【流通経済大学】 遠ざかっている勝利へ向かう日々が刻むもの 苦しみもがいた先にある明日―。 【関東大学サッカーリーグ】
2016/10/07 20:56配信
カテゴリ:コラム
6月11日―。
リーグ前期を締める試合。
JFLで戦う流経大ドラゴンズ龍ヶ崎でファーストステージ優勝という結果を残した選手たちが融合する形で挑み、
試合開始から2失点を喫したものの その後4得点を得ての勝利。
時は10月に入ったが、この勝利から長く厳しい時間を重ねている。
総理大臣杯を目指したアミノバイタルカップでは、都リーグで戦う立正大学と対戦し1回戦負けという結果をもってひとつの大きな目標であった夏への挑戦は幕を閉じることとなってしまった。
7月に天皇杯予選準決勝にて、同じく流通経済大学サッカー部内のチームであり社会人地域リーグ・関東サッカーリーグにて戦う流通経済大学FCと戦い、トップチームが勝利し決勝進出を決めたが、
アミノバイタルカップ1回戦という早い段階で敗退が決まってしまったことで、夏の総理大臣杯に出場できなくなった流通経済大学は、長い期間他チームとの公式戦を戦えないという時期に入っていた。
総理大臣杯ではない、夏。
韓国そして大阪で過酷を極める合宿を決行し、10日間で21試合をこなした。
総理大臣杯に出場できなかったことで課せられたという試合ではない。ただ単に、身体をいじめ抜くために組まれた試合ではない。
苦しい時こそ、なにができるか―。
試合で起こることは、試合でしか得られない。
リーグ前期から続いていた試合の中で見える課題と弱さの部分を多くの試合の中で浮彫にし、何度も徹底して追及した。
37度という過酷な夏の暑さの中、体力と精神力の限界を持って、己と向き合い戦い抜いた。
「体力も精神力も限界を迎える中で選手たちがチームのためになにができるかというところを見たかった。この合宿で選手たちのそういったところを探り出せた」
中野監督は苦しくなる選手たちの一人一人をしっかりと見つめ、プレー面だけでなく性格的な部分、メンタル部分と全面でチームのためにそして選手たちの将来のためにを見据え、手ごたえを感じていた。
合宿を終え少しのオフと準備を整え10日後に戦った 天皇杯茨城県予選 決勝。
苦しく過酷な時間を過ごした後だからこそ、ひとつの結果が欲しかった中で
宿敵といえる筑波大学を相手に0-0のままPK戦まで試合は続き、PK戦にて敗退という 厳しい厳しい現実を再び突き付けられた。
総理大臣杯を逃し、天皇杯出場も手にすることができなかった。
それでも光がなかったわけではない。得点こそ獲れなかったものの、筑波大に攻め込まれる時間もありながら無失点という結果であったことは大きな一歩だった。
天皇杯予選決勝での敗退後、関東大学サッカーリーグ後期が開幕。
ひとつの勝利がとにかくほしい。
勝つという結果に繋がるための時間を重ねてきただけに、次に迎える勝利は大きな意味を持っている。
しかし―。
掴み取りたいはずのひとつの勝利までが長く、結果に辿りつけない。
長く厳しく苦しいトンネルが続いたまま迎えた 10月1日。
2位との勝ち点差を大きく付け首位を独走する明治大学との1戦を迎えた。
●RKUプライドを持って迎えた 負けられない一戦
リーグ前期、明治大学に唯一の黒星を付けたのは流通経済大学だった。
前期からなかなか結果を積み上げられず我慢の時を過ごしていた流経大だったが、明治大そして筑波大と強豪に勝利するという結果でやはり流経大には力があるというところを魅せた。
明治大や筑波大に強さを持って勝利することができるのに何故―。
という疑問の声も少なくなかった。
新チームになり、リーグでなかなか結果が続かず調子が上がらない中でのアミノバイタルカップでの敗退。
過酷を極めた夏を過ごし、よりチームを個人を成長させどこよりも誰よりもその後の戦いに向け準備し努力を重ねてきた。
しかし。
それでも結果が出ないという厳しい現実。
ひとつの勝利が遠く、掴めないことでより遠くなったように感じてしまう悪循環。
長いトンネルを抜けられない。
ひとつの勝利がなにかきっかけを掴むことになるはずと信じ感じていながらも、そのひとつの勝利が遠い。
