CHANT(チャント) 日本代表

オーストラリアvs日本 「ハリルが見せた日本の勝ち筋」

2016/10/13 17:21配信

武蔵

カテゴリ:コラム

ロシアW杯アジア地区最終予選を戦う日本代表にとって

最初のヤマ場がやってまいりました。

グループBの最大のライバルとなるオーストラリアとの

メルボルンに乗り込んでのアウェイゲームです。


今回の相手が、グループB最大の強敵であることもさることながら

過去、W杯予選では1敗4分と勝てていない相手でもあり

勝利を狙うのは必要ですが、相手に勝ち点3を与えないことも

同様に考えねばならないことと言えるでしょう。

「引き分け狙い」の定義が曖昧な日本サッカー界

ただ、それは最初から引き分け狙いで良いということではありません。

そもそも「引き分け狙い」とは、いったいどういうことでしょうか。

90分に渡ってゴール前に石垣を積むことがそれを指すのでしょうか?


サッカーはバランスが求められる競技です。

ゴール前を固めても、相手に脅威を与えなければ

相手はより人数を掛けて、攻撃的な姿勢を取ってきますし

あるいは、身長が高くて競り合いに強い選手を投入するなど

ゴール前でプッシュするのに適した攻撃方法を採ってきます。


それは、得点を取られやすい時間帯が続くということになります。

ですから、守備を固めることは、必ずしも「引き分け狙い」とはなりません。

相手に脅威を与えずに守備を固めることは

安全策的な意味合いを持ち得ず、リスクを減らせてはいないということです。


それと同じくして、相手に脅威を与えさえしていれば

ボール保持率にかかわらず「引き分け狙い」とは言えません。

それは立派な、勝ち筋の見える戦術と言えるでしょう。


それはあくまで、相手に脅威を与えさえしていれば、の話ではありますが。

オーストラリアのボール保持を潰して優位の日本

オーストラリアは433ではなく4312で臨んできました。

ただ、布陣以上に、戦い方が様変わりしていることに注目しましょう。

オーストラリアは以前よりも、ボール保持にこだわるようになり

相手を遅攻で崩して得点を挙げることを志向しています。


ここまでの最終予選、3戦して2勝1分と上々のスタートは切り

サウジアラビアとはアウェイで2‐2のドローでしたが

2得点とも、崩した得点とは言えず、改善を要する精度と言えるでしょう。


そんな中、実戦投入はほぼ初めてとなる4312で

オーストラリアにとっても大一番となる日本戦に臨んできました。

また前線の並びだけでなく、右SBには本職CBで191cmのマッガワンを入れ

ボール保持をするには疑問符の付く人選をしていることも見逃せません。

オーストラリアにも付け入るスキはありそうです。


日本は「自分たちのサッカー」からの脱却を目指しています。

ハリルホジッチ監督は、自分たちの強みを出すというよりも

相手の長所を消し、弱点を衝くことに長けている戦術家です。

従って日本は、ボールの保持に関わらず
それができるチームへと生まれ変わろうとしているようです。

日本がボール保持をする場合がイラク戦の様相であり

その逆が、このオーストラリア戦となるでしょうか。


ただ日本は離脱者が多く、ケガで招集外となった宇佐美貴史、武藤嘉紀や

ケガの長友佑都、出場停止の酒井宏樹は代表を離れ

帯同している岡崎慎司も、出場自体が不安視されていました。

その辺りのやり繰りにも注目が集まりました。

オーストラリアのボール保持は、SBを高い位置に上げ

その空いたスペースにインサイドハーフを落とすことで

相手の442のプレスを回避するというものでした。


しかし、インサイドハーフが落ちるには、SBは高い位置を取り

そのためのスペースを空けてあげなければ、意味がありません。

インサイドにしろSBにしろ、ボールをそこに入れることで

相手を動かすことが目的であることに変わりはありません。

従って、相手のSHとSBの間にボールを入れればSBを動かせるということで

その場合、その役を負うのがSBということになります。

逆に言えば、SBは相手のSBを動かし得る位置取りをせねばなりません。


ただ、左SBの攻撃的なブラッド・スミスはともかく

