CHANT(チャント) 京都サンガF.C.

【京都サンガF.C.】 「スカラーアスリートプロジェクト」とは―。独自の育成から生まれる「ファミリー」 【J2】

2016/09/16 11:46配信

Tomoko Iimori

カテゴリ:コラム

現在はJ2で戦う京都サンガF.C.だが、数々の名選手たちを輩出してきたクラブとして印象を持つ方も多いのではないであろうか。
特に近年はアカデミーから輩出された選手たちがJの舞台、そして海外にて活躍していることが目立つ。

今夏、開催されたリオデジャネイロ五輪代表に選出された選手たちの中にも、京都サンガF.C.のアカデミーで育った選手たちが複数人いたことでも注目を集めた。

スイス・BSCヤングボーイズで活躍する久保裕也は、チームの主力として期待され五輪代表に選出されながらも、チーム事情で五輪出場を断念。同じく選出された現川崎フロンターレ所属の原川力、バックアップメンバーとして選出された現徳島ヴォルティス所属で京都サンガF.C.より期限付き移籍中のGK杉本大地も京都アカデミーの出身である。

これらの選手たちを輩出した 独自の育成プロジェクトが京都サンガF.C.に存在する。
スカラーアスリートプロジェクト。
高校生年代を対象にしているこのプロジェクトから輩出された選手たちが今、トップチームの他、海外を舞台に、そして社会で。

活躍している。

●独自の育成プロジェクト「スカラーアスリートプロジェクト」とは

2006年。
ちょうど今から10年前に、スカラーアスリートプロジェクトが発足した。
京都サンガF.C.、立命館学園、京セラが協力し生まれた独自の育成プロジェクトであり、1学年最大10名の選手がこのプロジェクト生となる。

京都サンガU-18に所属する選手たちの各学年10名の選手たちがスカラーアスリートプロジェクトの選手であり、学費・寮費・遠征費がプロジェクトから支給されている。
日々の生活は京都サンガF.C.の選手寮「RYOUMA」にて過ごしている。
食堂や浴室はもちろん、ミーティングルーム等も備え、専属の栄養士が毎月栄養指導を行い、食べる食品の栄養素の知識から身体に摂取する時間などの細かな指導や管理、意識付けを行っている。

学校は寮から自転車で通える位置にある、立命館宇治高等学校に通う。京都府内でも有名な国際教育に力を入れている高校のひとつであり、名門校としても名高い。最新の環境面も整っている大きな学校である。「世界」を意識した教育を取り入れ、グローバルな人材教育に力を入れている学校で日々学ぶ。

学校で国際的な教育を受け、最新設備の整う環境で学校生活を送り、サンガタウン城陽にて設備の整った環境の中サッカーに打ち込むことができる。サッカーだけでも勉強だけでもなく文武両道で生活し、学問・サッカー両方を両面で生かす。

京都サンガF.C.U-18は現在高円宮杯U-18プレミアリーグ・ウエストにて戦っており、試合を行う場所は東海から九州と広範囲に及び、
その他にも多くの大会や海外遠征なども組まれているため、遠征費の出費はどのチームの選手たちにも言えるが家族の家計に大きく影響するが、スカラーアスリートプロジェクトの選手たちは、生活、学業の他に遠征費も負担がないことで、選手の家族の負担を少なくしていることが最大の利点のひとつである。

これまで多くの選手たちが家庭の事情や地域の事情などによって、進路先を諦めなければならなかった。
強く全国的に戦えるチームでなおかつ多くのプロ選手を輩出するチームであればあるほど、そこに入団するにはどうしても負担しなければならない金額が大きくなり、それを支えたくても支えきれないという声や、遠い地域の有望な選手たちにとっても選手たちが家族から離れて生活をし、サッカーを続けることに対してかかる資金を家族が通常の生活をする他に選手の生活の負担しなくてはならないというのは、難しいという厳しい現実があった。

現在日本の子供たちの中で、習い事として選択するスポーツとしてサッカーが1位となるなど、プレーヤー数が増え、Jリーグというプロリーグがあるからこそ、Jクラブのアカデミーはより注目されることとなり
プロを目指す選手たちの多くはJクラブのアカデミーに入ることを目標としているが、経済的な部分や距離的な部分で断念しなくてはならない例も少なくない。

しかし、スカラーアスリートプロジェクトは経済的な負担に全面的な協力をし、素晴らしい環境を用意するという画期的な取り組みでを打ち出した。
これによってこれまで経済的な負担を考慮しなければならなかった家庭や、遠方からチャレンジをしたいという選手たちの大きな希望となった。

京都サンガにとってもこのプロジェクトが発足したことで、スカラーアスリートプロジェクトの選手になりたいと志願してくれる選手たちが増え競争率が高くなったことによって、U-18の選手層の底上げに繋がり、それは後にトップチームの強化にも繋がる結果となっている。

このプロジェクトから初めてのトップチームへの昇格選手が輩出されたのは、2008年のこと。
2006年に発足した時に高校1年生としてスタートした選手たちだが、現・浦和レッズの駒井善成、現・京都サンガF.C.の下畠翔吾を含め、同学年から5名の選手がトップチームへと昇格した。

その後毎年トップチームへ昇格選手を輩出しており、現在まで17名の選手たちがトップ昇格を果たしている。
トップチーム昇格とならなかった選手たちの中には、立命館大学へと進学し関西の大学サッカーを舞台に活躍する選手たちも多い。

