名古屋はこのまま降格してしまうのか 夏補強の落とし穴
2016/07/17 19:30配信
カテゴリ:コラム
由緒正しいJ1オリジナル10、Jリーグタイトル獲得の経験を持ち
そして、母体である世界的企業がバックアップをする名門・・・
肩書きだけ見れば無縁でありそうなJ2降格が現実味を帯びてきた名古屋。
2ndステージ3節終了時点で16位の名古屋は、このまま降格してしまうのでしょうか。
悪くなかった滑り出し
序盤の名古屋は、理想と現実の両立に取り組んでいる印象でした。
その理想の面ですが、礎となる攻撃面での特徴を出すことが出来ていました。
小倉隆史新監督の理想とする、オランダスタイルと言える形は
08年から就任し、10年にはJリーグタイトルを獲得した
ドラガン・ストイコビッチ政権を彷彿とさせる形を見ることが出来ました。
ただ、このやり方で重要となる、サイドへ一発でボールを届けるための
サイドチェンジの長いパスを出せる守備的な選手が
シーズン当初のスカッドにおいては不在という印象が強く
田口泰士がその役割を担いながらも
ボランチの位置においてタスク過多になる場面が目立ち
有利に進める時間帯は毎試合のようにありながらも
90分での試合運びにおいて支障が出ていました。
一方で、現実的なやり方で勝ち点を積み上げる試みも行われました。
代表例は3節・アウェイの川崎戦で、この試合では
時に6バックとなりながらも、エース・シモビッチと衛星役の松田力のコンビ
また、両サイドハーフの古林将太、永井謙祐の機動力を生かすカウンターサッカーで
首位・川崎相手に一度は逆転を果たし、結局は再逆転負けを喫するものの
面目は施したと言える内容であり
理想だけでなく、現実的な結果にこだわる姿勢を示しました。
これら、理想と現実の2段構えで、降格を避けつつ、小倉監督の理想を浸透させる・・
そういった、新任監督のサイクルの滑り出しにおいて、理想的な道を歩むはずでした。
大きな展開を得意とする選手の不足は夏補強への布石となり
その結果、その役割ならJ1でも有数の扇原貴宏や
同じく、中盤の底からボールを散らす事に定評のあるハ・デソンの獲得に繋がりました。
ビッグクラブらしく、ビッグネームの補強を敢行し
また、彼らはその理想を担い得る人材と言えるでしょう。
しかし、状況は変わりました。
示したはずの戦術は、ケガ人の多さ故か、それとも底が浅かったのか
なかなか浸透せず、相手チームの対策を上回れなくなっています。
そして、結果が出ない自信の無さが表れたのか
最終ラインが下がり、効果的な攻撃を繰り出せず
サンドバックとなる姿しか見ることが出来ない・・という試合も数多くありました。
想定していた理想的な道のりは今や見えなくなり、残留争いへ。
それ故に、その道に沿った、理想どおりだったはずの夏補強が
今では名古屋を縛りつつあります。
理想どおりだったはずの補強の落とし穴
確かに扇原の獲得は一定の効果があるでしょう。
実際に、加入直後のホーム川崎戦において早速先発出場を果たし
サイドの野田隆之介や小川佳純へとロングフィードを届けています。
ただ、扇原と同時にハ・デソンも獲得したのは解せません。
理想の体現のためであれば、ボールを持った際には高い技術を発揮する両選手の獲得は
まさに理想どおりと言えたかもしれません。
ただ、現在では残留争いの真っ只中にあり、理想を言っている場合ではないのです。
そして、残留争いを戦う上で重要なのは
ポゼッションの在り方というよりも、攻撃と守備の最後のところです。
上記の通り、この2人は似た特徴を持つ選手です。
そして、その特徴を出すためにはボールに触らなければなりません。
そのためにサイドに流れるなど、位置取りを頻繁に変えなければならないのですが
4231の名古屋において、彼らがボランチコンビを組むとなると
センターバックの前のスペースが空きがちとなります。
かといって、そのエリアが空かないように、彼らのどちらかを半ば固定しても
持ち味が出にくいものとなってしまいます。
これでは攻守のバランスが保てません。
彼らでも攻守のバランスが成り立つようなシステムを組めればいいのですが
「(前所属の松本と比べて)守備の決まりごとが少ない」
と
これまた今夏新加入の酒井隆介に言われてしまった小倉監督では
それも酷な話かもしれません。
つまり、扇原とハ・デソンの同時獲得は
どちらかを持て余してしまうことになる確率が非常に高く
それを、早くも見て取れる結果が
ここ2戦のハ・デソンのトップ下起用ということでしょう。
そして、ケガで離脱中の、キャプテンであり主力の田口も帰ってきます。
層は厚いと言えますが、ここだけピンポイントで層が厚くても
残留争いを勝ち抜けるでしょうか。
残留争いは、選手の代表歴や知名度では決まりません。
名古屋はその攻撃の最後のところを担うエースは存在します。
これは好材料と言えるでしょう。
そのシモビッチのパートナーには
攻守に渡ってシモビッチのサポートが出来る衛星役が好ましいと言えます。
そこにハ・デソンを用いても、なかなか上手くは行かないでしょう。
ホームでの川崎戦では、機動力に乏しい2トップにより
ファーストディフェンスが決まらず
バランスを保つために起用されているはずのイ・スンヒもボールに食い付くため
技術のある川崎にコントロールされ、その空いたスペースを使われ
1stステージとはスコアも雲泥の差の完敗を喫してしまいました。
出来れば、ここに補強が欲しかったところです。
そして、これでリーグ戦11戦勝ち無しとなった小倉監督の去就にも
注目せざるを得なくなったワケですが
この補強が、小倉監督が職を辞したからといって
とても好転するとは言い難い状況を作ったと言えます。
扇原や酒井を完全移籍で獲得し、さらにはハ・デソンをレンタルで獲得した以上
これ以上の補強は期待しない方が自然と言えます。
従って、今シーズンはこの編成で乗り切る必要があります。
そして、この編成の問題点は、頼るべき新加入選手のポジションのみならず特徴が
非常に似通ってしまっているということは、上記の通りです。
つまり、新監督を迎えたとしても
この柔軟性に欠ける編成で、この先の残留争いを戦わねばならないということです。
この状況において、監督のクビをすげ替えたからといって
その効果はいかばかりのものでしょうか。
別に小倉監督を擁護するワケではありません。
この、結果を出せない新任監督から切り替えれば
少しは状況が改善する可能性は低くはないと思います。
ただ、この夏補強が、J1残留を目標とした次の体制の手足を縛ってしまった
そういうことが言えると思います。
そして、補強の責任者と言えるGMも小倉監督が兼任しており
小倉監督ともども、この人事を決定した人物は、いずれ責任を取ることとなるでしょう。
名門・名古屋と言えど、残留争いは初めてではありません。
2005年や2006年、そして2014年は降格の危機と言える状況でした。
それを救ったのはシーズン半ばに加入した救世主たちでした。
前者においては、藤田俊哉や、なんといってもフローデ・ヨンセン。
後者ではレアンドロ・ドミンゲスや川又堅碁らが
名門・名古屋を窮地から救ってきました。
Jリーグでも随一の予算規模を誇る名古屋だからこそ、というのもあるでしょうが
今まで、絶大な効果をもたらす夏補強に成功してきました。
しかし、今年に限っては、夏補強への期待は望めません。
もし名古屋がJ2に降格するようなことがあれば
この夏補強の落とし穴が、降格の要因として挙がることでしょう。