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【中国スーパーリーグ】 日本人指導者を迎え本格的な育成に取り組む中国サッカー 日本サッカーの育成がアジアへと広がるその後 【ACL】

2016/01/14 12:00配信

Tomoko Iimori

カテゴリ:コラム


2016年を迎え、Jリーグはシーズンオフを迎えている中
サッカー界恒例ともいえる指揮官や指導者、選手たちの移籍や就任のお知らせなど情報が連日飛び交っている。

その中でひとつ気になることがある。
それは、中国スーパーリーグ所属クラブでの日本の指導者たちの就任ニュースだ。
2013年には岡田武史氏が中国・杭州緑城の監督に就任し、U-18監督には現山形監督を務めJリーグで数々の実績を積む石崎信弘氏が就任し注目を受けたが
現在も日本サッカーで実績ある指導者たちが中国リーグのクラブのスタッフとして招聘されている。

この動きは今度、指導者たちの進む道のひとつとなることも考えられる。
お金の動きに関していうとJリーグと中国スーパーリーグを比べるとかなりの差がある今。
この動きに拍車がかかっていくと、今後Jリーグよりも中国リーグを優先に考える指揮官も多くなる可能性も秘めている。

中国が今、アジアサッカーの中心といって良いであろう。


●日本サッカー協会がアジアへと発信する視察・研修システム

日本サッカー協会はアジアへの情報発信とアジア全体の強化、サッカーの発展のためにアジア各国のサッカー協会や関係者たちを招き、
日本での育成システムやサッカークラブの環境、芝の在り方からクラブ運営の在り方まで細かに渡るサッカー全体の動きを紹介し、視察・研修を実施している。
その機会を利用し、毎年中国だけに限らず韓国やオーストラリア、タイやシンガポールなど、さまざまなサッカー先進国・発展途上国の国々が日本を訪れている。
日本サッカーがなぜ今アジアで強豪と呼ばれるポジションに就いたのかと学び、研究しに来ているのだ。

中国や韓国のクラブはJリーグのクラブがキャンプを行う時期に、九州を中心にキャンプを実施し、強化を行うためにJリーグクラブと積極的に練習試合を組むことは知られているが
それ以外のシーズン真っ最中の期間でも、世代別代表や女子代表などの合宿地として利用され、その際にJリーグの試合を観戦したり試合運営のやり方や観客の迎え方、グッズ開発やクラブ運営、クラブの環境等
隅々まで日本サッカーを視察し、学び、持ち帰っている。

お手本となるべき立場となった日本サッカーだが、そのノウハウを持って今アジアの国々がサッカーにさらに力を入れ、日本を追いかける存在へと急成長してきている。

まだ代表チームという形では結果を出すことはできていなくとも、ACLの場では広州恒大を始めとした中国リーグのチームが強さを発揮し、タイのチームやベトナムのチームなどアジアのチームに日本のチームが油断などできない時代となった。
韓国のクラブはもちろん、オーストラリア、中国、そしてタイやベトナムもリーグが急成長している。

タイのマーケットの巨大化、そして発展等、この急成長を日本サッカー協会は5年ほど前には把握し、次に来るのはタイだと目星をつけ把握していた。
それ故にタイのクラブとJリーグとの提携なども目立ち、日本人選手の受け入れなども多く行われているが、今では簡単に日本人選手がチームに入ることができないほどに求められる質も向上してきている。

日本サッカーへの視察を積極的に利用したことで、日本の指導者たちとパイプを持つことに成功した中国リーグのクラブは、日本人指導者に積極的にオファーし、そのノウハウを持って中国のこれからの育成で結果を出そうとしている。
日本サッカーの育成や発展に大きく関わってきた指導者たちが中国で今、アカデミーを中心にスタッフへと就任し育成を行おうとしているのだ。

中国サッカーはお金で選手を買う。という手法で、出来上がった選手をお金で集めるという方式をとってきたが故に、幼き頃から身に付けられるサッカー観という部分が足りないとも言われてきた。
だが、今中国は国が動きスポーツ発展として100億円規模をかけ取り組むと発表した中で、サッカーも取り入れたことから、急激に国内でのサッカー育成の動きが出始めている。

育成という概念のなかった中国が、本格的に育成を始めることによって、これから本格的に力を入れて国を挙げてのスポーツとして確立させ、W杯開催をも目指すと言われている。
これは日本サッカーにとって、脅威となることになるであろう。
…すでに脅威といって良いかもしれない。


●他スポーツからみる日本発信の中国スポーツ強化の例

他スポーツであるが、コーチが中国チームを率いて結果を出したといえば、シンクロナイズドスイミングの例がある。
井村コーチは長年日本シンクロ界を率いてきた歴史そのものであり、コーチとして関わった五輪でメダルを逃したことが一度もないという絶対的な存在だ。
その井村コーチの厳しいトレーニングは、日本シンクロ界にとって必要不可欠だったが、自国開催となる北京五輪での結果を出すため中国チームのコーチへと打診され、中国チームのコーチへと就任した。

日本の今後のシンクロのためにと開催国となる中国での示しが必要だったと井村コーチは後に語っているが、
それまでシンクロナイズドスイミングはある程度順位の決まっている世界と言われてきたものの、圧倒的と言われるロシアに続く日本と言われてきたものの井村コーチの中国、同じく日本人コーチを採用したスペイン、ドイツ、スイスとシンクロ界は急激に変化を遂げる。
現在は日本シンクロ強化のため再び日本チームのコーチへと戻り、再び日本シンクロチームを世界の舞台で勝てるようチームを育てている。
日本シンクロ界が指導者を生み、シンクロの世界を変えたのだ。


