CHANT(チャント) 日本代表

日本vsイラク 原口元気の使い方に見る「ハリル流」と競争

2015/06/16 18:13配信

武蔵

カテゴリ:コラム

貴重なテストマッチで新たな競争

6月11日、日本はイラクとの親善試合を行いました。

本日、16日に行われるW杯2次予選初戦のシンガポール戦に向けた

貴重なテストマッチという意味合いが強く

3月に就任したばかりのハリルホジッチ監督としても

この場を、貴重な実戦の機会として使いたいのは当然であり

少なくとも日本の本気度は高いものがありました。

試合は、ハリル・ジャパンのメインとなる武器であろう

縦に早い攻撃や、裏に1本で抜けだす攻撃など

狙いや、これからの方向性というものが随所に見えました。

しかし、それ以上に目についたのは競争です。

W杯からアジア杯という流れの中で、固定され気味だったメンバー。

そのメンバーに対して、W杯予選前としては

ギリギリと言えるほどに競争を促すテストマッチだったと思います。

先発出場した選手、あるいは途中出場の選手

新戦力であったり、主力の穴埋めであったり

そこかしこで競争が勃発したと言って良いでしょう。

アピールに成功した槙野

例えば、槙野智章は及第点と言えるデキだったのではないでしょうか。

首位を独走する浦和を支える対人の強さ、カバーの速さは

イラク戦でも発揮することが出来ていました。

やや、人に付き過ぎる場面も見受けられましたが

アギーレに続き、ゾーンディフェンスを棚上げした現体制においては

むしろその方が求められるキャラクターなのでしょう。

それに、目下の競争相手である森重真人との比較として

槙野が特に人に付いてしまう、というわけではありません。

レギュラーにグッと近づいた一戦だったと言えるでしょう。

永井謙佑はちょっと残念なパフォーマンスでした。

途中投入をされると走力を生かし、チャンスを生みだしました。

酒井宏樹とともに3月シリーズで見せた外から外への攻撃を

この試合でも試みてはいましたが、決定機には至りませんでした。

また、後半26分の永井の右からのクロスは

中に入り込んだ武藤嘉紀には合いませんでした。

2列目の両サイドに求められている、クロスへの飛び込みという点

武藤は縦に速い攻撃に合わせてキチンと中に入ってきていますので

是非とも、それに合わせてほしかったな、という場面です。

永井に関しては、追加招集ということで難しかったという面もありましたが

逆に言えば、追加招集なりのアピールが欲しかったところです。

今回、そのアピールに成功したとは言えません。

原口元気の使い方

さて、その永井と武藤と同時投入されたのが原口元気です。

その中では、ハリル・ジャパンにおいて全くの新戦力である彼だけが

アピールに成功したと言って良いでしょう。

後半40分のドリブルシュートは、彼の特徴が思い切り出たゴールでした。

キレのある高速ドリブル、高速ドリブルからでも乱れないシュート。

そんな原口の使い方に、ハリル流が垣間見えました。

そのハリル流が見えたポジションは、トップ下です。

原口は前述の通り、永井と武藤と同時投入されました。

1トップの岡崎を残して、2列目の総取っ替えと言える交代で

誰をどこにでも置けて、フォーメーションの変更さえ有り得るということで

どのような配置となるか、私は注目して見ていました。

原口を招集した理由として

ドイツでの出場機会と、当然のようにドリブルを挙げたハリルホジッチ監督は

「サイドで使う」

と、原口の起用法については明言していました。

しかし、投入してみれば原口はトップ下。

左から武藤、原口、永井の並びでした。

いろいろな選択肢が可能となる中で

ドリブルシュートが得意の原口を真ん中に置いたというのには

何か理由はあるのでしょうか・・・?

