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監督解任クラブの滑り出し 「解任ブースト」に頼らない強化は出来るのか?

2016/08/04 22:13配信

武蔵

カテゴリ:コラム

体制が変わるということ

この時期ともなると、体制が変わるクラブが出てきます。

当初の目論見とは違い、設定した目標の達成が困難と判断された場合、体制を転換し

その新体制には、新たに設定されるべき目標の達成のための

新たな秩序の構築が求められることとなります。


まぁ、端的にいうと監督を交代させることなのですが

直近でいうと、J1 FC東京の城福浩前監督、J2千葉の関塚隆監督の2人であり

奇しくも早稲田大学ア式蹴球部の、同い年コンビの同時期の解任(交代)となりました。

両チームともに、コーチが内部昇格という形で政権を引き継ぎます。


ただ、体制が変わるということは、何も監督交代だけではありません。

お家の事情があり、監督解任という分かりやすい形ではなく

建前を保持したままの変革、つまり「内閣改造」と言えるものも存在するようで

それが、名古屋のボスコ・ジュロヴスキをコーチとして招いた名古屋でしょう。


組織のテコ入れには様々な形がありますが

上で挙げた各チームに新たに設定された目標も、様々であると言えます。

FC東京(城福浩→篠田善之)

今シーズンから就任した城福浩監督を、成績と内容の不振から

6年ぶり2度目の解任としたFC東京は、コーチの篠田善之にスイッチしました。


篠田新監督は2008年7月から率いた福岡を、2010年・J1昇格に導きました。

2012年から、S級ライセンス取得の同期である立石敬之強化部長(現GM)に招聘され

コーチに就任し、今年で在籍5年目を迎えていました。

つまり、現首脳陣で最もFC東京を知ると言っても過言ではないでしょう。


内部昇格ということで、セカンドチームであるFC東京U-23も含めて

指導者の再編を行う必要がありましたが、それも致し方ないことと言えるでしょう。

トップチームの危機に際するにあたって、最も適した人物と言えます。

彼の使命は、FC東京の抱える問題を正しく解釈し、解決することです。


初陣となった前節の新潟戦では1‐0で勝利を収めました。

その中身はというと、城福体制とは違う色

そして問題解決へ向けた、いろいろな取り組みを見ることが出来ました。


布陣は、ムリキをサイドハーフに出し、東慶悟をトップ下に配した4231でした。

東がトップ下から、多くのフリーランニングをすることで

城福体制で顕著だった、バーンズ不在だと奥行きが出せなくなる問題が改善しました。

また、ムリキもその役割を負いましたが

特に東が持ち前の運動量を生かし、ムリキの空けたスペースをケアしました。


前半16分の、高橋秀人のシュートがゴールを割ったもののオフサイドとなったシーンは

東のフリーランから起点を作り相手を押し下げ、相手を左右に振り

その上で、シュートエリアでフリーとなったボランチの決定的なシュート

ということになります。

得点となったシーンも、ムリキの裏抜けから、最後は東のゴールということで

配置転換により、チームの抱える問題を解決したと言えます。

また、城福体制の課題であった試合運びも改善が見られました。

先制以降は押し込まれる展開となりましたが

サイドに張って横幅を出すことで起点となっていた河野広貴から

守る際にスペースを意識できる羽生直剛へ交代し、中央でプレーさせることにより

まずは中を固め、新潟の攻撃を跳ね返す固いブロックを築きます。


攻撃に転じた新潟が変則4トップのような形とすると

その中央を固める方向性を促進させるようにCB吉本一謙を投入し532とし

例えクロスを入れさせたとしても人海戦術で跳ね返し

3センターにより、危険な中央のセカンドボールは絶対に拾う体制を作りました。


篠田新監督の初戦は、攻撃においては目論見どおり

守備に関しても、試合の中で方向性を統一し、見失うことなく結果にこだわり

そして、一番大事な結果を手にしました。

この、FC東京の問題を把握し、解決にあたっては至極納得のいく采配が続けば

本来の目標であった上位進出も見えてくるのではないでしょうか。

千葉(関塚隆→長谷部茂利)

千葉も長谷部コーチの内部昇格となりました。

こちらは選手として千葉(当時市原)に選手として在籍し

ベルデニック、ベングロシュ、そしてオシムといった名将たちの薫陶を受けた人物です。


その後、神戸で各年代の指導者を歴任し、今年から千葉に帰還を果たしました。

トップチームのコーチを5年に渡って続けた神戸時代の実績からして

千葉の今年の大量補強の「目玉」の1人とも言われました。



初陣は第26節の横浜FC戦で、こちらは1‐2と敗れてしまいました。

先制したものの、前半のうちに逆転され

後半はチャンスを作ったものの、逃げ切られてしまうという内容でした。


逆転負けというと、まだ関塚前監督時代の前節・清水戦で

0‐2から3‐2と逆転したのち、3‐4と再逆転されて負けるなど

今年の千葉を象徴しているとも言え

それを新体制でも引きずったと言える格好となりました。


とはいえ、千葉の課題は昨年から一貫して守備面であり

この試合で、1‐0という有利な状況においても、ブロックに侵入されてしまったのは

言わば前体制の負の遺産とも言えます。

特に横浜FCの2点目では、やはりサイドを破られ

一番危険なバイタルエリアを外→中であっさり使われ、ミドルシュートで失点しました。

これは関塚時代から散々見られた失点パターンです。


逆にいえば長谷部新監督も

この試合においては、そこを改善することは出来なかったと言えます。

ただ、セットプレーからの失点が多いのに比べ、セットプレーからの得点が少ない千葉が

長谷部監督の初陣のこの試合においてはセットプレーで先制点を挙げるなど

前体制から引きずる問題点は、徐々に改善していくのでしょうか。

今回の監督交代劇は、千葉というクラブにとって非常に意義があると言えます。

昨シーズンはクラブ最低順位を更新し

フロント陣、さらには選手までも一新と言えるほどの入れ替えをしたにもかかわらず

上記のように守備を構築できず、内容に上積みがないことでその主な原因となった

関塚前監督は留任しました。


そしてGMに就任した高橋悠太氏は関塚前監督の高校大学における後輩であり

関塚前監督が成績不振に陥った際に、果たして決断できるのか?

というのが、今年の千葉のテーマの1つでした。


しかし「なんといって良いのか分からない」(関塚前監督)清水戦の敗戦ののち

見事に決断を下し、クラブを先へ進めることができました。

これは英断であったと言えます。


今後は神戸時代を経て、再びタッグを組んだ高橋氏と長谷部新監督とで

今シーズンの昇格争いも含めた、長期的な強化が期待されます。




プロとして求められるのは結果であり、そのための人選と編成をせねばなりません。

2つのクラブにとって、大きな目標があるはずで

それを踏まえた場合、求められるのは目先の結果ではないはずです。

そういった「監督解任ブースト」に頼らない

長い目で見た場合の結果を得ることを期待しても良いような

そんな監督解任の両チームの船出であったと言えます。

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