CHANT(チャント) 名古屋グランパス

検証 名古屋のどこが「変わっていない」のか

2016/08/30 16:33配信

武蔵

カテゴリ:コラム

名古屋が降格危機に陥っていることは周知の事実です。

前節までの名古屋は、順位が降格圏の16位であり

残り8試合で残留圏内・15位の甲府とは勝ち点差7という危機的状況にありました。


その危機に対して、クラブは小倉隆史監督兼GMの休養という手段を採りました。

後任は8月1日からトップチームのアシスタントコーチに就任していた

ボスコ・ジュロヴスキ氏です。

名古屋の黄金時代と言えたドラガン・ストイコビッチ体制で参謀を務めた彼は

名古屋をこの危機から救うことは出来るのでしょうか。

そして、名古屋を危機から救うために、ボスコ新監督が行うこととは?

帰ってきたボスコ流。その当時と「変わっていない」もの。

この短い時間では、やれることは限られるはずです。

とはいえ、名古屋を危機から救うためには、なんとしても勝ち点が必要です。

そして、勝ち点を取るためには、短期とはいえ、内容の改善が必要です。

「守備のハッキリとした決まりごとはない」(酒井隆介)というチームにおいて

ボスコ氏に求められることは、早急な勝ち点獲得のための内容改善と言えるでしょう。

ボスコ氏の特徴といえば、攻守において欧州基準であることでしょう。

2010年はそこをベースにした上で、選手の個性を生かしたサッカーを展開し

悲願のJ1優勝を果たしました。

例えば攻撃においては、外→外でボールを運ぶことを得意のパターンとしており

左サイドに阿部翔平、マギヌン、玉田圭司といった左利きで技術に優れた選手を組ませ

サイドからボールを運ぶ、あるいはサイドチェンジを駆使するなどして

最終的には、その年の得点王となったケネディの高さを生かすというのが目立ちました。


守備においては、要所でしっかりと引いて、相手を跳ね返すというのが目立ちました。

ゾーンディフェンスを基調としながらも、CBの高さと強さを重視し

最後のところでやらせない、真ん中を空けないという理念がありました。

それは闘莉王、増川隆洋、ダニルソン、あるいは楢崎正剛といった

屈強かつ質の高い守備陣を生かす枠組だったと言えるでしょう。


ボスコ氏の初陣であった8月27日のJ1 2ndステージ第10節のFC東京戦では

早速、ボスコ色が出ることとなりました。

そこには、2010年と変わっていないものがあったと思います。

名古屋は433です。これもボスコ体制ではお馴染みと言えるでしょう。

433の目的の1つと言えるのは

ハーフスペース(442のSHとボランチの間のレーン)を狙いやすくすることにあります。

この狙いは、他の布陣でも可能ではありますが

インサイドハーフのスタートの位置をそこに設定することで、基準点を作り

インサイドハーフなり、インナーラップをするサイドバックの選手に

その狙いをハッキリ示すことが出来ます。


そして、そのハーフスペースを自由に使うために必要なのが

相手を押し下げることです。

相手を押し下げることで、より相手のゴールに近いところでプレーが可能となり

そこに侵入した選手が決定的な仕事をしやすくなります。

この日の名古屋においては、それが田口泰士でした。


そして、相手を押し下げるためにするべきことは、ボールを運ぶことです。

ボールを運ぶための、1つの有効な手段として

外→外やサイドチェンジの組み合わせというのが存在します。


名古屋はこの試合において

外→外やサイドチェンジを交えたサイド攻撃によりボールを前進させ

最終的には田口に決定的な仕事をしてもらう、という攻撃を仕掛けてきました。

この試合では前半に2度、後半に1度の合計3度

田口がこのエリアでボールを受け、フリーでシュートを放ちました。

そして、そのうち1回がゴールに結びつきました。

田口ほどの選手を擁しているのであれば、ここまでお膳立てした上で

「それでは、決定的な仕事をお願いします」というのは

