CHANT(チャント) 日本 U-23代表

リオ五輪アジア最終予選 AFC U-23アジア選手権 準決勝 日本vsイラク 「大会の中での成長」

2016/01/28 17:19配信

武蔵

カテゴリ:コラム

リオ五輪出場権を懸けたビッグマッチは

過去、手倉森ジャパンが公式戦で2度に渡り

苦杯をなめさせられた相手・イラクとの対戦です。

イラクはこの世代ではアジアのトップと言って良い実績を誇り

2013年のU-20W杯ではチリや韓国を破って

世界の4位に輝いた世代です。

また、その予選である2012年のU-19アジア選手権では

準々決勝で日本を破っています。

しかし、2014年のU-22アジアカップやアジア大会は

日本がリオ五輪に照準を合わせ

93年生まれ以降の選手たちでチームを構成したのに対して

イラクは、U-22アジアカップでは大会MVPに輝いたカラフ(91年生)を

アジア大会ではオーバーエイジ枠で

ユニス・マフムード(83年生)を起用するなど

明らかに日本よりその大会の結果に力を入れたと言える構成でした。

そういう意味では、今回の対戦が

リオ世代における日本とイラクの

初めてのガチンコと言える試合です。

何が言いたいかというと、必要以上に恐れる相手ではないということです。

「中東」の中でも異質なイラク視点に立つと・・

今大会の中東勢は、地域というよりも国ごとの特色が

良く出た大会と言えるものだったのではないでしょうか。

中東諸国は、よく「中東」とひとくくりにされ

・攻守にフィジカルを生かす

・基本的に、ガッチリ守ってカウンター

といった固定的な論評が、インターネットのみならず

スポーツ新聞各紙に踊る、という印象です。

そして今回も、中には日韓豪よりも格下と取る向きも多かったように思えます。

しかし今大会では、例えば日本が対戦した国々でいうと

イランは433のワイドアタックを基調とした

ダイナミックなサッカーで勝ち上がってきましたし

サウジアラビアは長身のトップ下・カノーを

さながらフェライニのようにフィニッシャーとして扱う

サイド攻撃がメインと言えるチームでした。

また、対戦はしていませんが

カタールの平常時のコンパクトな442のオーガナイズは

日本や韓国には無い強みと言え

さすがに育成年代に莫大な資金を投じているだけのことはある

と、思わせるものでした。

いわゆる「中東」と呼べるような戦い方をする国は

勝ち上がった中では、ヨルダンとUAEくらいであったように思います。

イラクは準々決勝で、そのUAEと対戦しました。

そこでは、球際で強いフィジカルを生かしてくるUAEに対して

散々に手を焼くイラクの姿がありました。

イラクの強みは、これもまた中東の中では異質と言える

ショートパスを中心に、相手のブロックを崩せるというのがメインです。

過去の日本戦の印象では、イラクの攻撃に対し

日本が耐えきれずに失点・・という構図がありました。

イラクは試合の主導権を握る術を、育成の中で手に入れました。

しかし、それは中東的な強さを薄めさせたのかもしれない

というのがUAE戦での印象でした。


そして今回の大一番で対戦するのが

フィジカルと個人技を前面に出して勝ち上がってきた

我慢強く守れる日本、というのは

イラクにとっては、相性ばかりを持ちだして

楽観できるものではなかったかもしれません。

ただ、逆から考えれば

手倉森監督のそういったチームビルディングの妙がある

という点に行き当たることも事実です。

日本の狙いであるカウンターと南野の起用

日本はいつもどおりの442ですが

右SHに南野拓実を起用してきました。

チームのコンセプトにはそれほどフィットしていない南野の起用は

ローテーション的な選手起用という意味合いの他に

カウンターの精度を求めるという目的が含まれていたように思えます。

カウンターで重要なのは

トップスピードの中で発揮できる技術です。

南野はその点、A代表に入っても遜色無いと思われます。

繋ぐイラク相手に、カウンターを仕掛けて勝つという

今大会の日本の先発メンバーとしては

珍しい意思を感じるものでした。

そして前半26分、このチームにしては早くもその意思が実を結びます。

繋いでくるイラクに対し、日本はダブルボランチを並べ

なるべくCBの前から動かさないように対応していました。

