CHANT(チャント) ギラヴァンツ北九州

【ギラヴァンツ北九州】 たくさんの人々に届け―。全員でつかみ取る自信となる歴史 【J2】

2014/10/21 17:50配信

Tomoko Iimori

カテゴリ:コラム

 

現在、快進撃を続けているといえば、ギラヴァンツ北九州の戦いだ。
ギラヴァンツ北九州というと、まだまだ新しくJリーグに参入したばかりのチームという印象を持っている人も多いだろう。
J2参入となったのは2010年のこと。

それから4年。
たった4年と感じる人もいるかもしれないが、たくさんの主力が抜けたりと苦しみを味わったシーズンも過ごしたこともあり、いろんなことがあった4年。
今ギラヴァンツ北九州はJ2上位に位置している。

●ギラヴァンツ北九州の戦い

私がこのチームの話を聞いたのは、2004年のことだった。
今からちょうど10年前となる。

大学サッカーの取材を行っていた頃、ニューウェーブ北九州というチームにいかないかという誘いがたくさんの選手の元へ届いていた。
聞きなれないそのチーム名は、選手たちの心を動かすには知名度としてまだまだ足りない状況だった。

当時地域リーグでの九州地域というのは激戦区であり、たくさんのチームがJリーグ参入に向けJFL目指して戦っていた時代だった。地域リーグといえども九州には名の知れたクラブが多数存在していたことから、新しいクラブの歩みが難しいことも予想できた。
それ故に選手たちは自分たちの将来の道として、そのクラブでサッカーをやっていこうというのはなかなか難しい決断だった。

あの頃の選手たちがきっと今のギラヴァンツ北九州を観て、驚いていることだろう。
それと同時にあのチームに行けばよかったと後悔している選手もいるかもしれない―。

それほどにニューウェーブ北九州改め、ギラヴァンツ北九州は今、プロの世界で躍進している。


J2は現在湘南ベルマーレの昇格・優勝が確定したものの、残り2枠の昇格枠は決まっていない。
現在残り2枠への争いがリーグ終盤ということもあり、激化している。
リーグ2位の位置につけている松本山雅が頭ひとつ出ている存在となっているが、3位から6位のプレーオフ圏内を狙ってたくさんのチームが熾烈な順位争いをしているのだ。

今年J1からの降格となり、戦っている昇格候補の一角だったジュビロ磐田はJ2で苦しいシーズンを過ごし3位につけているが、そこに勝ち点たったの2差でつけている4位がギラヴァンツ北九州だ。

勝ち点61と勝ち点60以上にいよいよ積み重ね、昨年は最終順位16位だったことを考えると大躍進といって良いだろう。
プレーオフ圏内、そして3位に届きそうな勢いのあるギラヴァンツ北九州だが、チームはクラブライセンス条件に達していないため、J1に昇格することはできない。


昇格ができない―。
それでもギラヴァンツ北九州の選手たちは勝利を目指して戦い続けている。
昇格という大きなモチベーションが存在しないにも関わらず、戦う気持ちというのは他の昇格を目指すクラブには理解できないものかもしれない。
それでも戦う。
昇格だけがすべてじゃない。戦うこと、勝利へ向かうこと、ギラヴァンツ北九州としての存在感―。

求めているものはひとつじゃない。


●勝利という存在感の示し

現在ギラヴァンツ北九州は、17勝10引き分け10敗であるが、総得点46に対し失点が42と極々わずかな差であり、どれだけギリギリの戦いを物にしてきたかがわかる。
勝利のほとんどは1点差のゲームとなっており、チームがひとつになり全員で得点を1つ1つ少ないチャンスで重ね、失点を防ぐことに必死になってきた。
能力も決して飛び抜けて高いわけでもない。それでも全員で形にすることで「チーム」として戦えている。