神様は乗り越えられない試練は与えないというが、目に見えぬ神様レベルの話ではなく、自分たちで乗り越えなくてはならない道。
ピッチに立つ11名だけでなくチーム全体で向かい乗り越えなくてはならない試練。
決して、折れるわけにはいかない。
流経大トップチームで戦う選手たちは、230名を越える部員たちの代表であり、流経大で出ている選手というだけで全国的に注目される。
大学に入る前から名の知れた選手であった選手たちも多く、強いと表現されるチームで戦ってきたことはある意味、当たり前だった選手たちも多いであろう。
これほどまでに勝てない時期が続くことはこれまでのサッカー人生の中でも、体感したこともなかったかもしれない。
「今」という部分だけを見てしまいがちだが、中野監督はじめスタッフ陣から出てくる言葉や視点は、先を見据えての広い世界だ。
勝つだけのためだけのチームにはしない。
それが流経大の「伝統」でもある。
いくら勝てなくても、勝つということだけを見つめない。
この時間は、必ず「チーム」に繋がる。
迎えた、明治大学との一戦。
首位という順位に関係なく、明治大と戦うということは
絶対に負けられないという強い気持ちを持っての一戦となる。
会場に現れた彼らは長く勝てずにいるチームの姿ではなく、他チームの選手たちよりも一段と威容さを出していた。
俺たちは流通経済大学であると、容姿や意識というものを超越した、芯の部分から放たれる凄み。
決して、負のオーラはない。
今日こそ、という強い決意と 怯まぬ自信。
ここに今日、勝ちに来た。
そんなメッセージが取れる姿だった。
●試合を握り 奪った先制点 そして―。
試合は序盤から、流通経済大学が握った。
本当に勝てていないチームなのかと錯覚するほどの、威圧感がそこには在った。
明治大に明治のサッカーをさせず、支配し続ける。
長いトンネルにいながらも決して真っ暗な出口の見えないトンネルではなく、光が充分に射していることがわかる。
チームにスイッチを入れた際立った存在感を示したのは、2年生の選手たち。
中央で新垣貴之がテクニックを持って相手を打開し流経大の前線を活性化させると、ボランチに位置する相澤祥太の積極的な攻撃参加や展開、久保和己の気迫溢れる姿を持ってゴールに向かう姿など、流通経済大学付属柏高校時代から共にプレーする選手たちを中心に、明治ゴールを目指した。
身体をしっかりと入れて当たり、身体が強くぶつかり合う音が会場に響く。
剥きだす闘志と共にその激しさも増していく。
選手の中には漲る気持ちや戦う闘志を表に出さない選手もいるが、彼ら2年生はその姿からダイレクトにビシビシと感じるほどに伝わってくるタイプの選手たちが多く、
何かを起こしてくれるであろう期待を抱かせるプレーと、わかりやすくストレートに伝わる闘志が観ている側に響くものがある。
一生懸命や、戦う姿勢、闘志。
こういったものは言葉にするのは簡単だが、すべての試合で100%を持って出し切るのは難しいものだ。
秘めたるものがあっても表には出ない選手もいる分、見た目でそれらが伝わるか否かですべてが計れるわけではないが、見る側にとってダイレクトに伝わるそういった姿が
サッカーにおいて全身全霊で戦うということに、魅力があるということを伝えてくれる。
まさにこの日、伝わるものが多くある試合だったことは確かだ。
勝てないという厳しい現実を前にしているチームだからこそ、そういった選手たちの気迫がチームを引っ張る存在となることで
周囲に刺激をもたらし、相乗効果を生み出すような、魂の籠った試合だった。
スタンドでみている流経大の選手たちの親御さんたちは、手を握り祈るような想いで試合を観ていた。
ここまで勝てない苦しい時間を親の立場をもって観てきたからこそ、その想いは特別であり、その応援は格別なものだ。
祈るように組まれた手。
シュートが放たれる度に、大きな声が上がる。
今日は勝ちたい。
勝たせてあげたい。
戦っているのは、選手たちだけではないのだ。
試合を握り続けた流経大は、後半11分。
相手のミスキックをカットし、新垣の鮮やかなシュートにより、先制点を奪う。
