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【ガンバ大阪】 遠藤保仁 羽ばたく鳥が魅せる魔法 【後編】

2015/02/20 12:17配信

Tomoko Iimori

カテゴリ:コラム


2014年。
ガンバ大阪がJ2から帰ってきた。

数々のタイトルを手にした経験があるガンバ大阪が、J2に降格したのはJ史上に残る衝撃的な出来事だった。
J2の各会場では入場者数が過去最高となったところもあり、日本全国各地の人々が会場に足を運んだ理由は 遠藤保仁を観るためだった。

J2優勝という結果でJ1に戻ってきたガンバ大阪は、復帰後一年でタイトルを3つ獲得した。
すべての頂点に立ったガンバ大阪は 日本一のクラブとなった。

●見える世界は真上から。遠藤が持つ世界観と積み重ね続ける歴史

遠藤と一緒にプレーをする選手たちは、遠藤に厚い信頼を置く。
ボールを預けたいと思う選手、ボールを託したいと思う選手の名に遠藤を挙げることが多いのは、遠藤がピッチ上でどれだけの存在であるかがわかる。

最後方からゲームを作る上でもディフェンスラインの前まで顔を出し、ボールを運ぶ役割に手を上げる。
前の状況を判断しながら、絶妙なタイミングで配球することや、時間をかけてじっくりと陣地でボールを回しココというところを待って最後の一手を入れることも。
遠藤が入ることで攻撃が遅くなるという意見も存在するが、そうではない。
遠藤は速いボールも出すことができ、速いボールで決定機を演出することもある。
しかし、攻撃は速いだけで良いわけではない。
あえて遅く効果的な攻撃を組み立て、組織として崩すことで生まれるものもある。
速いだけでもダメ。遅いだけでもダメ。
常に相手の展開力以上の戦術眼で、試合を左右することができる。
時にビルドアップをする時の中心となり、時に攻撃のスイッチとなるボールを出すこともでき、時に触るだけで良いというラストパスも演出し、時に自らゴールを生むこともできる。

遠藤には試合が見えているのだ。

遠藤は海外の選手の名前を挙げて こういった選手になりたいというわけではなく
理想像として「鳥になりたい」と表現した。

鳥のように試合を上から見てピッチ上にいる20人を支配したい。

それが遠藤保仁が求める理想なのだ。

遠藤にとって運命の出会いの一人とも言われる岡田武史氏も、そういった遠藤の視野を天才という言葉を使って表現している。
試合を真上から見ているような図式が頭の中では常に存在する。
近年、ピッチサイドに席を設けるクラブも増えてきたが、ピッチサイドの席で観たことがある方は見たことがあるであろう。平面でプレーする選手たちの視界は角度のある観戦席から観る試合とはまた全然違った感覚となる。
選手たちの多くが小学生時代からプレーヤーとしてサッカーをしてきただけに、平面でプレーすることがサッカーを上から観る感覚よりも鋭く身体に刻まれているが、遠藤は平面と真上からの状態がイコールで繋がっているのだ。

そして試合でプレーをしながら相手選手の速さも頭の計算に入ることとなる。
特にディフェンダーの動きに関しては、自身のチームの選手の速さと守備をしている相手選手の足や動きの速度を想定して、自身のチームの選手だけが追いつけるような位置にボールを配球する。
相手の歩幅や足の速さ、判断の速さが遠藤に「感覚」としてインプットされることで、その選手の苦手なところを瞬時に判断し、それを突くことができるのだ。

日本代表として世界を一番知る男だ。
しかし、彼は日本でプレーすることにこだわりを持っている。

世の中に出たよりも多く、遠藤の元には海外クラブからの接触があった。
海外に行くチャンスは結果を出せば出すほどに、遠藤の元へ届いた。
35歳を迎えた今でも、遠藤が海外に行きたいと思えば獲得したいというクラブは存在することであろう。

しかし、遠藤保仁が選んだ道はJリーグでプレーすることだった。
日本でプレーすることにこだわったのだ。

その理由は、Jリーグでもこれだけできるということを証明したかったから。
今サッカーをしている少年たちや若い世代に、Jリーグでも問題ないという示しになりたかったから。

海外組は常に世界という舞台の中で戦っている。
世界有数のリーグはJリーグとは比べられない選手たちの質の中で、大規模なチーム運営、そして長い歴史やサッカー文化。
すべてがまだまだ日本はサッカー発展途上国ながらも、その中でも確立できるものがあると遠藤は証明し続けている。

世界を経験するのは代表だけでも、その中でトップでいられる。
それが遠藤保仁が刻みつづけている「歴史」だ。

J1のトップクラスであっても、日本代表の試合を観るとパススピードから判断の速さ、ボールの流れや展開、判断、足元の動き
すべてにおいてスピードががらりと変わる。
それでも遠藤は常に中心に存在し、そのスピードを創りあげる中に存在する。

