CHANT(チャント) 松本山雅FC

【松本山雅】 アルウィンを埋め尽くすサポーターが創る 昇格への道すじ 【J2】

2014/09/16 10:24配信

Tomoko Iimori

カテゴリ:コラム


行ってみたい スタジアム―。


そう表現されるスタジアムがいくつかあるが、サッカーファンならば一度は体験したい、・行ってみたいスタジアムの中にアルウィンを挙げる方が多いのではないだろうか。

松本山雅のホームスタジアムであるアルウィンに足を運んだアウェイサポーターは、口をそろえて素晴らしい場所だったと答える。
ホームサポーターだけでなくアウェイサポーターをも引き込むそのスタジアムに、まだ私は残念ながら行ったことはないが、今後行ってみたいと願うスタジアムのひとつだ。

松本山雅にはアルウィンがある。
アルウィンには松本山雅がある。

現在J2では2位を独した成績である松本山雅のJ1昇格が現実味を帯びてきている―。

●天皇杯での下剋上

松本山雅の名前が全国に届いたのは2009年の天皇杯2回戦でのこと。
当時、松本山雅はまだ地域リーグのクラブだった。

当時の地域リーグは激戦区が多くその中でも北信越リーグは長野パルセイロやツエーゲン金沢、JAPANサッカーカレッジなど多くの強豪クラブがひしめき合った状態であり、北信越リーグを制することも難しかった時代だった。
この時松本山雅は北信越リーグで4位の位置。地域リーグで4位という良い結果とはいえない位置につけていた松本が、J1でも有数のビッグクラブである浦和レッズを相手に2-0で勝利を収めたのだ。

驚くべきことはそれだけではない。
この時の天皇杯2回戦での観客数に注目したい。
観客人数5000人以上を記録したのはたった5試合しかない中で、圧倒的な観客数を誇ったのはアルウィンで行われた松本山雅×浦和レッズの14494人だった。
浦和レッズの多くのサポーターも駆けつけたこと、そして浦和レッズを観たい長野県民も集まったことが大きかった。
当時からすでに北信越リーグを戦う上で多くのサポーターが生まれていたが、この時はまだ浦和レッズという大きなクラブが観客を集める要因となった。

しかし、その浦和レッズを2-0で破ったことは多くの人々の記憶に残り、多くの人々の気持ちを動かすきっかけになったことだろう。

この年、松本山雅は北信越リーグを制することは難しい状況にあり日本で一番熱き難しき戦いと言われている全国地域サッカーリーグ決勝大会(以下・地域決勝)に進むことができない可能性が高まっていたため、地域決勝への出場権がかかる全国社会人サッカー選手権大会(以下・全社)に出場。
その結果同じく北信越リーグから出場を狙うツエーゲン金沢との決勝を戦い優勝を収めた。それと同時にツエーゲン金沢と共に地域決勝への出場権を手にした形となった。

この時の3位は長野パルセイロであり、北信越リーグの強さを示す結果となった。

地域決勝を戦った山雅は、予選リーグを圧倒的な強さで戦うと予選ラウンド首位となり、決勝ラウンドに進出。
決勝ラウンドでも結果を出し、松本山雅はホームアルウィンで観客10000人以上を集め、松本一色で染まる中、優勝、そしてJFLへの昇格を手にした。

地域リーグのチームながら観客を1万人以上を集めるというのは前例がないのではないだろうか。
当時地域リーグを追いデータを集めていた私にとって松本山雅は「当時の松本山雅」のイメージがとても強い。
多くのサポーターが全国に駆けつけるのは当時地域リーグのクラブとしてはめずらしく、北信越地方のサッカーリーグが全国的に有名とは認識されていないながらも、北信越の熱き戦いにはいつも目を見張っていた。


現在J2で観客動員数1位を記録する松本山雅だが、この観客数の記録はJリーグだからというわけでも昇格がかかっているからでもない。
松本山雅のサポーターはどんな状況でも松本山雅を観たくて足を運んでいるのだ。

●昇格は明確には定めない。目標はアルウィンを満員にすること。


松本山雅はJ1昇格の時期をいつまでにという具体的な目標を定めてはいない。
今季ついに昇格が現実味を帯びた位置につけており、チームも選手もサポーターも昇格を目指し戦っているが、クラブの目標としてはJ1昇格を明確な目標に設定しているわけではない。
もちろん昇格することが目標のひとつではあるものの、松本山雅の目標は

