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【Jリーグ】 移籍という大きな決断には背景がある。チャレンジと金銭だけではない事情

2014/12/12 10:06配信

Tomoko Iimori

カテゴリ:コラム

残るは天皇杯決勝だけとなり、ガンバ大阪とモンテディオ山形以外のチームはシーズンオフへと突入した。
この季節になるとどうしてもサッカー界は移籍や契約満了、引退といったニュースが多くなり、たくさんの別れや出会いが交差する時期となる。

一言でいっても「移籍」という形態にはたくさんの理由がある。
ただ単に 行きたいという気持ちやチャレンジしたいという気持ちだけでなく、そこは「プロ」である以上、さまざまな背景が存在する。
そして日本のサッカー界はそういったことを選手たちが表に向けて言えないような風潮があることも否めない。

「移籍」について書ける限りで解説したい。

●選手はチーム愛だけでは成り立たない

各クラブを応援しているというサッカーファンが多いと思うが、サッカークラブを愛することはとても幸せなことだ。
そのクラブには選手が属し、毎年全く同じメンバーというわけにはいかず、たくさんの出会いと別れを繰り返していることだろう。
選手の獲得や選手の移籍に納得がいかないこともあるかもしれない。

サッカークラブとサッカー選手は=で繋がっていることが一番だ。
クラブ側もその選手が必要だといい、選手側もこのクラブのためにプレーしたい。
そう思えることが一番だ。
どんな選手もどんな事情があってもシーズンが始まってしまえばそうなるべきだ。どんな理由であれそのチームに在籍するからには100%を出す。
それが「プロ」というものだ。

しかし、選手たちが絶対にこのチームでプレーしたいと望んだからといって、絶対にそのチームでプレーできるわけでは当然ない。
このチームに入りたいといったところで、そのチームから必要とされていなければ、当然選手としての契約はもらえない。

サッカー選手は「職業」であり、通常の職業のように60歳定年まで働けるものではない。
どんなに有望な選手であっても怪我などによって、その人生が発展しないまま終わってしまう選手も存在し、今日まで普通にプレーできていても明日にはどうなっているかわからないといった職業だ。
現役生活を35歳以上まで続けられる選手というのは、ほんの一握りの選手たちだ。

その後、解説者や監督、コーチなどサッカーに携わる仕事といっても全員がそういった職業に就けるわけではない。
事実、現在引退した選手たちの行く場所がないが故に、簡単にコーチとして在籍年数の長いチームのアカデミーなどでコーチとして突然就任し、そのアカデミーの力が衰えるなんて現象を起こしているチームも存在する。

簡単に元選手がコーチとしての成功は難しいと考えるクラブは、高校や大学、他クラブチームなどに元選手を指導者としての武者修行として派遣し、指導者としてのノウハウを積んでからチームに戻すといった方法もとっており、Jリーグが生んだ選手たちが引退してから指導者として歩むための受け皿が足りず、元選手が言い方は悪いが余ってしまっているような形になっている。
それはこれからさらに増えることと考えられ、プロ選手だったという肩書だけではやっていけない状況にあるといっていい。

Jリーグは世界各国からみても、給料という面では高いとは言えず、その高くない給料よりも当然引退後は稼ぐことは難しい。
S級を取得し、将来監督になるとしても監督として契約できるところが絶対あるわけではなく、監督として契約し高額な給料をもらったとしても結果が評価となるため、結果が出せなかった場合は突然の無職になることだってある。
安定という言葉とはかけ離れた仕事であり、いつもどんなチームからもお声がかかるような監督はほんの一握りどころが本当に数人しかいない。

そう考えると、サッカー選手は現役時代にできるだけのお金を稼いでいたほうが良い。
現役であるうちに、そして選手として求められるうちにできるだけのお金を稼いでおく必要があるのだ。

それは年俸だけはなく、勝利給や出場給といった報酬の部分も含めて
そして選手価値がサッカー選手には付き物であり、選手価値が上がれば上がるほど契約するスポーツメーカーなどのスポンサーとの契約料が上がる。

サッカー選手というと、お金があってお金を派手に使って…という印象がある人も多いかもしれないが、将来をきちんと考えている選手は貯蓄はもちろん、保険などにも加入し、高い保険料を支払っている選手もたくさんいる。
サッカー選手というだけで当然怪我の可能性は高いため、保険料は上がりやすく、突然病気になったときの保障や、将来的にずっと同じ金額をもらうわけではないため定期的にお金が下りるような貯蓄タイプの保険に加入しているなど、そういったものにお金をかけている選手もいる。

結婚し、家族がいる選手は特に、子どもが20歳を迎えるまで現役でいるのは難しい選手がほとんどだ。
しかし子供が大きくなればなるほどお金はかかり、高校や大学…といった場所へと進学させたりするためにも選手としての時代にしっかりと蓄えておくことが必要となる。

それは選手というオモテに出る部分とはかけ離れた、生活感漂う世界かもしれないが、サッカー選手は「職業」だ。
趣味ではなく職業なのだ。

1000万円の年俸で契約するチームと
3000万円の年俸を準備してくれるチーム

普通に考えて一般企業でこの差2000万円の仕事をするとなると、大変なことであることは理解できるだろう。
お金で動く選手を非難するサッカーファンが日本には多いが、評価をお金で示すプロサッカー界は全世界共通であり、そして少ない現役生活の中で、生活のことを考えより多く金額がもらえるところに行くというのは決して悪いことではない。

