CHANT(チャント) 日本 U-23代表

リオ五輪アジア最終予選 AFC U-23アジア選手権 日本vsイラン 「結果にこだわる持久戦」

2016/01/26 20:34配信

武蔵

カテゴリ:コラム

リオ五輪予選であるAFC U-23アジア選手権が行われています。

日本はグループBを1位通過し

準々決勝ではグループAのイランと対戦しました。

結果は3‐0という数字が挙がりましたが

その得点の全てが、延長に入ってから生まれたシルバーゴールでした。

そして、試合をイランに支配されていた時間帯も多く

イランの決定機が続く場面もありました。

試合を見ていた方々は、幾度となくヒヤヒヤしたことでしょう。

ではなぜそうなったのでしょうか。

そんなヒヤヒヤの中でも勝ちを拾うことができた理由は

いったいなんだったのでしょうか。

先発メンバー選考の意図と後半序盤までの守勢

日本の先発メンバーは、一見して守備的な意図を感じさせるものでした。

前線でキープをする役割の鈴木武蔵がケガをしたとみるや

役割的にその控えであるオナイウ阿道を起用し

また、グループリーグではコンセプト通りの働きを見せた矢島慎也を起用し

さらには、貴重なセットプレーのキッカーである山中亮輔も

守備では不安定さを見せることがしばしばあったため

より身長の高い亀川諒史を起用しました。

これらは全て守備時の運動量やセットプレーを

強く意識した選手起用で

先発で起用された選手たちは

それぞれの比較対象となる選手よりも

守備のやり方やバランス

そして何より結果にこだわるというこのチームのコンセプトを

より実行できる選手たち、と言える采配です。

リオ五輪出場権は3位までに与えられるため

準決勝が一番大事な試合と言えます。

そして、五輪本戦、あるいは五輪後に繋がるような

試合をすることは、年代別代表の活動にとっての1つの目的です。

しかし当然、準々決勝で負けたら終わりです。

負けたらこのチーム、この世代で公式戦を戦うことはありません。

選手個人の強化という、これもまた年代別代表の目的の1つですが

その観点に立ってみれば

五輪に行くことこそ最上の強化策である、という見方もできます。

日本の手倉森誠監督は、後者を踏まえた

言わばこの準々決勝での結果にこだわる戦略を立ててきました。

そしてそれは、ベスト8の連鎖に苦しんだこの世代が

このトーナメントを勝ち上がるために

一番必要なことだったかもしれません。

なぜなら、試合の入りにおいて

日本の選手たちには固さが見られたからです。

それが、立ち上がりから続いた劣勢の原因の1つと言えます。

「ベスト8の壁」と言われていることや様々なプレッシャーを

どうしても意識してしまう場面ではありました。

そして、結果を出すためには

指揮官がその、選手たちの感情的な部分を

采配に織り込まないワケにはいかなかったことは事実です。

ここで、このチームの1つの武器である

積極的に前からハメていく守備や

あるいは人数をかけて攻撃を仕掛けるといった姿勢を

打ち出していたら、その固さがスコアにまで影響したかもしれません。

加えて、このチームは世界を知らない世代ということで

挑戦者としてこの大会に臨み

何よりも五輪出場という結果にこだわる姿勢を

北朝鮮戦を始めとして見せてきました。

そういう意味では

このチームにとっては当然と言える守備的戦術でした。

確かに、マイボールにしてから、特に技術のあるはずの岩波拓也が

簡単にロングボールを蹴ってしまうなど

ボールが落ち着かず、能動的にプレーする機会を

自分たちから手放してしまう場面が多々ありました。

しかし、そういったプレー選択

あるいは1試合の中の戦略が偏ってしまうところは

日本にとって長年の課題ではありますが

それは、チームとしての意思統一が現れた結果だとも言えます。

縦パスを入れて失うよりも

割り切って長いボールを蹴る、という意志が

チーム全体に共有されていたと言えます。

また、外を使っての攻撃が多かったことも

中で奪われるリスクを考えてのことでしょう。

攻める気で劣勢になっていたわけではないということは