「アルウィンを満員にすること」。

今でもたくさんのサポーターが入り、毎試合独自の雰囲気を出すアルウィンが大きく選手たちの背中を押し、松本山雅というクラブとサポーターは=で繋がっているが、目指すべき収容人数は最大収容人数の2万人。
松本の平均観客数は12150人(2014.9.16現在)であり、2万人には届いていない。

それでも会場を埋め尽くす緑のサポーターがとても多く、ゴール裏だけでなくバックスタンドやメインスタンドも多くの人々がユニフォームを纏い、声と手拍子、歓声で会場を一体とする。
松本山雅が今この位置につけている理由のひとつであり、最大の要因はサポーターにあるといって良いだろう。
クラブが自ら、サポーターが大きくしてくれたクラブと表現するように、松本山雅はサポーターと共にすべての軌跡を歩んできた。

松本山雅最大の悲しみも一緒に共有し、背負い続けている。
…松本山雅を語る上で絶対的に外せない存在。
それが松田直樹だ。

●残るのではなく引き継ぐ 松田直樹スピリッツ

松本山雅に松田直樹が移籍したのは2011年のこと。
W杯にも出場し、圧倒的な存在感でマリノスを…いやJリーグを率いてきた松田直樹がサッカーをやりたいと選んだ地が松本山雅というクラブだった。

当時まだJFLだった松本山雅に松田直樹が加入するというのは大きなニュースになり、その選択に驚いた。
松田直樹が残すべくことは結果と統率。成績や結果はもちろんだが、プロのサッカー選手としての振舞やあり方、取り組み方などすべてにおいて期待されていただろう。

しかし。
突然松田直樹は倒れた。


そして―。

 


あの日から3年が経過した。
松本山雅には今もなお、背番号3を着るサポーターが多い。

今季から松本山雅に加入した松田直樹の継承者の一人である田中隼磨が背番号3を付けた。
特別であるこの番号を背負うことに重みを一番感じているのは田中隼磨であろう。
簡単には当然背負える番号ではないことはわかっている。
そして一番裏切ってはいけない番号だということも。

その田中隼磨に想いを重ね、背番号3を着るサポーターがとても多いのだ。
特別な番号があり、特別な存在がある。
それも松本山雅を支えている、そして原動力のひとつとなっている。

昇格は背番号3が背負った使命でもある。
あれから3年。山雅は確実に成長し、今昇格争いを展開しているのだ。

松田直樹の想いを存在を魂を 引き継ぎながら。

 ●相手クラブを歓迎する山雅スタイル

松本山雅のサポーターは相手クラブのサポーターへのリスペクトも忘れない。
アルウィンを訪れたことのある相手となったサポーターは口をそろえてこう言うのだ。
山雅のサポーターはあたたかかった、と。

山雅のサポーターの多くは気軽に相手チームのサポーターに声をかけ、交流することが多いという。
そしてアルウィンでは相手クラブのサポーターを拍手で迎え、アウェイゲート付近でも相手サポーターを歓迎する。
ようこそアルウィンへ!来てくれてありがとう!
その気持ちを惜しみなく伝える。それが松本山雅のサポーターなのだ。

相手サポーターゲートには歓迎ゲーフラと呼ばれるゲーフラが貼られ、そこにはたくさんの山雅サポーターからの歓迎の寄せ書きが書かれている。
それを観たアウェイサポーターたちもそのゲーフラに言葉を書けるようになっている。これがアルウィンのサポーター同士の交流のひとつである。
松本山雅のあたたかさに触れ、そしてアルウィンの圧倒的な一体感に感銘を覚え、良きアウェイ遠征の思い出として残ることができる場所、アルウィン。


行った者にしかわからないであろう、その「ホーム」を創り上げる雰囲気に遭遇してみたい。
ホームを「ホーム」として創り上げるクラブは他にももちろんあるが、松本山雅にあるあたたかさやアットホームさを含めた一体感と松本山雅とfootballを想う気持ち、
そして松田直樹スピリッツに

触れてみたいとサッカー人として思うのだ。

松本山雅のサポーターはクラブの歴史を知るサポーターが多いという。
Jリーグ入りしてからの新規サポーターは少なく、多くが地域リーグやJFLからのサポーターであり、家族のように支え一緒に歩んできたサポーターが多い。
それ故になのだろうか。松本のサポーターは背番号3も多いが、12の背番号を着るサポーターがとても多い。

応援する選手の背番号を着ることが多い時代になってきているが、山雅のサポーターは本当に12を背負う人が多いのだ。
それは12番目の選手である自覚と、クラブ全体を支え戦い共に歩んでいるという証のひとつだ。

