CHANT(チャント) 日本代表

現状の本田圭佑に感じた「老い」

2016/10/17 20:22配信

武蔵

カテゴリ:コラム

日本代表の10月シリーズが終わりました。

そのうち、劇的な勝利で勝ち点3をもぎ取ったのはイラク戦ですが

その試合後、日本のエースたる本田圭佑は不満を吐露しました。


この日、戦術的な働きをよくこなしたものの

複数の決定機を逃し、途中交代となったこともあってか

現在の日本代表の戦い方が、自身にとって不本意であることを語りました。


本田は、かつて日本代表のトップ下に君臨し

そこに正確な縦パスを送り届けてきた遠藤保仁の名前も出し


「向こうを徹底的にバカにしたプレーがしたい」

「(本田や遠藤は)そういったプレーを得意としている」

としながらも

「今は戦術的にそういったことは求められていない」

としました。

実際、9月シリーズのUAE戦では

最初から中寄り、ハーフスペースに位置取ることで

味方との距離を詰め、ワンタッチを混ぜた細かいパス交換により相手を崩す

そういった攻撃を志向しました。

しかし、コンディション不良もあってか足下へのパスばかりとなり

効果的ではない「自分たちのサッカー」を繰り返すこととなってしまいました。

少なくとも、その攻撃では目立った戦果を挙げられず

結果は残念なものとなってしまいました。


現在の代表チームは、戦術家・ハリルホジッチ監督の優位性を前提に

引き出しを増やすことを念頭に強化が進んでいます。


ボールをもった際でも、サイドハーフを張らせるなど

どういう攻撃をするにしても必要と言える相手を広げる仕組みを

自分たちのものとしようとしています。


本田の志向は、確かに現在の代表チームのそれとは合いませんし

例えばこのような、欧州スタンダードとも距離があるように思えます。

この辺りが、日本代表でも所属のACミランにおいても

現在の本田が苦しむ原因と言えるかもしれません。

本田と代表の、過去と現在

そういった、本田の「あの頃は良かった」と取れるような発言は

いったいどこから来たものなのでしょうか。


それは南アW杯後から、2011年のアジアカップを制し

その夏の韓国を3‐0で下したキリンチャレンジカップの頃がピークだったでしょうか。


遠藤が左に寄り、ボール保持の中心としての役割を担い

香川真司は中央、ハーフスペースに陣取り、長友佑都のために滑走路を空ける。

本田もその近くに寄り、距離を詰め、コンビネーションを発揮する。

この崩しを1トップの前田遼一、あるいは右の岡崎慎司が仕留めるパターンは

一時期、アジアでは猛威を奮いました。



ただ、それも次第に頭打ちとなって行きました。

決定的となったのは2012年の欧州遠征ではなかったでしょうか。


フランス戦は1‐0で勝利したものの、フランスの圧力の前に沈黙し

ボールを保持する機会はごく限られたものとなり、劣勢を強いられました。

日本が自慢とするポゼッションサッカーは封じられたのです。


相手CKからのロングカウンターで先制し、勝利を得ましたが

親善試合としては不本意な内容であったことでしょう。

そして、続くブラジル相手には何も出来ませんでした。


これが、日本が現実と直面した機会でした。

そして、日本はこの現実を前にして、路線の先鋭化へと進みます。

ここから、ブラジルW杯で10人のギリシャ相手に

中央突破と苦し紛れのクロス攻撃に留まり、得点を挙げられなかった

狭いところでの細かいパス交換、その精度にこだわり続けた

「自分たちのサッカー」へと続く一本道を突き進むこととなったのです。

ここに至るまでザッケローニ監督(当時)は香川に

まずはサイドに張り、時にはそこで起点となり

それからゴール前に入ることを再三に渡って指導しました。

しかし、彼は終ぞ、自分の引き出しを増やすことはありませんでした。


これは、ハリルホジッチ監督が本田を始めとする

サイドハーフに指導していることと同じことです。

そしてその本田も、昨年のシンガポール戦やUAE戦でそれを破りました。

そしてそれらの試合の結果は、不本意なものだったでしょう。


パスで崩すチームはどこも、相手を広げる術を持っています。

ひとつのスタンダードなやり方が、サイドハーフがワイドで起点を作ることですが

このやり方は、A代表に限らず、各年代別代表にも浸透しているとは言えません。

代表チームの引き出しが欠如しているということです。


狭いところでの細かいパスの精度や、俊敏性を生かした動きで相手を崩す。

それが日本人の特性を生かすようなサッカーだったとしても

それを高いレベルの相手にも通用させるためには

効率よくそれが出来るように、相手を動かす方法を知らなければなりません。


本田の理想と、抱える悩みについては理解したいところです。

しかし、ここにおいて、私心は無くすべきでしょう。

ここから本田が挽回するためには

いや、本田は私心から、時には指示を無視した位置取りをするわけではないでしょう。

彼はただ、かつての、世界を目指す上では些細な成功体験とともに

自身の武器、弱点を理解した上で、中寄りでのプレーを選択しているのでしょう。

そして、エースとして長らく日本を引っ張ってきたという自負から

その自分を最大限生かすことが日本のためだと信じている節があります。


その考え方は、現在の日本代表の選手層からしても、決して間違いではありません。

日本の人材難は、少なくともハリルホジッチ監督を悩ませているようですから。


しかし、本田が生きるためではなく

チーム戦術を生かすために、その強烈な個の力を発揮してほしいと思うのです。

それが、まだまだ日本代表にとって必要な戦力とはいえども

徐々に絶対的な存在ではなくなってくる本田が

日本のために出来る最善のプレーと言えるのではないでしょうか。



人の志向を縛ることは出来ません。

しかし、組織に所属する、あるいはチームスポーツの人間が

それに関する愚痴を発信することは、いかがなものでしょうか。


そしてその内容が

「昔は良かった」

というようなものだとすると、その人物の老いを感じてしまいます。

変化が求められる現実を前にして、それに背を向けるような行動を取る。

それが日本エース・本田圭佑の現状となると、寂しい気持ちでいっぱいとなります。


本田は現状を打破し、再び君臨することが出来るのでしょうか。

そのためには、遅まきながら自分の引き出しを増やすしか無いと思うのです。

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