CHANT(チャント) 日本代表

うまいと強いは違うと教えてくれたハリルホジッチジャパン

2015/04/02 21:26配信

ユッキー8番

カテゴリ:マッチレポート

2戦2勝 謙遜の必要がない完勝

大分でのチュニジア戦に続く、ハリルホジッチジャパンの2戦目。

ブラジルワールドカップ予選で1分1敗だった苦手ウズベキスタンを5対1と軽く一蹴して見せた。

痛快な圧勝劇だったと言っていいと思う。

そう見えた理由は、5点入った得点シーンがどれも余りに見事だったためだ。

個性光る見事なシュートでの5得点

先取点は試合開始早々の前半6分。コーナーキックをゴールキーパーがパンチングした先にいたのが青山敏弘だった。

こうしたシーンはJリーグでもよく見かけるが、ダイレクトで打ち返されたシュートはクロスバーのはるか上空を飛んでいくか、あらぬ方向へ飛んでいってしまうことが多い。しかし、青山は落ち着き払ってボールをジャストミート。ややアウトに掛かったボールはゴールキーパーの左手から逃げるようにゴール右角に突き刺さった。東京スタジアムが弾けた瞬間だった。

後半は大量4点。まずは9分に岡崎のダイビングヘッド。太田宏介からのクロスだった。

後半34分にはキーパーが飛び出してきたのを見ての柴崎岳の42メートルロングシュート。

無人のピッチを転がったシュートに猛然と走り出したのは相手ディフェンダーと岡崎慎二だった。岡崎はボールを守るようにして相手をブロック。柴崎のゴールを「アシスト」した。スロー再生で見ると相手ディフェンダーはぎりぎりボールに追いついており、岡崎のブロックがなければクリアされていただろう。これには、柴崎も満面の笑みで岡崎に感謝の気持ちを表していた。試合後のインタビューで岡崎は「ドイツだったら触ってた」と自分のゴールにするところを敢えて柴崎にゴールを譲ったことを明かしていた。

その4分後、失点を挟ん宇佐美貴史のドリブルシュート。ディフェンダーの枚数はいるのに、敢えてディフェンスとディフェンスの間にドリブルで割って入り、スピードで抜け出してのシュート。次元の違うスピードとテクニックを見せた。

そして、最後はコーナーくずれから青山の戻しをヘッドで押し込んだ川又堅碁。どれも、個人のスキルを存分に生かしてのゴールだった。

大量得点は相手の足が止まったからではなかった

後半の4得点には、偶然ではない要素が隠されていた。ハリルホジッチ監督は、「守備ブロックを前半は高く、後半は低く設定した」と説明している。

後半には、敢えて守備ラインを持ち上げないことで相手に攻め入るスペースを与え、自陣に引き込んでから、ボールを奪って速攻につなげる作戦だったことを明かしたのだ。相手を引き込むことで敵陣にスペースを生み出し、そこを効果的に突いたことが大量点につながったという解説だ。それも、狙ってやったことで、それこそがタクティクスだと胸を張った。「肉を切らせて骨を断つ」戦術である。相手に攻め込まれるのを嫌う日本代表を「ナイーヴ」だとも表現した。点が取れると「相手の調子が万全ではなかった」という論評が流れることが多いが、今回は違う。カウンターを仕掛けるスペースを作り出すためにディフェンスラインを下げ、大量点に結び付けているのだ。縦への意識付けをしておいて、たてのスペースを空けさせるべくラインを下げる指示もする。見事な采配というほか無い。

見事に下がったポゼッション、その分縦へ

それを裏付けるデータが4月2日付「日刊スポーツ」に載っていたので紹介したい。表をご覧いただきたい。

縦へのパス 横パス バックパス ポゼッション

ブラジルワールドカップ(ザック) 34% 52% 13% 56%

アジアカップ(アギーレ) 32% 54% 15% 61%

ウズベキスタン戦(ハリルホジッチ) 42% 44% 13% 45%

ハリルホジッチになってから、ボールポゼッション率が下がり、縦へのボールが増えたことが一目瞭然である。

効率良く前へボールを運び、素早くシュートに結び付けているので、ポゼッションは下がったが、相手ゴールに向かう姿勢、つまり縦パスが増えているのだ。逆に、これまでの攻撃は横パスを挟むため、どうしても相手ゴールに近づくのに手間と時間がかかり、相手が守備陣形を整えてしまうため、崩しにひと知恵もふた知恵も必要だった。

引いた相手を崩すには、熟成したコンビネーションが必要になるし、アイデアも必要になる。だが、こんな試合が就任わずか2試合目でできるのだ。

手数を掛けないというと手抜きのように聞こえるが、相手の陣形が整う前に相手陣で数的有利が作れれば、それに勝る攻撃はないのだ。

競ったら勝てない、が日本サッカーの原点 だがそうではないのでは

高さ、強さ、速さといった身体能力で劣る日本人は、ボールを放り込んで勝負するサッカーでは勝てない。

日本のポゼッション信仰には、そんな自国民の遺伝子的特性への劣等感が内在していた。

しかし、球際で競り勝って、相手が戻るより早く攻撃してしまえば、無用な勝負を避けることができる。

ハリルホジッチはそんな、新たな勝利の方程式を示してくれたと思う。

「テクニックはあるけど、決して強くはない」。強豪国から日本代表に張られたそんなレッテルを、見事にはがしてくれたハリルホジッチ。

うまいだけじゃ勝てない。うまいのと強いのはまた別。そんな陥穽に落ち込んでいた日本代表に、強くなるにはどうすればいいのかを明快な形で教えてくれたウズベキスタン戦だった。

サッカーが「強い」とはどういうことなのか、強いサッカーとはどんなサッカーなのか、就任2戦目で解を示してもらった。

私たちは、アギーレショックを経て、今の日本に必要な、最良の監督にめぐり合えたのかもしれない。

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