれば、切り替えるしかないことに気付くはずです。
「2トップが頑張る」
「最終ラインが人数をかけて守る」
この2本立てで、どれだけ勝ち点を積み上げられるでしょうか。
攻守において再現性の無い試合展開が多くなりそうです。
例年以上に辛い戦いが続きそうです。