CHANT(チャント) 流通経済大学サッカー部

【流通経済大学】 プロクラブとの練習試合が行えるいう環境 受け取ったプロの舞台で活躍する先輩からのメッセージ 【浦和レッズ】

2016/06/01 12:16配信

Tomoko Iimori

カテゴリ:コラム


夏が近いと感じさせる青空高く気温の上がった木曜日。
整い拡がる緑のピッチは気温が上がったこともあり、芝の匂い豊かにサッカー日和を感じさせた5月19日。
場所は、さいたま市大原サッカー場。

前日にはACLラウンド16 1st legが行われ、浦和レッズが勝利を収め先勝。
その次の日、流通経済大学サッカー部は浦和レッズとの練習試合を迎えた。

関東大学リーグでは今季、決して良いとは言えない状況が続いている流経大だが、勝ち点差が詰まっており混戦となっている中で上昇する可能性が長いリーグの中でまだ充分にあるといって良いであろう。
筑波大学との茨城ダービーを制したリーグ戦の試合から中4日のこの日。
浦和レッズからの申し出により、練習試合を行うため、大原サッカー場へと向かった流通経済大学サッカー部。
浦和は負傷者等により交代選手がいないということでこの日は30分ハーフで行う試合となった。

いつもとは違うボール、ACLのボールが流経大に渡される。
練習試合の意図は、次なるACLラウンド16 2nd legへの準備のためだった。
控え選手たちの次戦への調整と競争を兼ね、流経大との練習試合を組んだと考えられる。
よって、ボールはACLのボールが使用された。

アップ開始時、川本コーチから選手たちへ伝えられた一声は、「声を出し、元気よく」ということだった。
人工芝のアップゾーンで流経大の選手たちの声が響き、アップがスタートした。

大学サッカーは「部活」だ。
プロにほど近い…状況によってはそれ以上の力を持つチームである強豪ばかりが揃う関東大学リーグの中でも名門と呼ばれるチームだが、チームにはプロにはない「部活」だからこその良さがある。
そのひとつが大学サッカーの試合会場で響く声。
声を出すこともひとつの伝統であり、チームの雰囲気を高め全員で声を出しアップをする姿は、大学サッカーチームの良き姿であるといって良いであろう。
公式戦ではなくとも、試合へ向かう「声」は抜かりない。

ピッチにはしっかりと試合前に水が撒かれた。
ボールを速く回しパスの多い浦和のサッカーには、ボールの走る濡れたピッチが良ピッチだ。
流経大にとって環境の面でアウェイであるが、球際への強さやプレスの速さはプロに通用する自信のあるものを持っている。
人工芝から場所を移し、本格的なアップが始まった。
アップ時から川本コーチの高い要求が飛び、状況把握をしっかりとするようにとの指導が届けられる。
その後、中2日で迎える大学リーグ試合もこの日と同じような天候・時間であることを指し、しっかりとイメージを想定して戦えとの指示が与えられた。

浦和レッズのACLに向けた調整相手としてだけでなく、自分たちもこの戦いを持って今後にプラスにすることが求められる。
プロとの練習試合は大学リーグの公式戦とはまた違った面を持つが、プロを目指す選手が多い流経大の選手たちにとって、目指すために必要な現実的な物差しとなる機会でもある。

大学の選手たちは土日に試合が行われることが多いため、週末のJリーグの試合をほとんど観ることはできない。
プロを目指す、Jリーグを目指す選手たちが多いにも関わらず、目指している場所であるJリーグの臨場感を肌でなかなか感じられる機会がない。
プロになりたい―。
そう揺るぎない想いを持って目指すが、プロの「今」をスタジアムで観ることは難しい。
だからこそ、実際に同じピッチで対戦相手として「知る」ことができ、観る以上に戦う形でプロの質を感じられることは貴重な機会だ。

大学サッカーでの戦いだけではなく、Jリーグチームや日本代表と練習試合を行う機会の多い流通経済大学サッカー部。
日本トップレベルの刺激をピッチ上で経験し、よりプロサッカー選手という立場を現実的に捉えることができる。

浦和レッズには2人の流通経済大学出身の選手がいる。
宇賀神友弥選手、そして武藤雄樹選手だ。
彼らは流経大にて学年1つ違いで共に戦った選手であり、現在浦和レッズの主力選手として再び共に戦っている。
中野監督、川本コーチ他、流経大の多くの指導者に育てられた二人の選手は、前日に行われたACLのリカバリーを終え、流経大ベンチへと足を運んだ。