これはイラン戦でも見せた形であり

そこで遠藤航が引っ掛けたのは狙いどおりなのでしょう。

そこから中島翔哉に繋げます。

攻守において浮いたポジショニングをしがちだった中島が

フリーでボールを受け、そこから速いタイミングで

相手右SBの裏のスペースへ鈴木武蔵を走らせます。

鈴木はオープンスペースでスピードを生かす形が持ち味と言えますので

これも狙いどおりと言えるでしょう。


そして、鈴木が速いドリブルでゴール前までボールを運び

久保裕也がフィニッシュして先制点を挙げました。

中には久保が1枚いるだけでしたので

鈴木のクロス、久保のフリーになる動きは

非常に精度が高かったと言えます。

得点を求めてか、最初から真ん中に位置する傾向にある

南野のポジショニングは

2トップと近い位置でプレーができるという利点もあります。

それが現れたのは前半29分の決定機です。

中島が例によってスペースでボールを受け、相手のボランチを釣ります。

空いたスペースに南野が進出し、中島からパスを受けます。

まず目の前のスペースが空き

次にそのスペースで敵の重要人物である南野が前を向いてボールを持ちました。

イラクのCBは焦ってボールに食い付き

DFラインにはギャップができます。

この場面の日本は、ボールを受け、決定機を外した鈴木の他に

久保もフリーでオンサイドのポジションにいました。

SHとしての役割をこなしていたかはともかくとして

南野の働きにより、イラクを完全に崩した場面だと言えるでしょう。

このように日本は、戦術的には狙いどおりで

その上、個人技も生かした攻撃で優位に立ちます。

セットプレーのクリアミスから同点にされたことで

雲行きは怪しくなっていきましたが

決着をつけたのは、やはり日本の我慢強さでした。

そしてそれは、大会の中で身に付けたモノに他なりません。

武器である「持久戦」と大会の中での成長

試合後の手倉森監督は

「また持久戦になると思いながら見ていた」

と述べています。

良い内容ながらも同点にされ

そのチームコンセプトから

バランスを崩して勝ちに行くという選択肢も考えられず

また、日本は延長での成功体験があることから

「持久戦」やむなし、と思うのも無理からぬことです。

強みとは、チームにとって最後のよりどころと言えます。

このチームは今大会の中で

「持久戦」という強みを手に入れたように思います。

そして、この試合もその強みを生かしたことで

「持久戦」の様相を呈します。

ただこの試合での「持久戦」での負担は

前半の戦術面での狙いがハマったことで

軽減された部分があることは無視できません。

確かに、後半は耐える時間が長くなりました。

後半立ち上がりに、日本の守備システムの肝である

ボランチが真ん中から動かされ

右からA・アムジェドに強烈なミドルシュートを打たれましたし

イラクが勝負を懸けてきた時間帯には

N・ムスタファがリスクを冒して攻め上がり

後半37分には右からのクロスに合わせて決定機を作りました。

しかし、日本にとって

そういった「持久戦」は通ってきた道でした。

上記のとおり、前半の優位性もありましたが

程度でいえば、イラン戦や北朝鮮戦の方が

よりピンチの色が濃かったように思えます。

手倉森監督が初戦の北朝鮮との試合後に述べた

「大会の中で、試合を重ねる中で成長していければいい」

という言葉どおりの、メンタル面での成長と

櫛引政敏や植田直通を代表とする技術面など

選手たちの成長を実感する余裕が

懸かるモノの大きさや、ピンチの数々にヒリつく中でも

我々に無かったと言えるでしょうか?

後半AT、試合は決着します。

リスクを冒したイラクが試合を決め切れず

いわゆる、補給線が伸び切ったと言える状態となります。

それが、得点時に広大に空いていたバイタルエリアのスペースとなって表れ

原川力のトラップからシュートまでの時間と余裕を生みました。

2‐1とイラクを突き離し、勝利。

6大会連続の五輪出場権を手にしました。

今大会最大の強敵、天敵と言われたイラクを下したその試合内容は

もはやこのチームのメインの武器となった

「持久戦」での我慢強さを示したものであり

大会の中での成長を我々に感じさせてくれるものでした。

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