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予算の壁は厚いのか プロビンチャの限界 ~クリスタルパレスとサガン鳥栖~

2014/08/15 13:43配信

武蔵

カテゴリ:コラム

青天の霹靂・クリスタルパレス

昨日未明に発表された、EPL・クリスタルパレスのトニー・ピューリス監督の辞任。昨季、リバプールのブレンダン・ロジャーズ監督とともに年間最優秀監督賞を受賞した監督の元、クリスタルパレスは残留どころか望外とも言える成績を残したワケで、当然、成績面の不振からくる解任ではないことが分かる。


また、EPL開幕戦であるアウェイのアーセナル戦を2日後に控えた時分の出来事であることから「あ、何かしら揉めたんだな。」と類推することが出来る。


未だに、それほど判断材料が出てきてはいないが、この時期の話なだけに、自身の待遇ではなく補強の問題だろう。現に漏れ伝わるのは、ナポリに敗れたミチュの争奪戦や、スウォンジーへのレンタルバックと相なったギルフィ・シグルズソン争奪戦の結果にピューリスが不満を残した、という話だ。

しかし、パレスの予算規模を考えると、補強に支障が出るのは致し方ないと言える。ましてやそれが他クラブとの争奪戦となればなおさらだ。パレスの予算規模はEPLの中でも最低で、パレスの選手給与額は、EPLにおけるそれの平均の半分だとする資料もある。

だからといって、それが選手や監督を繋ぎとめるエクスキューズになり得るかといえば、大半はそうではない。それらの人材は、待遇に不満があれば移籍をすることになるし、それを人々はステップ・アップと呼び、「序列の定まった国やリーグ」においては、多少のやっかみとある程度の温かいブーイングと共に受け入れられる。


では、パレスは、その昨季の年間最優秀監督にして、11月に就任するまで12試合で勝ち点を7しか挙げられなかったチームで、その後の26試合で勝ち点38を挙げるに至らしめた監督よりも良い監督を招聘することは出来るのだろうか。

そして、チャンピオンシップ5位からの昇格で11位による残留という、この上ないと思われる成績よりも良い成績を挙げることは出来るのだろうか?答えとして、それは難しくなったと言わざるを得ないし、ハッキリ言って無理だろう。上記の補強面の問題に加え、開幕2日前のドタバタ劇、成績を残した監督の退任により、チームにも動揺があると想像できるからだ。

プロビンチャは分を弁えろという話なのか。なんとも夢もロマンも無い話だ。そしてそれは「序列がそこまで定まっていない国のリーグ」にも、ついこないだ起こった話なのだ。

青天の霹靂2・サガン鳥栖

Jリーグにも予算の壁は存在する。プロビンチャというワードを連発するようになって久しいヴァンフォーレ甲府の監督・城福浩によれば、Jリーグの2/3はプロビンチャであるという話だ。

プロビンチャの定義は、簡単に言えば「ビッグクラブのカウンターパートにして、予算規模の小さい地方のクラブ」だ。Jリーグの中でビッグクラブと言って良い名古屋や大阪は日本で2番目、3番目の都市だし、他にビッグクラブである浦和や柏などは首都圏だ。地方都市でビッグクラブと呼べるのは鹿島くらいではないだろうか。

しかし、Jリーグは、予算という客観的な数字がそのままリーグの順位というこれまた客観的な数字に結びつくかといえばそうではないのだ。現に、J1第18節終了時、首位にいたのはサガン鳥栖だ。

なぜ18節なのかといえば、その時点である重大な事件が起こったからだ。ご存知の方が多数だとは思うが、サガン鳥栖はユン・ジョンファン監督の「解任」を発表した。首位クラブの監督解任など聞いたことはないが、クラブの切実な事情が、先例よりも先に立つ格好となった。

サガン鳥栖は、まさにプロビンチャの典型と言えるクラブだ。赤字を補填してくれる親会社的な存在があるワケでもなく、地方と言って差し支えないだろう佐賀県の中で、県庁所在地でも、また最大の都市でもない鳥栖市に本拠地を置く、どこに出しても恥ずかしくないプロビンチャだ。予算規模の指標となる営業収益で比べれば、浦和の約50億に対し、鳥栖は約14億、リーグ平均である約30億の半分以下だ。

そんなクラブが優れた指導者の下でオーガナイズし、泥臭いプレーを常に100%発揮することで首位に立つことが出来た。戦力分散やACLでの敗退など、いろいろ言われてはいるが、このような地方クラブでも躍進、首位に立つことができるというのはJリーグの良い面だと思う。ここまでなら夢もロマンもある話だ。しかし、そこにきての監督解任劇である。原因はやはりお金の話となってくるようだ。

サガン鳥栖はここ2年続けて赤字を出していた。Jリーグの定めるFFP規定によれば、それが3年連続になると、チームの成績に関わらず降格となってしまう。従って、クラブとしては是が非でも赤字決算を回避しなければならないという前提条件があった。

しかし、今年のようにいくら良い成績を残しても、観客動員にすぐ結びつくわけではない。ましてや地方クラブ特有の人口の少なさという問題がある。ホームスタジアムのベストアメニティスタジムも、満員で2万人を超す程度の規模だ。

クラブは既存株主を説得し、新たな出資を募り、第3者割当という形で増収、黒字転換という、言わば最後の手段(の中では比較的最初の方の手段)に出た。これにより今期の決算では、黒字の見通しが立った。つまり、そこまでしてようやく黒字に転ずることが出来たクラブが、お金を使うことは出来ないのは当然だ。成績も大事だが、クラブの存続に関わることの方が比べるべくも無く大事だからだ。

ユン・ジョンファン監督の解任劇は、そこのあたりの軋轢が基となったことは否めない。補強か、あるいは自身の待遇か。報道に出ていたリオ五輪を目指す韓国年代別代表の監督に就任するという説は、ユン・ジョンファン監督のKFAとの軋轢や、現監督であるイ・クァンジョンの契約期間やアジア大会を控えていることを考えると、可能性は低いと言わざるを得ない。

韓国代表にとってアジア大会は選手の兵役免除がかかる大事な大会であり、そのようなアクションを見せることは考えづらい。つまり、単純にお金の問題である可能性が高いのだ。

弱くても勝てます、とは言えないが「地方クラブでも勝てます」とは胸を張って言える、そういうJリーグならではの、夢とロマンの話はこれで終わってしまうのか。だとしたら、それはJリーグの存在意義に関わってくる問題だと思う。繰り返しになるが、地方クラブの躍進、ビッグクラブでも降格し得るというのは、Jリーグの特色であり美徳だからだ。

なお、クリスタルパレスと同様に内部昇格(パレスは暫定処置)という対応をしたサガン鳥栖は、そのパレスよりも先に一応の結果は出た。首位で迎えた広島戦、見ていて心底つまらない試合をした上で0-1の敗戦を喫した。未だに首位をキープしてはいるが、前途多難だとは間違いなく言えるだろう。

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