卒業してから5年以上が経過する彼らだが、母校の「今」もしっかり把握し、母校へそして恩師への感謝の気持ちと愛情を持って卒業生として流通経済大学サッカー部を見つめ続けている。
昨年卒業した選手や現在在籍する選手たちの名前と特徴、自分たちとは学年的に重ならなかった選手であっても同じ流経大出身の選手たちのことは把握し、気にかける。
中野監督の隣で自分たちの近状報告を伝えると共に、流経大の現在の状況を聞くことも忘れない。

ピッチに立つ後輩たちを目の前に、先輩2人は驚きの声をあげた。
並ぶ後輩たちの恵まれた体格に驚きを隠せない。
自身がいた時よりもずっと身体が大きい選手が並ぶことに驚いていた。

俺たちが戦ってきたことで、きっとこういう選手が流経大に揃うようになったんだな、と二人は笑ったが、
卒業した選手がプロの世界で活躍しているからこそ憧れを持ち未来への期待を持って、流経大に入りたいと志願する選手が多いのは間違いない。
偉大な先輩たちが今Jリーグで活躍してくれているからこそ、それを追いかけることができ、それ以上に自分たちが、と強い気持ちを持ってプロサッカー選手を目指せている。
自分もそういった道を経てサッカー選手として活躍したいという多くの選手たちが、流経大の門を潜るのだ。

30分ハーフの練習試合が開始された直後、開始早々に流経大は失点を喫してしまう。
浦和との練習試合ではいつもスコアでは互角であることが多い流経大だが、開始早々失点をしてしまったことでマイナスから試合がスタートしてしまい後手に回ってしまう。

消極的となった流経大はキャプテン塚川、今津のセンターバックを中心に守備面に関しての檄が飛ぶ。
「躊躇するな、出ていくところは自信を持って出ていけ」
流経大はプロを相手にしても結果を求める。プロを目指す選手たちがプロ相手だから「仕方ない」は成り立たないのだ。

背番号10を背負うジャーメイン良を気にかけ注目する先輩2選手に中野監督は、「ジャーメインは武藤と同じだ」と話した。
守備的な流経大からは得点王が出ないと言われることも多く、今までリーグ得点王となった選手は一人も出ていない。
武藤選手が在学時に得点ランキング2位という結果を残したが、それ以降も得点王となった選手はいない。
ジャーメイン良は、チームの戦い方を言い訳にせずチームを勝利に導くたくさんの得点を獲れる選手にならなければならないと言葉にする。
「なりたい」ではなく「ならなければならない」―。
その言葉から覚悟が感じられる。
身体の大きさやプレーの特性などに違いがあるが、中野監督はジャーメイン良と武藤雄樹を同じ、と表現した。

武藤選手が大学時代にぶつかった壁から自ら打開策を模索し、自分のスタイルを手にした過去がある。
うまくいかなかくなった自分のプレーを前になにが必要かを考え、どうしたら得点が獲れるか、どうしたら試合で使ってもらえるFWとなれるか
それを自ら考え、それまでのスタイルにプラスαを取り入れたからこそ、結果を生みプロへの道を掴んだ。

ジャーメインも同じく、自分が通用しなくなった時期があった。
不調といえば不調だが、それは不調ではなく対応されてしまった選手となったことで、打開ができなくなったのだ。
試合で起用してもらえない状況に、まだ2年だからいいかというどこか甘えた気持ちも持っていたが、時間はあるようで実際には短いことに気づき、監督やコーチたちから与えられた言葉にはされない「課題」を「期待」と受け取った。
打開するため、求められることすべてを求められている以上にこなせるよう、自分で考えプレーするようになった。

今はまだ発展途上。決して納得のいく結果も出せてはいない。
流経大の10を背負いエースとしての期待がかかることは、誰にでも与えられるわけではないことを重みを持って特別なことだと理解している。
だからこそ、自分に厳しく自分のスタイルを追求している。

そこが、中野監督の言う「同じ」という接点なのかもしれない。

前半を凌ぐ時間で過ごし0-1で折り返した。
ハーフタイムに中野監督から選手たちへ伝えた言葉の中で、印象的な言葉があった。

ACLのボールは普段大学で使っているボールよりも軽く、シュートを打つことで変化しやすいボールになっている。
シュートを打つ「楽しみ」があるボールだ。
シュートを打ってみろ。なにか生まれるよ。

迎えた後半、攻撃の面で明らかな変化がみえた。
積極的にシュートを打ちに行く姿勢、運動量で勝り前半にはみせることができなかった攻撃の形がチームの空気を変えていく。
距離があるところから打ったボールは変化し、ポストを叩いた。
攻撃の形をひとつ重ねるごとにチームは本来の力を持って戦うことができ、相手にとって脅威を与えることができた。