松本山雅はまだJ1を経験していない。
それでも多くの人たちが松本山雅の存在を知り、多くの人たちがアルウィンに集まる。
相手クラブのサポーターであってもアルウィンをアウェイ遠征として行きたい場所として挙げるのは、それだけの魅力が伝わっているからだろう。


現在自動昇格圏にいる松本山雅。
昨年はプレーオフ進出に一歩届かず7位という結果だった。
一歩一歩を後退せずに歩むクラブも珍しく、それはサポーターと共に前を向き歩んでいるからではないかと感じる。

天皇杯で魅せたジャイアントキリングから5年。
あの時4部のクラブだった松本山雅はJ1まであと一歩というところに付けている。

日に日にひとつになり続ける松本山雅がJ1に昇格することが決まる日が来た時には
きっとアルウィンは満員になるのではないだろうか。

J2の多くのサポーターを魅了したスタジアムが次はJ1に松本山雅らしさを魅せるかもしれない。

しかし、あくまで松本山雅は昇格をいつまでにという言葉にはしない。
今年の今この時期にこの位置につけていても油断は一瞬たりともするわけにはいかずここからは精神も大きく関係するシーズンとなってくるだろう。
その時大きな支えとなるのはやはりサポーターの存在だ。
J1昇格争いというはじめての大きなターニングポイントに差し掛かっている松本山雅は、チームとしても初めてだが、サポーターとしても初めての昇格争いだ。
しかし、あれだけ多くのサポーターが一緒に歩んでくれるからこそ安心して挑めることになるだろう。

J2残り11試合。
松本山雅はJ1昇格をめざし走り続ける。

アルウィンを一体にして、サポーターは歌う。

今日も一つになって
追い求めろ 俺らと
信州松本のFootballを

 

松本山雅の戦い、そして歩みは
サポーターと共に―。

 

 

 

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とても感動しました。私は地域リーグのときから見ています。あの浦和戦。わすれられません。このたびj1という舞台に行ける事は信州人としてとても誇りに思います。これからまた厳しい戦いになりますがこれからも熱い熱い応援をしていきましょう。

名無しさん  Good!!2 イエローカード1 2014/11/16|07:48 返信

応援に加えて欲しいもの。
山と言えば「こだま」こだまと言えばやっぱり「やっほ~」
これをホームゲームの時にやってくれないかな~。ゴール裏から右、左へと。
「やっほ~!」「やっほ~!」「やっほ~!」
あの観客数でやると凄いとと思うけどなあ。

名無しさん  Good!!1 イエローカード0 2014/11/09|21:46 返信

今日知人に指摘されてやっている事もあることがわかりました。すみませんでした。
Youにも動画がありました。
他サポですが、来期の山雅には期待大です。

名無しさん  Good!!1 イエローカード2 2014/11/10|12:13

浦和サポーターです。5年前、アルウィンへは半ば観光気分でしかありませんでした。しかしそこで見た光景…ただ呆然とするしかありませんでした。いつかリベンジマッチを必ず実現するためにも絶対にトップカテゴリーまで上り詰めてきて欲しい。あの日からずっと山雅のことは気にしていました。早ければ来週にもその願いが実現するのですね。 それにしても松本はドラマチックに富んだチームですよね。しかも節目節目を迎える度にチームは進化していっている。Jリーグの理念を体現している数少ないクラブだと思います。自動昇格は間近ですが、最後まで油断せず戦い切って堂々とJ1に上がってきて欲しいです

名無しさん  Good!!9 イエローカード0 2014/10/27|18:52 返信

コメントありがとうございます!
浦和のサポーターさんとのことで、浦和のサポーターさんからの目線での想いをお話していただきありがとうございます。あの試合から特別な相手となったのですね。来年は再び戦うことができますね!山雅と浦和の試合にとても注目しています!読んでいただきありがとうございます!

Tomoko Iimori   Good!!1 イエローカード0 2014/11/07|12:46

それは、ロンドンオリンピックの日本代表が発表された直後での試合。相手は東京V.当時の東京Vには、現在もセレッソで活躍している杉本健勇選手がレンタル移籍で在籍していました。そんな杉本選手がロンドンオリンピックの日本代表に選ばれたということで、山雅のサポーターが「健勇」コールをしたんです。そこから東京Vのサポーターも含めたアルウィン全体で「バモ・ニッポン」のチャントが歌われました。その場にいた私は思わず涙しそうになりました。そんな場面はこの場面だけではありません。
山雅の、アルウィンの、そしてグリーンモンスター達の精神性を見事にひも解いていただいた、素晴らしい文章でした。ありがとうございました。