福岡という土地は、プロスポーツという文化は野球が根付いており、福岡には巨大球団 福岡ソフトバンクホークスが存在する。
特に今季は福岡ソフトバンクホークスがパ・リーグ優勝し、その後のクライマックスシリーズでも熱戦を魅せ、これから日本シリーズにいよいよ挑もうという時だ。
福岡はホークス一色に染まっている。

ギラヴァンツ北九州よりもずっと前からJに参入しているアビスパ福岡も、苦戦に苦戦を重ね経営しているが、ギラヴァンツ北九州も同じ状況だ。
福岡市ではないが、北九州もまだまだサッカー文化は根付いていない。
昨年のホーム観客集客数の平均が最下位を記録した。

しかし、もちろんあきらめはない。
少しでも知ってもらえるようにと横手社長は毎日、ギラヴァンツのステッカーを貼ったバッグを持って45分歩いて出勤する。
そうすることによって人々の目にギラヴァンツ北九州というチーム名が入れば良いと社長は考えている。
独自の福岡文化がある地で、少しでも地域密着をと社長自らが行動し、自身の趣味をギラヴァンツと言い切る社長なのだ。

ホームスタジアムに来てくれた人たちのため、社長はありがとうを伝えるために毎試合ホーム側、そしてアウェイ側出向き、挨拶を行う。
ここに来てくれてありがとうございますと伝えることを始めたのは、5月のことだ。
遠くアウェイの地から来てくれたアウェイサポーターにも少しでも北九州に来てよかったと感じてもらいたい、また来たいと思っていただきたいという想いからだという。

地道という言葉があっているかもしれない。
それでもそれが伝わること、そしてジワジワと感じてくれる人がいることを信じている。

それはチームへの影響も同じだ。
ギラヴァンツが昇格という目標がない状態でも、ここまで戦えているのは、チームの名を少しでも大きくしたい、そして自分たちの存在感を示したいからだ。
強くあること。
それはどんな広告よりも、どんなホームタウン活動よりも大きな発信なのだ。


九州には多くのJクラブが存在する。
J1には現在優勝争いをしているサガン鳥栖。鳥栖は九州全体、そして関東などからのサポーターも多く集客やクラブ規模の拡大などに関しては成功しているクラブといって良いだろう。
まだまだ目標とするものがあるだろうが、それでも九州のクラブの中では圧倒的な成功クラブだ。
そしてJ2にはアビスパ福岡・大分トリニータ・ロアッソ熊本・Vファーレン長崎そしてギラヴァンツ北九州が存在し、さらにはJFLにはヴェルスパ大分・鹿児島ユナイテッドFC・ホンダロック熊本SCもあるため、九州のサッカー好きの人たちは地元に限らず様々なクラブを選択できる状況にあるといって良いだろう。
密集するたくさんのクラブの中で選ばれるクラブになるためには存在感を示すことが大切だ。

強さだけでもダメだが、強さがあること、リーグを盛り上げることができることが大きな鍵となるだろう。

現在J2の上位勢が昇格争いを繰り広げる中で、ギラヴァンツ北九州の動向は注目を受けている。
昇格をすることはできないが、リーグ全体を盛り上げている一役に今あることは間違いない。

九州に多くクラブが存在することは、サッカーファンを分離させているようにも思えるが、ギラヴァンツ北九州にとって集客ができる試合は九州勢との対戦だ。
天候にも大きく左右されるものの、九州勢との対決はアウェイから来てくれるサポーターも多く、盛り上がりも高くなるため多くの集客を期待できる。
ギラヴァンツ北九州の掲げる目標観客人数はひとつのキーワードして3500人。
九州勢との戦いはこの数字をクリアできることが多く、アビスパ福岡との福岡ダービーに関しては年間最多の動員となった。

雨の日の開催では集客人数が1500人以下となることもあり、かなり厳しい状況にある。
100万人近い人口を持つ北九州市においてでもまだまだ浸透していない感は否めないものの、それでも現在リーグで奮闘することで存在感を示す結果となることを望んでいる。

