CHANT(チャント) 日本 U-23代表

リオ五輪 日本vsスウェーデン 「日本らしさと、少しの成長」

2016/08/12 18:57配信

武蔵

カテゴリ:コラム

リオ五輪・男子サッカーのグループリーグは佳境を迎えています。

日本の所属するグループBは、ナイジェリアが連勝して首位通過を確定させ

勝点2のコロンビアが最終戦でナイジェリアに勝てば、無条件で2位通過が決まります。

日本とスウェーデンは、条件次第で引き分けでも通過の可能性がありますが

基本的には勝って「直接対決」の結果を待ちたいところです。

つまり、両チームとも攻撃的な姿勢を打ち出す、というのが戦前の予想です。


舞台は前2戦とは代わり、サルヴァドール。

両チームにとって「さらばドール」(by手倉森誠監督)となってしまうのでしょうか。

受動的なスウェーデン相手に主導権を握る日本

しかし、スウェーデンの試合への入りは非常に消極的なものでした。

日本はコロンビア戦と同じく442で、前からの圧力強めで試合に入りましたが

スウェーデンは、あまり日本のボールを積極的に取りに来ることなく

どちらかというと、日本のポゼッション攻撃への応対ばかりが目に付きました。


スウェーデンは442でブロックを作ります。

日本もまた442でした。

ただ、日本は細かく言うと4222と言えるような形でした。

そこからボトムチェンジして、3142となる場面もしばしばありました。

ただ、後述する理由のようん、4222であることを強調します。


この4222という布陣の効用は大きく分けて2つ。

まず、サイドハーフが中(いわゆるハーフスペース)に位置取ることで

相手の真ん中を固めるボランチとセンターバックを外側に引きずり出すものです。

真ん中を固める守備者を外におびき寄せることで、危険なスペースが出現します。

このサイドハーフへの縦パスから、フリックやワンタッチを多用する形が

この日の日本には何度となく見られました。

もう1つは、外側の選手を中に誘導することです。

1つめとは逆に、外(いわゆるウイングと呼ばれるレーン)にスペースを得て

横幅担当である高い位置取りのサイドバックの滑走路とする、というものです。

相手サイドハーフを中に寄せて、味方サイドバックが高い位置でボールを貰うことで

アーリークロスや、相手サイドバックとの1対1を作り

相手の最終ラインを動かすという重要な攻撃手段となります。


この日は、最終ラインからの、いわゆる外→外のビルドアップや

右センターバックの塩谷司からの斜めのパスが

左サイドバックの亀川諒史へ渡るシーンが数多く作られました。



ちなみに、4222のデメリットとしては、攻撃から守備の切り替え時に

サイドがサイドバックのみとなっており、弱点となりやすい、という点を挙げられます。

日本は攻撃時4222でも、守備時は442で守りますので

切り替えの時に両サイドハーフの移動距離は、他のシステムより自然と長くなり

しかも、スプリントが必要となる場面が増える、ということになります。


実際、日本の1人目の交代は右サイドハーフの南野拓実ですし

中島翔哉がブロック時の守備面での不安を何度も指摘されながらも

このチームのサイドハーフとして起用され続けているのは

その筋持久力の高さから、運動量低下による交代をしなくても良いという

ある種の信頼を持たれているからでしょう。


中島は予選の決勝トーナメント全3戦、中3日での連戦において

延長含めて合計300分の出場をしており

今回のリオ五輪全3戦、中2日での連戦においても250分以上出場しています。

現代サッカーにおいて、ただでさえ負担が増しているサイドハーフにおいて

後半の深い時間帯においても変わらないパフォーマンスを期待できるという点は

このチームの中心に据えられるだけのことだと言えるものです。

受け身なスウェーデンは、これに対して前半25分あたりで対応してきます。

その対策は、ブロックを451とすることで中盤の守備を厚くし

日本のサイドハーフへ縦パスが通るという不安を封じる、というものでした。

また、浅野拓磨への警戒ということがあったのか

ラインも低い位置に設定し、守備重視の布陣を採りました。


スウェーデンは1トップのイシャクがボールを収め得るタイプということで

前線の人数を減らしても起点が作れ、ボールを運べるという計算がありました。

実際に、低い位置で奪ってから縦ポン、そこでセットプレーを得るという

