【サンフレッチェ広島】 アウェイながらサッカー専用スタジアムにて改めて体感した 熱意とプライドが届く距離 【J1】
2016/10/04 18:58配信
カテゴリ:コラム
現在、積み重ねた総勝ち点49 年間順位は7位―。
18チーム中7位という現状は決して酷な順位ではないものの
昨年、チームの強さを魅せつけ頂点に立ったリーグ優勝を考えると、この位置は「沈んだ位置」という表現が当てはまるのかもしれない。
結果や数字はもちろん大切なことだ。
チームの力を計る上で大切なバロメーターでもある。
しかし今、サンフレッチェ広島を観て率直に想うことは。
やはりサンフレッチェ広島は魅力に溢れている、ということだった。
●アウェイで迎えた負けられない相手との戦い
9月25日。
埼玉スタジアム2002にて行われたJリーグ セカンドステージ第13節 浦和レッズ戦。
対戦相手に浦和レッズを迎える戦いは、順位に関係なく気持ちと力、想い…さまざまなものを懸けての試合となる。
その背景には、言わずと知れた理由が山ほど存在している。
ペドロヴィッチ監督の広島から浦和への監督就任。
監督の就任によって当然のことながら、周囲のスタッフたちも浦和へと移り
柏木陽介、森脇良太、ドイツ・ケルンを経て槙野智章、西川周作、石原直樹、イングランド2部サウサンプトンFC、そしてFC東京復帰を経て李忠成…と
広島でプレーした選手たちが次々とペドロヴィッチ監督を慕ったことや、浦和レッズというチームへの魅力を感じ移籍、入団を決意した経緯がある。
長年に渡り起きていたこの数々の出来事を今では知らないというサッカーファンも増えてきたほどに月日が経ちつつあるが、
サンフレッチェ広島は毎年のようにチームの主軸になっているような主力を引き抜かれるという現実を突き付けられながらも、
リーグ優勝、さらにはリーグ連覇を含む4年で3度のリーグの頂点に立つなど、実質浦和レッズ以上の結果を残してきた。
浦和に選手を引き抜かれたから、という理由で屈するわけにはいかない。
浦和ではなくサンフレッチェ広島にいるからこそ、このサッカーが出来ていると
森保監督の下、より一丸となり戦う特別な戦いが、浦和レッズ戦なのだ。
J1リーグ所属の18チーム分の1チームの戦いであるが、
他の17チームとの戦いももちろん大切であり、一戦一戦を魂を込めて戦うことを意識しながらも
浦和レッズとの戦いは、たくさんの人たちの意地とプライドが重なる重要であり特別な試合となる。
浦和戦を迎える前の練習は自然と空気感が変わり、週末の試合を迎える準備に一層磨きがかかる。
そういった「決戦」があるからこそ、Jリーグでしか見ることのできない特別な瞬間が訪れることとなるのだ。
真っ赤な埼玉スタジアムは、サンフレッチェ広島相手に負けるわけにはいかないという気持ちを持ちながらも
もう特別な意識は持っていないと告げるようにいつも通りの大声援でスタジアムを揺らす。
―結果は0-3。
浦和レッズが完勝のようなスコアであったことは確かだが、この試合でサンフレッチェ広島が残したもの―。
確かに感じるサンフレッチェ広島の魂が在った。
●サッカーを知る広島が敷いた前半の試合運びビジョン 突き付けられたサポーター力
試合序盤からサンフレッチェ広島は守備に重点を置き、後ろの3枚に加え両サイドも低く位置していた。
変則の5枚で形成する守備でブロックを敷き、両サイドが下がることで最終ライン前に出来てしまうスペースを使われないようにするため、前線の広島サッカーでいうシャドーに位置する選手たちがスペースを消すために下がり、ボランチは高めに位置するなど攻守のスイッチに連動するポジションをとっていた。
浦和持ち前の細かいパスワークを防ぎながら、スペースがないところでボールを奪取し、カウンターで攻め入るという前半の広島のプランは見事にはまっていたと言って良いであろう。
ボールは浦和が持つ時間が長く、試合を動かしているように見えるが、広島は持たせても問題ないプランを持った守備を敷き、