この例とサッカーを比較するのは世界観が違うという見方もあるであろうが、有能な指導者たちが国外へと出て活躍することで、アジアや世界の発展を生むことはとても良いことだと言える。
しかし、それによって自国が苦しんでしまうのでは、という点に不安を感じてしまう。

有能な指導者たちを外に出してしまったことで、成長をストップしてしまうようなことはあってはならない。
中国へ渡った指導者たちも日本では得られなかったものを習得し、近い将来それを持ち帰り日本で新たに育成方法として成功することももちろん考えられる。
しかし、Jリーグも新たなるプランを持った指揮官たちを招聘し、新たな成長方法をプラスすることも必要なことであろう。

Jリーグには現在53チームものチームがあるが、指揮官獲得に大きな金額が動くチームは少なくなったといって良いであろう。
サンフレッチェ広島の森保監督は4年間で3度もの日本一となってるものの推定6500万円、浦和レッズのペドロヴィッチ監督はタイトルを獲っていない監督ではあるが、ビッグクラブの長期政権の監督ながら推定5000万円と言われている。
Jリーグで年俸1億円を超える監督はそういない。

日本代表の監督であるホリルホジッチ氏は推定で2.7億円とされているが、代表チームを率いる監督に一番大きなお金が動いているといって良いであろう。

世界に目を向けるととんでもない数字が飛び出してくる。
先日チェルシーを退任した世界一の監督とも呼ばれるモウリーニョ氏は推定15億円以上とも言われ、その他バイエルンを率いたグアルディオラ監督は24億円などとんでもない数字が並ぶ中世界的にみても高い金額とされていたのが
広州恒大に就任したことで話題となったマルチェロ・ピッピ監督も14億円以上と言われていた。

国としてもバブルを迎えた中国リーグは名将が揃うが、名古屋グランパスを率いた経験を持つ元世界的プレーヤー・ストイコビッチ氏や現在就任が噂されているザッケローニ氏など
日本で結果を出した人物が高額で契約する現状にある。一番のバブルチームである広州恒大は元ブラジル監督のスコラーリ氏が現在の監督でありおそらくここにも10億円を超える金額が動いている。

中国リーグは高額をかけて外国人選手を獲得しているものの、それでもACLでの外国人枠は3。
その外国人枠をJリーグに当てはめてみると過去にレオナルド、ジョルジーニョ、マジーニョと3枠を強力な外国人で埋めた鹿島アントラーズや、
サンパイオ、エバイール、ジーニョと3枠を埋めた横浜フリューゲルスなど、当時はJリーグ自体に活気があったことに加え、世界を感じさせる超一級の選手たちと共にプレーした日本人選手たちの伸びは飛躍的であり世界の刺激を受けたといって良い時代だった。
世界を知る選手たちと共にプレーをするということは、国内選手の育成に繋がる意味を持っている。

話が逸れてしまったが、そういった選手獲得ももちろん刺激的で強化にも繋るが、
これから日本サッカーにプラスαを求めるには、日本サッカーにはない指導方法を持った一歩先を知っている、世界の監督たちの招聘が必要なのではないであろうか。

日本には多くの外国人監督が存在するが、Jリーグで成功した外国人監督の再利用のような形でのローテーションが目立ち、
近年ではフィッカデンティ氏のようにイタリア出身監督という新たなるサッカーや、モンバエルツ氏のようなフランス出身監督が入ってきていることは大変興味深い。
これから先、日本サッカーが発展していくために新たなる刺激として高額をかけてでも監督を獲得することや、日本サッカーで評価の高い実績を積んだ日本人監督の金額での評価も高めることが必要なのではないであろうか。


監督という職業は、非常に厳しい職業である。
選手たちよりも安泰はしていない。
結果が出なければ途中で解任ということもあり得る職業であり、結果が出なければ次のチームが決まることも難しくなる。
そういった厳しい職業だからこそ、高額の金額が用意される場へと渡り、将来設計をするのは人生を考える上で必要なことであろう。
現在はグローバルの時代だからこそ、日本サッカーは日本から飛び出し世界へと放たれる時代なのかもしれない。

中国は日本よりも金額が大きい分、さらに結果がすべての世界だ。
そこで日本サッカーの良さを伝え結果を出すことができれば、大きな金額が上積みされ長期的な雇用も考えられるであろう。
それはとても魅力的であり、なにもないまっさらに近いサッカーの世界を自分の力で開拓していくというやりがいもあるのかもしれない。

2010年に新しく生まれた河北華夏というチームには川崎フロンターレやJ-22で監督経験のある高畠氏や大分トリニータで監督や強化部長を務めた経験のある柳田伸明氏、
名古屋グランパスユースでフィジカルトレーナーを務めた矢野玲氏、大宮アルディージャ等でGKコーチを務めた古島清人氏と4名の日本人指導者がアカデミー職の入閣を果たした。
ロアッソ熊本で監督を務めた小野氏は、杭州緑城コーチ就任が発表された。
今後も日本人指導者や日本で結果を出している外国人監督に中国リーグからオファーが届くことになるであろう。

日本から発せられるほどに、サッカー界で「日本」が評価をされていることは大きなことだ。
日本サッカーが培ってきたもの結果が評価されているからこそである。
だからこそ日本サッカーは立ち止まらず、次なるステップを計画的に踏まなくてはならない時期に来ている。

周囲の発展を促すだけでなく、自らの発展も止めてはならない。
追いかける側よりも、追いかけられる側は何事も難しいのだから。

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