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FC東京・ムリキに見る 昨今のサイドハーフに求められる役割と「本職」について

2016/08/22 18:32配信

武蔵

カテゴリ:コラム

守備から考えた場合の442とサイドハーフの役割

ゴールを奪うために、ボールを奪う。

ボールを奪うために、チーム全体が組織的に守備をする。

チーム全体が組織的に守備をするために、守備ブロックを組んで連動する・・・。

それが目指すべきサッカーチームの在り方となってから、もう30年近くになります。

そして、ゾーンディフェンスの導入のような明確なパラダイムシフトはなくとも

刻一刻とサッカーの形は変化していっています。


本項は守備ブロックの話となりますが

基本となっている守備ブロックの形は442と言えるでしょう。

442は当然として、4231、さらには3142で攻めるチームも

守る時は442の形とするところが多いと言えます。

中には433のチームでも、守る時はインサイドとアンカーが上がって

442となるケースが見られます。

一番良いのは、相手に合わせた守備が出来ることですが

形としての基本は442であり、それ以外の手法を採るにしても442を物差しにして

442との違い、メリットデメリットを把握してから選手に仕込むことが

組織的守備の強化の最短ルートと言えるのではないでしょうか。



遅攻で442を崩す場合、最初のカギとなるのが、2トップの脇です。

2トップ、つまりFWの選手の本分は得点など、決定的な仕事にありますので

守備にエネルギーを使うことは、チームとしても個人としても出来れば避けたい所です。


FWの最低限の仕事と言えるのが、中を割らせないことになります。

特にJリーグにおいては、ボランチを経由する攻撃を狙うチームが多く

そこを妨害すること、そして誘導した先である外から中への侵入経路を防ぐことが

442の守備におけるFWに求められる最低限の仕事と言えるでしょう。

このエリアに侵入してきた相手と対峙するのは、442でいうとサイドハーフです。

守備ブロックを作れている状態においては

少なくとも後ろの44が前向きで守備をしています。

これがいわゆる、人数が揃っている状態と言えます。

この状況が作れていれば、ここで組織的な守備を機能させたいところです。

機能とはつまり、ボールを奪ってのカウンターからゴールを陥れるまでを指します。


これ以上の侵入を許せば、最終ラインが動かざるを得ません。

ここから外→中を許せば、味方ボランチが動かされ、バイタルエリアが空きます。

従って、サイドハーフのところで、その組織的な守備の趨勢を決めてしまう

そういう守備が理想と言えます。

中の選手が対応を余儀なくされる形は、なるべく避けたいということです。



常に、少なくとも後ろの44は前向きの守備をしていたいところです。

ただ、サッカーは切り替えの競技であるので

常に望んだ状態で守備が行えるわけではありません。

望んだ状態での守備を行うためには

攻撃に参加した選手が、切り替えでエネルギーを使う必要があります。

つまり、攻撃と守備とで、同じだけのエネルギーを使える選手はとても貴重であり

それが必要とされているということです。


しかし、サイドハーフは攻撃面で特徴のある選手が起用されがちですし

前から2列目の選手となりますので、当然、決定的な仕事が求められます。

ただ、上記のとおり、守備面でも大きな役割を負わなければなりません。

その結果、昨今ではサイドハーフに求められる役割が非常に増え

このポジションに、攻守両面においてスーパーな選手が置けるかどうかが

そのチームの浮沈に関わるという事態になっています。

ムリキの「本職」起用の是非

FC東京は篠田新監督の就任以来、ムリキを4231のサイドハーフで起用しています。

ムリキはサイドで起点となり、ボールを持ってからの選択肢も豊富です。

また、相手DFラインの裏に抜ける動きを課せられ、それをこなし

攻撃においては多くのタスクを請け負っていると言えます。


ただ上記のとおり、サイドハーフの仕事は攻撃だけではありません。

サイドハーフが守備を「免除」されてしまうと

是非はともかく、他の選手への負担が増してしまいます。


前半13分の横浜の攻撃、サイドチェンジが右サイドバックに入り

右サイドハーフと2人の関係を作って右サイドからボールを前進させます。

FC東京としては、これに左サイドバックと左サイドハーフが対応するべきなのですが

サイドチェンジへの反応が鈍いムリキが振り切られ

左ボランチの高橋秀人が釣り出される形となりました。

そして、空いたスペースに横浜のトップ下・天野純が入ってきたため

左CBの丸山祐市が出てきました。

これは、出来れば避けたい、中の選手の対応です。

この場面、ムリキは、良くも悪くもサボった状態です。

何のためにサボっているかと言えば、それは攻撃面でのメリットのためです。

この場面、首尾良くボールを奪ったFC東京守備陣を助けることで

彼のチームプレーが完成すると言えます。

しかし、ボールを奪った田邉草民からのロングカウンターは不発に終わりました。

前線の選手の動き出しの質が低く、パスコースが無かったためです。

これでは、ムリキをサイドに置くことに関して、デメリットが大きいと言えます。

前線で起点が作れないと、最終ラインは押し上げるタイミングがありません。

つまり、相手に押し込まれた状態が続いてしまいます。

攻撃的な選手は、守備でエネルギーを使わないことにより

かえって守備陣を助けることも出来ますが、この場面ではそれに至っていません。


かくしてFC東京は、30分でムリキのサイドハーフを諦めます。

サイドハーフも出来る東慶悟とムリキを入れ替えることで

サイドの運動量と、守備の安定を確保しました。

そして、この2人のワンツーにより、前半のうちにこの日の決勝点が生まれたのは

サッカーの攻守一体な面を表していると言えるでしょうか。


そして、前線にポジションを移したムリキは

この試合を通して、相手にとって脅威であり続けました。

89分の、自身が中澤佑二に競り勝ってクリアボールを収めたところから始まった

ロングカウンターを成就させていれば、完璧だったと言えるでしょう。

ムリキは広州恒大時代、4231のサイドハーフとしてACLの日本勢の前に立ちはだかりそして、チームをACL制覇へと導きました。

それ故、彼の「本職」をサイドハーフとする向きが多いように思えます。


実際、城福前監督とは違い、ムリキをサイドに置いた篠田監督の起用を

「本職」での起用とし、歓迎する向きが多かったように思えます。

そして、篠田監督就任後の連勝で、その機運は高まっていました。


しかし、このように勝った試合でもデメリットが出ており

試合内容によっては、前半のうちに諦められてしまうというのが

ムリキの「本職」への、現実的、総合的な評価だと言えます。

これは、ウエスタン・シドニーで実績を積んだネイサン・バーンズが

なぜ、日本では「本職」のサイドで起用されないのかということにも

同じことが言えると思います。


そして、良くも悪くも、その質はともかく、戦術的にタイトであるJリーグは

他のリーグとは違うということを表しているように思えます。

そんなJリーグで求められているのは「本職」にこだわることよりも

変わりゆくサッカーの形、それと現実を受け入れて

それに合わせた柔軟な対応をしていくことだと言えるでしょう。

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