しかし、最終ラインでのミスや甘さが出てしまい失点を続けた。
後半決められてしまった4失点。トータル5失点を喫した試合となってしまったが、「練習試合」から見つけられた課題と光、両面を収穫することができた試合であったと感じた。


試合後、宇賀神、武藤両選手から後輩たちへ向けて言葉がかけられた。

「今日の試合は点差が開いてしまったけれど、収穫がきっとあったと思う。
みんなもプロを目指してココでサッカーをやっていると思うけど、プロになるには「きっかけ」が大事。
そのきっかけを掴むことで、プロになるチャンスを掴むことになる。
自分でその「きっかけ」に気づいて掴めるような選手になるために、日々の練習だったり試合だったりで努力を重ねてください。
いつかプロのピッチで一緒にやれることを楽しみにしているので、一緒にやりましょう」

と、武藤選手が話した。

「前日のACLでのゴールを「俺のスーパーなゴールを見ましたか?」と笑い、緊張した面持ちの後輩たちを柔らかくし距離を縮める言葉から始めた宇賀神選手。
今日みんなを観ていて、自分の時よりもずっと巧いと感じたし、身体も大きいことに驚きました。
でもどんなに巧くても身体が強くて周りに負けなくても、どんな時も走ること。どんなときも闘うことを忘れずにいることが大事だと思う。
成績や経験、今までの経歴なんて関係なく、どんな過去を持っていてもそれに驕ることなく、努力していください。
プロとこうやって試合ができる流経大の環境はとても貴重なことで幸せなこと。
せっかくやれるんだから、プロになる!という目標があるのなら、目の前にしたプロ選手たちに絶対勝ってやる、個人としてもチームとしても勝ってやるんだという気持ちが大事。
そういった貴重な機会を無駄にすることなく、これからも頑張ってください」

流経大で4年間努力を重ねプロとなり、浦和レッズの主力選手として戦う先輩たちの話の後、中野監督が続いた。

「宇賀神や武藤の身体を見て何を感じる?
お前たちよりも小さい身体だ。でも今浦和レッズの主力選手だ。
なぜ、そうなれたのか。

宇賀神はユースでも試合に出られない時期の方が長く、うちに来てからもトップでやれないところから上がってきた選手だった。
武藤も高校卒業のタイミングで出会った縁から流経大に来て、それまで無名選手だったところからリーグ2位の得点を重ねるまでになってプロに進み、移籍を経て今浦和の9番を背負っている。
そこには誰にも負けないほどの、努力があったんだよ。
4年間という時間の中で、自分のため・チームのためへの惜しみない努力があったからこそ、今こういう舞台で活躍できているんだ」

中野監督は常に、卒業しプロの舞台で活躍する選手たちのことを指して言う。
「自分の指導や大学の環境が彼らをプロにさせたわけではない。彼ら自身の努力なんです」、と。

与える「問題」と「ヒント」。
選手は突き付けられたその答えを出すために必死にもがき、努力を重ねる。
見つけて掴んだその先に、Jリーグという新たなステージが待っているのかもしれない。

メッセージは先輩たちの助言からだけではない。
浦和レッズの選手たちが、次のACL出場やメンバー入りに向けてしっかりとアピールするため大学生相手だというライン引きはせず、全力でぶつかってきた。
次の試合に向けて高いモチベーションを持って準備するという高いプロ意識と気迫を感じられたことにより、控えの選手であっても高いモチベーションを持って限られたアピールの機会を存分に生かし、全力で取り組むことが大切だというメッセージを受け取った。

サッカーへの取り組み方、時間の過ごし方によって今後の人生が変わる。
日常生活の中では今の自分たちのチームのことや大学という戦いの舞台での自分の位置を考えてしまいがちだが、
先を見据えプロの世界で自分はどれだけのことをしなくてはならないか、プロの世界で求められ活躍できる選手となるにはどうしたら良いのか。
プロサッカー選手になることがゴールではなく、スタートであること。
プロになっても厳しい競争が存在し、そこからさらに戦いが存在すること。
リアリティを持って、そう感じ考えることのできる環境が流通経済大学サッカー部にはあるのだ。

先輩たちが努力で刻んできた歴史があるからこそ、より良い環境で4年間戦うことができている。

5失点での敗戦は浦和レッズが相手だから仕方ないでは終わることはできない。
なぜ5失点したのか、敗戦となったのか。
それぞれがしっかりと考え、今後の材料にしなくてはならない。
答えを導く努力は決して無駄にはならないと、先輩たちの「今」を前に改めて感じる部分であったはずだ。

5月19日 流通経済大学 0-5 浦和レッズ


きっかけを掴め―。
そのメッセージをひとつ、刻んだ日となった。

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