立派な、チームとしての攻撃パターンの確立と言えるでしょう。

この再現性が、サッカーにおけるシステムと呼ぶべきものでしょう。

自チームにおいて、こういったシステムを作り上げることができる人物をこそ

サッカーにおいて指導者と呼ぶべきだと考えます。


名古屋は、このボスコ流と言える攻撃パターンよってリードを奪います。

そして、このボスコ流は、守備においても発揮されました。

名古屋が勝ち点を積んでいく上で必要なことと、闘莉王の役割

名古屋は前半から、無闇に前から追うことはせず

守備の際にはサッと引き、中を固め、クロスを入れさせ

それをキッチリと跳ね返す、という守備をしてきました。


それに対する有効な攻撃手段といえば、やはりサイドハーフをサイドに張らせ

そこにボールを入れ、相手の守備ブロックを広げてから空いたスペースを使うという

やはりここでも、欧州基準のやり方が必要と言えます。


しかし、この日のFC東京は、前半に一度、左サイドのムリキへ

右CBの森重真人からの素晴らしい斜めのロングパスが出ましたが

それも単発に終わり、あとは中央で細かいパスを繋ぐサッカーへと傾倒していきます。

それは2CBの前にアンカーを置き、真ん中を固める名古屋の思うツボだったでしょう。

名古屋は、そんなFC東京に対して、前半は決定機をほとんど作らせませんでした。


名古屋は引いてスペースを消し、跳ね返し続けました。

これが出来るのも、奪う位置が低くても、有効な攻撃手段があるからなのですが

それもこれも、低い位置からのビルドアップで貢献した右SBの磯村亮太や

前線で体を張って時間を作り、先制点も決めた野田隆之介らの活躍あってのことです。

そういった攻撃手段があれば、別に引いて守っても良いのです。



後半のFC東京はその路線をさらに先鋭化していきます。

それを表すような、中島翔哉の投入と

さらに高橋秀人を下げての、縦パスを入れられる梶山陽平の投入と言えます。

ムリキ、東慶悟、中島翔哉といった、細かいボール扱いに長けた選手たちに

中→中、あるいは外→中でボールを入れる、中央突破がメインとなっていきました。


そして、名古屋はそれを跳ね返していきます。

途中、中島の細かい技術に手を焼き、何度となくミドルシュートを受けますが

人数をかけた守備により複数で対応できている場面がほとんどであり

楢崎の技術であれば外に弾き出せる程度のシュートしか打たせなかったと言えます。


しかし、それでも後半アディショナルタイムに追い付かれてしまいます。

この場面は、個人でいえば大武峻のポジショニングに問題がありますが

言ってしまえば最終ラインのスライドの甘さと言えますので

それは、組織的守備の甘さということになってしまいます。

大武は途中出場の控えであり、酒井隆介のアクシデントは痛かったと言えますが

それも含め、チームがJ1の試合を勝ち切るには

まだ体勢が整っていないということが表れたのかな、と思わせる失点でした。


この日の試合で、攻撃パターンは示しました。

ただ、あと7試合、名古屋が残留争いを勝ち抜くためには

こういった守備面でのさらなる向上が求められることとなります。

そして、2010年において多大な貢献を誇った闘莉王の復帰は

そういった守備面での向上に、大きな役割を担うこととなるでしょう。


残留争いは、相手の勝ち点も重要となってきますので

名古屋が勝ち点を伸ばしたところで、落ちる時は落ちてしまいます。

ただ、名古屋がこの日見せた内容は、光明と言えるものでしょう。

このサッカーを続けていけば、良いことがあると思います。

そういうことが言える、この日の内容でした。


とはいえ、目指すは残留です。

その目標へ向けて、中断期間を経て、また闘莉王を得て

名古屋はどんな戦いを見せてくれるでしょうか。

Good!!(50%) Bad!!(50%)

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