攻撃パターンをメインウェポンとしているようでした。

ただ、セットプレー以外で攻撃に迫力が出せていたかというと、疑問と言えました。

日本らしさを出し、目の前の試合を勝ち切る

スコアレスで折り返した後半も、その体勢は変わりません。

攻の日本、守と縦ポンのスウェーデンという図式が続きました。

スウェーデンがラインを低く保ったのは、浅野拓磨への警戒という事もあったでしょう。


451ということで、9枚で守るスウェーデンに対して

日本の次なる攻撃パターンは、人数を掛けることでした。



まずビルドアップ時、相手が1トップとなってからも

ボランチが下りてきて3枚となることが少なくありませんでしたが

後半はそれを修正、ボランチはボランチの位置のまま

ビルドアップを開始することができるようになりました。


そうなると、相手1トップへの対応も変わります。

攻→守の切り替えの際、相手1トップを見るのが3枚から2枚となり

その分、シビアな対応を迫られることとなりましたが

対人に強い植田直通の責任が増したことが良い方に作用したのか

問題となる場面もあまり無かったように思えます。


そして、攻撃面。

最後尾を2枚とすることで、遠藤航をバイタルエリアに置くことができ

植田の対人の強さもあり、枚数を減らしても中央の守備の安定は変わりません。

そして動き出したのがタスクの減ったボランチ・大島僚太でした。

この大島が、より攻撃面に傾くことで、日本は攻勢を強めます。

コロンビア戦でもそうでしたが、大島が絡むとだいたいチャンスになりました。

この日唯一の得点シーンは、日本の左サイド深くからの攻撃に

大島が絡んで数的優位、相手のカバーにドリブル突破を仕掛け質的優位を作り

決定的なラストパスを供給しました。

相手のファー側のサイドバックとの駆け引きに勝つ矢島慎也の姿は

このチームの象徴と言えるものでしょう。


その後も攻め続けた日本は、先制され気落ちしたスウェーデン相手に

セットプレーやカウンターで決定機を2つ3つと作ります。

特に井手口陽介を投入し4141としたあとは

右サイドの矢島と、そちらに流れた途中投入の鈴木武蔵でチャンスを作り

左サイドハーフの中島が攻撃時に中に入ることで、後半42分の決定機を作りました。


追加点は奪えなかったものの、スウェーデンに決定機を与えず

横綱相撲を見せた日本が1‐0で勝利しました。

しかし、残念ながらコロンビアがナイジェリアに勝利したため

U-23日本代表のリオ五輪は幕引きと相なりました。




この試合、日本は良い意味でも悪い意味でも「らしさ」を見せました。

良い意味では、低い位置で守備を固めたスウェーデンに対して

細かいパス回しや、コンビネーションでゴールに迫り

結果として相手に消極的な戦術変更を迫った点です。

それにより、時間帯によっては一方的に相手を押し込むこともありました。

U-21欧州王者のスウェーデン相手にこの「内容」は

どこに出しても恥ずかしくないものと言えます。


さらに前線や、植田、遠藤らが強い気持ちを出すことで、守備に安定感が出ました。

日本の守備に、気持ちは欠かせません。


悪い意味では、その「内容」とは反対に「結果」です。

この、良いと言える内容は、1‐0というスコアとは釣り合いません。

しかし、1‐0である以上、リードは1点です。

何かしらの紛れがあれば、今大会を未勝利で終えることとなったワケです。

決定機を決められないという「日本らしさ」は

この試合にも見ることができました。

とはいえ、この未来のA代表とも言える、今回の日本代表にとって

「らしさ」への上積みと言える、明るい材料もありました。

それは、他力本願な状況において

まず目の前の試合に勝って、天命を待つことができたという点です。


ブラジルW杯などでもそうですが、これまでの日本代表は

まず、目の前の試合に勝ち切る、ということが苦手だったように思えます。

その傾向を、先のW杯と同じブラジルの地で

そして、負け→引き分けと同じ足跡を辿りながらも

最終戦で勝って勝負強さを見せたことは、光明と言えるでしょう。

今回、目標には届きませんでしたが、目の前の1戦に勝ち切りました。

「日本らしさ」を見せながらも、悪癖の全てを出すことは無かった彼らは

この試合で、また大きな自信を得たことでしょう。

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