やはり右SBのマッガワンは、ボール保持時の位置取りに難がありました。


前半5分の日本の先制は、オーストラリアのパスミスからです。

オーストラリアはインサイド落としが上手くいかないことから

右CBのセインズベリーが縦に付けようとしますが

日本がこれを引っ掛け、4手でフィニッシュまで持ち込みました。


日本は、相手のインサイドが落ちないで中にいる限りは

442が横圧縮を効かせ、相手の縦のレーンを締めていました。

従って、早くも日本の策が奏功したことになります。

また、オーストラリアのボール保持が、より稚拙になりやすい

オーストラリアの右サイドでのパスを引っ掛けたというのも

当然、偶然ではないでしょう。

日本はその後、よりオーストラリア対策の色を強めます。

4411のような体勢から、前めの本田圭佑はアンカーのジェディナクをケアし

オーストラリアの2CBを追いつつ、ジェディナクへの経路を封鎖します。

後ろ寄りの香川真司はもう少し後ろのエリアを担当し

本田と呼応してスライド、ジェディナクへの経路封鎖を分担しつつ

ボールが運ばれた際には下がり、山口蛍と両インサイドの関係を築きました。

日本は自陣深くでは4141を形成することで

オーストラリア相手に守備の枚数を整える動きを見せました。


好調であり、攻撃時にはランでもパスでも存在感を出せる清武弘嗣ではなく

なぜコンディション不良明けの香川であったのかというと

守備時は主に442、攻撃時433のトゥヘル・ドルトムントにおいて

昨季はレギュラー格として存在感を出した香川には

このタスクを実行するだけの確固たる実績があったということでしょう。


ちなみに清武は、これでドイツではトップ下を主とし

今季から在籍するセビージャにおいては

同じインサイドハーフのポジション争いで後れを取っています。

日本のオーストラリア対策により

オーストラリアは日本の危険なエリアまではボールを運べずにいました。


逆に日本は前半29分、ロングカウンターからチャンスを作り

本田が決定機を迎えましたが、これは得点に至りませんでした。

しかし、起点を作るためにサイドに流れた本田が事を為し

原口元気のフォローから、相手がボールウォッチャーになったところを

ゴール前でフリーとなるまでは目論見どおりだったでしょう。

日本が苦手としてきたロングカウンターでの決定機でした。


前半のオーストラリアのチャンスといえば、CBの森重真人が出たところに

放り込みから起点を作られ、そこで山口蛍が与えたFKくらいでした。


オーストラリアの遅攻志向の攻撃は、全く上手くいっていませんでした。

それはオーストラリアの弱みとなり、そこを衝いた日本が先制しました。

この試合の前半は、ボール保持率が試合の趨勢を左右するとは限らない

ということを、如実に表しているように思えます。

オーストラリアのリスクを取った攻撃

後半立ち上がり、オーストラリアがPKを獲得し同点としましたが

これはオーストラリアがリスクを取ってきたところに

日本のマズい守備が重なってしまったものです。


オーストラリアは、アンカーのジェディナクが

ビルドアップ時に2CBの前から大きく動き、SBの位置で受け

トップ下のロギッチまで縦パスを出しています。


通常、アンカーというものは2CBの前から動くことは無く

「フィルターであるため、ポジションを離れてはならない」

「中央を空けないために攻撃の回数は抑えられ、それも熟慮の末に為される」

と、マッシミリアーノ・アッレグリは規定しています。

そのポジションを空けることはリスクがあります。

ただ、オーストラリアはリスクを取らざるを得ない状況であり

そして、その行動は結果的に実を結びました。

オーストラリアのPKは、ジェディナクの「熟慮」が生んだと言えました。



日本にも組織的守備のミスはありました。

長谷部誠は人に付くことで、ロギッチへのコースを切れず

酒井高徳はロギッチに食い付くも潰せず直接的な原因となり

山口蛍は長谷部のカバーもエリアを埋めることもユリッチへのマークも出来ず

そして原口は、焦る必要はなく、いらないファウルだったでしょうか。


日本は1つのミスをカバーできず、遂には決定的な無理が生じたことで