浦和は出しどころを潰され何度もボールを下げ、スペースを見つけることに時間がかかってしまう前半を過ごしていた。
ボール奪取に向かうと1対1のところでも広島は身体をぶつけることも恐れず果敢に奪い、守備位置から一気に走りカウンターで浦和ゴールへと襲い掛かった。
スペースのないところを縫ってやっとシュートを打つ浦和に対し、広島は効果的にひとつの明確なプランを持って、浦和ゴールに向け決定機を生む。
この日、浦和GK西川が守護神という名がピタリとシンクロするように何度も広島の決定機を止める活躍を魅せた。
そんな中で得たPKという大きなチャンス。
浦和ゴール裏のサポーターが中央に集まりうごめき、スタジアムを揺らすほどのブーイングでプレッシャーをかける中、蹴ったボールは浦和サポーターの方向へと誘われ、ゴールの枠を外した。
明らかな埼玉スタジアムに存在する12番目の戦士たちによる、偉大な力。
真っ赤に染まるサポーター力を突き付けられる形でPKを失敗すると、その大きなチャンスを逃したメンタル的な動揺があったのではないかと察するほどに
それまで集中していた守備に、ほんの少しのズレが生じた。
守備の枚数が多いほどスペースは消せるが、そのポジション取りは難しい。
攻撃と守備におけるスイッチが全員一致という形でバランスを崩すことなくマンマークに近い形で守備を続けていた広島の守備が、ほんの一瞬ズレたのだ。
そこを見逃さないというのも、さすがの浦和レッズ。
それまでまったくスペースがなく苦しんだ浦和は、ぽっかりと瞬間的にこの日初めて空いた最終ラインの前のスペースを見逃しはしなかった。
パスで崩すのではなく空いたスペースにドリブルで走り込んだ柏木は、味方の上がりと広島の選手たちの位置を把握しながらギリギリまで我慢をして、サイドにボールを配球すると武藤が折り返し低く速いボールは
ゴール中央に走り込んでいた浦和の選手に当たることなく、広島の選手に当たり、ゴールネットを揺らしてしまう。
PK失敗から守備の一瞬のズレが生んだ、浦和のサポーター力がきっかけを生み出したゴールであった。
ボールを持たないことを恐れず、カウンターで明確にゴールを襲い続け少しずつテンポを掴んでいた広島は、最大の決定機を決めることができず、
そこから生まれてしまったズレによって失点し、前半を0-1というビハインドで折り返した。
●随所に見えた広島の魅力は確かなものだった
後半の入り方が重要な中、広島はサイドを使い効果的な攻撃で浦和を追いかける。
何度も浦和ゴールを脅かすものの何度も立ちふさがるのは、浦和のそして日本の守護神・西川周作。
その後、早い時間帯ながら浦和ペドロヴィッチ監督は駒井に代えて遠藤を投入すると、この日欠場していた槙野の代わりに左の後ろに位置した宇賀神を本来の一列前に配置し、対策。
すると浦和の攻撃は円滑になり、浦和らしいパスワークによって広島の守備を崩すことに成功。広島は立て続けに失点を重ねてしまう。
堅守である広島の守備が体力の消耗と得点を奪わなくてはならない状況になったため前半のようにがっちりと守れないことは負うリスクとして仕方のない部分ではあるが、
失点を重ねても広島のサッカーは諦めることなく失速することもなく、浦和ゴールを目指し何度も攻め入った。
最終ラインの一角である塩谷は、五輪を経てさらに意識を高め逞しさを増したプレーであると観ている者に感じさせるプレーで、攻撃に守備にピッチを走り続けた。
力強い身体の当たりとこの一本が繋がると必ずピンチになるというボールが入ると必ず顔を出す危機察知能力の高さは、世界を経験した選手だと感じさせてくれた。
前半は浦和の前線の右に位置した駒井に全くといって良いほど仕事をさせなかった柏好文は、キレのあるドリブルや精度の高いクロスといった持ち味だけでなく、守備の面でも強さを魅せつけた。
身体を音がでるほど当てにいっても絶対に当たり負けせず、ボールを奪取すると速い展開を精度を持って魅せる。
