"サー"はなぜ問題を解決できなかったのか 3/3
2014/04/24 21:35配信
カテゴリ:コラム
フェライニは「16番」の系譜を継ぐプレーヤーである
結局、アンデルソンとクレバリーは、スコールズの後継者にはなれなかった。そのため、ファーガソンは後継者を見つけられないまま引退し、彼が施した応急処置も、スコールズの2度目の引退と、ギグスのさらなる衰えにより、既にその効力を失くしてしまった。いや、正確には昨シーズンの時点で、既にその効力はほぼ失われていた。事実、昨シーズンのユナイテッドのフットボールは退屈そのものであった。それでも王者に返り咲くことができたのは、他のビッグクラブが軒並みもたついた結果に過ぎない。だからこそ、ユナイテッドは今夏、セスク・ファブレガスやチアゴ・アルカンタラというプレーメーカーを獲得しようとしたのだ。しかし、結局、ファブレガスには振られ、チアゴ・アルカンタラに至っては、契約間近に恩師グァルディオラと復縁してしまった。望み通りにプレーメーカーを確保できなかったユナイテッドは、最終的にマルアン・フェライニを獲得することになるが、これは妥協の結果でしかない。
フェライニは、エヴァートンでは、様々なポジション・役割を担っていたこともあり、ユナイテッドではどのポジションで起用されるかに注目が集まった。ユナイテッドはフェライニを、近年、エバートンで担っていたトップ下ではなく、セントラルミッドフィルダーとして獲得したことは既に明らかになった。フェライニは屈強な肉体を持ったプレーヤーであることに間違いはないが、本来はセントラルミッドフィルダーの選手であるため、当然といえば当然であろう。かつてエヴァートンには、多くの日本人がご存知であろう、オーストラリア人アタッカーのティム・ケーヒルがいた。ケーヒルは屈強な肉体を前面に押し出してゴールに迫るプレーを得意としていることは周知の事実だ。フェライニは、昨夏にケーヒルが去った後、チーム事情から、前線でフィジカルを活かしたポストプレーやもしくはヘディング能力を活かしてゴールに攻めるプレーを要求されることが多かったため、誤解されている方が多いようであるが、フェライニとケーヒルは全く異なるタイプのプレーヤーである。
フェライニという選手は、彼の体格からすると意外ではあるのだが、正確なトラップ、キック等の確かな技術を武器に中盤をコントロールしつつ、屈強なフィジカルを活かしてボールをハントし、なおかつ、機を見てゴール前に飛び出していくダイナミズムを持ったセントラルミッドフィルダーである。しかし、プレーメーカーかというとそうではない。むしろ、入団時に彼自身が、赤い悪魔で一時代を築いた闘将へのリスペクトを口にしたように、フェライニのプレースタイルは、晩年のロイ・キーンのそれに近い。(あえて「晩年の」と付け加えたのは、若かりしころのロイ・キーンは縦への推進力のあるプレーヤーだったからだ。)現在のユナイテッドで言えば、マイケル・キャリックが担っている役割だ。イングランドフットボールでプレーメーカーを務めるには、フェライニはドリブルスキルと意外性が不足している。フェライニの加入以降、キャリックとのコンビにより、中盤で落ち着いてパスを回せるようになったが、一向に崩しの局面において改善が見られないのはそのためだ。フェライニは間違いなくユナイテッドに必要な人材である。しかし、それはあくまで「16番」の系譜を継ぐプレーヤーとしてだ。
未だスコールズの抜けた穴は埋まっていない。これは選手の補強を除いては、どんな監督にとっても解決が困難な問題であり、私がモイーズ否定派に回りきれないのはそのためだ。我々のようなお気楽な立場の人間は、えてして贔屓のチームに対し、「アイツを使うべきだ。」、「フォーメーションをこうすべきだ。」と好き勝手なことを言うものだが、今の私にはそれすら言うことができない。どれだけ頭を悩ませても、解決策が見つからないのだ。ユナイテッドの抱える問題は、致命的かつ絶望的なものだ。今の私に言えるのはそれだけである。