●地元出身エース そしてレジェンドへ

ギラヴァンツ北九州のエース、池元友樹はチームの顔的存在だ。
地元出身であり、全国的にも強豪校として名高い名門・東福岡高校出身。
その後の経歴は異色といって良いだろう。

アルゼンチンへ渡り、CAリーベル・プレートに入団。4軍まで昇格し日本のU-19日本代表にも選出されたもののクラブでプロ契約はできず帰国。
そこでまだJを目指すクラブとして駆けだしたばかりのニューウェーブ北九州に入団し、26試合27得点という地域リーグでは圧倒的な得点力でチームを牽引した。
しかし、地域決勝の舞台で敗れた北九州からFC岐阜へとレンタル移籍。
当時FC岐阜もJを目指し地域リーグを戦っており、なんとしてでも地域決勝を勝ち上がりJFL昇格を果たしたいと元有名J選手など多くの選手を獲得していたのだが、池元友樹もその能力をかわれFC岐阜でプレーしJFL昇格に貢献した。
地域リーグの世界からプロの世界へと個人的に進むことはかなり難しく、どうしてもレベルの違いなど差がある世界であるものの、池元は柏レイソルからのオファーを受ける。
柏レイソルへと移籍した池元は リーグ戦出場はなかったものの、はじめてプロという世界のピッチに立った。
その後、横浜FCへ2年間のレンタル移籍。横浜FCではプロ初得点を含む11得点を挙げ、出場試合も多く経験を重ねた。
そして柏レイソルからのレンタルという形で、ギラヴァンツ北九州に再加入することとなった池元は、それから完全移籍を経て現在5シーズン目を迎えている。

今年はプロリーグ戦のキャリアの中でも最多の 現在14得点を挙げている池元。
ギラヴァンツ北九州の現在の総得点数46得点の内、14得点が池元の得点と考えるとチームの得点の3割強は、池元一人の得点によるものだ。
地元出身、そしてチームの基盤時代にプレーした池元はチームにとっての顔であり、歴史なのだ。
池元の存在はサポーターにとってもチームにとっても計り知れない大きさと存在感がある。

池元がいるからこそ、応援しているというサポーターも多く、まだ年齢的には大ベテランというわけではないものの、北九州のレジェンドという歴史を残すことであろう。

 


ギラヴァンツ北九州は、ホームスタジアムの収容観客数など基準を満たしておらずJ1に昇格することはできない。
よって、プレーオフ圏内の順位で最終順位を終えたとしてもプレーオフに進むことができない。

しかし、現在ギラヴァンツ北九州の挑戦は続いている。
昇格という名の リーグにとって最大の挑戦には参加できないものの、昇格という挑戦ではなく、それは自分たちへの挑戦。

これからクラブをもっと知ってもらうために
そして昇格だけのためではなくJ2という舞台でひとつでも上にいくため、自分たちの存在感を示す挑戦。
まだ少ないかもしれない。それでもサポーターは昇格というプランがなくてもついてきてくれている。
そういった人たちへの感謝と成長を示したい―。

今年は無理でも、いつかJ1に挑戦するために今の戦いは必ず経験となり、力となる。

試合で勝つこと
たくさんの人に感謝を伝えること
たくさんの人と触れ合うこと
自分たちが勝つことで注目され、ギラヴァンツ北九州の名前が少しでも伝えられること、取り上げられること

全員でボールを追い、走り、守備をしながら少ないチャンスを物にする―。
その姿には、伝える力があると 信じている。

残り5試合となったJ2の戦い。
我慢強く戦ってきたシーズンは簡単では当然なかった。
もちろん最後までその戦いを続けるつもりだ。

たくさんの人の笑顔を生み
たくさんの人の気持ちを動かし
たくさんの人に知ってもらうこと

それがギラヴァンツ北九州の今年の「掴むもの」。


残り5試合も 全力で全員で

戦う。

シーズンが終わった時。

選手 スタッフ サポーター

全員が 自信となる歴史を掴んだ感触を得て たくさんの笑顔が溢れていますように―。

 

 

 

 

 

 

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