シュートを打つモーションからボールが放たれ孤を描きゴールネットを揺らすまでのほんの一瞬が、ゆっくりとスローモーションのように時間が流れた気がするほどに、
特別で待望の瞬間だった。
先制ゴール。
明治大から先制ゴールを奪った瞬間だった。
試合を握り続けながらも相手を崩したわけでも、自分たちが持ち込んだゴールでもなかった。
しかし長い時間に渡り明治のサッカーをさせなかった流経大が、ひとつのミスを生んだようにも見えた。
まだ試合は終わってはいない。
それはそこにいる全員が理解していた。
まだまだ充分に試合の時間は残っていて、これまで追いつかれた試合も多い。
1点を獲っただけでは、勝利が決まるわけではない。
それでも脳裏には、彼らが過ごした厳しく苦しい日々が流れた。
相手の強運でもなく突発的でもなく、普通に真っ向から戦い負けるべくして負けたという実感を抱いたアミノバイタルカップでの敗退。
総理大臣杯への挑戦が終わってしまったという事実。4年生にとっては最後の夏だったにも関わらず、無情にもあっさりと終わってしまった夏への戦い。
韓国、そして大阪と限界を尽くしこなした試合のひとつひとつ。
自分たちが立ちたかったと実感したスタンドから観た、総理大臣杯。
同じく総理大臣杯出場を逃した関西学院大学との試合では、過酷に連日戦ってきた極度の疲れの中で戦い大量失点という戦意を失いそうな試合の中でも、気迫を持って何度も果敢にサイドを鋭利に攻めたてていたのは久保和己だったことも、ピッチで気迫をみせ戦う姿に重なる。
うまくいかない、と怒りを露にする選手、体力と精神の疲れを表情に出す選手、自分にそしてチームに必要なものはなにかを見つけようと模索する選手。
過酷さの極みを経験したからこそ、次があると信じ再び凛と顔を上げて戦いに向かう姿。
それでも続いた、試練。
まだ勝っていない。
そんなことが過ってしまうことは、甘いのかもしれない。
それでもそれを思い返さずにはいられないほど、道のりがあった。
時間が早く過ぎてはくれないものかと
ひとつひとつのプレーに祈る気持ちが強くなる。
試合は流経大が握り続けていた。
その時だった―。
試合の時計は45分近くを指していた。
突然のその時がやってきた―。
明治大のゴールで1-1の同点。
表示されたアディショナルタイム。
圧倒的な首位という明治大のほんの一瞬を逃さない強さを 魅せつけられることとなる。
―1-2。
「勝てていないチームと、勝ち続けているチームの差が出た試合となった」
そう、中野監督は言葉にした。
試合は終始という表現が合うほどに、流経大が握り続けた。
明治大らしいサッカーはほとんど見られず、勢いも勝利への空気も流経大にあった。
はずだった―。
少しのミスも逃さない。
ほんの一瞬の機会を 明治大は見逃さなかった。
総理大臣杯を制し、関東リーグでも圧倒的な首位を走る。
強さとは、こういうものなのだと思い知らされる結果。
相手が明治大だからこそ、自分たち自身が待ち望み必死で掴もうとしてきた勝利への手ごたえを感じていたからこそ
強く痛みを伴った 大きな敗戦となった。
10月1日
流通経済大学、明治大学に逆転され、敗戦。
「この試合を経て、気持ちの部分でどう立ち直って次を迎えるかが重要」
中野監督は、そう話した。
本格的に目の前に拡がる残留、そして降格という最悪の事態も過る危機。
その「今」を前にしても、中野監督はすべての答えを選手たちには与えない。
大平コーチや川本コーチらスタッフ陣もすべての答えを与えず、選手たちが自分たちで乗り越えることを前提としている。
長い長いトンネルだが、出口がないわけではない。
光は確実に射し込んでいると、この試合で強く感じることができた。
真っ暗なトンネルではない。
光が射す方へ彼らは確実に、歩んでいる。
リーグも残り試合が少なくなっている。
負けた数だけ、勝てなかった数だけ、わかったことがある。受け止めたことがある。
ひとつの勝利へ。
流通経済大学は、立ち止まらずに向かう―。
(Writing/Tomoko Iimori Photo/Yasuko Tohyama,Yuka Matsuzaki)