「仕事」はなんのためにするのか。
お金を稼ぐため、だ。
サッカー選手も同じなのだ。

サッカー選手という場所に夢を持って挑むが、サッカー選手であることだけに達成感を持ってしまっては大成しない。

ただ、当然チームに対しての愛情も存在し、他クラブへの想いの差は生まれ、持っている。
クラブに対して持っている選手、そのメンバーで戦う「チーム」に対して愛情を持っている選手…それはそれぞれだ。

サッカー選手として割り切り、シーズン中は熱くチームのために戦っているものの、自分の道は自分の道と割り切っている選手たちはたくさんいる。
それはプロサッカー選手としてむしろ正しい観点だ。

海外のサッカーをみてほしい。
トッティのようにローマを愛し、どんなところから声がかかろうともローマに在籍を続ける選手もいるが、そういった選手はほんのひと握り。
お金が多く積まれること、そして現在所属しているクラブよりもビッグクラブであれば、そのクラブに行くのはステップアップとして当然のことのように扱われる。
それは日本の選手たちでも同じだ。
香川がドルトムントからマンチェスター・ユナイテッドへ移籍したり
本田がモスクワからACミランへと移籍したりと日本人としては信じられないようなステップアップを果たした。
ビッグクラブへ行くということはお金も当然大きくなり、選手価値も上がる。
それがプロサッカー選手の評価となり、価値となるのだ。

それは国内でも同じ。
わかっていながらもチームを愛する応援者としてはそれを受け入れられないこともある。
ただし、チームという愛で人生を送れるわけではない。
サッカー選手はそういった職業なのだ。

●選手の意思だけの移籍ではない

移籍の多くはチャレンジや、お金的な部分、ステップアップという面だと思いがちだが、多くのチームの駆け引きも当然存在する。
時に移籍を阻むチームも存在し、時にチームの勝手で移籍させられる例もある。

選手がチーム愛からそのチームに残りたいと訴えても、売り時だとチームが手放したのにも関わらず
チームからの発表は選手自らが出て行ったといった発表になり、その選手がそのチームを愛するサポーターたちから非難された例もいくつも見てきた。

サッカークラブはビジネスである。
サッカークラブの一番の収益は移籍金だ。
海外のクラブで100億円を超えるような移籍金が存在するように選手の価値の売り買いによってサッカークラブはビジネスを展開する。
(もちろんそれだけが全てではないが)

しかし、Jリーグは選手会の意向もあり、移籍金制度が撤廃された。
元々は30歳までの選手を保有している場合は、移籍金が無条件にかかるというものだったが、選手会がそれでは選手たちが単年契約ばかりで選手たちが不安定な契約しかできないため、契約期間中でなければ移籍金は発生しないように、そして契約が切れる年には0円移籍となり移籍がしやすい環境になるようにという新たなルールを提示した。
その結果、現在のJリーグでは、30歳までの選手に移籍金がかかるというものではなく、契約期間中の選手を獲得する時のみ移籍金(違約金)がかかるような仕組みになり、契約期間が満了となる時には0円移籍が可能なシステムとなった。
ユースから育ててきた選手には育成費というものを支払わなければならないが、従来の移籍金に比べるとかなりの少額となった。

それによってクラブ経営という部分でJリーグのクラブは難しさを感じていることだろう。
特にステージが下になればなるほど、選手との契約が切れる時期にJ1に選手を持っていかれては戦力も落ちる上に、お金も入らず、しかもその穴の補強もしなくてはいけないという苦しみを味わうこととなる。

選手の中にはそういった事情を選手が本当は考えなくても良いのだが、チーム愛から違約金を多く支払ってもらいそのチームに残すといった方法で、チーム愛を示す選手もいたり、
他のクラブに行くときに大きな違約金が入るように、長い契約を組む選手もいる。

選手の契約がたとえばあと1年残っているという状況でも、他のクラブからオファーが届き、その選手を獲得するために5000万円用意していますといえば、
選手がいくらそのチームに残りたいといっても、チームがその5000万円を挙げたいとすれば、その選手の意思ではなく「売られる」場合もある。

そしてなぜか決まって報道や発表では、そういった選手たちの売り買いの話はあまり出ることはなく
選手がチャレンジするために出ていくような報道がなされるのだ。
選手たちがもっと自由に発言できる機会があったり、本音を言えるようなサッカー文化になると良いと願うが、今のJリーグでは本意ではない移籍に関してオモテに出ることはほぼ、ないに等しい。


これを踏まえても
チームを応援する応援者たちにとって、チームから選手が去ったり、選手を獲得したりといった変化に
気持ちがついて行かずに複雑な想いをする人たちがたくさんいることだろう。

気持ちという部分は理屈ではない。
それはサッカー選手も「職業」とはいえ、人間である以上感情という部分はあり、複雑な想いや人の想いを背負って戦うという特殊な職業であるが故に、苦しい想いをしていることも理解してほしい。
そしてそれが言えない状況であることも。

移籍は、チームから手を離された契約満了選手だけでなく。
本意の移籍ではないこともあるということも知ってほしい。


これからたくさんの、複雑な想いを抱えることとなる。
報道や一方的な発表しか見ることができない場合がほとんどだと思うが、それでも愛があるからこそ少し考えれば見える「真意」をそれぞれ考えた上で、受け入れられることを 願う―。

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