日本の守備を、より粘り強くしたことでしょう。

チームが同じ方向を向いている、ということが

この日の日本の最大の強みであったと言えるでしょう。


簡単にロングボールを蹴った甲斐があってか

日本の守備は、植田直通の強さ高さ

あるいは櫛引政敏の守備範囲の広さといった個人技を計算に入れ

幾度となくピンチを凌ぎました。

基本的に、ビルドアップや相手のプレス回避のために

CBを真ん中から動かすことをしなかったことから

イランの狙う速い攻撃にも

しっかりと人数を適切な位置に置いて対処することができていました。

そうしてリスクを最小限に抑えておけば

イランの前線は海外組が不在であることも手伝って

決定力に欠くことも計算のうちだったでしょうか。

ただ、守勢は守勢でした。

これはノックアウトラウンドであり

勝ち切らなければなりません。

日本の勝機は交代策と共に、徐々にハッキリとしてきます。

持久戦の末の勝利

日本の最初の交代は後半37分。

劣勢の中でよくここまえ我慢ができたと思いますが

逆に考えれば、それだけ劣勢を織り込んでいたということです。

チームの中心である久保裕也に代え浅野拓磨を投入します。

攻め疲れもあり、徐々に空転し始めてきたイランに

追い打ちをかけるような交代策で

浅野は持ち前のスピードを生かし、日本を攻守に勢いづけました。

そして後半43分、運動量豊富な豊川雄太を投入しました。

FWの浅野はともかく、SHの豊川に課せられた使命は

攻守に運動量を発揮することであり

具体的に言うと「行って帰ってくること」でした。

それができるために、この代表に招集を受けた選手です。

先制点の場面でクロスを受ける立場となっていた豊川は

守備重視のシチュエーションにおいて

一時として相手ゴール前に居たとしても

ボールを失えば全速力で戻れる自信があったのでしょう。

「30m上がるということは、30m帰らなければいけない」

という言葉がありますが

それを実践できる豊川ならではのゴールでした。

そして、イランにこの豊川をマークできるほどのスタミナは

心身ともに残ってはいなかったようです。

日本の持久戦は、ここに実を結びました。


イランはフォーメーションを3バックにし

得意のワイド攻撃の比重を強めて攻め込みますが

櫛引の鋭い出足の前に、決定機を逸してしまいます。

逆に日本は、イランの並びが変わり、サイドにスペースを得たことで

カウンターを仕掛ける機会も増え

ここまで110分近く窒息していた

中島翔哉が2ランホームランを打ち、試合を決めました。

イラン戦で見せた精神面での成長

あれもこれも、とはいかない年代別代表において

結果を出すことにこだわり

そして、結果を出しつつあるのが今のU-23日本代表です。

U-19で敗退をするたびに「ひ弱」「おとなしい」と言われた選手たちが

結果を出すためには個人技でも構わずチームに組み込み

目的のためなら、構わず守り切り

したたかに勝ち上がっています。

技術よりも、経験や精神面での上積みを多く感じます。

そして、手倉森監督の周到な準備もありました。

中2日の日本が中3日のイランに対して持久戦を挑むということは

並大抵の判断ではなかったでしょう。

ただ、日本はこの準々決勝のために

グループリーグで全てのフィールドプレイヤーを使い

ケガと病気以外はフレッシュな陣容を揃えられたことが

その決断を可能にしたと言え

もっと言えば、逆算したはずであるチームマネジメントも

この勝利の何割かを担うはずです。

そして、チームで唯一全4戦390分フル出場の中島が

4戦目にして値千金の2ゴールを奪ったことも

選手を見極めたマネジメントの賜物と言えるでしょう。

日程面の不利から最大のヤマ場と言われた準々決勝を

自分たちの周到な準備を基にクリアしました。

そして、次は日程面で相手より有利な連戦が待っています。

ただ、だからといって気がゆるむということは無いでしょう。

何故なら、その周到な準備の上に積み重ねたのは

イラン戦で見せた、精神的な面での成長だからです。

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