PKを与えてしまいました。

確かにあった日本の勝ち筋

ここから日本は、我慢の時間帯となります。

そしてだんだんと、カウンターで相手に脅威を与えられなくなります。

本田、香川ともに俊足とは言えず、また時間とともに消耗することで

特に本田はサイドに流れてフリーになることが出来なくなっていき

日本はボールを前進させることが出来ず

オーストラリアに押し込まれる時間が続きました。


日本が悩ましかったのは、守備は上手く回っていたことです。

その後も焦って前に出ることもなく体勢を保ったことで

オーストラリアはアタッキングサードからは攻めあぐね

試合の図式が大きく変わることはありませんでした。


しかし、このまま日本が相手に脅威を与えられないようでは

オーストラリアも、またリスクを犯して攻めてくることは必定です。



後半32分、ロングカウンターの場面、原口から本田へのパスが通らず

本田の疲労が色濃いことを確認したハリルホジッチ監督は

ベンチに戻り、浅野琢磨を呼ぶように指示を出しました。

ここで、単純なスピードで相手の脅威となる浅野を投入する姿勢を見せます。

これは、守備で効いていた本田を下げる、攻撃的なカードと言えるでしょう。


ただ、香川でないことは、リスクマネジメントと言えました。

香川を下げることは、この守備システムを動かすことになってしまいます。


この後、小林悠のアクシデントで交代が遅れたことは不運でした。

それでも浅野は短い時間で快足を生かしてチャンスを作り

後半40分のショートカウンターは最大のチャンスだったと言えるでしょう。



これを逃したことで、日本は更にリスクについて考えねばならなくなります。

これほどのチャンスは、このレベルではそうそう巡ってはきません。

ここが日本にとっての攻撃の限界点と言えました。

ハリルホジッチ監督も手仕舞いをすることとなります。


丸山祐市のSHへの投入は、原口の位置が下がり気味だったこと

レッキーの投入で、相手の右サイドに攻撃手段が増え、守勢に回ったこと

左SBの槙野智章が警告を受けたこと、とはいえ槙野は代えられないこと

丸山のプレー機会がカウンター攻撃時のクロスを折り返したこと

つまり空中戦であったことなどから、違和感は無かったように思えます。

ただ、攻撃的な意図は、そこまで無かったように思えます。


選択の是非はともかく、後半ATにおいて

更に前へ出るという選択肢は取られませんでした。

試合はそのまま1‐1で終了し

日本はアウェイで貴重な勝ち点1を得ることとなりました。

この日の日本に「引き分け狙い」という言葉は当てはまらないでしょう。

日本はオーストラリアの短所を叩き、前半は試合を優位に進めました。

守勢に回ることが多かった後半も、選手交代前後に決定機を得ました。

決定機の数では日本が上回っていました。


オーストラリアの稚拙なビルドアップを考えても

この戦い方には、間違いはなく確かに勝ち筋が存在したと言えるでしょう。

ハリルホジッチ監督の得意分野を考えてみても

まず納得のいく試合運びだったと言えます。


守備は守備でも、相手のボール保持に難があるのであれば

ハイプレスを敢行することで、より多くのチャンスを得られたかもしれません。

ただ、欧州式のゾーンディフェンスを下敷きとしない彼らは

まだそこまでの信頼が、指揮官から得られてはいないように思えます。


交代の遅さに関しては、やはり人材難ということが言えるでしょうか。

ケガ人に加え、アウェイで強敵相手に追い付かれての1‐1という状況において

「守備時にどこを見れば良いのか分からない」という浅野を投入することは

大いなるリスクを孕んでいたことは、言うまでもありません。

SHに丸山が投入されたことも、ハリルホジッチ監督を信じれば

「セットプレーでのリスク」を考えてのものです。


サッカーはバランスが求められる競技です。

これらのリスクを考慮した上で

それでもオーストラリアを相手に勝ち筋を見せたことは

ハリルホジッチ監督の地位を盤石にするものではなかったでしょうか。

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