狙いがあるとしたら、再現性があるはずです。

単発な策だとしたら、その場の思い付きでしかないかもしれません。

再現性といえば、前半に宇佐美貴史のプレーが

この「原口トップ下」という起用法のヒントとなってくるかもしれません。

https://youtu.be/Xu7bI7_2V2E?t=4m3s

前半32分、日本の得点シーンですが

2列目の左である宇佐美が中に位置しています。

そのおかげで、ボールを受け取ることができ

その後のドリブルと岡崎へのアシストに成功するのですが

中で待つことで、イラクの右SBも宇佐美に合わせて中に位置しています。

この時、日本の右サイドにボールがあることもあり

左SBの長友佑都は中に絞っています。

つまり、この時の宇佐美のポジショニングは

①ボールと味方との距離を短くして、ボールを受ける

②長友は自重しているのでSBの上がるスペースの為に中に入っているわけではない

ということが言えます。

宇佐美が中に位置することで、近い距離にいる味方が増えますが

同時に、相手DFの距離も近くなり、スペースが小さくなります。

この時、宇佐美は広大なスペースに位置してロングパスを引き出し

同じように空いた相手DFの間のスペースを

自ら、もしくは内側オーバーラップをした左SBを使うというやり方もあります。

どちらが良いというのは、チームスタイルに依ります。

この時に宇佐美が取ったポジショニングは、この試合で何度も見ることが出来ますので

差し当たってハリルホジッチ監督のポゼッション時のスタイルがこれなのでしょう。

この後、宇佐美はボールを受け取り、ドリブルで3人を引き付け

岡崎のゴールをアシストしています。

何が言いたいのかというと、ハリルホジッチ監督は

真ん中にドリブラーを置きたいのではないでしょうか。

ゴールへの最短ルートとなる真ん中をドリブルで突っ切れる選手が欲しい、と

そういうことになるのではないでしょうか。

宇佐美はこの日は2列目の左でしたが

所属のG大阪では2トップの一角です。

G大阪では、相方のパトリックが作ったバイタルエリアを使い

例えばこの場面のように、ドリブルで複数マークを引き連れ

決定的な仕事をするというのが日常となっています。

日頃、2トップ、つまり真ん中で仕事をする宇佐美を

この起用法で使っただけでは分かりませんでしたが

サイドが主戦場で、サイドで使うと明言した原口をトップ下で使うことで

トップ下における「ハリル流」が垣間見えた気がしました。

気になる香川真司の処遇と、生まれた競争

となると、現在のトップ下である香川真司はどうなるのでしょうか。

彼は比較的、ドリブルで運べる選手ではありません。

そして、未だにトップフォームと言える状態でもありません。

この試合でも、トラップミスなどが散見されました。

しかし、ハリルホジッチ監督の香川への期待はこの試合でも見てとれます。

香川の特徴は、狭いスペースで発揮できる技術とクイックネスです。

狭いスペースの中でコンビネーションを出す、となれば

同じように技術のある選手を周りに置く必要がありますし

そう言った選手をそのように運用するシステムが必要です。

そのための宇佐美の起用であり

そのための、件の宇佐美のポジショニングなのでしょう。

香川を生かそう、香川を中心として戦術がファーストチョイスである

そういったハリルホジッチ監督のメッセージが伝わってくるようです。

この状態が何を表しているかというと

ハリルホジッチ監督が日頃から求める「競争」が生まれたということです。

それは単一のシステムの中ではなく

トップ下に強烈なドリブラーを置くという、違うやり方を示しながらです。

短い準備期間の中で、優れた手腕を発揮したと言って良いでしょう。

宇佐美は左のファーストチョイスとして、このまま成長していくでしょう。

原口はこのチームにおける第一歩を示し、自信を深めたでしょう。

不動だった香川はオチオチしていられません。

競争が激化します。

新しい活力による競争は、次のW杯への

真の出発となるシンガポール戦に臨むにあたって、絶対に必要だったと言えるものです。

再びの挑戦となるロシアW杯に向けた準備は、万端整ったと言えるでしょう。

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