マンマーク気味に守備に付き1対1の場面で絶対に抜かせないという強い気持ちを感じさせる迫力あるプレーの数々がそこには在った。
攻撃と守備の切り替えも速く、どちらでも主役になれるほどの活躍は、ため息が出るほどに魅力的だった。
36歳のミキッチは年齢を良い意味で感じさせる熟練者だからこその巧みさを持って、浦和に脅威を与える存在となっていた。
footballを知っていると感じることのできるそのひとつひとつのプレーは、大いなる可能性を幾度となく生み出した。
昨年3月、浦和をホームに迎えてのリーグ序盤の大一番にてデビューを果たした茶島はデビューでありながらも堂々としたプレーを魅せたが、1シーズンを経てさらに大きく成長したところを魅せつけるように
効果的かつ技術あるプレーで決定機を演出した。選手を見続けることで見ることのできる成長の魅力を改めて感じさせてくれる姿が在った。
3失点目が決まってしまった時。
この日ベンチにいた広島を創り、支えてきたベテラン選手たちの目つきが変わった―。
佐藤寿人、森崎和幸、森崎浩司。
絶対に負けたくない相手である浦和。
広島を経て、浦和で現在プレーしている選手たちと共にチームメイトとしてプレーしたベテランたちだからこそ、絶対に負けるわけにはいかないという意識を強く持っているであろう。
広島が浦和に3失点を喫し、ゴールが0であること。
その現実を前に、このままでは終われないという強い意志が、その姿から伝わってきた。
アップをしていたベテランたちの目つきが変わり、アップをするギアも明らかに上がった。
自分たちに時間を与えられるのであれば、絶対に今の状況を打開してやる―。
そんなメッセージが強くその姿から伝わってくるのだ。
森崎浩司が呼ばれピッチへ、そして佐藤寿人が呼ばれピッチへ。
長年チームの心臓部を務めてきた森崎和幸は、この日出場機会を与えられなかったが、交代しベンチに下がる選手たちを先頭に立って迎え、ピッチに出る選手たちに魂を込め送り出していた姿が印象的だった。
同じ想いを持ち、同じものを長年目指し戦ってきた同志だからこそ、言葉にしなくとも通じ合う魂がそこに在った。
その光景に、「サンフレッチェ広島」を強く感じた。
そこにはサンフレッチェ広島への愛とプライドが強く存在し、溢れていたのだ。
試合は0-3。
スコア的に観ると、完敗だ。
決定機を多く作りながらも1点も決めることができなかった。
浦和に思うようなサッカーをさせない時間帯があっても、自らのチャンスを物にすることができなかったことも浦和のポジション変更によって崩されたことも、事実だ。
試合の結果やサッカーとしての内容は当然重要だ。
だが、サッカーの魅力そしてJリーグの魅力は、そういったものだけではないはずだ。
サッカーのことがわからなくても伝わるであろう熱意と情熱。
負けられない戦いに込められた全身全霊の90分。
このままでは終われないとプライドを懸け戦いに行く姿。
footballとしてだけでなく、チームとしてクラブとしての魅力を感じることのできる「サンフレッチェ広島」を感じたのだ。
改めて、サンフレッチェ広島をサッカー専用スタジアムで観たい、と感じた―。
ピッチが近いことでベンチの選手たちのアップの姿から感じ伝わる想いや、ピッチでプレーする選手たちが音を立て身体をぶつけボールを奪取する姿、
3失点しても90分諦めずつらい時間帯になり息が上がりながらも、大声を出し鼓舞する姿。
プライドを持って全員が汗を流し、溢れるほどの気持ちを持って戦っている瞬間を
より近いところで感じることが、よりサンフレッチェ広島の持つ本来の魅力として、伝わることであろうと
埼玉スタジアムのピッチに近い席にて、感じたのだ。
真っ赤に染まり空間を揺らすほどのサポーターが浦和レッズの勝利の歌を響かせる埼玉スタジアムで
確かにそこにはサンフレッチェ広島という魅力も存在していると感じた試合であった。