トップチームへの昇格が叶わなかった選手たちがもちろん存在する。
むしろアカデミーというのは、Jリーグクラブの下部組織といってもトップチーム昇格を果たすことができる選手は限られており、
「プロになれない選手の方が多い。だからこそ人間形成の部分に大きな重点を置いている」と話してくれたのは、京都サンガF.C.育成部長の本田将也氏だ。

●人間形成に重点を置き、グローバルな選手へ

スカラーアスリートプロジェクトの選手たちが、進むべき基準として意識を強く持つのは「グローバル」な選手、という部分にあるという。
現在、スカラーアスリートプロジェクト出身選手である久保裕也がスイス・BSCヤングボーイズで、奥川雅也がオーストリア・FCリーフェリングでプレーしているが国際社会となっている今、サッカー界だけでのことではなくグローバルに活躍できる人間となること、ということにひとつの大きな意識を置いているという。

「世界中のどこにいっても「京都」にあるプロサッカークラブだと言うとあの京都の!といった感じのリアクションを返してくれる。
それだけ日本というイメージと京都というイメージがリンクしていて、知名度があり強いイメージを持たれている街なのだと改めて気づかされる」と、本田氏。

世界中の誰でも知っている街、日本を代表する街として意識されているからこそ京都にあるプロサッカークラブから輩出される選手たちには、グローバルな部分が必要であると感じている。

久保裕也は早くから海外を意識しプレーや身体作りだけでなく、語学にも積極的に取り組んでいたという。
多感な時期である高校生時期だが、自身の確たる目標に向かいほとんどの時間を目標の実現のために費やす姿があった、と本田氏は話す。
「自主トレや筋トレはもちろん、時間の限りをストイックに過ごしていた。英語にも取り組み今では他の語学も習得中。当時から海外へ行く自分をしっかりイメージし、できる準備をしっかりとしていた」

その久保の取り組みをみていた同年代の選手たちはもちろん、後輩たちにも多くの刺激を生んだという。
その姿は久保がトップチームに昇格し、現在は海外で活躍するようになってからもスカラーアスリートプロジェクト生を含めたアカデミー生の中で語り継がれ、目指すべき目標として強い刺激を生んでいる。

シーズンオフなどで久保が帰国すると、必ずクラブに顔を出しアカデミー生の下へと足を運ぶという。
アカデミー生たちにとっては憧れの選手の一人であり、偉大な先輩の姿や言葉は多くの刺激を生みモチベーションを生み出す。

サッカー選手として必要なことは、プレーだけではないと本田氏。
人としての部分が愛され、応援してもらえる理由に繋がる。どんなにサッカーが上手くても人としての部分に魅力がなければならないと考えるという本田氏は
細かな選手たちの生活や練習時間に出来る限り、寄り添っている。

現在アカデミーセンター長(育成部長)という立場に在る本田氏だが、京都サンガでプレーする選手として選手の立場で京都サンガF.C.を経験。引退後、アカデミーで指導者として多くの選手たちの育成に携わり、トップチームのマネージャーや強化部スカウトとして選手を獲得する立場も経験した。さまざまな立場を経験し、それら経験を重ねることによりサンガのためになにができるかを 未来を見据えながら日々取り組んでいると話す。

トップチームに昇格した選手たちの他に、立命館大学へと進学した選手たちや、一般企業に就職した選手たちなど、スカラーアスリートプロジェクトから輩出された選手たちの道はさまざまだが、
その選手たちの一人一人に寄り添い、育成・教育、そしてファミリーとしてその3年間の貴重な時間に責任を持って取り組んでいることが伝わる本田氏の話のひとつひとつ。

そこにはクラブに対する、そして京都サンガF.C.というチームとしての一員であるすべての選手への愛情が満ち溢れていた―。

トップチームからアカデミーまで一貫して打ち出しているものがある。
それは「闘争心を持ち、フェアプレーに徹し、最後まで全力でプレーする」。
サンガバリューというこの理念を念頭に、誰がどの年代の京都サンガを観ても「京都サンガF.C.だ」と感じられるような一貫したスタイルとして持っていきたいという。

誰でも得意なことは積極的に取り組むことができるが、苦手なことやできないことからは逃げるという道を持っている。
しかし、そういったことからも負けずに逃げずに取り組める人間になること、という意識を持つような選手に、人間になってほしいと本田氏は言う。
何事にもトライしてきた選手たちが今、Jの舞台そして世界を舞台に活躍する選手になったという結果を受けて、より強くそう感じているのだ。

育成に模範的な正解はない。一人一人の選手の性格や考え方、意識の持ち方や接し方等、それぞれが違い、時代によっても変化するものであろう。だからこそ、指導する立場や統括する立場であるスタッフたちも日々学ぶことがあると、本田氏。

「輩出した選手たちを見ていて、物事の捉え方やプレーに関する部分等、様々な場面で自分が教え伝えてきたことをもっとこういう形にするべきだった、もっとこうするべきだったのかもしれないと、自身を振り返り感じることもある」という。
それらを受け止め、振り返り、再び考えることによってスタッフとしての経験を重ね、そこから生まれる新たな取り組みがまた新たな選手を生むのだ。


スカラーアスリートプロジェクト。
京都サンガF.C.に在る、独自の育成プロジェクト。
学業の場でも国際的な教育を学び、素晴らしい環境の中、世代トップレベルを舞台にプレーし、海外遠征を含め多くの遠征を重ねることで、サッカーだけでなくその土地の文化や空気に触れ、人としての幅を拡げていく。

世界で知られる「KYOTO」にあるプロサッカークラブ京都サンガF.C.には
世界に繋がる独自の愛情溢れるプロジェクトが在った―。

Good!!(100%) Bad!!(0%)

この記事も読んでみる