名無しさん  Good!!4 イエローカード0 2014/10/27|14:41 返信

コメントありがとうございます。
そして素晴らしい場面のお話もありがとうございます。
そういった素敵な場面に直面できるのはやはり現場のすばらしさ、そしてfootballがあるからこそですね。
そんな出来事があったのですね。きっと杉本選手のとても大切な思い出となっていることでしょう。
そういっていただけるととても光栄です。読んでいただきありがとうございます。

Tomoko Iimori   Good!!1 イエローカード0 2014/11/07|12:44

今日j1昇格が決まったかな?と叩いていたらこの名文に突き当たって感動!! 75才の信州人としてうれしい。遠方のため松本まで足を運んであせんが、来シーズンj1戦には緑に染まってみよう。

名無しさん  Good!!4 イエローカード0 2014/10/26|19:45 返信

コメントありがとうございます。
そして山雅のJ1昇格本当におめでとうございます!昇格に関するお話を執筆させていただきました。
読んでいただける出会いがあり、大変うれしく思います。
ありがとうございます!

Tomoko Iimori   Good!!0 イエローカード2 2014/11/07|12:42

涙が止まりません。素晴らしい記事に昔を思い出し、直樹が山雅に来てくれた時、ミスターマリノスと言われた男、直樹が、ミスター山雅になってくれたこと……
胸が痛くなった練習中の突然死⁉
この記事を読ませて頂きながら、振り返り涙してます

本当に深く素晴らしい記事
有り難うございました。12番目の選手
山雅サポは今も増え続けて、アルウィンを緑にします!

名無しさん  Good!!8 イエローカード1 2014/09/18|15:01 返信

コメントありがとうございます。

松田直樹選手が来たことで山雅を知った人々はたくさんいると思います。
遺したものは本当に山雅の力となり、強さになっていると信じています。

ずっと松田直樹を応援していた友達との話を以前執筆しました。
http://chantsoccer.com/posts/299

もしよろしければ読んでみてください。

読んでいただきありがとうございます!

Tomoko Iimori   Good!!2 イエローカード0 2014/09/22|12:49

記事拝見しました。すばらしい内容に感動すら覚えました。
山雅のチャントの中に、こんなのがあります。
♪「どんな時でも 俺たちはここにいる
愛を込めて叫ぶ 山雅が好きだから」
選手全員に活躍してほしいと願っていますが、まずは「松本山雅」が大好きだから毎試合アルウィンに足を運び、ゴール裏で声を嗄らして飛び跳ねてます。点が入ると、大喜びで若者とハイタッチするおばあちゃん、立ち上がってタオマフを振り回すおじいちゃん、そして、言葉もままならないくらいの小さな子が選手のチャントを口ずさむ・・・みんな山雅が好きなんです。老若男女問わずみんなが、「また行きたい」スタジアムでありたいと願います。

名無しさん  Good!!12 イエローカード1 2014/09/17|13:08 返信

コメントありがとうございます。
山雅のアットホームで熱く一体となる感覚は素晴らしいですね。
私もいつか体感したいです。
読んでいただきありがとうございます!

Tomoko Iimori   Good!!4 イエローカード1 2014/09/22|12:46

みんなでシェアしようぜ!!!!

松本太郎  Good!!10 イエローカード1 2014/09/17|12:53 返信

コメントありがとうございます。
そしてシェアありがとうございます!
読んでいただきありがとうございます。

Tomoko Iimori   Good!!0 イエローカード1 2014/09/22|12:45

素晴らしい記事にまずは、感謝申し上げます。m(__)m地元にいながら、ようやく今シーズンからの新米サポですが正に、記事通りの事を体感しています。回りの何人かも誘い、アルウィンに行く度又来たいと皆感激しています。今の順位は、間違いなく選手とサポーターが心一つで産み出したものですね♪此れからも、是非暖かく見守って下さい。宜しくお願い致します。

新米サポ  Good!!10 イエローカード0 2014/09/17|00:45 返信

コメントありがとうございます。
本当にアルウィンは今満員に近い状態でものすごいホーム感が出ていてすごく力になるサポーター、そしてスタジアムなんだろうなということが伝わってきます。
私はアウェイの山雅サポーター、そして松田直樹メモリアルでの山雅サポーターのみなさんに触れていますがそれでもその一体感はあたたかく素晴らしいものを感じています。想いがある選手も在籍していますし山雅のこれからにも注目させていただき、また書かせていただきたいと思っております。
読んでいただきありがとうございます!

Tomoko Iimori   Good!!7 イエローカード0 2014/09/17|08:27

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