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FC東京vs浦和 前プレとミラーだけでは、ミシャ式には勝てぬ

2016/09/20 14:27配信

武蔵

カテゴリ:コラム

ホームのFC東京は、篠田善之新監督となって以来、2ヶ月で4つの勝ち星を挙げ

勝ち点39とし、残留争いとは無縁のところまで浮上しました。

一旦、崩れてしまった体勢を立て直し

来季、またはカップ戦に向け、歩みを進めたいところです。


浦和戦の先発はというと、田邉草民が出場停止で、橋本拳人が入っています。

ボールを収め、縦に出せる梶山陽平と、運べる田邉というコンビが確立されてきた中で

能力は折り紙付きと言えども、タイプの違う橋本をどうフィットさせるか。

中央での精度と、ボールを失った後のゲーゲンプレスを志向する篠田新体制においては

特に重要となるだけに、注目が集まります。

浦和は、どのタイトルも現実的な目標と言える位置に付けます。

2ndステージ、年間勝ち点ともに2位としており

ここからのラストスパートで、ともに首位に立つ川崎をマクりたいところです。

ミハイロ・ペトロビッチ監督、悲願のタイトル獲得はなるでしょうか。


FC東京戦の先発で注目点は、槙野智章がいないことでしょう。

ミシャ式においての最大のキモとなる、相手のプレスの逃げ道となり

最終ラインでの横に速いパスで相手をズラしたところに

槙野のチャレンジパスを入れることで、今まで何度も決定機を作ってきました。

そして、言うまでもなく、守備面でも多大な貢献を誇ります。


ここに宇賀神友弥が入ることで、両WBの人選にまで影響が及んでいます。

攻守においてどれほど、質の変化が表れるのでしょうか。

「前プレ」のFC東京と、いなしたい浦和

浦和の415、正確には西川周作を含めたビルドアップとなりますので

1415とも表記できるボール保持時のシステムに対して

FC東京は442で積極的に、前から、プレスを、仕掛けました。


浦和の5トップに対して4バックで守るため

なんの対策も講じなければ数的不利となり、ミシャ式得意の大外と視野リセットで

あっさり攻略されてしまいますし、実際に今まで何度も攻略されてきました。

そのための策が「前プレ」だったということでしょう。

このいわゆる「前プレ」の利点は、相手から時間を奪い、アバウトなボールを蹴らせ

相手に好きなようにビルドアップをさせない、プラン通りに運ばせないという点です。

難点は、体力の消耗が激しいこと。

特に日本ではマンツーマン要素が色濃く、ポジショニングの工夫で外されてしまうため

その割に効率が悪いという点です。


「前プレ」は、日本サッカー界においてはトップから育成まで

なぜか切っても切り離せない関係となっており

その集大成がロンドン五輪での日本代表と言えるでしょう。

そして、そんな「前プレ」がスタンダードとなっている日本

中でもJリーグのチームを攻略する方法として

ミハイロ・ペトロビッチ監督が具現化し続けているのがミシャ式とも言えます。

ただ、体力の続く限り「前プレ」も一定の効果を発揮します。

36分には、浦和のビルドアップ陣にマンツーマンで付くことでパスコースを封じ

西川に右足で蹴らせることに成功し、奪った中島翔哉が運んで

梶山陽平とのワンツーから決定機を迎えました。


この場面は、浦和がビルドアップに掛ける人数の分だけ前線に選手を送り込むことで

攻撃に転じた際に、数的同数以上の場面を作ることができるというメリットと

ミシャ式は可変システムであることから、切り替えに難点があるという特徴が

如実に表れたシーンと言えます。

ただ、その直後には、柏木陽介が最終ライン近く深めに落ちることで相手を引き出し

そこを精度の高さで突破することで、5対4という数的有利の状況を作りました。

浦和がミシャ式において、最終ラインにボランチの2枚が両方落ちることで

相手の、人に付く守備の基準点を狂わせるという形は今までもありましたので

その応用と言えるでしょう。

ここは関根貴大がセオリー通りに大外を使わずミドルシュートを打ったことで

決定機にはなりませんでしたが、その手前まで運ぶことができました。


前半の浦和は、レギュラーの不在もあってか

ビルドアップが上手くいかない場面が続きましたが

深い時間帯になると、プレスへの慣れもあってか、こういった打開策も示しました。


FC東京はプラン通りに運べたことでしょう。

ただ、体力の消耗が激しいプランであったことは事実です。

それでもFC東京は、プランがプランだけに

少なくともスコアを動かすまでは、この戦線を維持しなければなりませんでした。

そしてスコアが動き、試合が動き始めます。

FC東京の2つの引き出しの2つ目は「ミラーゲーム」

後半立ち上がり、40秒でFC東京がPKを獲得するのも

ミシャ式を始めとする可変システムが確実に苦手とする切り替えからでした。

梶山のスルーパスから中島が抜け出し、那須大亮に倒されPKを獲得します。

これを決めて、FC東京は待望の先制点を手にします。


何度も言いますが、FC東京は前半から続けてきた「前プレ」を続けられません。

なぜなら、人間には体力の限界があるからです。

現に、後半10分すぎには河野広貴が足をつりかけていました。

つまり、篠田監督は次の引き出しを開ける必要があります。

そして、その「予定通り」(篠田監督)という引き出しは

「ミラーゲーム」というものでした。



「ミラーゲーム」とは、単純に相手に合わせた布陣を採ることです。

お互いの布陣が鏡で映したようになることから、そう呼ばれます。

この場合では、浦和の5トップに対して5バックとして