日本代表に海外組の選手たちが年々増えていったが、それでも現在遠藤を選出した日本代表監督は5人。
どんなサッカーでも遠藤は選出され続けてきた。

どんな状況でも遠藤の理想は変わらない。
鳥となって、ゲームを支配したいのだ。


●劣ることのない絶対的な存在感 努力をする天才

ブラジルW杯が終わり、新しい日本代表が発足した。
その中に遠藤の名はなかった。

ザッケローニ前監督の象徴のひとつともいえる、遠藤保仁の招集は避けられたのか名前はなかった。
しかし、選ばざるを得ない状況にしたのは、遠藤保仁の能力だったであろう。

ブラジルから帰国した遠藤は、ガンバ大阪の快進撃の中心にいた。
ここ数年の遠藤のプレーの中では一番キレているのではないかと感じさせるほどに、遠藤は試合をコントロールし続けた。
その結果、ガンバ大阪にはたくさんのゴールが生まれ、試合を支配するゲームが多くなった。

W杯前、今までのサッカー人生の中で一番痛いと感じるほどに、身体はピークを迎えていたが、W杯で突き付けられた現実が遠藤の限界をさらに引き延ばした。
試合に出ながら治すという遠藤の怪我の治し方はさらに遠藤を進化させた。

ガンバ大阪は昨年、強かった分、他のクラブよりも多くの試合をこなした。
1週間に2試合なんて当たり前といったような試合が続いたような時期もありながら、遠藤は試合に出続けた。
タイトなスケジュールの中でさらに日本代表に選出された。

遠藤のW杯で感じたもの、悔しさ、経験。
それはガンバ大阪を強くした。
遠藤が躍動すると、呼応し連携し他の選手たちの結果も出るようになる。
選手の100%を120%に引き出すことができる。

その力は、羽ばたく鳥から出る魔法のようだった。

日本代表に再び選出されると、長く戦ってきた仲間たちが多く存在する日本代表の中で、遠藤は存在感をしっかりと示した。
復帰となったホンジュラス戦。
サッカー関係者から見ても、選手たちから見ても、サポーターたちから見ても、試合は遠藤の試合となっていた。

遠藤がいることでこんなにも違うものかとたった一人の存在で、改めて突き付けられるという表現が似合うほどの衝撃を生んだ。
遠藤保仁の代わりはまだ存在しない。

近年、若手主体のチーム作りや若手選手を育てるためにと、わざわざチームでベテランを切り捨て若手にポジションをチーム側が明け渡すような手法が目立つ。
もちろんそれは表向きであり、予算の関係が大きく左右していることも背景にはあると思うが、それでもベテランがまだ必要とされている中でまだその選手のポジションを若手自らが奪えていない状況で、チーム側が明け渡すのは何かが違うと感じている人も多いのではないだろうか。

ポジションは奪うもの。
それはベテランだろうが若手だろうが関係ない。
用意された場所を待つのではなく、自らがガツガツ奪いに行くところだ。

遠藤もまだまだポジションを譲る気はない。
自分を抜く存在が現れるまでは。
日々どっかりと座ってポジションを譲る日を待っているのではない。
簡単に超えられないように、遠藤保仁はまだまだ進化を続けるよう経験と努力を重ねているのだ。

年齢が何歳になろうが、やれていれば問題はない。

出来る選手か 出来ない選手か

選択は2択なのだ。


遠藤保仁。35歳。

今年35歳を迎え、プロとなり18シーズン目を迎える。
まだ衰えてはいない。むしろ今まで重ねてきたどのシーズンよりも劣ったことはない。
常に進化し、世界を知り、さまざまな国のたくさんの選手と対戦することで遠藤の脳内データは増えていき、経験となり、生かされる。
そんな発見を楽しみながら、遠藤は日本のサッカーを動かす存在として、在り続けている。

遠藤保仁はサッカーを知らない人間でも知っているような存在で
日本サッカーを象徴する人物の一人だ。

遠藤はガンバ大阪でプレーし続けている。
国内にこだわりを持つことはガンバ大阪でプレーすることへのこだわりだ。

国内の他クラブかどんなに高額な金額を積んだとしても、遠藤はガンバ大阪でプレーするであろう。


遠藤保仁は全身全霊で

ガンバ大阪が好きなのだ―。


ガンバ大阪は遠藤にとって3チーム目となったクラブだ。
しかし、生え抜き選手たち以上の愛情と責任、存在すべてにおいてガンバ大阪を誰よりも背負っている。

プロシーズン18年目の遠藤保仁が魅せる 今年のガンバ大阪、そして日本サッカーはどんな世界であろうか。
遠藤の思い描く理想像に出会えるのだろうか。


2015初戦となるACL開幕戦まであと、5日―。

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