人数を合わせることで対応しようとするものでした。


ミシャ式が旋風を巻き起こしてきた中で、そこに541で対することは

今まで、幾多ものチームが試みてきました。

そして、一定の効果が示されることも少なくありませんでした。


9人でブロックを作ることによりスペースは消え、試合を膠着させやすくなります。

そして何より、人数を合わせることで、対面の敵にやられないことが最重要となり

ここでもマンツーマンでの能力こそが必要な状況となり

そこまで多大な準備を必要としないのもメリットと言えます。

ただ、これまで何度もミラーにされてきた浦和側からすると

そんなことは慣れっこと言える程度には、この4年半の積み上げがあります。

現に今季の浦和は、福岡、湘南、甲府といった541で守備を固めるチームに相手に

それぞれダブルを達成しています。

今や、ミラーにするだけでは対策とは言えない領域まできています。


そして、それらのチームと同じ二桁順位であるFC東京相手に

好き放題にボールを回せるようになった浦和が徐々に押し込んでいき

5トップはエリアの近くで相手を剥がす作業に専念し始めます。



同点ゴールは、好き勝手にボールを回す浦和に対して業を煮やしたのか

541のSHである東慶悟が対面に食い付き、サイドのスペースを空けてしまうという

541ではありがちな局面となり、サイドへの展開から関根がフリーで上げたクロスに

李忠成が丸山祐市との競り合いを制して決めました。


541では、一定のところまではボールを運ばれてしまうので

その点に対しては、また対策が必要です。

しかし、このシステムに必要なのは割り切りとも言え

この場面のように、危険なスペースを空けてはいけません。

そういう意味で東は、541と「前プレ」の区別が付いていなかったのかもしれません。


ただ、割り切ったところで、たいていの場面においては

1対1で敗れることは失点に直結します。

このシステムは、1対1で守備側が勝ち続けることを前提としていますが

それにも当然、限界がありますので、必然の失点と言えるでしょう。



FC東京には引き出しが残っていません。

勝ち越しを狙うべくユ・インスを投入し2トップとし

フレッシュでフィジカルに優れるインスを前線に置くことで

再び、チームの「前プレ」への回帰を目指しますが

既に体力が底を突いていた周りは、付いてこられませんでした。


そして、投入直後に西川を追い詰めたインスが

その10分後にはエネルギーを失い、西川に簡単にプレスを回避された様子が

「前プレ」の限界を表している場面だと言えるでしょう。

FC東京

ミシャ式を擁する浦和に対して準備したことは以上の2点でした。

篠田体制となって2ヶ月弱のこの時点では

この引き出しの少なさもやむを得ないのかもしれません。


この日のFC東京が拾い得る勝ち筋としては、前田遼一と中島だったでしょうか。

この日の前田は、那須に対して老練な技術を駆使し

ロングボールに対して競り勝つどころか、収めてマイボールにする場面が目立ちました。


得点直後の梶山から河野へのスルーパスや、橋本の1対1が決まっていれば・・・

というのも、もちろんあるでしょうが

それよりも攻撃時4231を出来るだけ保持して、前田へのフォローを欠かさなければ

そういったチャンスをもっと再現的に得られた可能性は捨てきれません。


中島を下げた理由として「森脇を外す場面があった」(篠田監督)としましたが

中島を中央に移せば、ある程度の守備的な負担を回避することも可能でした。

この日、オンザボールで違いを見せ続けていた中島を前田の衛星として置けば

前掛かりになる浦和に脅威を与えられていたかもしれません。

そしてそれは、前回対戦同じく逆転負けを喫した際に

城福前監督がバーンズを下げたことについて指摘された問題点でもあります。


そういったところをすっ飛ばして、2つの引き出しに固執した形となったことは

次のルヴァンカップでの対戦に向けて、反省せねばならないことでしょう。


篠田監督はこの試合において

このチームの伸びしろや新しい可能性を示したわけではないかもしれません。

そして、それでも勝ち点を伸ばすことは出来ませんでした。

「前プレ」とミラーだけでは、ミシャ式には勝てるとは言えないのです。


しかし、ここで得られた教訓を生かすことはできるでしょうし

それが監督としての課題、伸びしろと言えるのかもしれません。

浦和レッズ

浦和は主力の離脱、コンディション不良を乗り越えての連勝となり

2ndステージでの首位を奪取し、年間順位でも首位に勝ち点差2と迫りました。


浦和がタイトルを取れない原因として囁かれてきたのは

特殊なシステム故に、主力の代えが効かないという点があります。

この日、欠場した槙野や、出場の無かった遠藤航の他にも

長期離脱を余儀なくされる梅崎司などが安定して起用出来ていません。


しかし、5年目に突入したミシャ式の、積み上げたノウハウもあり

また、夏場やこういった主力の不在を乗り越えたことで

タイトル獲得の現実味が一層増したと言えるでしょう。


また、西川のクオリティはこの日も凄まじいものがありました。

西川からの繋ぎでチャンスを作り、得点に結びつくのは当然として

ロングボール1発で相手の裏を取る場面も、何度もありました。


そして「本業」の方でも、1対1を2度止めるなど、力を発揮し

この日のマンオブザマッチと言えるデキでした。


浦和というチームにおいて、またミシャ式というシステムにおいて

欠かせないのが、この日本代表GKだと言えるでしょう。

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